ピザのような料理の写真

2018年10月21日〜29日、ユダヤ系とアラブ系、二人のイスラエル人女性シェフが来日し、さまざまなコラボレーションイベントが行われました。
東日本大震災直後の放射能による土壌汚染が懸念された南相馬市の農家を訪問し、イスラエルの水耕栽培システムを寄贈、その技術で生産された農作物を使って、JAのフェスティバルで料理を振る舞うなど、交流イベントを開催。
またコーシャ(コシェル)認証により、世界展開が期待される新潟・魚沼の日本酒「八海山」を醸造する蔵をシェフ達が訪ね、日本酒の伝統文化を学び、同社の発酵商品を使用したワークショップを体験するなど、ユニークな試みが行われました。
その後、イスラエル大使公邸で開催されたプレスランチにて、中東料理と日本酒のペアリングを体験してきましたので、その様子をレポートいたします。

来日した二人のイスラエル人女性シェフ

二人のイスラエル人女性シェフが来日し、一部日本でのインスピレーションも取り入れた自国の料理を振る舞いました。長い歴史の中で複雑な文化を織り成すイスラエルですが、配られたプレス資料の最初に掲げられたシェフ達の言葉には、自国への思いが込められ、印象的でした。

食には、私たちの国に変化をもたらす力があると信じています。アラブ人とユダヤ人の間を料理が取り持つことは、対話を始めるのに最も安全で簡単な方法です。私たちの活動が、 実際に人々に変化をもたらしていると感じます」ノフ・アタムナ=イスマール、ヒラ・アルパート

以下、シェフの紹介です。

ノフ・アタムナ=イスマイールさんのワンショット

ノフ・アタムナ=イスマイール(Nof Atamna-Ismaeel)

イスラエル版「マスターシェフ」(※天才料理人たちがバトルを繰り広げるイギリス発リアリティー番組のイスラエル版)のシーズン4(2014 年)の優勝者。3人の子供の母親。アラブの町バカ・エルガルヒビーヤで生まれ、近郊の町ハデラにあるユダヤ人の高校で学ぶ。高校を卒業後テルアビブへ移り、テルアビブ大学で生物学の学士を修めたのち、微生物学とバイオテクノロジーの修士課程を修了。博士号はテクニオン・イスラエル工科大学より海洋微生物学で取得。以来、オラニム・カレッジ、 テクニオン大、そしてヘブライ大で3つのボスドクを修めた。企業向けのレシピ本執筆やウェブサイトへの投稿、料理アドバイザー、アラブ料理フェスティバル(A-Sham)のアーティスティックマネージャー、イスラエルのシェフ養成校での指導、アラブ料理についてのレクチャー、 ケータリングサービスを提供するほか、料理プロジェクトを通して和平へ貢献すべく、ぺレス・平和イノべーションセンター(PERES CENTER FOR PEACE AND INNOVATION)の理事を務めている。

「日本の美的感覚、プレゼンテーションはこんなに美しいものなのかと驚かされました。一方、日本の伝統はアラブとマインドが近い部分もあり、親近感を抱いています」(当日のトークショーでの言葉)

ヒラ・アルパートさんのアップ

ヒラ・アルパート (Hilla Alpert)

イスラエルの料理界で最も知名度の高い人物の一人。エルサレム近郊のキブツで生まれ育ったアルパートは、東欧料理の影響色濃いキブツのダイニングルーム、近隣のアラブの村の地中海料理、父方のアメリカ料理、母方のモロッコ料理と、様々な料理の伝統からの影響を受けて育つ。シェフであり、フードジャーナリストであり、講師であり、料理本の著者であり、そして女優もこなすアルパートは、料理の素材とその歴史への純粋な好奇心から 食へアプローチする。彼女の料理には、幼少期に親しんだ料理から受けたインスピレーションと、そのキャリアを通じ学んだ様々な料理の伝統が取り込まれている。多様な文化が交錯するイスラエルの織りなす物語を、食を通じて語るかのように。

「良いシェフは良い食材を生かせると信じています。日本にはそんな素晴らしいシェフがたくさんいると感じました」(当日のトークショーでの言葉)

さらに、スペシャルゲストとして、「THE BURN」の米澤文雄シェフが二人のシェフと共に国内を行動して文化交流し、今回の料理のコラボレーションを行いました。

米澤シェフのバストアップ

米澤 文雄

「THE BURN」エグゼクティブ・シェフ。高校卒業後、恵比寿のイタリアンレストランで4年間修業。2002年に単身でNYへ渡り、ミシュラン三つ星レストラン「ジャン-ジョルジュ(Jean-Georges ※以下 JG)」本店にてわずか3年で日本人初のスー・シェフに抜擢。帰国後は日本国内の名店で総料理長を務め、JGの日本初進出を機に、レストランのシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)に就任。2018年9月には青山ビルディングにTHE BURNをオープン。
・主な受賞歴
2013年 アメリカ大使館主催「Taste of America」日本大会優勝
2015年 RED U-35 大会ゴールドエッグ受賞

