地図を見ながら、新築移転されたお店に向かう。

場所は奈良県庁のすぐ近く、奈良公園の鹿たちが闊歩するそばに、奈良公園の一部に溶け込むようにして「夢窓庵」はありました。
300坪を囲う塀と、真新しく立派な門構え。以前の古民家をお店にした雰囲気とはガラッと変わり、塀の外からはまるで武家屋敷のようなたたずまい。

武家屋敷のようなたたずまいの夢窓庵
中庭を通り、お店の中に。

女将さんは元々庭師だったことから、300坪の造園は女将さん自らが手がけたお庭。
訪問させて頂いた時期が真冬だったが、それでも庭に賑わいがあり、華やかさがある。

「手入れが大変だから、あまり手がかかりすぎないものを植えているのよ。」と話す女将さんに少しお庭を案内してもらい、四季折々楽しめるような工夫が幾重にもされているお庭にただただ関心した。
草花のことなどてんで疎い筆者だが、お庭とお店がこの奈良公園と調和がとれた一つの風景になっていると感じることができた。

夢窓庵の庭

女将さんの集大成、夢をカタチにしたお店

いっちゃん

ご無沙汰しています!そして新装開店おめでとうございます。
あの時お話された夢を叶えられたんですね…、お庭、お店、とにかく素晴らしいです。

女将さん

来てくれてありがとうございます。
すばらしいでしょ?
もうね、これまでの集大成だと思って、このお店を作ったんです。
ここは奈良公園の入り口に当たる場所でね、こんな特等地にお店を開店できるなんてね…

いっちゃん

以前おっしゃっていた女将さんのこんなお店が作りたいというのが、本当に実現していますよね。このような素晴らしいお店をオープンさせることができた経緯をもう一度お聞きさせて頂いていいでしょうか。

女将さん

ここの場所はね、元々官舎(国や地方自治体が建てた公務員のための宿舎)があった場所なんです。それがもう使わなくなって、県が買い取って民間のプロポーザー(※1)に出したんですね。
それを聞きつけて、新店舗の提案を出して、そして、そのコンペのプレゼンで勝ち残ることができたんです。
県からも3,000万の無利子の融資を受けることができたりなどの支援があって、このお店を実現させる事ができました。

※1:複数の者に目的物に対する企画を提案してもらい、その中から優れた提案を行った者を選定すること。

いっちゃん

お店の木造平屋の建物もすばらしいです。内装や間取りなども女将さんが考えられたんですか?

夢窓庵の店内
天井が高く、広々とした店内。
ホール:20席、囲炉裏:4~6席、座敷:30席

女将さん

京都の茶房のイメージがあって、そのイメージで建築士さんに建物のイメージやデザインなど作ってもらいました。でも間取りは全部わたしが考えて、厨房の位置や導線、飲食店として運営していきやすいようにと、要望を出させてもらいました。
造園とお店一体感があるように、それと五感で楽しめるような、そんな店舗をご依頼しました。

そしてね、建築士さんが子、孫と残せるようなお店にしましょう!と言って、建ててくださったんです。
わたしも、100年、200年残っていくような、古都奈良に相応しいお店になれればいいなって思ってるんです。

夢窓庵の店内から見える庭

中から見える中庭。四季折々の草花を楽しむことができる。
広々としたウットデッキもあり、催し物なども行えそうだ。

夢窓庵の店内に飾られている置物
お店の飾られている絵や、置物も趣向を凝らされている。

夢窓庵の店内に飾られている木製のひな壇

2月末だったこともありひな壇が飾られていた。
一刀彫で作られた木製のひな壇だという。

これで終わりじゃない。やりたいことがあるって素敵だと思うの

いっちゃん

県庁前を通って、奈良公園を横切りながらこのお店に来たんですが、お店と奈良公園とすごく調和しているという印象を持ちました。
今年は新たな夢窓庵の歴史のはじまりですね。オープンされてから3ヶ月立ちますがいかがですか?

女将さん

もうね、それは必死でした(笑)
以前の夢窓庵とまるっきり違いますから。
これまでは2組でやっていましたから、だからはじめは板長は「予約は2組しか取らないで」みたいなこと言ってたんです。それが3組になり、4組、5組になりと…増えていって。
わたしも日々勉強させて貰っていますが、板前さんを始めとして、スタッフ皆もすごく変わった数ヶ月だと思います。

お店はありがたいことに週のほとんど満席で忙しくさせてもらっていて、好評いただいています。
以前の夢窓庵でのお昼2組、夜2組というスタイルから、テーブル、お座敷、個室とお客様のニーズに答えられる幅ができました。
お値段も少し下げて以前よりは手軽にお食事できるようなものにもなりましたので、ご来店されるお客様の裾野も広がりましたね。
それにね、新しいお客様もそうですが、以前からのお客様にも行きやすいお店になったと、喜んでいただけて、嬉しく思っています。

いっちゃん

これまでのお客様にも喜んでもらえているというのは嬉しいですね。
以前伺いました朝の茶粥もご提供されたりしているんでしょうか?

