
30歳以下の料理人世界一を決める国際料理コンクール「第3回 サンペレグリノ ヤングシェフ2018」で、日本人シェフが見事、優勝の栄冠を手にしました!この大会で日本人シェフが世界一に輝くのは初めてのことです。
世界中から優秀な若手シェフが集い、世界各国のトップシェフが審査員に名を連ねるこのコンクールは、技術はもちろん、料理にこめられたメッセージやビジョンも重視。さらに、自分の作った料理を英語でプレゼンテーションする力も求められます。
他の大会とは一線を画したこのコンクールの概要をご紹介し、世界を制した藤尾康浩さんに、決勝大会までの道のりや勝負を決めたひと皿についてお聞きします。
(写真中央:若手料理人世界一となった藤尾康浩さん〈「ラシーム」スーシェフ〉 写真右:若手シェフをサポートしたメンターシェフのルカ・ファンティンさん〈「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」シェフ〉)
目次
若手料理人世界一を決める国際料理コンクール「サンペレグリノ ヤングシェフ」とは?
今年で3回目の開催となる料理コンクール「サンペレグリノ ヤングシェフ」は、イタリアの飲料メーカー、サンペレグリノ社が主催し、才能ある若手料理人の発掘を目的としています。
参加資格は「30歳以下、かつレストランで1年以上シェフ、スーシェフ、部門シェフ、料理人として勤務経験のある方」。料理のジャンルは問われません。
料理の審査基準は5つ。1. 素材、2. 技術、3. 才能、4. 美しさ、5. メッセージ性。
世界を21地区に分け、まずALMA(パルマを拠点とする国際的な料理学校)の審査員団による書類審査が行われます。地区ごとに10名が選ばれ、各地区大会でコンペし、地区の代表(ローカルファイナリスト)を1名選出。世界21地区は欧米、アジア、アフリカと世界のあらゆるエリアをカバーした分類になっています。

「第3回サンペレグリノヤングシェフ2018」日本地区大会(2017年10月12日、東京で開催)で、ファイナリストに選ばれた藤尾康浩さん(写真右から2番目)。日本地区大会の審査員は、ルカ・ファンティンさん(「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」写真右)、高澤義明さん(「TAKAZAWA」写真中央)、トーマス・アンゲラーさん(「パーク ハイアット東京」総料理長 写真左から2番目)、長谷川在佑さん(「傳」写真左)の4人。
地区大会を勝ち抜いたローカルファイナリスト21名は、決勝大会(グランドファイナル)に向け、地区ごとに指名された「メンターシェフ」とタッグを組んで料理をブラッシュアップ。イタリア・ミラノで行われる決勝大会では世界的なトップシェフで構成された審査員団を前に、調理と、英語でのプレゼンテーションを行います。
この大会の優勝者は、サンペレグリノ社が主催もしくは協賛する国際的な食のイベントにゲストシェフとして招聘されるなど、世界で活躍するためのキャリアサポートを受けることができます。
若手料理人世界一に輝いた藤尾康浩さんのこれまでのキャリア
「第3回 サンペレグリノ ヤングシェフ2018」で優勝を勝ち取った藤尾康浩さんは1987年大阪府生まれ。語学習得のために15歳でイギリスに留学し、パリの大学に進学しました。パリ滞在中にフランス料理に興味を持ち、佐藤信一さんがシェフを務めるパリの二つ星店「パッサージュ53」に入店。南仏の「ミラズール」を経て、現在は大阪「ラシーム」のスーシェフです。
国内の若手料理人コンペティション「RED U-35」では、2015年にシルバーエッグ、翌年はゴールドエッグを受賞しており、料理人としての才能はこれまでにも高く評価されてきました。
10代なかばで海外に出てパリで料理修業を開始し、今、世界からお客様が訪れる「ラシーム」の厨房にいる藤尾さんにとって、新興国も含めた世界各国の若手シェフが集結し、世界的トップシェフが料理を審査する「サンペレグリノ ヤングシェフ」は、キャリアを存分に活かせる特別な舞台だったかもしれません。
藤尾さんに聞く!メンターシェフからの学びと決勝大会までの幸運の連鎖
藤尾さんは、2017年10月に東京で行われた「サンペレグリノ ヤングシェフ」日本地区大会を制した後、日本地区の「メンターシェフ」を務めることになった「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のルカ・ファンティンさんとともに決勝大会に向けて準備を始めました。
「ルカには『こういうコンテストは最初のひと口で決まるよ』と繰り返しアドバイスされました。審査員は21人分の料理を食べて審査するわけですから、そんなにたくさん食べないし、ひと皿に時間をかけない。どれだけ外国人シェフにわかりやすい味わいにしていくか。旨みを幾重にも足して調整しました」(藤尾さん)
藤尾さんが決勝大会で提供する料理の組み立てに試行錯誤していた矢先、ある出来事がありました。2018年3月に発表された世界のレストランランキング「アジアのベストレストラン50」で、藤尾さんがスーシェフを務める「ラシーム」が17位にランクインし、メンターであるルカ・ファンティンさんの「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」も28位に入賞。2店とも初のランクインでした。注目が集まるこのランキングに、自身の所属する店とメンターシェフの店が同時に初入賞したのです。
