「We Feed The Planet Japan」とは?

兵庫県神戸市のKIITOデザインクリエイティブセンター神戸で開催された「We Feed The Planet Japan 2017 アジア食の未来会議」(以下「We Feed The Planet Japan 2017」)は、「食の未来」をテーマに11月3日~5日までの3日間にわたって開催されたイベントです。

一般公開された初日11月3日(金)には、のべ16プログラム、「食」を軸とした様々なテーマのワークショップが行われ、飲食業従事者、一般の方、老若男女、海外からもたくさんの来場客で会場が賑わっていました。

この記事では、当日のイベントの模様と、イベントを主催した「スローフード協会」の活動についてもあわせてご紹介します。
関連リンク:2017年8月にスタートしたクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」での資金集めページ。
食に熱い若者が集まる“We Feed The Planet ”を神戸で開催したい

「スローフード(Slow Food)」と主催団体「日本スローフード協会(Slow Food Nippon)」

「スローフード(slow food)」とは、伝統的な食文化や食材を見直し、おいしく健康的で(GOOD)、環境に負荷を与えず(CLEAN)、生産者が正当に評価される(FAIR) 食文化と、食の生物多様性を守っていく社会運動のこと。(日本スローフード協会Webサイトより抜粋)

1986年、イタリア・ローマの名所の1つであるスペイン広場にマクドナルドが開店しました。
このことが、ファストフードにイタリアの食文化が食いつぶされてしまいかねないという危機感を生み、「スローフード(slow food)」運動が始まりました。

「スローフード(slow food)」のプロジェクトを推進する「スローフード協会」は、地域の伝統と美味しい食、その文化をゆるやかに楽しむスローな生活のスタイルを守っていくことを活動の目的として、現在160カ国以上に支部を持ち、ネットワークを広げています。

今回の「We Feed The Planet in Japan 2017」は、「伝統的な食文化や食材を見直す国際的な社会運動」であるスローフードの活動理念を貫く活動の一環として、「一般社団法人 日本スローフード協会(Slow Food Nippon)」が主催団体となって開催されました。

スローフードとの活動連携を臨む日本企業と民間団体

We Feed The Planet Japan トークセッション

では、「We Feed The Planet Japan 2017」のイベントの様子をご紹介していきましょう。

イベント冒頭では「いまだからこそ、手を取り合いたい〜スローフードでの連携が生み出す創発〜」というテーマでのトークセッションがありました。
パネラーの方々のコメントを紹介します。

We Feed The Planet Japan トークセッション2

ロート製薬株式会社 代表取締役会長 山田邦雄氏

「ロート製薬は人々の健康をテーマに扱う製薬会社です。健康には日々の健全は食生活が大切になるので、「食」に対してもっと熱心に取り組んでいきたいと考えています。
具体的な活動としては、鹿児島県と包括提携のもと、鹿児島の発酵技術とアントシアニンなど栄養成分を豊富に含む種子島にしかない在来種の紫芋の種を使って、女性向けの栄養ドリンク「Jiyona(ジヨナ)」を商品開発しました。こうした日本の貴重な食物の可能性を生かし、世界に発信していく活動を続けていきたいと考えています。スローフードの活動との連携も強めていきたいです。」

一般社団法人 大日本水産会 事業部長 木上正士氏

「大日本水産会は明治15年に設立された日本で唯一の水産業の総合団体でございます。水産業全般の振興を図っていこうということで設立されました。
私の方では、いま漁業では担い手が減少している問題、また水産資源管理の問題という大きな課題に対して、対応や取り組みに関与しております。また、経済を優先した大量生産、大量消費の社会から、持続的な循環社会に移行しなければいけないという事を水産業者の目線で提唱させて頂いております。
スローフードさんとの出会いは、「スローフィッシュに行こう!」というイベントがあり、そこで持続可能な漁業の認証制度について話をさせて頂いたというのがご縁でした。
スローフードさんと連携させていただいた理由というのは、これまで国際会議などで日本の漁業の姿が伝わっていないということが多々ありました。海外に向けて日本の漁業について発信するということが全くできていなかったのですが、今後そういった活動も必要になっていくということもあり、スローフードさんを通じてそういった活動に繋げていきたいと思っております。」

