「宮島ラーメンスクール」で講師を務めるのは、ラーメン店経営を経て現在はラーメンプロデューサーとして活躍している宮島 力彩(みやじま りきさい)さん。スクールは、完全マンツーマン体制をベースに、受講者の希望や予算に応じカリキュラムを組むスタイルを採用し、1日(5万円)~4日(20万円)までのスモールコースのほか、最速育成コース5日間(25万円)があります。
最速育成コースでは、ラーメン・つけ麺作りと店舗経営の基礎知識の修得と、オリジナルラーメン作りの指導、開業や経営のノウハウまで伝授してもらうことができるという。また、養成コース7日間(30万円~)では、自分が出したい味のラーメンレシピを宮島さんが考案してくれるほか、ラーメン店経営のために必要な知識が実践的に学べる。

日本らしい観光体験プログラムとして、外国人旅行者の間で話題に

密着取材に訪れた3月某日。この日、「宮島ラーメンスクール」で1日間のラーメン作り体験コースを受けるのは、ニューヨーク在住のJoel Cidenzi(ジョエル シディンツィ)さん。Joelさんは3週間の休暇中にインド、ネパール、タイを巡り日本に訪れ、たまたまGoogle検索で見つけた「宮島ラーメンスクール」に興味を持ち、1日体験コースを申し込んだのだそう。

宮島ラーメンスクールの外観

日本のラーメンについて座学でレクチャー

まず始めに、日本の代表的なラーメンのスープについてレクチャーがスタート。そして本日作る「豚骨スープ」「醤油タレ」「麺」そして、トッピングの「鶏チャーシュー」「煮卵」についての説明がなされる。
ちなみに、全コースにおいて宮島さんはすべて日本語で講義を進めるので、外国人が受講する場合は必ず通訳者が入るシステムになっている。

宮島ラーメンスクールで授業(座学)をしている様子

通訳のPineda Oscar(ピネダ オスカル)さんは、英語のほかスペイン語、ポルトガル語に対応できる。日本ならではの文化や食材についても、解りやすく丁寧に説明しているのが印象的だった。

10キロの拳骨を砕き圧力鍋で煮出すスープ作りがスタート

座学の後は厨房に入り、最も時間のかかるスープ作りから取り掛かる。10キロの通称「ゲンコツ(拳骨)」と呼ばれる豚の大腿骨をひとつひとつハンマーで割り、濃厚な旨味が出るよう下ごしらえをする。じゃがいも・鶏肉・水を入れ圧力鍋で2時間煮出す。なかなかダイナミックな作業だが、ニューヨークのレストランで働いているというJoelさんは、慣れた手つきで次々と作業をこなしていた。

ラーメンスープの素となる豚の大腿骨の説明をしているところ

どうすれば骨が割れやすいか、手に持つ位置や割り方まで詳しく説明。時折、宮島さんが織り交ぜるジョークも、Pinedaさんはすべて丁寧に訳し、終始和やかな雰囲気。

スープ用の水を寸胴鍋の中に注いでいるところ

スープやタレ作りにおいて、水や調味料の計量は、目盛りできっちり計り分量を守ることが何より大切と語る宮島さん。ボトルの底にほんの少し残った醤油も「これを、日本では“もったいない”と言います」と説明し、一滴残らず使い切ることを伝える。

煮出している間にタレと鶏のチャーシュー、煮卵作り

スープを煮出す間に味の決め手となるタレと、トッピングの鶏のチャーシュー、煮卵作りがレクチャーされる。タレには、昆布、椎茸、煮干しが使われ、味付けは塩と醤油のみ。「宮島ラーメンスクール」で使われる素材は、すべて自然素材。

ラーメンスープの味を確かめ、メモをとっている生徒さん

素材の味を確かめながら、味覚で記憶するJoelさん。「アメリカ人にとって、魚介で取った濃い旨味は馴染みが少ないかもしれないが、タイで生活していたことがあるので僕は美味しいと感じます」と話す。

煮卵用の茹で卵をきれいに剥くための便利グッズを紹介する宮島さん

煮卵の仕込みとして、ゆで卵の殻割れ防止に便利な卵の殻に穴を空ける100均グッズを紹介する宮島さん。「ひとつひとつの仕事が丁寧なこと、見た目の美しさにもこだわるところが日本らしい」とJoelさん。

場所を移して粉を計量しながら麺作り

「宮島ラーメンスクール」の2階にある製麺室に場所を変え、小麦粉、塩、かんすい、水を計量しミキサー機にかけて混ぜ合わせる。その後、製麺機で生地を2㎜ほどの厚さに伸ばしカット。美しく切り揃えられて次々と姿を現す麺にJoelさんは「Oh!Cool!」と感激の様子。

製麺機から出てきた麺を束ねているところ

麺をすくってトレイに移すJoelさん。海外で開業を希望する場合、製麺から行う必要があるので、「宮島ラーメンスクール」ではミキサー機や製麺機の紹介も行っているのだそう。

全ての具材が出来上がり、ついにラーメンが完成!

