登壇者4名が椅子に座っている集合写真

レストランに予約を入れておきながら、予約時間に来店せず、連絡もない。予約当日の無断キャンセル(=ノーショー、No Show)は、飲食店にとって深刻な問題です。最近はネットニュースやテレビ番組などでもこの話題が取り上げられる機会が増えていますが、被害は依然としてなくなりません。

飲食店・レストラン向けの予約顧客管理台帳システム「テーブルソリューション」を開発・提供している株式会社TableCheck(テーブルチェック)は、2018年5月9日、無断キャンセルについてのトークセッションを開催しました。
人気シェフや有名ホテルのマネージャーら4名の飲食店関係者が登壇し、「飲食業界における無断キャンセルの現状と解決法」と題して白熱の議論を展開。実体験に基づいたエピソードや対処法など、飲食業界の最前線で活躍する登壇者が本音で語ったトークセッションの内容をレポートします。

人気店シェフら、飲食業界の最前線で活躍する4名によるトークセッション

トークセッション登壇者4名の集合写真

写真提供:株式会社TableCheck

<登壇者>

石井真介さん(写真右から2番目)
「Sincére(シンシア)「オーナーシェフ。予約の取れないフランス料理店「バカール」のシェフを経て独立。2017年12月に、ゴ・エ・ミヨ『明日のグランシェフ賞』受賞。店の客単価は15,000~20,000円。

秦野芳樹さん(写真左から2番目)
「鮓職人 秦野よしき」大将。江戸前鮓の伝統とフランス料理・イタリア料理の技法が融合した、独創的な江戸前鮓を提供する鮨職人。著名人の常連客も多数。客単価は20,000~30,000円。

塩治裕之さん(写真右)
二つ星フランス料理店からブッフェまで、12のレストランを擁する外資系ホテル「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の料飲サービスマネージャー。客単価は3,000~30,000円。

大島力也さん(写真左)
オイスターバー「ジャックポット」など首都圏に30店舗を展開し、数々のヒット業を生み出す人気飲食企業「株式会社ジャックポットプランニング」営業本部部長。客単価は5,000円前後。

<モデレーター(進行担当)>
伊藤秋廣さん(写真後列)
フリーインタビュアー、フリーライター

ジャンルや客単価の違う各店の「無断キャンセル」の現状について

白いシャツ姿の石井さんがマイクをもって話している様子の写真

「Sincére(シンシア)」オーナーシェフ、石井真介さん

トークセッションは、各店の無断キャンセルの現状を共有することから始まりました。

伊藤さん:無断キャンセルについて、現場の生の声を聴いていきたいと思っているのですが、まず、石井さんのお店のように、人気があって予約を取るのが非常に困難な店でも予約当日の無断キャンセルというのは起こるのですか?

石井さん:ありますね。2カ月前から予約して来てくださっている方もいる中で、例えば4名テーブルがぽっかり空いてしまうと(予約が取りにくい店なのになぜ空席があるのかと)お店全体が変な雰囲気になります。金銭的にも痛手ですが、無断キャンセルで嫌なのは、席が埋まっていないことでお店の雰囲気がおかしくなってしまうことです。

秦野さん:うちは、1週間に1回程度の無断キャンセルがあります。石井さんが言われたように、空席があると店の空気がおかしくなりますね。全席一斉スタートがうちのやり方なんですが、無断キャンセルで席がまばらにしか埋まっていないと、うまくいかない部分があります。先月は貸し切りのキャンセルもありました。食材の原価を考えると、鮨店の当日キャンセルっていうのは厳しいものがあります。

塩治さん:我々のようなホテルならではの問題としては、外国人旅行客のキャンセルがあります。来日前にメールで予約していただいて、何度かやり取りをしていたのに当日いらっしゃらない。それから、団体のお客様ですね。個室を予約した10名、15名がいらっしゃらないとなると、食材もそうですが、スタッフの準備も無駄になります。当ホテルには12のレストランがありますが、団体のお客様のキャンセルが1日に2件3件と重なると、それはもう大打撃ですね。