アイヌ女性会議 メノコモシモシ代表 多原良子氏

「わたしは、北海道の胆振管内というところで生まれ育った、アイヌ民族です。両親祖母祖父ともアイヌという代々先住民族として暮らしておりました。もうわたしの世代ではアイヌ伝統の食というのは日常で食べることはありませんでした。唯一儀式の時にというぐらいでした。そういったアイヌ伝統を残していきたい、また同じアイヌの女性たちが元気になり、活躍できるような場をつくっていきたいと活動をしています。
スローフードさんとこのように連携できるというのは私共としても大変うれしく思っており、今日もこのような場に出させて頂いたように、自分たちだけではできないようなことも、参画させていただく事で一緒にアイヌの伝統文化、伝統料理を世に発信していきたいと思っています。」

株式会社神戸酒心館 代表取締役副社長 久保田博信氏

「私どもは日本酒の蔵元で、『福寿』という銘柄の日本酒を製造しております。神戸の灘という地域は日本酒日本一の製造量を誇る酒処でございます。それは山田錦というお米、そして名水百選にも選ばれている宮水、この良いお米と良い水がこの辺りで取れることから酒造りが盛んになりました。スローフードさんとのご縁は、神戸市からご紹介があり、毎年イタリアのトリノ市で行われるスローフードのイベント、テッラマードレ・サローネデルグストに日本からの産品として日本酒を出品しないかというお声がけを頂いたことが始まりでございます。
実際にそのイベントに参加させて頂いたのですが、皆さん熱心に取り組まれているその姿に非常に感銘を受けました。そのことがあり、何か我々もできないかということで、スローワインならぬスローサケというのを立ち上げるべくプロジェクトを進めております。いまその定義をどうしようかということを詰めているところで、例えば酒蔵から何キロ以内のお米、水を使われているだとか。伝統的なお酒造りが行われているだとか、スローフードのコンセプトにのっとったものを認定し、それを広く発信していくとことを計画しています。」

ワークショップ1

Slow Food Nippon(日本スローフード協会)独自の取り組み

冒頭のスローフードの概要にあるように、スローフードは『伝統的な食文化や食材を見直す運動、または、その食品自体を指した国際的な社会運動』であり、日本で活動している「一般社団法人 日本スローフード協会」もその理念を貫く活動をしています。

今回のイベントの「We Feed The Planet」もその活動の一環として行われたものです。

企業や団体はスローフードの活動を支持すると同時に、スローフードという国際的なネットワークに自分たちも参画していくことについて、メリットや意義を見出しているようでした。

日本スローフード 代表の伊江玲美さん

「一般社団法人 日本スローフード協会(Slow Food Nippon)」代表理事として伊江玲美氏が企業や団体、自治体と連携しながら日本でのスローフード運動を推進され、「日本が保有している日本のスローフードの魅力」を発信していこうする様々な産官学民連携のプロジェクトにおいてリーダーシップを発揮しています。

ロート製薬株式会社が日本の在来種に価値を見出しそれを製品化した動きや、神戸酒心館のスローサケという取組み、また今回のイベントを協賛した神戸市が掲げた「食都神戸」という食の地産地消運動など、産官学民連携し、「日本が保有している日本のスローフードの魅力」を発信していこうというスローフード協会の活動は、いま日本が直面している課題の一つの答えを提示しているように感じました。

「新食文化の都」として進化する「神戸」のスローフードの取り組み

今回のイベント「We Feed The Planet201」発起人であり、神戸市の「食都神戸2020構想」の仕掛け人でもある「株式会社アカインド」の森江 朝広氏に神戸市とスローフードの関係についてお話を伺いました。

新食文化の都「神戸」

森江氏:
「わたしは企業やお店のブランディングのお手伝いをさせていただいています。神戸市から、神戸で生産している野菜、果物、魚や肉といった食材や加工品をもっと宣伝したいという要望を受け、神戸市を「食文化の都」としてブランディングしていくというプロジェクトに参画しました。元同僚の伊江さんがスローフードに関与していることを思い出し、神戸市が推進する地産地消活動「食都神戸2020構想」とスローフードの理念が通じていることから、スローフードと連携していこうと考えたのは自然な流れだったように思います。このイベントにわたしはほとんど関与せず、ボランティアの学生が尽力して実現させました。わたしは遠目に見ているぐらいでしたよ(笑)」

