赤地に金の詩集の施されたメニュー表に値上げと書かれた画像

2017年6月に酒税法改正が施行されたことを受け、アサヒビール・キリンビール・サッポロビール・サントリービールの大手ビールメーカー4社は、そろって瓶ビールと居酒屋向けなど業務用の生ビール樽の値上げを発表しました。値上げは2018年3月から4月以降の出荷分からスタートし、値上げの幅は酒販店などの店頭大瓶価格で10%ほどのアップ。ビールメーカーでは10年ぶりの値上げとなります。
こうしたビールメーカーの値上げを追随するかのように、外食業界では大手レストラングループがいち早く店舗メニューの値上げを相次いで発表しました。酒税法の改正以外にも、食材や人件費の高騰など、外食業界はかつてないほどの値上げのプレッシャーに直面していると言えます。

では、2017年に個人経営の飲食店や中小規模の飲食店グループでは、価格に対してどのような対応をしたのでしょうか?どのくらいの飲食店がメニューの値上げを実施したのでしょうか?また、値上げを実施した場合には、具体的な値上げ幅や、値上げによる売上影響はどうだったのでしょうか。
クックビズ総研では、全国の飲食店を対象に店舗メニューの価格引き上げについてアンケートを実施し、飲食店の価格戦略と経営実態を調査しました。

2017年の値上げ実施店は全体の23%!都会より地方の実施率高い

「2017年に店舗メニューを値上げしましたか」という質問に対し、全体の23%の飲食店が「値上げした」と回答しました。

<飲食店の店舗メニュー値上げ実施状況(2017年)>

2017年の飲食店の店舗メニュー値上げ実施状況を表したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)

店舗メニューの見直しを行った飲食店をエリア別でみていくと、東名阪よりも、地方圏の方が価格改定により積極的であることが分かります。飲食店の出店が集中している三大都市圏は競争が厳しく、競合他店の価格変動にもより敏感で、周辺の動きを様子見する傾向が強いことも地域差の要因のひとつかもしれません。
一方、地方圏(北海道や沖縄県)では大手飲食店の値上げが逆に、地域の飲食店に店舗メニューの値上げに踏み込みやすい環境を作ってくれたと考えられます。

<飲食店のエリア別店舗メニュー値上げ実施状況(2017年)>

2017年の飲食店のエリア別店舗メニュー値上げ実施状況を表したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)
首都圏:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県
中京圏:愛知県、岐阜県、三重県
近畿圏:大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県
地方圏:北海道、岩手県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、石川県、新潟県、富山県、山梨県、島根県、山口県、高知県、福岡県、沖縄県

値上げ実施店の大半が店舗メニューを10%〜15%引き上げ

一部価格改定をアナウンスした大手飲食店グループの値上げは、値上げ幅は店舗メニューの5%前後、1品あたりに換算すると10円から100円アップが相場のようでした。

<大手飲食店グループの店舗メニュー値上げ事例一覧(2017年度)>

2017年度の大手飲食店グループの店舗メニュー値上げ事例一覧

※店舗メニューの改定情報は各飲食店グループのHP及びプレスリリースより収集(値段は税込価格、別途説明付きを除く)

それに対し、今回のアンケートに参画した飲食店(グループ展開店舗数10店舗以下の中小規模の飲食店が全体の85%)では、店舗メニューの10%〜15%の値上げが中心のようです。

<値上げを実施した飲食店の値上げ幅の分布(2017年)>

値上げを実施した飲食店の値上げ幅の分布を表したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)

値上げの幅によっては、消費者の受け入れ方も違ってくるでしょう。例えば、同じ10%の値上げでも、客単価1000円台の飲食店が100円を値上げするのと、客単価5000円台の飲食店が500円を値上げするのとでは、値上げ後の経営戦略が変わることもありえます。前者は同じ顧客層が引き続き通うこともあれば、後者は場合によって顧客層自体が変わることもあるようです。

実際に値上げ実施した飲食店の生の声を紹介してみます。

  • 「値上げすることによって高単価の客層へと推移しました。今のところ、売上・営業利益共に増加予想です。」(東京都/日本料理/客単価7000円)

また、アンケートではただ単にコスト増を価格に転嫁するのでは、好意的な反応は得られないとの声もありました。大幅な価格改定ならばなおさら「お客様の満足」を獲得するためのフードやサービスの質向上が不可欠だと慎重に考える飲食店の生の声を一部紹介します。