大島さん:弊社は都内で36店舗展開していますが、大箱が多く、忘年会・新年会、歓送迎会の時期に無断キャンセルが発生しやすい傾向があります。昨年の年末は、70名貸し切りの無断キャンセルがありました。予約日の3日前くらいまで連絡を取り合っていたのですが、当日になって急に連絡が取れなくなって。そのお客様は店舗を実際見に来て決めてくださっていたので信用していました。防ぎようがなかったですね。

伊藤さん:切ないですね。信じていたお客様が来店されないというのは。

各店とも無断キャンセルによって金銭的・精神的に大きなダメージを経験していることがわかります。続いて、抑止力としてのキャンセルポリシー、キャンセル料の請求をテーマに話は進みます。

キャンセル料請求の是非

伊藤さん:皆さん、無断キャンセルに対策を講じていると思いますけれど、キャンセルポリシーはどのように設定されていますか?

石井さん:キャンセルポリシーは非常に難しい問題だと思っています。キャンセル料は前日50%、当日100%で設定していますが、たとえば4名の予約で、やむを得ない事情があってそのうちの1名が来られなくなったという場合など、状況によってはキャンセル料をいただかないこともあります。

伊藤さん:事務的にはいかないということですね。

石井さん:そうですね。今年初めから「テーブルソリューション」の「キャンセルプロテクション」(オンラインクレジット決済機能)を導入して、ネット予約時にお預かりしたカード情報を使ってキャンセル料を請求できるようになったのですが、導入には勇気が必要でした。僕たちはお客様を敵に回すつもりはないし、むしろ歩み寄っていきたい。カード情報を入力するという行為が〝抑止力〟として機能してくれたらいいなと考えています。

秦野さん:うちもキャンセル料は前日は50%、当日は100%です。予約サイトを通じてのご予約については必ず適用しています。基本的には、キャンセル料をいただかないとやっていけないと、僕は思っています。予約をいただいた時からいろいろイメージをして、その日のために食材を寝かせたりして準備していますから、それが無駄になってしまうということはお料理代金よりもまず気持ち的にきついんです。

大島さん:弊社はキャンセル料何%というのは決めていません。ざっくりとしたルールで、キャンセルは3日前まで、人数変更は前日まで、と全店で統一はしているものの、実際のところはお客様ごとにいろいろと事情も違いますので最終的な判断は各店舗のスタッフに任せています。

伊藤さん:ホテルは、宿泊の方はキャンセルポリシーがきっちり明確になっていますよね。

スーツ姿の塩屋さんがマイクを持っている写真

「ANAインターコンチネンタルホテル東京」料飲サービスマネージャー、塩冶さん

塩治さん:そうですね。レストランについては、キャンセルポリシーはあるのですが実際キャンセル料をいただくかというと、ほぼいただかないのが現状です。

伊藤さん:それは、いただかなくても大丈夫ということですか?

塩治さん:実はオペレーションサイドからすると、現状ではキャンセル料を請求するというのはかなりの手間なのです。キャンセル料をいただくためにメールを送る、返信が来なくてまたメールする、最終的にカード情報が送られてきて……と。そのやり取りのコストが発生してしまいます。それであれば、次のゲストのことを考えた方がいいという発想になっていました。

伊藤さん:そうなると、キャンセルポリシーは無断キャンセルの抑止力にならないわけですね。

塩治さん:今後は改善が必要だと思います。シェフを招いた特別なイベントなど絶対にはずせないものについては、石井さんからお話があったようなカード決済システムも検討していこうと動いている最中です。予約時の事前決済は間違いなく、抑止力になるはずです。ただ、事前決済導入に関してはレストランのタイプだとかキャパシティを考慮することが非常に重要だと思います。

キャンセル料のルールを決めても、お客様との関係性への配慮や、請求のためのコストなどを考えると、実際には請求できないという状況があるようです。事前カード決済やカード情報の登録でキャンセル料請求をシステム化することは1つの打開策といえます。
では、カード決済導入に踏み切れないお店はどんな対策をすればいいのでしょうか。各店の工夫が語られます。

具体的な無断キャンセル対策―どうすれば減らせるか?

