
2017年8月に厚生労働省が発表した最新の雇用動向調査結果「平成28年雇用動向調査結果」によると、飲食業界は、入職率32%に対し、離職率30%で、入・離職率とも産業別でトップでした。
世間一般では飲食業界の高い離職率ばかりに注目が集まりがちですが、ここで見落としてはいけないのが、32%という入職率の高さです。つまり、入・離職を繰り返す人材の回転の速さこそが飲食業界の特徴なのです。料理人の場合、複数店舗で修業経験を積んでステップアップしていくことがあたりまえだと考えられていることなのが良い例でしょう。
ですから、飲食業界で働いているなら、早かれ遅かれ「転職」という場面にぶつかります。そろそろ次の店で違うことを学びたい、次のレストランで自分の力量を試したい、転職のきっかけは人それぞれですが、避けて通れないのは次の職場での給与交渉です。
クックビズ総研では飲食業界での転職経験者(転職活動中を含む)200名に向けアンケートを実施。業界初の転職前後の給与事情をまとめました。
目次
約3割が転職後に給与増!ただし男女差あり
飲食店従事者200名のうち、1回以上の転職経験がある185名に転職前後の給与レベルについて質問したところ、転職後に給与が上がった人が全体の32%、給与が減ったと答えた人が22%と、給与増が給与減の割合を大きく上回りました。
転職前と後で給与が変わらない人を合わせて、約80%の転職経験者が給与面では前職と遜色ない待遇で迎えられたと調査で分かりました。
*注:アンケートは転職直前と直後の年収(ボーナスを含む)を比較しました。
飲食業界での転職前後の給与変化<男女比較>
しかし、男女別でくわしく見てみると、給与増減の傾向が大きく異なります。男女ともに給与が減った人の割合は約20%ですが、男性の約40%が転職後に給与アップを果たしたのに対し、女性では約30%しか給与アップを実現できませんでした。
職種による給与差もあるので一概には言えませんが、男女の雇用待遇差は今後変化していくことが考えられます。男女ともに給与交渉に自信がない場合は、転職エージェンシーに給与交渉を代行してもらう、プロの転職コンサルタントのアドバイスをもらうなど、工夫の余地はありそうです。
年収500万円からの転職は年収100万円増減のリスクあり
転職後に給与増を実現できた人は、平均で45万円以上の年収アップを果たしていますが、これは月4万円ほどの昇給を果たしていることになります。
一方、転職後に給与が減った人の年収額の変化にも注目する必要があります。転職前の年収別にみていくと、特に転職前の年収が500万円台の人は、転職次第で年収に平均100万円程の増減が出てしまうようなのです。転職に成功すれば年収が100万円アップ、失敗すれば100万円ダウンすることになるので、まさに天と地の差と言えるでしょう。
飲食業界で500万円以上の年収をもらえるポストといえば、サービスや調理といった専門職の腕前のみならず、マネージメント力や育成力などの総合力を求められる場合も多々あると考えられます。専門の腕前やサービス経験と総合マネージメント力を両方備わっている人は貴重な人材であるため、給与面で大きなステップアップを望めます。一方、技術や経験はあるものの、マネージメントポジションになれずステップダウンする人もいます。
シニアになればなるほどそれ相応のポジションも限定されてしまうため、転職のハードルも一気に高くなります。
転職で思わぬ結果にならないよう、自分の強みと弱みをよく理解した上キャリアプランを立てることをおすすめします。
飲食業界での転職前後の平均給与変化<年収別>
「堅実」のアルバイト、「変動」の正社員
雇用形態別で転職前後の年収変化を見ると、アルバイト転職者の60%弱が転職前と同等の給与レベルで次の職場に就くのに対し、正社員転職者の70%弱が給与に変化がありました。
正社員転職の場合、転職によって給与増の人の割合が全体の40%で、アルバイト転職より14%も高い結果となっています。一方、転職によって給与減の人の割合は、正社員では26%とアルバイトより約10%も高くなっています。これは、正社員に求められる役割や責任が多い分、待遇面にもしっかり反映された結果だと考えられます。
飲食業界での転職前後の給与変化<雇用形態別>
20代から40代が売手市場、勤続の長さより質が肝要
転職時の年齢を見ると、20代から40代では転職後に給与アップした人の割合が給与減の人の割合を大きく上回っており、この世代の求職者は売手市場にあることがよく分かります。
50代は、一般的には転職に伴う給与増が厳しい世代と予想されましたが、意外にも約17%の人が給与増を実現しました。
飲食業界での転職前後の給与変化<転職時年齢別>
一方、勤続年数を見てみると、勤続1年未満の転職者を除き、どのセグメントも給与増の割合が給与減を上回っています。ただし、勤続年数と給与アップの正比例関係が見られず、経験の長さよりも経験の質やその人の素質、ポテンシャルがどう評価されるかが給与に直結しているといえます。
飲食業界での転職前後の給与変化<業界勤続年数別>
まとめ
少子高齢化が進み、日本の労働市場は明らかな売手市場となっていますが、飲食業界はそうした動きの中でもひときわ人手不足が深刻な業界だと指摘されています。
結婚、出産、引っ越し、キャリアアップ、労働環境の改善などさまざまなきっかけで転職に臨む方がいます。
今回のアンケート調査からは、転職経験者の約3割が転職後に年収アップしている結果が出ましたが、年収、雇用形態、年齢、勤続年数も転職後の年収の増減に寄与することもわかりました。
主なポイントとしては、
- 前職の年収が高ければ、転職後も大幅な給与レベルを期待できるが、同時に給与ダウンのリスクもある。
- 正社員は担う責任が大きくなる分、アルバイトよりも転職後の給与が上下に変動しやすい。
- 20代から40代では転職後に給与アップする傾向が高い。
- 勤続年数よりも、経験内容の質や成長のポテンシャルの方が評価ポイントになる。
といったことが言えるでしょう。
売手優位の飲食業界では、自身の強みや今後のキャリアプランをきちんと考え、転職活動をすることが給与アップ実現の鍵になりそうです。市場環境における自分の価値を冷静に見直すために、転職エージェントなどプロの力を借り、アドバイスをもらうのもよいかもしれません。
■調査概要
調査名 | 「転職経験者対象:飲食業界での給与比較調査」 |
調査対象 | 2年以内に飲食業界へ転職経験あり、もしくは現在転職活動中の男女 |
調査対象年齢 | 18~69歳 |
調査対象地域 | 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県 |
有効回答数 | 200(男93:女107) |
調査期間 | 2017年11月21日~2017年12月4日 |
調査方法 | インターネット調査 |