4つの赤いブロックで分かれたお弁当には花形にくりぬかれた人参などの野菜や魚が入っている

食と栄養のコンシェルジュとして地域住民を支える管理栄養士たち

訪ねたのは、京都市に本社を構える「株式会社はーと&はあとライフサポート(以下、「はーと&はあと」と記載)」。15年ほど前から周辺地域の病院やケアマネージャーと連携し、訪問スタイルの食事療養サポートと宅配お弁当の提供をスタートしました。社員約40名のうち、12名が管理栄養士の有資格者です。

対象エリアは2017年11月現在、京都市・向日市・長岡京市・宇治市、大阪府北摂エリア(豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・摂津市)、大阪市の一部(東淀川区・淀川区)。40代から100歳超の幅広い利用者に、1日平均1500食を届けています。配食頻度は、1日2食の超リピーターから、1週間4食程度のライトユーザーまで、利用者の健康状態によって異なります。

栄養バランスに配慮した宅配お弁当と訪問栄養サポートの具体的な内容について、同社の在宅食生活サポート事業部・部長であり、ご自身も管理栄養士の山村豊美さんにくわしく聞いてみました。

「株式会社はーと&はあとライフサポート」の会社の前で、女性6名が各々手でハートを作って並んでいる様子。

山村豊美さん(左から3人目)を中心に、20代から40代の管理栄養士が訪問栄養サポートを行う「株式会社はーと&はあとライフサポート」を取材しました!

365日毎食利用しても食べ飽きない!健康状態に合わせたお弁当の献立

管理栄養士がメニュー開発から手がけるお弁当には、きめ細やかな配慮が随所に感じられます!気になる宅配お弁当の中身について、具体的に(1)栄養コントロール食、(2)健康バランス食、(3)やわらか食の3種類のお弁当を紹介していきましょう。

(1)栄養コントロール食

1食ごはん付き900円・おかずのみ870円(税別/配送料込み)

持病があり、食事療養が必要な人向けのお弁当。カロリー、脂質、塩分、糖質調整などを行なった、栄養バランスが異なる32パターンのお弁当があります。その中から利用者の健康状態に適したお弁当を管理栄養士が選んでくれるのが、一般的な宅配弁当との大きな違いです。糖尿病や高血圧などの生活習慣病だけでなく、膵臓疾患、透析患者、胃切除後の回復期といった専門的な医療知識と栄養コントロールが求められるお弁当にも対応しています。

ひとりひとりのニーズに合わせた細やかな対応も好評です。きざみ食対応、ごはんのやわらかさ調整、お粥への変更といったリクエストが可能です。365日毎食利用しても飽きないよう、おかずのバリエーション、食欲をそそる彩りにも気を配っています。

4ブロックに分かれている栄養コントロール食お弁当の例。右上には花をあしらったようなレンコンが乗ったお魚と付け合わせ1品、右下にはフライが4品、左上にはお野菜が2品、左下には白米。

「栄養コントロール食」の一例。腎臓病の利用者には塩分・蛋白質の調整を行ったお弁当、脂質異常症や脂肪肝の利用者にはカロリー・脂質を調整したお弁当が届きます(写真提供:はーと&はあと)

具体的な利用事例を聞いてみました。

  • 利用者:糖尿病と脂質異常症に悩む60歳の女性
  • 利用内容:週5日の夕食にカロリーと脂質調整をした栄養コントール食を利用。

管理栄養士からの訪問アドバイスに沿って「朝食に野菜をたっぷり摂る」「外食時は揚げ物を避ける」など、普段の食生活も見直したところ、利用開始から4カ月ほどで血液検査の数値に良い変化があらわれ始め、1年10カ月後には目標数値をクリア。体重も健康的に9kgの減量に成功したそう。
「あの時、出会えて本当に良かった!と言っていただき、嬉しかったです」とサポートを担当者した山村さんは振り返ります。

(2)健康バランス食

1食ごはん付き840〜850円・おかずのみ800〜820円(税別/配送料込み)