伊藤さん:では、キャンセルポリシー以外に無断キャンセル対策として皆さんが独自にやられていることはありますか?

秦野さん:電話ですね。ネット予約であっても、電話で確認をします。もしキャンセルするようであれば事前に知らせてほしいと、やんわり伝えることもあります。

黒いシャツ江沖田大島さんがマイクを持っている写真

「株式会社ジャックポットプランニング」営業本部長、大島さん

大島さん:私どもも、予約日1週間前に電話します。それから40~60人といった大人数の予約の場合は幹事さんから名刺をいただくようにして、いざというときは問い合わせられるようにします。

塩治さん:今、メールは1日に何十通、多い人だと100通くらい受信しますよね。その中にレストランの予約確認メールが来ていても見落としてしまう。ですから電話で、直にお話して確認しています。……リコンファームのメールをする場合、一番響く、効果的なメールのタイミングっていつなんでしょうかね?

秦野さん:……夜ですね。

伊藤さん:夜!

秦野さん:僕は「夜分遅くにすみません」と言って夜に電話をすることも、夜にショートメールをすることもあります。日中、僕たちの手が空く3時4時に電話しても、お客様は仕事中ですから逆に迷惑。僕だったら夜に「明日お待ちしています」と連絡があった方が嬉しい。

石井さん:かつていた「バカール」では、サービス担当者が朝から晩までリコンファームの電話をかけていました。ただ、やっぱりそれはすごい労力。掃除も仕込みもしなきゃいけない中で、さまざまな注意事項をお伝えしなければならない電話はストレスもたまりますし、大変な仕事です。電話は確かに一番効果的だとは思いますが、この人手不足の中で本当にこのままでいいのだろうか。予約時のカード決済が暗黙のルールとして当たり前に受け入れられることが必要なんじゃないかと思っています。

無断キャンセルを回避するための一番の方法は電話確認だと、皆さんが口をそろえて指摘しています。しかし、予約のお客様に電話をかけるには時間も労力も必要で、スタッフの負担になっているようです。

飲食業界全体の意識改革が鍵

石井さん:僕が事前決済を導入したことにはきっかけがあります。あるリゾート施設を電話で予約した時、当然のようにカード番号を聞かれてその場で決済になったのです。夢みたいに楽しいリゾート施設でも事前決済が行われているのだとわかって認識が変わりました。海外のレストランでもカード決済は当たり前。日本で今後、どの飲食店も事前決済を取り入れるようになって、キャンセルしたらキャンセル料を支払うことが常識となったら、お店も腹立たないし、お客様との関係も悪くならないし、お店もお客様も平和でいいのかなと思います。

白いシャツ姿の石井さんがマイクをもって話している様子の写真

「Sincére(シンシア)」石井さん(左)と、モデレーターを務めた伊藤さん(右)

伊藤さん:まず業界の方の意識が変わることで、利用者の意識も変わる、ということですね。

塩治さん:すでに、ネットで買い物したり飛行機のチケットをとったりする時に、カードの情報を入力することはほぼ当たり前の世の中です。我々レストラン業界はなぜそこに入っていないんだろうと、そこに疑問を持たなきゃいけないのかなと思います。

大島さん:消費税だってネット予約だって、最初は違和感ありましたが、今は普通のこと。業界全体で取り組めば、カード決済やキャンセル料の支払いはお客様にも浸透すると思います。オリンピックもありますし、ここ2、3年でぐっと進んでいくんじゃないかなと。

割烹着をきた秦野さんがマイクを持っている写真

「鮓職人 秦野よしき」大将、秦野さん

秦野さん:ちょっと僕も混乱していますが、「カード決済」と一言で言っても、予約時にカード情報を入力する〝与信押さえ〟(与信情報の把握)と、決済まで行う〝事前決済〟は別物です。まずは飲食店の予約にもカード情報が必要なんだという感覚が日本で根付いくことが大事だと思います。僕の店は1日2回転。2回公演の劇場だと思って料理しています。映画や舞台と同じです。映画のチケットを買ったら原則的に払い戻しはできない。食文化っていうものを、そういう文化・芸術と同等のものにしていくことこそ、大事なんじゃないかと思います。