「マカオで行われた授賞式に僕も参加させてもらったのですが、そこでまたいろんなシェフとの交流があって。会場にいた成澤シェフや山本シェフに助言をいただくことができました」(藤尾さん)
「アジアのベストレストラン50」に毎回ランクインしている、「NARISAWA」の成澤由浩さんと「日本料理 龍吟」の山本征治さんは、「サンペレグリノ ヤングシェフ」とも深くかかわってきたシェフです。成澤さんはこのコンクールの地区大会・決勝大会の審査員を経験しており、第2回大会のメンターシェフ。山本さんは地区大会の審査員を2度務め、第1回大会のメンターシェフを務めました。経験値のある2人からのアドバイスもあって、藤尾さんは料理のコンセプトを固めることができたといいます。一番身近にいて、頼りにしている師である「ラシーム」高田裕介シェフの指導もあおぎ、藤尾さんは決勝大会に臨みました。
勝負のひと皿「Across the Sea」
藤尾さんがこの大会で提供したのは、鮎を使った料理。タイトルの「Across the Sea」には、川魚の鮎が海にでて世界に挑戦するという意味が込められています。藤尾さんは、書類選考、地区大会と、選考が進む過程で手を加えながら、2018年5月12日・13日にミラノで行われた決勝大会に向け、このひと皿を仕上げました。
「鮎は、日本人の精神性を表現できる食材だと思って選びました。初夏の数カ月しか獲れず、季節を愛でる日本人にとって、特別な旬の味覚。きれいな川にしか住まないという習性は日本人が古来からまわりと調和して生きてきたことに通じています」(藤尾さん)
藤尾さんは〝自然との調和(integration with nature)〟を1つのキーワードとしてこの料理を仕上げました。
日本から持ち込んだ鮎は、皮を残して内臓や身を丁寧にくりぬきました。身は米とクレソンを加えてムースにし、そのムースを皮に詰め戻して魚の姿を再現。山椒の枝を串のように刺して炭火で焼きます。内臓は黒ニンニクとクリームを合わせ、苦みを活かしつつ食べやすいようにアレンジ。
鮎の住む川辺に漂う青々とした香りや、川の水の冷たさをイメージし、キュウリ、スイカ、メロン、青トマトで作ったドリンクを竹の器に入れ、酸味の要素として加賀野菜「加賀太キュウリ」のピクルスを添えました。皿の上には山椒やクレソンなどのパウダーをふりかけて苔に見立て、全体として川の風景を表現。〝自然との調和〟のコンセプトを盛り付けにも活かしています。
「鮎をまるごと塩焼きにする調理は日本でよく見られますが、シンプルだけど、食べると複雑な味わいです。今回は身をくりぬいて調理し、詰め直して元の姿に戻しました。一見シンプルだけれど中身はとても複雑な調理法にも、日本人の精神性を反映しています」(藤尾さん)

「第3回 サンペレグリノ ヤングシェフ2018」決勝大会審査員の7人。右からドミニク・クレンさん (アメリカ)、ブレット・グラハムさん (オーストラリア)、マルガリータ・フォレスさん (フィリピン)、アニー・フィオルドさん (イタリア)、ヴィルジリオ・マルティネスさん(ペルー)、アナ・ロスさん (スロベニア)、ポール・ペレさん (フランス)。
藤尾さんは料理の温度にもこだわりました。決勝大会では審査員席の近くまで焼台を運び、炭火で焼き上げた鮎をその場で審査員の皿に盛りつけて、焼き立て・アツアツの鮎のおいしさをアピール。世界のトップシェフ7人を前に、英語で自分の料理をプレゼンテーションした藤尾さんは「あがってしまって、料理の説明はほとんどできていなかったと思います」と言います。
若手料理人世界一の称号と特別賞をダブル受賞!
料理のサーブやプレゼンを終え、いよいよ結果発表。21名の中からまずは7名のファイナリストがコールされ、壇上で再度自分の料理をプレゼンしました。審査を経て、藤尾さんはまず、各国の「メンターシェフ」による投票で決まる特別賞「アクアパンナ テイスト オブ オーセンティシティ アワード」を受賞。その後、優勝が発表されました。
今回のコンクールについて藤尾さんは、「世界からシェフが集まる大会で、とにかく面白かったです。見たこともないような料理を出す人がいましたから」と振り返ります。
「例えば…南アフリカのシェフは、カボチャや雑穀など日本でも馴染みのある素材を使っていましたが、アプローチが僕の想像を超えていて。今まで食べたことのない味でした。あれは結構、衝撃的でした」と、この国際大会ならではの経験を語ってくれました。優勝という大きな成果だけでなく、今後につながる刺激や学びも得たようです。
今後は世界各地で開かれる食のイベントに参加するなど、国際的なキャリアを積んでいくことになります。快挙を成し遂げた日本人若手シェフの、これからの活躍が楽しみです。
(写真提供:「サンペレグリノ」&「アクアパンナ」PR事務局)
取材協力
企業名 | 「ラシーム」 |
住所 | 大阪市中央区瓦町3-2-15 瓦町ウサミビル1F |
TEL | 06-6222-2010 |
イベント | 「サンペレグリノ ヤングシェフ」詳細 |