土鍋に入ったたくさんのパクチー

パクチー(中国語:香菜、英語:コリアンダー)が注目されるようになったのは、ここ数年のこと。
2016年に「今年の一皿®」として「パクチー料理」が選出された(ぐるなび総研)のは記憶に新しいところです。

それ以前は一部の高級スーパーなどでしか取り扱いがなかったパクチーですが、今では街のスーパーで、普通に取り扱われていることが多くなっています。

パクチー好きな人たちの愛称“パクチスト”なる造語も出現しました。これは一過性のブームなのでしょうか?
はたまた、パクチーは一般的な野菜として定着していくのでしょうか?

巷のパクチー人気を追ってみました。

パクチストの聖地「パクチーハウス東京」で話を聞いた

パクチー人気はどこまで行くのか?パクチーを取り巻く環境にどんな変化があるのか?
パクチー料理の人気店にお話を伺ってみました。

まずは、10年以上も前からやっている、東京・世田谷区経堂の「パクチーハウス東京」。
パクチストの聖地とも呼ばれるお店で、オーナーの佐谷恭氏は「日本パクチー狂会」の会長も務めています。

世界50か国以上を旅した佐谷氏が、さまざまな国で出会ったパクチー。
長年日本ではなじみの少ないパクチーでしたが、世界中どこでも食べられているとてもポピュラーな食材だそう。

そんなパクチーを通じて異文化理解ができる場を作りたいと始めたのがこのお店なのです。

モットーは“交流する飲食店”というだけあって、まるで友達の家に遊びに来たかのような気分にさせてくれるフレンドリーな雰囲気が特徴です。

パクチーハウス東京

©パクチーハウス東京

人気メニューの「皮蛋(ピータン)豆腐」©パクチーハウス東京

人気メニューの「皮蛋(ピータン)豆腐」©パクチーハウス東京

そんなお店で食べられるのは、パクチー料理専門店ならではの、パクチーが主役のオリジナル料理の数々。
なんと、すべての料理にパクチーが入っているのだとか。

パクチーというと、エスニック料理のイメージが強いと思いますが、実は、どこの国でも薬味として使う場合がほとんどで、ここまでパクチーを全面に使った料理はないのだそう。

近年のパクチーブームはもちろん大歓迎!と佐谷氏は言います。

パクチーをただ乗せるだけではなく、いかに食材として融合させるかを考えてメニューを考案しています。パクチーは葉の部分しか食べないことが多いですが、実は、葉・花・茎・根・種まですべて食べられます。

それぞれに異なる味がするんですよ。特に根っこは甘くて濃い味がするのでおすすめです。

パクチー料理は、日本発の新しい料理ジャンルです。そのボリュームとバリエーションにおいて世界にもそんなスタイルはありませんでした。
今は日本中でさまざまな料理人がパクチー料理を開発してくれています。

日本は数年前までパクチーがほとんど手に入らない「パクチー後進国」でしたが、まもなく「パクチー料理」発祥の地として世界から注目されることでしょう。(佐谷氏)

次の段階として、今後は、パクチーの使用法にはさまざまなバリエーションがあることを広めていくことが大切だと言います。

パクチー料理専門店が増えること=パクチーが定着したということではありません。

パクチーを生活に根付かせるためには、普通の居酒屋やレストランでパクチーを使った料理が提供されるようになることが大切だと思います。

パクチーはまだまだ可能性を秘めているし、さまざまな使い方があります。それをぜひ知ってほしいですね。

ブームのおかげでだいぶパクチーに拒否反応を示す人は減ってきましたが、ブームはいつか終わるものです。
それでも認知度がブーム前に戻ることはありません。
少しずつ浸透させていくためにも、パクチーの活かし方を発信していきたいですね。(佐谷氏)

パクチー100%の「パク天」©パクチーハウス東京

パクチー100%の「パク天」©パクチーハウス東京

創意工夫を凝らしてパクチーを布教する「GOGOパクチー」で話を聞いた

関西初のパクチー料理専門店として知る人ぞ知る存在、大阪市中央区にある「GOGOパクチー」。
辮髪がトレードマークという個性的な店主の田淵雅圭氏は、幼い頃から母親の故郷である台湾に帰省した際、ひんぱんにパクチーを食べていたそう。

