2017年12月2、3日の2日間、「第12回全国学校給食甲子園®」の決勝大会が、東京の女子栄養大学(駒込キャンパス)で開催されました。これは、実際にこどもたちが食べている学校給食の中から日本一を決める大会です。
大会ルールには、実際に学校給食として提供したことのある献立でなければならないこと(複数日分の単品を組み合わせた献立は不可)、文部科学省学校給食摂取基準に基づいていることなどが定められています。また、大会名に「地場産物を活かした我が校の自慢料理」というサブタイトルがついているように、応募する給食の献立は地場産物を使用し、その特色を活かしたものでなくてはなりません。つまり、学校給食の献立内容、調理技術、衛生管理、チームワークなど、トータルで評価される大会なのです。
決勝大会には、第4次審査までで選ばれた全国6ブロックの代表12校・施設が参加。応募献立をその場で作り、食味審査が行われます。また、今回初めての試みとして、審査委員をこどもたちに見立てて食育授業を行う「応募献立食育コンテスト」も実施されました。
今年は全国から2025校の応募があり、学校給食現場からの意気込みを感じることができました。
決勝スタート!制限時間1時間で6食分の給食を調理
「こどもたちのおいしい笑顔のためにベストを尽くすことを誓います」という選手宣誓で大会の火ぶたが切られ、熱い戦いがはじまりました。制限時間は1時間。各出場校・施設から栄養教論(または学校栄養職員)と調理員の計2名が協力して給食6食分を作りあげ、片付けまで終わらせなくてはなりません。
調理中の熱気溢れる様子を見せしましょう。
手洗い方法の審査チェックのあと、決勝の調理開始の合図を待つ選手たち。意気込みと緊張が交じり合ったような空気が場を包みます。
「調理開始!」の号令とともに、各校の選手たちはいっせいに調理に取りかかり、水の流れる音や、野菜を刻む音が響きます。普段は100食単位の学校給食を大きな機器を使いながら調理しているプロたちも、この日は通常の家庭用サイズの道具で調理していきます。
『読売KODOMO新聞』から2名の読者レポーターがこども特別審査委員として参加。白衣と帽子姿で審査表のバインダーを持ち、各チームの調理を真剣にチェックしていました。
食材が中までしっかり加熱されているかを機器で計測確認し、食材ごとに手袋を取り替え、手を洗うたびに消毒スプレーを吹きつけるなど、衛生管理が徹底しています。これも審査の対象のひとつです。
用途別に色が異なるエプロンは3色。青は洗いもののとき、赤は肉・魚・卵を扱うとき、白は調理をするとき。選手たちは、調理作業が変わるとそのつどエプロンを付け替えます。
「残り時間30分です」「15分です」というアナウンスが入り、一気に緊張感が高まります。こはんが炊きあがり、次第に揚げもの、炒めものなどの調理工程へと移行。各調理台からは、おいしそうなにおいが漂ってきます。
マスコミは選手たちには近づけません。全国ネット、衛生放送、地方局のほか、台湾からの視察団も取材来日していました。選手の応援団がかけつけて、手作りうちわで熱く応援する姿も。
選手は本番までに予行練習を幾度もくり返し、作業分担・工程表を用意しているので動きに無駄がなく、調理を淡々とこなしていきます。6食分の皿は各学校・施設が自ら持参したもの。制限時間を意識しながら着々と盛り付け、同時進行で片付けも進めていきます。
「調理やめ!」の合図とともに、戦いは終了。安堵の表情を見せる選手たち。制限時間前に余裕をもって終えているチームや、時間ぎりぎりいっぱいまで作業に追われるチームまでさまざまでした。
甲乙つけがたい!審査委員一同がうなった食味審査
完成した給食は、こども特別審査委員2名を含む、計16名が「食味審査」をします。決勝に残った全12校・施設の給食が審査会場に並べられ、仕上がりと味がチェックされました。