深刻な持病や厳格な食事制限はないけれど、栄養不足や栄養の偏りが気になる人向けの普通食のお弁当。栄養バランスと食べやすさに配慮した野菜中心の献立になっています。ひとり暮らしの高齢者を中心に、配偶者が入院や長期出張で不在の期間に利用する男性や、更年期の体調不良などで食事を作る元気がない女性の利用もあるそうです。
おかずの一口大カット、きざみ対応、ごはんのやわらかさ調整がリクエスト可能です。

左側には健康バランス食の例。煮物や魚、揚げ物が入っている。右側にはお楽しみ行事食の例。わっぱに入ったごはんと、三食団子や食材を花や葉っぱに見立てたおかずが入っている。

「健康バランス食」。日替わりお弁当(左)に加え、毎月1回のお楽しみとして季節感のある「お楽しみ行事食」(右)が届きます(写真提供:はーと&はあと)

(3)やわらか食

1食594〜890円(嚥下レベルで異なる・税別/配送料込み)

寝たきりの高齢者や治療薬の副作用など、さまざまな理由から「食べられない」「飲みこみにくい」という嚥下困難な人に配慮したお弁当。「凍結含浸法(とうけつがんしんほう)」という技術を用い、筍や根菜などの硬い食材でも歯茎でつぶせるほどのやわらかい食感を実現しています。
日替わりお弁当の他、利用者本人も介護する家族も「食事を通して晴れやかな笑顔になってほしい」との想いから、2016年末より京料理の老舗料亭と連携して『やわらかおせち』(写真)の提供もスタート。見た目の美しさ、料理としての美味しさ、身体への優しさを兼ね備えた進化形やわらか食と言えそうです!

細かくブロック分けされたきらびやかなお重には、金箔もあしらわれたおかずなど色鮮やかに入っている。

穴子八幡巻、海老芋旨煮、日の出雲丹、春告げ豆、鰤の照焼など、京料理の味わいと縁起にもこだわった21品目が楽しめる『やわらかおせち・むつみの重』7000円(税別)。やわらか食の定期的な利用者向けに限定提供(写真提供:はーと&はあと、京料理 せんしょう)

やわらか食は、一般家庭では調理が難しいとされています。お弁当を利用しない日の食事についても、訪問サポート時に利用者の嚥下レベル(食べる力・飲みこむ力)に応じて、さまざまなメーカーから市販されている専用食品(嚥下調整食)から、利用者に応じたベストな組み合わせを提案する目利きをしてくれるそうです。歯でかめる→歯茎でつぶせる→舌でつぶせる→かまなくても大丈夫という段階的な食事調整ができるように、栄養のプロからアドバイスがもらえるので安心です。

これだけバラエティー豊かなお弁当が揃っていると、まだまだ元気なうちは「健康バランス食」で健康維持、持病の悪化や食事制限が必要になったら「栄養コントロール食」へ切り替え、行く行くは「やわらか食」で食べる楽しみをできるだけ長く持続する。そんな風に健康状態やライフスタイルに応じた活用ができそうですね。

利用者から好評!管理栄養士のきめ細やかな訪問栄養サポート

お弁当の中身もさることながら、定期的な訪問栄養サポートが利用者からとても喜ばれているそうです。
依頼が入ると、まず管理栄養士が利用希望者の自宅などを訪問するところからサービスはスタートします。腹囲などを計測するメジャー、BMI値やカロリー計算用の電卓などの七つ道具をカバンに詰め込み、入り組んだ住宅地でも駆けつけられるようバイクで出動します。

女性がバイクにまたがり、笑顔で訪問サポートに向かっている様子。

(写真提供:はーと&はあと)

初訪問時のヒアリング時間は、なんと40分以上にも。体調や体型、持病、常服薬についてはもちろん、普段の朝・昼・晩の食事内容、間食や夜食の習慣、味の好み、外食や買い物の頻度、台所にどんな調理用具が揃い、日々の食事は誰が作るのかなど、人それぞれで違う生活スタイルと食環境を細かく丁寧に管理栄養士が確認します。