日本であまり食べられていないのはおいしい食べ方を知らないことも大きいのでは?
と思い、既存店である「ちー坊のタンタン麺」でパクチーと相性のよいメニューを考案し提供したところ大好評。

メニューが続々と増えたため「GOGOパクチー」をオープンさせることにしたのだといいます。

そんな同店の料理は、中華がベース。特に、量り売りのオマール海老を中華風に仕上げた、活オマール海老パクチースペシャルや、パクチー炒飯は絶品だと評判です。

「活オマール海老パクチースペシャル」©GOGOパクチー

「活オマール海老パクチースペシャル」©GOGOパクチー

「パクチー炒飯」©GOGOパクチー

「パクチー炒飯」©GOGOパクチー

メニューを考える上で大切にしているのは、パクチーは薬味であるという本質を崩さないようにするということです。

パクチーはたんぱく質や炭水化物などメインの素材を引き立たせる優秀な二番手という位置づけ。
そこを外すと料理としてのバランスが崩れてしまうと思うからです。

その範囲内で感性を働かせて、いかに独創的な料理に仕上げるところが腕の見せどころです。

田淵氏のパクチー愛はお店の中だけにとどまらず。飲食店という範疇を超え、さまざまなお店や団体とコラボレーションしながらパクチーの布教活動を行っています。

パクチーハンバーガー、パクチー素麺、なんとパクチー銭湯まで!

コラボ商品「パクチー手延べ麺」©GOGOパクチー

コラボ商品「パクチー手延べ麺」©GOGOパクチー

うちは台湾料理がベースで、その部分ではいくらでも勝負できるのですが、その範囲を超えてパクチーを広めようとするなら、専門店に協力してもらったほうが絶対的に美味しいものができますから。
うちのお店には来ないお客様にもリーチできますし。

銭湯は意外でしょうが、僕が銭湯好きというところからの発案なんです(笑)。
薬草風呂としてパクチーを使うのはアリではないかと。

銭湯側は目新しい企画をすることで、新たな層を集客できるし、こちら側の期待としては、パクチー風呂で“いい香り”と思ったら、苦手な人でも今度食べてみようと思うかもしれないでしょう?(笑)
お互いにとって魅力があったんです。(田淵氏)

全国の銭湯に呼び掛けてすでに10か所以上で「パクチー銭湯」を実施。話題にはなったものの、生のパクチーをフリーズドライしたものを使っていたため原価が高く、やりたくても手が出せない銭湯さんも多かったといいます。

そこで、すぐさま「パクチー風呂の素」という入浴剤の開発に着手。2017年8月からは商品として発売され、今後ますます広まることが期待されます。

「パクチー風呂の素」©GOGOパクチー

「パクチー風呂の素」©GOGOパクチー

飲食店なので、パクチー商品を作る場合、パクチーのレトルト商品や調味料などは考えやすいですよね。

でもすでに大手食品メーカーさんが着手しているその分野で勝負しても、ただの競争になるだけでおもしろくないなと思ったんです。
もっと別のアプローチで、独自の発想で、これからもパクチーの魅力を伝えていきたいと考えています。(田淵氏)

マイナー食材だからこそ、より必要となる、生産者との絆

ご紹介した東京と大阪の2店は、専門店だけに、使用するパクチーがとんでもない量になります。「パクチーハウス東京」の場合、なんと年間2.5トンも使用しているとか!