  • 「値上げをする理由に納得感がないとお客様は厳しい。過去に値上げを実施した直後数か月間は来店数が減った経験があるので慎重にならざるをえない。」(東京都/洋食全般/客単価7000円)
  • 「(値上げにあわせて)質を上げたのでお客様の反応は今のところ悪くないが、今後も様子を見る必要がありそうです。」(鳥取県/和食全般/客単価5000円)

値上げは得策?値上げを実施した飲食店の92%が黒字店

続いて、値上げの経営に対する影響をみていきます。2017年の業績について聞いたところ、調査対象の飲食店のうち、黒字店は75.2%、赤字店は24.8%でした。
内閣府が2018年3月に発表した景気動向指数(2018年1月分速報)によると、2016年7月以降、景気動向を示すCI遅行指数が継続的な改善傾向を示しており、今回の飲食店の経営状況の調査結果も、この好景気を反映した結果となっているようです。
さらに、2017年に店舗メニューの値上げ実施状況で比較してみると、値上げを実施した飲食店は黒字92%:赤字8%でしたが、価格を据え置いた飲食店は黒字70.2%:赤字29.8%という結果でした。

<店舗メニュー値上げ実施と経営状況の比較(2017年)>

2018年の飲食店の店舗メニュー値上げ実施予定を表したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)

さらに、売上・利益の変動にも注目してみましょう。
アンケートの結果によると、2017年に店舗メニューの値上げを実施した飲食店は、対前年の増収増益の割合が28%、値上げをしなかった飲食店の23.8 %よりも4.2%高い結果になりました。また、「売上が横ばいだが増益」、「減収増益」を足した「利益増」の割合においても、値上げを実施した飲食店は実施しなかった飲食店より高い業績が上がっていたことがわかります。

<店舗メニュー値上げ実施と対前年売上・利益の比較(2017年)>

2017年の店舗メニュー値上げ実施と対前年売上・利益の比較したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)

2018年の値上げ実施予定店は前年の約2倍!値上げ効果に高評価

「2018年に店舗メニューを値上げしますか」という質問に対し、全体の43.1%の飲食店が「値上げする」と回答しました。これは、2017年の値上げ実施率23%と比べ、約2倍の結果となりました。

特に、2017年の値上げ実施店のうち、64%が2018年に引き続き「値上げする」との回答が返ってきました。この調査結果によると、過半数の値上げ実施店が値上げの実施効果を評価し、再度の値上げを前向きに計画していることが伺えます。

<飲食店の店舗メニュー値上げ実施予定(2018年)>

2018年の飲食店の店舗メニュー値上げ実施予定を表したグラフ

「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」クックビズ総研調べ(2018年)

値上げの理由としてもっとも多いのは「食材費及び人件費の高騰」でした。値上げの時期はビールメーカーの価格改定の時期に合わせて2018年3月〜4月を予定している飲食店が多いようです。また、一気に値上げはせず、価格改定を年2回に分けて段階的に進めることを計画している飲食店もあります。

  • 「酒類の値上げについては2018年4月から転嫁する予定。2018年は人件費増で利益減少すると予測。」(京都府/日本料理/客単価17000円)
  • 「値上げの幅にもよるが、一気に上げず、年2回に分けて実施したいと思う。(そうすることで)お客様からの理解を得られると考えている。2018年は増収増益+5%を見越している。」(石川県/ホテルレストラン/客単価7000円)

まとめ

今回は飲食店の店舗メニュー値上げの実態について、アンケート調査結果をもとに考察しました。
2017年に店舗メニュー値上げを実施した飲食店は全体の23%でした。それに対し、2018年には全体の43.1%の飲食店が店舗メニューの値上げを予定していることから、値上げの実施率が大幅にアップしそうです。
2017年値上げを実施した飲食店は、実施しなかった飲食店より高い業績が上がっていたことも調査で分かりました。そのため、2017年・2018年とに2年連続値上げに踏み込む飲食店も多くなりそうです。
人件費、食材費の高騰を課題に感じている飲食店経営者の皆様にとって、値上げにどう踏み込むかは迷うところかもしれません。このアンケート結果が今後の価格戦略を検討する上で、一つの材料になればと思います。

■調査概要

調査名 「飲食店の店舗メニュー値上げに関するアンケート調査」
調査対象 全国の飲食店
有効回答数 109
立地内訳 首都圏42、中京圏14、近畿圏31、地方圏22
展開店舗数内訳 1店舗76、2-10店舗17、11-100店舗10、101店舗以上6
調査期間 2018年2月14日~2018年2月28日
調査方法 インターネット調査