「ご利用者さんが立ち寄るスーパーやコンビニなどをチェックすることも。おやつの衝動買い、外食、晩酌なども頭ごなしに否定せず、程度・適量を自覚してもらえる方法を探ります。お薬ではなく日々の食事で少しずつ体質改善を促してゆくので、血液検査などの数値にあらわれるまで平均3カ月と時間がかかります。だからこそ、その人の生活に寄り添う柔軟な栄養コントロールが、長続きのコツです」と山村さん。

訪問ヒアリング後、「コレステロール値がこの数値に下がるまで一緒に頑張りましょう」など具体的な目標を設定。届けるお弁当の内容や配送ペースを決め、利用開始から1週間後、1カ月後、3カ月後、6カ月後と定期的に電話や訪問を行なってフォローします。

ちなみに、最低利用期間などの条件はなく、週1食からの短期利用も可能ですが、効果を実感しやすい理想的なペースは「糖尿病であれば週4食以上・3カ月以上が目安」と山村さん。目安は利用者の健康状態によって異なるので、あくまでも参考に。

ただお弁当を届けるだけではない!配送スタッフのホスピタリティー力

さらに驚くのは、管理栄養士からバトンを託され、お弁当を届ける配送スタッフの手厚いフォローです。

玄関先にあるチャイムを左手の人差し指で押す様子。

配達スタッフの多くは、ヘルパーの有資格者や介護経験者。お弁当を届けて任務完了ではありません。利用者の体調面での注意事項などをしっかり把握した上で、宅配時には必ず日常会話を交わして顔色や目線、言動を注視。日々の変化を日報や本社のカスタマースタッフを通じて、担当管理栄養士、利用者の家族や地域のケアマネジャーと情報共有する体制を整えています。つまり、配送スタッフは利用者の“見守り応援団”の中心的役割を担っているのです。

「特に、ご高齢でひとり暮らしをされていると社会との接点が薄れ、家のカーテンを開けるのも面倒なほど気力が低下し、体を動かさないので食欲も低下して必要な栄養が行き届かなくなり、持病の悪化、物忘れやうつ症状が進む要因になることもあるんですよ」と山村さんは警鐘を鳴らします。

実際の利用事例には次のようなケースもありました。

  • 利用者:軽度の認知症状で家に引きこもりがちだったひとり暮らしの高齢者
  • 利用内容:朝昼があんぱん1個・夜は毎日同じ惣菜弁当という偏った食生活から、1日1食を「健康バランス食」に変更。

配送スタッフは配送時にお弁当の感想を聞き取るなど積極的にコミュニケーション。すると、利用開始から数週間後には顔色が良くなり、笑顔も増え、やがて散歩が日課になるまで改善したそうです。

別の利用事例には、脳梗塞の異変に配送スタッフがいち早く気付き、一命を取り止めた例もあるそう。

実は、こうした管理栄養士による定期的な訪問サポート、配送スタッフの見守り、カスタマーセンターの情報共有サポートも、1食のお弁当の価格に全て含まれています。「10年以上にわたり、長いお付き合いが続いているご利用者さんも多いんです」という山村さんの言葉にも納得です!

お弁当は利用者が栄養管理をセルフコントロールするための教材

毎食お願いしたくなるほど、至れり尽せりの配食サービスと訪問栄養サポートですが、山村さんは「いちばんの理想は、ご利用者さんが配食サービスに頼らなくても、ご自身で食事のセルフコントロールができるようになることです」と強調します。

「お届けするお弁当は、人それぞれで微妙に異なる1食の適量と栄養のべストバランスを実感してもらうための教材なんです」と山村さん。お弁当を利用しない日の食事のボリュームや味付けの目安にしてもらうため、お弁当の食材は日常的に利用者が手に入れやすいものを選び、毎食のお弁当には成分表(写真)も添えられています。

