PWCのロゴ画像

パスタ界のW杯”と称される、オリジナルパスタ料理の国際コンクール「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ(PWC)」。8回目の開催となる2019年大会の幕が開きました。

書類審査を通過した3人のイタリアンシェフは、2019年6月3日、東京・赤坂の最終審査会場に集結。調理とプレゼンテーションを行い、2019年10月にパリで行われる本選への切符を賭けて戦いました。日本代表の座を勝ち取ったシェフは誰なのか?緊張感に満ちた最終審査当日の模様をレポートします。

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ(PWC)」とは?

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ(以下、PWC)」は、パスタやパスタソースのブランドとして誰もが馴染みのある世界最大級の食品会社バリラ社と、バリラが運営するイタリア食文化の叡智を集積した啓発・教育機関「アカデミア・バリラ」が共催する国際料理コンクール。2012年から始まったこの大会は、今年で8回目の開催となります。

ディスプレイされたバリラ社の商品

日本の最終選考会会場にディスプレイされたバリラ社のアイテム

世界各国の若手イタリア料理人が集結し、オリジナルのパスタ料理を通じて、技、味、プレゼンテーションの腕を競い合うPWCは、“パスタ界のW杯”とも称され、世界ナンバーワンのパスタ料理を決める熱い戦いが繰り広げられます。

2019年大会のテーマは、「BELLO(beauty),BUONO(tasty),e FA BENE(goodness) -Surrounded by Beauty」。見た目に美しく、食べておいしく、高潔で、美しさに包まれていること。シェフの創造性と料理技術を最大限に活かしたオリジナルパスタの考案が求められます。
これまで本選はイタリア・ミラノで開催されていましたが、2019年大会はフランス・パリで行われることになりました。ガストロノミーの本場パリでの決戦は、これまでの大会以上に盛り上がること必至です。

日本代表シェフを決める予選、最終審査

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ 2019」の日本代表応募資格は、2019年10月11日時点で34歳以下の、イタリアンレストランでの調理経験がある料理人であること。さらに、英語でコミュニケーションができ、SNS利用経験があり、パリの本選に伴う休暇申請が可能であること。

日本予選の審査員は4名
山田剛嗣さん(レストランコンサルタント)
今井和正さん(「ペペロッソ」総料理長)
堀込玲さん(バリラジャパン株式会社 業務用営業課長)
フランチェスコ・ガレオーネさん (バリラジャパン株式会社 トレードマーケティング&マーケティングプロフェッショナル)

山田剛嗣さんはPWC2012年大会の世界チャンピオンであり、今井和正さんはPWC前回大会でシェフインフルエンサーを務めたシェフです。

PWC2019日本予選審査員の4名が座っている写真

PWC2019日本予選審査員の4名。左から、山田剛嗣さん、今井和正さん、堀込玲さん、フランチェスコ・ガレオーネさん

一次審査は書類選考で、今大会のテーマに沿ったパスタのオリジナルレシピを写真付きで提出。書類選考を通過したファイナリスト3人が二次審査(最終審査)に臨みました。
日本予選最終審査は、2019年6月3日、東京・赤坂の会場で開催。3人のファイナリストが45分という時間制限の中でパスタを調理し、英語で2分間、日本語で8分間のプレゼンテーションを行いました。

シェフが審査員の目の前でパスタを調理している様子

最終審査では、若手シェフが審査員の目の前でパスタを調理した

最終審査は、芸術性、味、技術力、テーマ性、創造性、メッセージ性の6つの観点で、10点満点で採点。総合得点の高いシェフが日本代表に選出されます。

緊張感に満ちた最終審査!ファイナリスト3人がプレゼンしたひと皿

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」日本予選の最終審査で、3人のファイナリストはどんなパスタを供したのでしょうか。緊張感に包まれた会場で各シェフが調理したひと皿やプレゼンテーションの内容を、実技審査のエントリー順に紹介します。

■日本の美しい自然や文化を表現した、木の芽とウニのパスタ

山口智也さん(1987年生)東京都「IL TEATRINO DA SALONE」シェフ

木の芽とウニのパスタの写真

木の芽とウニのパスタ

山口さんは日本の豊かな自然と四季、それを食事の中で感じ楽しむ日本の食文化をパスタで表現しました。
メインの食材は、日本人にとって春の風物詩とも言える木の芽。木の芽は『古事記』にも記述があるほど、古くから身近にあったスパイス。山口さんの地元・広島の山あいには木の芽が自生していたことから、季節を感じる食材として小さい頃から親しんできました。

山口智也さんが調理している様子

山口智也さん

木の芽とイタリアンパセリのピュレに昆布だしを加えてソースを調理し、パスタを馴染ませ、トマトのマリネと、旬の北海道のウニ、ボッタルガ(カラスミ)を添えます。仕上げに酢橘の皮を削り、木の芽を散らしました。
使ったパスタはバリラ社の「バベッティーニ」。「アルデンテに仕上げてもソースとの絡みがいい」と山口さん。

「イタリア料理を通じて日本人が世界に何を発信できるか考え、日本には日本に根付いたパスタがあるということを表現しようと思いました。(日本では定着しているが)イタリアではあまり一般的ではない冷製パスタで、木の芽や酢橘といった日本ならではの香りを楽しめるひと皿に仕上げました」(山口さん)