そこで絶対的に必要になるのは、生産者との密な連携。全国どこでも、常に手に入るような野菜ではないので、年間を通じて供給してくれるルートはお店の生命線でもあります。


GOGOパクチーでは、現在約20軒の農家さんと契約を結んでいるそうです。

パクチーを安定調達するためには、農家さんの協力が不可欠です。
めずらしいことだと思いますが、実は、うちの仕入れは農家さんの言い値です。

野菜は自然のものなので、生育が遅れることだってあります。そんなときは高く買う。
正直厳しいときもありますが、他の部分で節約してやりくりします。
農家さんもそれがわかっているから、生産量を増やすためにハウスを2棟も新設するなど努力してくれるんです。

運命共同体ですから、実際に取引させていただくまでには時間をかけます。
必ず現地に行って、農地を見て、農家さんとじっくりお話をさせていただいた上で、納得してからでないと取引はしません。
お互いの信頼関係をしっかり築くことがとにかく重要です。(GOGOパクチー)

パクチーの大量取引をしていると知られているパクチーハウス東京には、農家側から取引をしたいと声がかかることも多いそうです。

パクチーは、たくさんの農家さんに分散して生産をお願いしています。

より安定した調達を可能にするためには、もっとたくさんの農家さんに生産していただきたいわけですが、そうなった場合、消費できなくなる可能性も否めません。

そこで数年前から、流通量を増やすべく、パクチー商社のような試みも始めました。
現在、扱っているパクチーの総量は年間4~5トン。うちの店で使うのは約2.5トンで、残りは他のお店や個人の方に紹介しています。

こうして流通量を増やしていけば生産者さんはパクチーを作りやすくなり、それが一般への普及にもつながっていくはずです。(パクチーハウス東京)

こうしたパクチー商社的な活動は、GOGOパクチーでも行っています。

飲食店が生産者と一緒になってマーケットを育てる試みが、マイナーな野菜には必要なのかもしれません。

パクチー商品やレシピブックも続々登場

2017年の新年早々、パクチーファンの間で、ある商品が話題となりました。

それは、エスビー食品株式会社の「きざみパクチー」。
パクチーを細かく刻んでペースト状にしたチューブタイプの調味料です(2017年2月13日発売)。

遅れること数日、2月17日にはキューピー株式会社から「アジアンテーブル かけるパクチー」が発売されています。

ほか、期間限定商品ではありますが、「きゅうりのキューちゃん パクチー味」(東海漬物)や、「まぜるだけのスパゲッティソース」(エスビー食品株式会社。現在は製造終了)、コンビニ食品などでもパクチーを扱った惣菜メニューなど続々と登場しています。

2017年5月31日~6月4日には新宿歌舞伎町で「パクチーフェス2017」が開催。
全18店が参加し、賑わいをみせました。

さらに、パクチーのレシピ本も続々と出版されています。

好き嫌いが分かれる食材として知られるパクチーですが、これだけパクチーを主役として扱った商品や本が発売され、イベントが開催されるのはめずらしいことではないでしょうか。

パクチーブームは続くのか?

パクチー料理専門店でありながら、両店とも「パクチーが苦手」という人が来店することはよくあることだとか。

「流行っているから」「苦手を克服したいから」など、来店理由はさまざまのようですが、「要は慣れ。食べているうちにパクチーを好きになる人がほとんど」と佐谷氏は言います。

実際、工夫されたパクチー料理を食べて「これならイケる!」と思えたことがきっかけで、嫌いが好きに変わっていく人も多いのだそう。

確かに、ここ数年パクチーに接する機会が増えたことで、パクチー好きが格段に増えた印象があります。
さらにじわじわと市民権を得ていきそうです。

スーパーでもパクチーが気軽に買えるようになってきた今、ただトッピングするだけの食べ方なら素人でもできてしまいます。
飲食店に求められるのは、意外な組み合わせやアレンジが楽しめるオリジナルの創作メニューの提案かもしれません。

パクチストはパクチーを求めて食べ歩きますから、魅力的なメニューであればSNSで話題になるなど、意外な波及効果も期待大。
「パクチー料理」が日本発のオリジナル料理として海外に逆輸入される日は、そう遠くないかもしれませんね。

取材協力

店舗名 パクチーハウス東京
住所 東京都世田谷区経堂1-25-18 2F
電話番号 03-6310-0355
URL http://paxihouse.com/
店舗名 GOGOパクチー
住所 大阪府大阪市中央区博労町4丁目7−3 T3SHINSAIBASHIビル
電話番号 06-6251-5892
URL http://gogopaxi.com/