主菜・副菜・デザートと献立のバランスも考えられた彩りのよい給食を前に、「一生懸命作ってくれたのだから全校のを食べなくちゃ」「実際にこんなに工夫された献立を食べられるこどもたちはきっと給食が好きでしょうね!」と、審査委員たちからも審査への意気込みが感じられます。
おいしそうに試食をしていた審査委員たちに話を聞きました。
「今年は地場産物をアピールした献立が多い傾向にありました。とくに野菜をたくさん使っていたのが印象的でしたね。生産者さんの思いまでも伝わるような気がしました」(審査委員長・東京国立博物館長 銭谷眞美さん)
「1996年にO157による集団食中毒が発生して、学校給食がさみしくなり、どうすればいいかわからない時期がありました。それからこの20余年でずいぶん華やかになり、味も質もレベルアップしましたね。非常にうれしく、すばらしいことだと思います」(審査委員・東京医科大学微生物学分野兼任教授 甲斐明美さん)
「地域のものが盛りだくさんで、おいしく食べてほしいという愛情がひしひしと伝わってきます。色もカラフルですし、苦手な食材はこどもたちの好きな味つけにするなど、工夫がされているなと感じました。兵庫県の給食にはもち麦麺を使っていましたが、これは麺を切りそろえるときに出る切れ端だそうですね。フードロス問題の解決にもつながって非常にいいなと思いました」(審査委員・農林水産省食料産業局食文化・市場開拓課長 西経子さん)
「嫌いな大根があったけど、おいしく作ってくれていたから食べられました」(こども特別審査委員)
いよいよ「日本一の給食」が決定!受賞者は……
「第12回全国学校給食甲子園®」では、優勝と準優勝以外にも、味のバランスがよい、地場産物をうまく使っているといったさまざまな角度から見た優秀賞が4校に、特別賞が3校に授与されます。また、もっとも優秀な食育授業をした栄養教諭1名に授与される、応募献立食育部門賞も今回初めて設けられました。
審査結果の発表時間が近づくと、会場は人で埋め尽くされ、熱気を帯びてきました。選手たちが入場し、審査委員長の講評に続き、いよいよ審査結果の発表です。
まずは、決勝に出場した12校・施設すべてに入賞が授与されます。
続いて優秀賞、特別賞が発表。
呼ばれた学校・施設の選手は喜びいっぱいで壇上し、中には涙ぐむ選手も。審査委員から賞状とトロフィー、メダル、記念品が授与されました(全受賞一覧は、記事末尾を参照ください)。
各賞の授与が終わると、いよいよ残すは準優勝と優勝のみとなり、会場にも緊張が走りました。
準優勝と優勝は写真・コメントとともにご紹介します。
◎準優勝
奈良県宇陀市立学校給食センター
(学校栄養職員・辰己明子さん、調理員・宇良章子さん)
<準優勝校の献立>
宇陀の黒豆ごはん、大和肉鶏のグリル 宇陀産自家製ブルーベリーソース、大和まなのかみかみ酢の物 ゆずの香り、かぶの雪見汁、黒豆を使ったずんだもち風あんもち、牛乳。
地産地消を積極的に推進する宇陀らしい、地域食材がふんだんに使われた献立です。
名前が呼ばれたときは、ふたりとも「やったー!」という気持ちでいっぱいだったそう。
「食材を届けてくれる農家のみなさん、市民のみなさんのおかげです。こどもたちが『がんばって!』と送り出してくれたので、喜んでくれると思います。」(辰己さん)
「給食センターのみんなといっしょに勝ち取った賞です」(宇良さん)
実は、調理員の宇良さんは、第8回と11回にも参加し、入賞、特別賞を経ての今回の準優勝でした。来年には定年を迎えるため、チャンスはあと1回。「もちろん来年もトライします。目指すのは優勝です!」と意気込んでいました。
準優勝校の給食は、食味審査でも大変よい評価を受けていました。
「地鶏にブルーベリーソースを合わせるなんて、もはやフランス料理ですね。味も非常にレベルが高かった」と審査委員の中野博さん(元ハイランドリゾートホテル&スパ名誉総料理長)が大絶賛するほどの味だったようです。