■故郷の特産品を活かし、修業時代の衝撃をカタチにしたひと皿

弓削啓太さん(1985年生)神奈川県「SALONE 2007」料理長

イカと海苔を使ったパスタの写真

「Orecchiette ragu di calamaro con tartufo nero」

弓削(ゆげ)さんは出身地である佐賀県の特産品、イカと海苔を使ったひと皿を調理しました。
弓削さんはもともとフランス料理のシェフとして研鑽を積み、パリの三つ星店「ギー・サヴォア」で修業した経歴があります。その店のスペシャリテのひとつ「アーティチョークと黒トリュフのスープ」はシンプルながら、食材の組み合わせの大切さを痛烈に感じた料理でした。今回のパスタは、そのスープから受けた衝撃も表現しています。

弓削啓太さんが調理している様子

弓削啓太さん(写真左)

イカは、ゲソを細かく刻み、イカ墨と煮込んで“ラグーソース”に。ソースには佐賀県産の海苔でとったブロードを加えることで、イカの味わいを邪魔することなく旨味を増幅させました。バリラ社のショートパスタ「オレキエッテ」とこのラグーソースを絡ませます。
「海苔は旨味成分がバランスよく、多く含まれており、人間がおいしいと感じる味覚が整っています」(弓削さん)。海苔は茹でで濾し、旨味の出た茹で汁のみを料理に使いました。

カルチョーフィ(アーティチョーク)はピュレにし、トリュフオイルや刻んだトリュフなどで香りを付加。カルチョーフィのピュレの上にイカのラグーソースに絡まったパスタを盛りつけ、パルミジャーノとトリュフを散らします。

弓削さんは、料理をサーブする前にくしゃくしゃに揉んでしわをつけた和紙をテーブルに準備し、その和紙の上に皿を置きました。この和紙は職人の手のイメージ。しわのある手が皿を支えている様子を表現しています。

■コンセプトはミニマリズム。ホタルイカそのものを味わうようなパスタ

長屋恭平さん(1985年生)兵庫県「erre」スーシェフ

ホタルイカのリングイネの写真

「ホタルイカのリングイネ」

長尾さんは、現在スーシェフとして働く店がある兵庫県にある浜坂漁港の特産品・ホタルイカを使ったパスタを調理しました。
「ホタルイカは胴体いっぱいにワタが入っており、ひと口でまるごとイカの味わいが楽しめる。この素材の特徴を活かすために、イカとパスタを別々に食べるような料理ではなく、ホタルイカそのものを食べているような一体感のある料理を目指しました」(長尾さん)

長屋恭平さんが調理している様子

長屋恭平さん

新鮮な生のホタルイカに、酸味の強い山ブドウのワイン、エシャロット、ドライトマトを合わせて火にかけ、押し出すように濾してソースを調理。バリラ社の「リングイネ」とソースを絡めます。
ローストした松の実、酸味がありながらホタルイカの旨味を邪魔せず寄り添う味わいのテストゥン・アル・バローロと、山ブドウのパウダーを振りかけます。テストゥン・アル・バローロは赤ワインを作る際に出るブドウの搾りカスで熟成させたハードチーズで、山ブドウとのつながりがあります。ホタルイカは昔、大量に獲れ過ぎて地元の松の木の肥料となっていた歴史があり、松の実とホタルイカにも、味や食感の相性だけではないつながりを含ませています。

今回の料理で発生した出汁ガラは、乾燥させてパウダー状にし、肥料として農家に納めます。「洗練された料理は、出汁ガラのようなロスが多く出ます。食材を敬い、循環させて生産者ともつながる。そういった持続可能な関係性を大切にしています」(長尾さん)

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ 2019」日本代表決定!

日本予選最終審査ファイナリスト3人の実技審査が終わると、審査会議を経て、審査結果が発表になりました。
「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ 2019」日本代表に選ばれたのは、弓削啓太さん。

弓削啓太さんが本線息のチケットを勝ち取った写真

PWC2019 日本代表に選ばれた弓削啓太さん

弓削さんは「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」2017年大会で本選に出場し、世界大会の決勝まで残った実績があり、日本代表となるのはこれで2回目となります。

■「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ 2019」日本代表・弓削さんのコメント

「この大会に参加した理由として、本選がパリで開催されるというのは大きかった。自分が修業時代を過ごしたパリで優勝したいという気持ちがあります。2年前(2017年大会)も最善を尽くして、持っている力よりももっと上を目指すような戦いだったので、そこにまた挑戦するというのは、失うものもあるのかなと思う。でも挑戦しなきゃなと。挑戦することで新たな自分の力を発揮できるんじゃないかと考えています」(弓削さん)

■審査員の講評「レベルが上がった」「僅差だった」

弓削さんと山田剛嗣さんの2ショット

弓削さんと山田剛嗣さん(右)

「去年と比べてレベルが格段に上がっていました。皆さんに共通していたのは、ちゃんと作り込んで今回の予選に臨まれていたということ。得点は僅差で、我々もとても悩みました。弓削さんは準備がしっかりできていました。時間配分、裏付けされた調理方法、そして自分の中で仕上がりのイメージがあった。そういった点でやはり頭ひとつ抜けていた印象でした」(山田剛嗣さん)

弓削さんが今井和正さんに表彰されている様子

弓削さんと今井和正さん(右)

「勝敗を決めなければいけないので点数は付けましたが、本当に難しかったです。みんなレベルが高かった。なぜ弓削君が選ばれたのか、シンプルに自分の言葉で表現するならば……楽しかった!見ていて面白かった!テーブルに和紙を持ってくるとか、外国人の反応も考えていて、コンテスト慣れしているプレゼンテーションを見せてくれたと思います」(今井和正さん)

いよいよ本選へ!フランス・パリで10月に開催

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ 2019」の本選は2019年10月11日、12日の2日間、フランス・パリの「PAVILLON CAMBON」で開催予定です。

審査員と出場者の集合写真

日本の若手シェフの世界での活躍に、注目していきましょう!

■取材協力

企業名 バリラジャパン株式会社