海上に散乱するペットボトルやビニール類、プラスチックのごみを呑み込んでしまった魚や鳥たち……ここ数年、こういった写真や映像をよく目にするようになりました。

海洋を汚染するプラスチックごみを減らそうと、まず欧米で使い捨てプラスチック削減の取り組みがはじまり、日本の飲食業界でもプラスチック製ストロー(プラストロー)の使用を廃止する動きが加速化しています。

業界内でプラストロー廃止にいち早く取り組んだ企業のひとつ、「ザ・キャピトルホテル 東急」を取材し、廃止にいたった経緯や、プラスチック製ストローの代わりに採用した「木材ストロー」の開発のストーリー、オペレーションやコスト面の現状、お客様の反応などをお聞きしました。

飲食業界に広がるプラスチックストロー廃止の取り組み

世界中で、プラスチックによる海洋汚染の問題が深刻化しています。きちんと処理されなかったプラスチックごみは河川などから海に流入し、魚や海鳥、海洋哺乳類ほか、さまざまな生物の安全を脅かしています。
また、放出されたプラスチックごみの多くは自然分解されずに残り、波に打たれたりして“マイクロプラスチック”と呼ばれる小さな粒子となって海中や海底にたまっていきます。“マイクロプラスチック”の弊害はまだ不明な点が多いですが、生物の健康に影響を及ぼすのではないかと考えられています。

海辺のプラスチックごみを拾う画像

プラスチック製品による海洋汚染問題は深刻化している

そういったことを受けて、2019年5月、EU理事会で、2021年までに使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する法案が採択されました。アメリカでは既にカリフォルニア州でプラスチック製レジ袋の無償提供が禁止に。ニューヨーク州でも2020年3月から同様の措置が講じられます。レジ袋を有料化、課税、または全面的に禁止している国や地域は他にも例があります。

では、飲食業界は使い捨てプラスチック削減にどう取り組んでいるのでしょうか。
世界にチェーン展開しているスターバックスは、2020年までにプラスチック製ストローを全廃するとしています。マクドナルドは2025年までに全世界でプラストローを廃止、容器包装のリサイクルを推進。コカ・コーラは2030年までにペットボトルの素材を改良し、ボトル、缶のリサイクルに取り組むとしています。

日本では2018年12月に、すかいらーくグループの「ガスト」全店舗でストローの提供が原則廃止されました。2019年1月には「ザ・キャピトルホテル 東急」内の「ORIGAMI」で、「木材ストロー」の試験的導入を開始(2019年4月からはホテル内すべてのレストラン、バーで生分解できない素材のストローの提供を廃止)。2019年4月にはロイヤルグループの「ロイヤルホスト」など6ブランドの店舗で順次廃止、6月にはすかいらーくグループ「バーミヤン」「ジョナサン」などもプラスチック製ストローの提供を廃止しました。
※どの店舗も、身体の不自由な方やストローを必要とする方への提供は継続。

「ザ・キャピトルホテル 東急」はなぜ“木材ストロー”を導入したのか?

東京・永田町にある「ザ・キャピトルホテル 東急」は、東京2020オリンピックの会場となる新国立競技場を設計したことでも知られる隅研吾さんがエントランスロビーのデザインを手がけ、“和の建築美”を満喫できる上質な空間が広がるホテル。オールデイダイニング/ラウンジ「ORIGAMI」は著名人も足繁く通う名店です。
「ORIGAMI」では現在、ストローの提供を基本的に廃止。ご要望のあった場合には木製の「木材ストロー」を提供しています。

「ORIGAMI」のラウンジで、ご要望のあった時に提供されている「木材ストロー」
※許可をいただいて、店内で撮影しています。

「ザ・キャピトルホテル 東急」は、なぜ業界内でもいち早くプラスチックストロー廃止に取り組み、どのような経緯で「木材ストロー」を導入したのでしょうか。

■きっかけは西日本豪雨の大規模な土砂災害

2018年7月に発生した西日本豪雨。広島県や岡山県などで土砂崩れや河川の氾濫、浸水が相次ぎ、甚大な被害が発生しました。岡山県出身の環境ジャーナリスト・竹田有里さんは被災地を訪れ、この自然災害の被害状況を取材。間伐などの適切な森林管理が行われていなかったことがここまで大きな被害になった要因のひとつになっていると考えました。

環境ジャーナリスト・竹田有里さんは西日本豪雨被害を見て、間伐材の有効活用を提案
写真提供/ザ・キャピトルホテル 東急

間伐によって切られた木は未成熟であることも多く、サイズも不揃いで需要が限られるために、積極的に間伐が行われないという悪循環が発生しています。竹田さんは、間伐材の有効活用について、木造注文住宅を手掛ける株式会社アキュラホームとともに模索をはじめました。木材で何ができるかと考えた時、既に世の中で話題になっていた使い捨てプラスチックの問題と結びついて、ストロー製作のアイデアが浮かびました。「Wood Straw Project(ウッドストロープロジェクト)」と題した、3社による開発プロジェクトにおいて、「ザ・キャピトルホテル 東急」はお客様に近い立場としてストローの製品化に向けた監修を担うことになりました。