弁当の成分表が2パターン。お弁当のおかずの種類や、栄養素の摂取できる量まで詳細に記されている。

くわしい記述がされたお弁当の成分表。(写真提供:はーと&はあと)

また、配食サービスを利用しない日の家ごはんや外食の献立も含めて、総合的な栄養コントロールについても喜んで相談に乗り、アドバイスするのだそう。「たかが食事、されど食事。毎日の食事って、日常的すぎて二の次にしやすいですよね。でも、持病の有無や年齢に関係なく、誰にとっても必要で大切な生きる力を作る基盤なんですよ」と山村さん。

人の体は食べたものでできている!日々の食事をもっと大切に

健康に不安を感じるようになって日々の食事と栄養バランスを見直すのではなく、健康なときから気遣えるようになりたいもの。最後に、日々の食事で私たちが気をつけたい食事や栄養の摂り方について山村さんにアドバイスしていただきました。

白いテーブルクロスの上に、奥から果物、ジュース、パン、サラダ、ベーコン、卵、シリアル、ヨーグルトが置かれている。朝食のイメージ。

◆食事は野菜から、ゆっくり食べる。

「野菜の食物繊維が、ゆっくり噛んで食べると血管の中へ早く吸収され、血糖値やコレステロール値が上がりにくくなります。お薬ほどの即効性はありませんが、継続すれば体質改善につながりますよ」

◆行きすぎた糖質オフ、1食ヌキは危険!

「炭水化物を摂らない、朝食を食べないなどの偏りは厳禁。体と脳が“飢餓”と勘違いして、入ってきた脂肪や糖を必要以上に蓄えようと働きます。無理なダイエットによるリバウンドも同じメカニズムです」

◆夜ごはんは、夜21時までに。

「できるだけ毎日同じ時間帯に食事して、体のリズムを作ることが大切。胃腸の負担を軽減するためにも、夜ごはんは21時までに食べるのが理想的です。毎日が難しい場合は、まずは週3食から心がけては」

◆便秘対策は、十分な水分と食物繊維の摂取を。

「腸内環境の改善がポイント。善玉菌が豊富なヨーグルト、善玉菌のエサになるオリゴ糖を含むバナナやハチミツ、腸の運動を刺激するオレイン酸を含むオリーブオイルを朝食に取り入れてみてください」

器の中にヨーグルト、バナナ、オリーブオイル、きな粉が入っている。

便秘対策を一皿に凝縮した朝食例。バナナをオリーブオイルでソテーして自然な甘味を引き出し、ヨーグルト、はちみつと一緒にいただきます。さらに、きな粉をまぶすと風味UP!(写真提供:はーと&はあと)

管理栄養士が中心となり地域の人々の食生活と暮らしを見守る、一歩先をゆく配食サービスを提案する「はーと&はあと」の取り組み。利用者の中心は持病や嚥下に悩む高齢者ですが、年代を問わず「健康維持や予防のための利用も大歓迎」とのこと。アレルギー、妊娠中・産後の体調不良、更年期症状、ダイエットの失敗といった心身の不調が、栄養バランスを整えることで改善される例も珍しくないそう。対象は京都市と周辺地域、大阪府の一部地域に限られますが、食生活に不安があり、改善したいと考えている人は相談してみては。

「はーと&はあと」では、高齢者に増えている低栄養や、食べにくい・飲みこみにくいといった嚥下に悩む人のための栄養サポートに、今後より一層の力を注いでゆくそうです。2017年10月に在宅版NST(栄養サポートチーム)を目指し、訪問看護事業もスタートしました。病院ではなく住み慣れた自宅で長期療養する在宅医療のニーズ増加に伴い、その必要性は高まりそうです。これからの活動にも要注目です!

取材協力

企業名 株式会社 はーと&はあと ライフサポート
所在地 京都府京都市南区上鳥羽卯ノ花46(本社)
電話番号 0120-876-810
URL http://www.810810.co.jp