女将さん

それがね、さすがに朝まで営業するのはできていなくて、昼、夜と忙しいこともありますし。仕込みもありますし…。
でもね、まだ諦めたわけじゃなくて、また別のお店でできないかなって虎視眈々と考えているの(笑)
素敵な風景の場所で、奈良県の美味しいお米とお漬物で、あまりお待たせずにさっと提供できて、1,000〜2,000円程度で満足してもらえるようなそんなお店ができたらいいな〜って考えてるの。

いっちゃん

へぇ〜それはまた楽しみがありますね。

女将さん

やりたいことがあるって素敵だと思うの。まだ夢があるっていいと思わない?
これで終わりじゃないの。そういうことを考えるだけで楽しいしね。
やりたいことがたくさんあると生き生きできます。

いっちゃん

もう女将さんは人の寿命じゃ足らないですね(笑)

女将さん

あははは、ほんとね〜。
お友達は、死んだときの事とか、お墓のこととかそういう話をされますけど、わたしはまだまだそんな気にならないです。

わたしはね、本当に皆様に助けてもらって、これはわたしの特技…というわけじゃないんだけど、人に助けてもらうことが多いんです。一生懸命何かに向かって努力していると、何も言わなくても分かっていただけたりするんです。
このお庭でも皆が助けてくれて、手伝ってくれて、だからお返しというわけではないけれど、皆さんに喜んでもらえるようなことをしたいって思うんです。

受け継がれ、奈良を代表するようなお店に

いっちゃん

今日は休日であったにも関わらずご対応頂いたのですが、女将さんがお休みになられたりという日はあるのでしょうか?

女将さん

お店が休みでも色々とやることがあったりしますので、今日もさっきまでワインのぶどう畑行ってたんですよ。
ブドウの選定もね、あまり人任せせず自分でやりたいなって思ってるんです。こだわると、意外と人に任せられないものなんですよ。
これは私の欠点かもしれませんね。

いっちゃん

夢窓庵のワインは自家製なんですよね!最近はワインを提供するお店も増えていますが、ワインの自家製はなかなかないですよ。

女将さん

これもね、仕事だと思ってたらできないんじゃないかな。好き勝手やってるのよ。
わたしは嫌なことはしないの、できるだけ好きなことを仕事にしています。だから苦労と思わないんです。
趣味というか、本当に好きでやってることだから…。
ぶどう畑にいきますでしょ。そうしたら、ぶどう畑がおかえりなさいって迎えてくれているような気がするんです(笑)
おかしいでしょ?でも本当にそういう感じがわたしはするんですよ。ほっとするの。だからお休みの日でも行っちゃいます。

いっちゃん

新店舗の夢窓庵、自家製ワイン畑…様々なことを女将さんは実現されていますが、これからの夢窓庵や、跡継ぎのことなどもお考えになられたりするのでしょうか。

女将さん

息子は競輪選手だったのね、髄膜炎があって引退していまはお店を手伝ってくれてるんです。
娘はわたしに似てバイタリティがあってお料理教室をしてるんだけど、その娘の息子が調理師学校を今年卒業して、京都の有名な料亭で修行するみたいなの。そして一番下の孫が小学生なんだけど、その子もプロ野球選手のオファーがこなかったら料理人になるって言ってるの(笑)

わたしは別に継いで欲しいとか、そういうことはまだなにも言っていないけど、この世界に進んで行ってもらえるのは嬉しく思っていて、そうやって繋がっていければいいなと思ってます。

こんなすばらしい場所にお店があるというのは本当に恵まれていることですから、奈良を代表するようなお店として継承していきたいですね。

いっちゃん

ほんとうに素晴らしいお店ですから、皆さんが支え、受け継がれていくお店になるんじゃないかと思います。
今日はお店がお休みの所お時間頂きありがとうございました。

また奈良に来る時はぜひお店に来たいと思います。

女将さん

はい、お待ちしています。

夢窓庵の看板

取材を終えて

奈良県は、県内の地産品をPRし盛り上げていくために、県をあげて様々な部門でアンテナショップ、レストラン、料理学校など「食」に通じる事業を展開している。新築移転した夢窓庵は県所有の土地にお店を構えており、奈良県のそういった取り組みの延長で実現したお店だ。

お店を訪ねてなるほど。
奈良の風情とぴったり合っている。もう何十年、何百年前から存在していたような風格と趣がある。

夢窓庵が選ばれたのは間違いなく、奈良県を代表するお店にふさわしいという点に尽きるのではないだろうか。
“美食”は海外からの観光客の楽しみの一つだ。
夢窓庵はこれまで地元の食通に愛されてきたお店だが、今後は国内はもとより、海外からの観光客の方が来るようなお店になっていくかもしれない。

ぜひ次回は取材ではなく、家族を連れ、女将さんに会いに来店したい。


Foodionでの女将さんのインタビュー記事
田崎 唱子氏インタビュー(日本料理 夢窓庵):夢を持っている人にだけ「チャンス」は見える
こちらもぜひご覧ください。