◎優勝
2025校・施設の頂点に輝いたのは、
埼玉県越生町立越生小学校
(栄養教諭・小林洋介さん、調理員・三好景一さん)
唯一の男性ペアでしたが、栄養教諭、調理員ともに男性のペアで出場し、優勝したのは史上初めてとのこと。
<優勝校の献立>
山吹の花ごはん、越生うめりんつくね、五大尊つつじあえ、上谷の大クス汁、ゆずの里ゼリー、牛乳。
地場産物の米や野菜、特産品の梅やゆずを使うだけなく、観光名所の山吹を表現したごはんや、つつじをイメージさせるあえものなど、食欲をそそる楽しいひと工夫が光る献立です。
応援に来ていた同僚調理員の方々も輪に加わって、喜びを分かち合っている姿が印象的。小林さんの熱い思いにまわりが刺激されて食の意識が高まり、いい関係を築いていることが、見てとれる一場面でした。
「地元の特産物を活かしたことが評価されたのだと思います。食育は、保護者が関心をもてば、こどもたちも自然と興味を抱くので、保護者も巻き込むようにしています。この優勝によって町の食の意識が高まると思うので、町全体の食育を盛り上げていくのが今後の目標です」(小林さん)
「小林先生の、こどもたちと越生町への愛の大きさでいただいた賞です。先生は給食のことだけでなく町の発展まで考えていて、いつも刺激をもらっています。実は、同い年で同じ血液型。会ったときから、うまくやれると思っていました(笑)。明日からもがんばります!」(三好さん)
「第12回全国学校給食甲子園®」全受賞者紹介
決勝に出場した12校・施設の計24名から各賞が選出されています。各賞の受賞者は次の通りです。
- 応募献立食育部門賞(食育コンテストでもっとも優秀な食育授業)
福井県春江坂井学校給食センター(坂井市立東十郷小学校)
栄養教諭・越桐由紀子さん - 21世紀構想研究会特別賞
群馬県川場村学校給食センタ-
学校栄養職員・阿部春香さん、調理員・桑原敦志さん - 女子栄養大学特別賞
岡山県新見市立新見学校給食センター
栄養教諭・西村香苗さん、調理員・徳永日登美さん - こども審査員特別賞(こどもたちがもっとも食べたい給食)
佐賀県神埼市学校給食共同調理場
栄養教諭・阿部香理さん、調理員・岡健一さん - 優秀賞(藤江賞=とくに優れた調理技術を発揮)
愛媛県西条市立神拝小学校
栄養教諭・武方美由紀さん、調理員・川名良子さん - 優秀賞(船昌賞=とくに地場産物をうまく活用)
新潟県新潟市立女池小学校
栄養教諭・金永雅美さん、調理員・石塚恵海さん - 優秀賞(三井製糖賞=とくに味のバランスに優れていた)
福島県立相馬支援学校
学校栄養職員・服部恵未子さん、調理員・横山千秋さん - 優秀賞(武蔵エンジニアリング賞=とくに有効に調理器具を活用)
兵庫県芦屋市立精道小学校
栄養教諭・奥瑞恵さん、調理員・浦口正義さん - 準優勝(家族の笑顔 株式会社日本一賞)
奈良県宇陀市立学校給食センター
学校栄養職員・辰己明子さん、調理員・宇良章子さん - 優勝(久原本家グループ本社賞)
埼玉県越生町立越生小学校チーム
栄養教諭・小林洋介さん、調理員・三好景一さん
まとめ
学校給食への意欲ある取り組みと、創意工夫が見られる献立がそろった第12回大会でした。きっと、この大会が現場の栄養教諭や調理員の士気を上げ、ひいては学校や保護者の食育への関心も高めるきっかけになっているのでしょう。また、12回を通してみても、年を追うごとに学校給食の献立内容が進化しており、この大会が現場の技術レベルを押し上げる一助となっているとも言えるのではないでしょうか。海外からも注目される日本の学校給食と「全国学校給食甲子園®」から今後も目が離せません。
取材協力
企業名 | 「全国学校給食甲子園®」 |
主催 | 特定非営利活動法人21世紀構想研究会 |