他ジャンルでは当たり前になっているカード情報の事前入力や事前決済、キャンセル料の支払いが飲食業界でも広まっていけば、無断キャンセルは減っていくかもしれません。このトークセッションで、まずは飲食業界全体が意識を変えていくことが大事だということがわかりました。

データで見る無断キャンセル

このイベントの翌日、主催者である株式会社TableCheckから、無断キャンセルに関する消費者意識調査(調査対象:20代~50代の男女906名)の結果が発表されました。さまざまな調査結果の中から、今回のトークセッションの内容に関連する2つのデータをご紹介します。

■無断キャンセルの理由トップ3

質問:無断キャンセルをした理由に該当するものを全てお選びください(複数回答可)

※無断キャンセルを1回以上経験したことのある回答者128名に質問(必須回答)

飲食店の無断キャンセルの理由を表したグラフ

飲食店の無断キャンセルの理由トップ3は
「複数飲食店をとりあえず予約した」(39.8%)
「予約したことをうっかり忘れていた」(35.2%)
「人気店だからとりあえず予約を入れて確保した」(34.4%)
という3項目。

この結果について株式会社TableCheckは、「『とりあえず』予約を取る消費者が一定数おり、実際に来店するほどの強い動機がなくても予約が取れることへの課題感も浮き彫りになった」と分析しています。

トークセッションの中で、株式会社ジャックポットプランニングの大島さんは、「今、アルバイトの面接もドタキャンが多いです。今の子はモバイルから複数の求人に応募して一気に面接の申し込みを入れる。推測ですが、それと同じことが飲食店の予約にも起きていると思います。幹事になると、2軒3軒同時におさえてしまう。キャンセルが増えている背景の1つだと思います」と発言していました。

■キャンセル料を支払うことへの意識(サービス別)

質問:予約をキャンセルした際にキャンセル料を支払うことに関して、該当する回答を選択肢からお選びください(シングルアンサー)

約をキャンセルした際にキャンセル料を支払うことへの意識を表したグラフ

飲食店(予算1万円以上のレストラン、カジュアル店舗、居酒屋を含む)の予約をキャンセルした際にキャンセル料を支払うことを妥当だと思っている消費者は、全体の53.9%と過半数以上に上りました。

この結果について株式会社TableCheckは「飲食店にキャンセル料を支払うことへの義務感は、新幹線予約のキャンセル料を支払う義務感と同等の水準になっており、飲食店におけるキャンセル料の請求が一般化してきている表れである」と分析しています。

トークセッションでは、他のジャンルと同等に飲食業界でもキャンセル料の支払いやカード情報の事前入力、事前決済が当たり前になるように意識を変えていきたいとの話がありました。この調査結果を見ると、利用者側の考え方は既に変わってきていると言えるかもしれません。

<アンケート結果出典>
株式会社TableCheck「飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査」結果詳細

無断キャンセルがなくなれば、店にとってもお客様にとってもメリットがある

トークセッションを終えて、株式会社TableCheck代表取締役CEO谷口優さんは「無断キャンセルで出た金銭的な損失は結局、料理の値段に反映されるか、お店が一方的に被害をこうむるしかありません。さらに人気店の予約をドタキャンしたら、本当にその店に行きたいと思っていた人の機会を奪うことにもなる。マナーの悪い人の行動によって、マナーのいい人が被害を被るのは不公平です」と語ってくれました。

無断キャンセルがなくなることは、店にとってもお客様にとってもメリットがあります。予約や支払いのシステムが整い、飲食店の無断キャンセルは非常識なことだという意識が広まって、状況が改善していくことが望まれます。

■取材協力

企業名 株式会社TableCheck