■ホテル内で使うストローの、驚くべき総量

「ザ・キャピトルホテル 東急」マーケティング/広報ご担当の川邊美紗さんに、開発当初の状況を振り返っていただきました。

間伐材でできた「木材ストロー」
写真提供/ザ・キャピトルホテル 東急

ウッドストロープロジェクト始業時に、改めて、当ホテルのプラスチックストローの使用状況を調べました。そうしましたら、レストランや宴会場、客室などこのホテル全体で、月に8万本ものストローを消費していることがわかりました」(川邊さん)
この数字を知れば、ストローを見直すだけでもプラスチックゴミ軽減に大きく貢献するということを実感できます。

間伐材でストローを作るという企画がまずあって、それを機に、プラスチックストロー提供廃止に向けたホテル全体の取り組みがはじまったのです。「ザ・キャピトルホテル 東急」は、より使いやすい製品を開発するために、開発を担うアキュラホームと何度も打ち合わせを重ね、試作品を作成しました。

“木材ストロー”が完成するまでの紆余曲折

間伐材を使ったストローの開発は、難しいものでした。当初は木をくりぬく製法で試作品を作りましたが、細くてやわらかい間伐材に長い穴を貫通させるのは至難の業。また、木材のロスも多く、別のアプローチを模索しました。

アキュラホームの社長は大工の経験があり、「カンナ社長」の異名を持つほどのカンナの名手。カンナの“削り華”(木を削った後に出る薄い木のカンナ屑)をヒントに、薄い木のシートを巻く製法を思いつきます。

そこからまた試作を繰り返し、使いやすさ、丈夫さ、口当たりの良さなど、お客様の使用感を重視して、木のシートを斜めに巻いて特殊なのりで張り付ける、という製法にいきつきました。スライスした木材を巻き、ストローを製作・量産・導入した事例として世界初となる、その名も「木材ストロー」が完成したのです。

「木材ストロー」は、木を薄くスライスしたシート(写真上奥)で製作している
写真提供/株式会社アキュラホーム

ストロー提供廃止の反響、プラスチック製から新素材へ

「ザ・キャピトルホテル 東急」では、2019年4月からホテル全体でプラスチック製ストローの提供を廃止。ホテルのオールデイダイニング/ラウンジ「ORIGAMI」では、基本的にストローを提供せず、ご要望があった場合にのみ「木材ストロー」を提供しています。「ORIGAMI」以外のレストランや客室サービスなどでは、生分解可能な素材を使ったストローを提供しています。

■「木材ストロー」の評判、オペレーションやコストの問題

「ORIGAMI」でストローの提供を廃止したことについて、お客様から不満の声が上がったことはなく、スタッフのオペレーション面も問題なく稼働しているそうです。
では、ご要望があった場合に提供している「木材ストロー」についてお客様はどう評価しているのでしょうか。

『木材ストロー』はお客様からも大変ご好評をいただいております。はじめてご使用になる方も多いですが、口当たりが良く、手を添えた時の肌触りが優しい。また、見た目もあたたかみがあり、ドリンクの味を邪魔しない程度にほのかに木の香りも楽しめると評価していただいています」(川邊さん)

「木材ストロー」はお客様から好評を得ている、と川邊さん
※許可をいただいて、店内で撮影しています。

ではなぜ、ホテル全体で「木材ストロー」を採用しないのか。その背景には、コストと、生産量の限界という理由があります。「木材ストロー」は、現状では大量生産するための環境整備ができてないため提供できる数が限られ、値段も高価になってしまいます。

■「木材ストロー」の今後の広がり、環境問題に貢献するアイテムとしてG20でも採用

「木材ストロー」は地球規模の環境問題に貢献するアイテムとして、2019年7月に行われた首脳会議「G20 大阪サミット」で採用され、要人・随行員、プレス向けに1000本が提供されました。

「G20 大阪サミット」のプレスセンターなどで、「木材ストロー」を提供
写真提供/株式会社アキュラホーム

開発は進み、現在はストローの表面に文字を刻むことも可能になりました。今後、この「木材ストロー」の量産が実現し、用途が拡大していけば、手ごろに入手できるような価格も実現できるかもしれません。

表面に文字を加工することもできる
写真提供/株式会社アキュラホーム

国内の使い捨てプラスチック製品使用削減に向けた動きは、ここ最近、大手の飲食チェーンや企業だけでなく、小規模の店でも見られるようになってきました。飲食業界に限らずコンビニやスーパーでもレジ袋有料化が宣言されるなど広まりを見せています。

環境保全に配慮しながら、お客様に満足していただけるサービスをどう構築していくか。今後も、世界や国内の情勢を見ていく必要がありそうです。

■取材協力・写真提供

企業名 ザ・キャピトルホテル 東急
企業名 株式会社アキュラホーム(木製ストローHP)