Slow Food – KobeYouth

日本水産業の未来のためにもスローフードとの連携は大切

今回のイベントでパネリストとしてトークショーにも登壇された、「大日本水産会」事業部長 木上 正士氏にお話をお伺いしました。

木上氏:
「水産会としては自分たちの取り組みを海外に情報発信していくためにスローフードさんと連携させていただきました。これまでそういったことは全くできなかったことなので、その道が開けたということです。現在の日本の水産業は、水産資源の管理の問題以外にも、労働者不足が課題になっています。昭和20年代には79万人いた漁業従事者が今では16万人へと減少。16万人の半数が65歳以上と高齢化しています。このままでは産業が成り立たなくなってしまいます。漁業の担い手を増やすべく、水産高校との連携も強めていますが、漁業の現場では外国人の労働力が欠かせません。漁業はインドネシア、養殖は中国、ベトナムなど海外から多くの技能実習生が来日しています。鰹の一本釣りでは、20人乗る船の外国人乗船が上限6人までのところ、来年からは10人まで増えます。こうした状態ですから、今後はもっと世界の水産業界会とコミュニケーションしていく必要があると感じています。」

「大日本水産会」事業部長 木上 正士氏

有名レストランの星付きシェフも参加した盛りだくさんのワークショプ

「We Feed The Planet Japan 2017」のイベント会場では、さまざまなワークショップ、販売ブース、飲食コーナーなどがあり、来場者と出展者が熱心に話を聞いたり、交流する姿が見られました。

ここではワークショップをいくつかをご紹介しましょう。

ワークショップ2

「集まれ、料理人。」〜アジアのガストロノミーに必要なこと〜

ミシュラン二つ星を獲得している「レフェルヴェソンス」のシェフ・生江史伸氏によるワークショップ。

「レストランにとって、料理の美味しさを直接お客に伝える人間は、美味しい料理を調理するシェフと同等の重要な役割を担っている」など、独自のガストロノミー論を熱く語っていました。

ワークショップ3

味覚のがっこう「もったいない野菜」ってなんだろう?

親子で参加できるワークショップ。収穫される1/3の野菜が廃棄されているフードロスの現状が生まれる背景の解説と、規格外の野菜を活用した商品開発など「もったいない野菜」をなくすための活動を共有しました。

にんじんテイスティングゲーム(味見をして、規格品のにんじんと規格外のにんじんを食べ比べ)など子どもが楽しめるような工夫がされていました。

物販ブース

一日限定のアジア版 Farmers Market

物販エリアでは、カンボジア、マレーシア、シンガポール、キルギスタン、韓国、フィリピン、カザフスタンのオーガニック食品が販売されていました。

写真は、韓国の有名レストランでも採用されているという「トマトで作られたコチュジャン」の商品開発の経緯を説明しているキムさん。

We Feed The Planet Japan 会場の様子

世界中のごちそうをいただけるフードコーナー

世界中をめぐりながら料理を学んできたという本山尚義氏がつくる世界のカレーをはじめ、オーガニックにこだわったパン、コーヒー、お味噌汁やスープなどの様々な料理を会場内で食べることができました。

今後のスローフードについて

この先、スローフードがどの程度社会に認知され、ムーブメントを引き起こしていくかはまだ未知数であるものの“スローフード的”なものは、もうすでに浸透しつつあるのではないでしょうか。

例えば昨今、地産品を売りにしている農産物直売所や飲食店に人気が集まり、添加物の多い食品を敬遠する消費者が多くいることなどから、「食」への意識の高まりを実感します。

私の身近でも、スーパーで食材を購入するときに、私の妻は自然と国産品を購入していますし、母親は無添加の調味料をあえて選んで購入しています。
スローフードがより一層広がっていく素地は整っているように感じられますし、企業もそういったニーズの顕在化をチャンスと捉え、ロート製薬さんの例にもあるように、積極的にチャレンジしている企業もあります。

しかし一方で、ファストフードやコンビニ弁当など、経済合理性の高い食生活へのニーズは、現代社会に切っても切れないものとして存在しているのも確かです。
安全で良質な食材を購入したくても、食費にそこまでお金をかけられない人たちがいる現実もあります。

今回の「We Feed The Planet Japan 2017」に参加して一番強く感じたのは、「知る」ことがとても大切だということ。
消費者が「知り」、「ニーズ」が変わることで、流通や販売にも変化をもたらすことができるのです。

もっと多くの人が「食」や「スローフード」に関心を高めていくためにも、「We Feed The Planet Japan」のようなイベントや気づきの場は大切になるでしょう。

参考サイト:

イベント告知サイト:We Feed The Planet in Japan
イベント主催「Slow Food Youth Network Japan」WEBサイト:Slow Food Youth Network JAPAN
一般社団法人 日本スローフード協会WEBサイト:Slow Food Nippon