温められたラーメン鉢にスープとタレを注ぎ、湯がいた麺とトッピングの鶏チャーシュー、煮卵をセットし、ついにラーメンが完成。1日の体験コースは約3時間の工程でラーメン作りの一連を学ぶことができる。宮島さん曰く、タレやトッピングの具材は一晩以上寝かせたほうがより旨味が浸透するが、スープはできたてが一番美味しいという。

完成したラーメンを手に持ったジョエルさん

完成したラーメンを手に笑顔のJoelさん。この後の試食では「とても美味しい!」と特にスープの味を何度も確かめ、ラー油の辛味をプラスするなど味の変化も確認。

完成したラーメンを上から撮影したところ

ゆで卵は水でしっかり冷ましておけば殻を剥きやすく、糸で切ると断面が美しいなど、プチノウハウもしっかり伝授。Joelさんに出来上がった感想を聞いてみると、「ラーメンがこんなに手間暇かけて作られているとはビックリした」とのこと。

サプライズで「ラーメン職人認定」の表彰状で記念撮影

すべての工程を終えた後、Joelさんにサプライズで表彰状を授与する宮島さん。現在、「宮島ラーメンスクール」で学ぶ人の割合は外国人が8割を占め、北米や中国、韓国からの受講者が多いという。開業を本気で目指す人は2日~5日ほどのコースを受け、経営のノウハウなども学ぶ。受講者の中には自国に戻りラーメン店を開業し、大繁盛店を経営する人も少なくない。

宮島ラーメンスクールの宮島校長と生徒として来日したジョエルさんとのツーショット

表彰状を授与し、受講者とは必ず記念撮影するという宮島さん。「将来はニューヨークでタイの風味を加えたラーメン店を開きたいと思っている。今日はとても勉強になった」とJoelさん。

プログラムを終え、宮島さんにインタビュー

もともと経営コンサルタントとして働いていた宮島さん。1995年の阪神淡路大震災を経て脱サラし、同年暮れに自らラーメン店を出店し地域の大繁盛店として忙しい毎日を送っていたという。
2001年に、経営コンサルタントの経験を活かし、ラーメン専門店のアドバイス業「ラーメン虎の穴プロジェクト」を始動させる。
この活動より、マスコミにも紹介され「ラーメンプロデューサー」として、ラーメンのレシピ開発や技術教育、経営ノウハウなど主にラーメン店を開業したい人たち向けに、マンツーマンのレッスンを行う現在の形となった。

宮島さんの著書

──このスクールを作ろうと思ったのはなぜですか?
宮島さん:コンサルタントとしてこれまで多くのラーメン店の開業や再建に携わってきましたが、「憧れのあの店みたいなラーメン屋さんがしたい」「ラーメン屋は儲かる」など、あまりにも安易な理由でラーメン屋を初めてしまった結果、さまざまな弊害を招くケースを多数目の当たりにしてきました。それを未然に防ぐためには、ラーメンの技術と経営のノウハウまでトータルで学べるスクールが必要だと思ったことがきっかけです。

──ラーメン店を営む上で重要なことは、なんだと思いますか?
宮島さん:ラーメン店を開業したい人の多くは、イメージするどこかの店の味があり、その味をどうすれば出せるのかに終始してしまいがちです。仮にイメージ通りの味が出せたとしても、ラーメン店の経営で成功の鍵を握っているのはエリアマーケティングや自己資金力、人材マネジメントなどいわゆる経営感覚をいかに持ち合わせているかどうかです。

──マンツーマンでしかレッスンしない理由は何でしょうか?
宮島さん:受講される方の希望に応じたコースアレンジをすることが主な理由です。特に開業を目指す方が100人いれば100通りのノウハウがあるので、複数人が合同で受けるグループレッスンは向いていないのです。また海外からお越しの方の場合は、言葉の問題もあるので家族や共同経営を考える仲間同士以外はすべてマンツーマンで行います。

製麺機で麺をつくっている宮島さんと横で見ている生徒

──何言語くらいに対応が可能なのでしょうか?
宮島さん:現在、10名ほどの通訳が在籍しているので、だいたいの言葉は対応できます。
日本に長く暮らし、日本の文化にも精通しているので、私の突然のジョークもしっかり訳してくれる人たちばかりです。

──「宮島ラーメンスクール」の将来の展望は?
宮島さん:海外にも姉妹校を持ち、現地でラーメン作りの指導ができるように少しずつ準備を進めています。今日通訳を務めてくれたPinedaもそうですが、通訳しながらアシスタントとしてサポートに入れる人をもっと増やしていくことに力を注ぎながら、近い将来海外にも拠点を構えたいと思っています。

まとめ

約3時間に及ぶラーメン作りのレッスンを見学し、とても印象的だったのが作る技術と同時に「なぜそうするのか」「なぜそれが必要なのか」をすべての工程で説明を入れ、味に対する緻密さや、日本が世界に誇れるおもてなしの心を伝える宮島さんの姿だった。
これまで1000名以上のラーメン店の開業を目指す人々を指導し、現在も受講予約でいっぱいの「宮島ラーメンスクール」。宮島さんは、ここで技術や経営を学んだ生徒たちが日本のラーメンを自国に持ち帰り、また新たなスタイルのラーメンが日本に入ってくることを楽しみにしているという。

■取材協力

企業名 宮島ラーメンスクール