「新潟で八海山の醸造を見学しましたが、麹には皆さん驚かれていました。甘酒は今後、世界的な調味料になるのでは?と可能性を感じています」(当日のトークショーでの言葉)

ゲスト3名がソファーに座っている様子

3人を交えて行われたトークショーの様子。

コーシャ(コシェル)認証とは

さて、イスラエル料理を語る上で、まず知っておきたいのが「コーシャ認証(コーシャー、コシェル、カシェル、カシュルート等と日本語表記することもあります)」。
イスラム教徒にはハラールという認証がありますが、ユダヤ教徒が食べて良いとされる「適正な食品」をコーシャと言います。ユダヤ教の聖典には、食べて良い食品と食べてはいけない食品が記され、敬虔なユダヤ教徒は5000年前から、その規律を厳格に守って生活しているそうです。
「コーシャ認証」は、ユダヤ教のラビ(聖職者)による審査に合格したものです。最近では地球環境に配慮したエシカルフードとして欧米を中心に宗教を問わず注目を集めるようになりました。
(参考サイト:コーシャジャパンHP

今回のイベントでペアリングとして合わせた八海醸造の日本酒は、2018年4月、コーシャ認証を取得しました。コーシャマークの記載が可能となったのは、以下の8商品です。

  • 純米吟醸 八海山
  • 純米吟醸 八海山 しぼりたて原酒 越後で候
  • 特別純米原酒 八海山
  • 純米吟醸 八海山 雪室貯蔵三年
  • 瓶内二次発酵酒 あわ 八海山
  • 特別純米 八海山(輸出限定品)
  • 純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込
  • 純米大吟醸 八海山 金剛心
コーシャ認証の日本酒の酒瓶が並んでいる写真

今回のイベントでサーブされた日本酒は全てコーシャ認証のもの。

2020年の東京オリンピックに向け、来日する外国人への需要の増加に伴い、ホテルや航空会社、レストラン等にて、コーシャ認証製品の採用が期待されています。さらに、近年イスラエル本国での日本食人気の高まり、また世界各国のユダヤ系コミュニティ需要への広がりなどの可能性が見込まれています。日本からイスラエルへの清酒の出荷量は、年々増える傾向にあります。

イスラエル料理に八海山の日本酒をペアリング

さて、いよいよお待ちかねの試食タイム。イスラエル料理に日本酒のペアリングは前代未聞です!今回はノフさん、ヒラさんの女性シェフ二人が日本酒に合うイスラエル・フュージョン料理を提供しました。

一緒に調理を担当した米澤シェフは「ハーブやスパイスを多く使い、繊細な味わいの日本料理と比べると、味がしっかりと濃く元気が出るのがイスラエル料理」 と印象を語ってくれました。

では、料理をひとつずつご紹介していきましょう。

タブレサラダの写真

タブレサラダ。レタスに巻いて食べます。

中東風セビチェの写真

中東風セビチェ

最初に出てきたのは、「タブレサラダ」、「中東風セビチェ」など。タブレサラダは、モロッコやフランスなどでも食べられる、世界最小バスタといわれるクスクスを使ったサラダです。パセリや緑野菜がたっぷり混ぜられて、爽やかでヘルシーな味わい。中東風セビチェは、中東のスパイスを使った魚介のマリネ。いわゆる南米のセビーチェとは見た目が全く違い、アラブのチーズが混ざっておりました。チーズのコクがありつつも、野菜やハーブがたくさん使われているせいか、味の複雑味はあるものの、思っていたよりさっぱりめです。

トマトとなすのフィッシュケバブの写真

トマトとなすのフィッシュケバブ

「トマトとなすのフィッシュケバブ」には、「特別純米 八海山(輸出限定品)」がペアリングにおすすめとされていました。魚介をつみれのようにフワフワのボール状にして、トマト煮込みにした料理で、やはりハーブや香味野菜がたくさんかかっています。食べ応えはありますが、ハーブが爽やかで優しい味わい。
中東と聞いて、もっとスパイスをキツく効かせたものを勝手に想像していたのですが、実際はもう少し繊細で、ハーブの青々とした香りの良さが特徴的。絶妙なハーブ&スパイス使いが食欲を増加させ、元気の源となっているように感じました。新潟の淡麗辛口を代表するイメージの八海山ですが、特別純米は米の旨味とキリッとした後口のバランスが程よく、料理をしっかりと受けとめていました。

イチジクのサラダとハメイリチーズの写真

イチジクのサラダとハメイリチーズ

そしてこちらも印象的だった「イチジクのサラダとハメイリチーズ」。ハメイリチーズとは羊のミルクから作るフェタ系のチーズです。ミルキーで塩気もありますが、思ったよりずっと食べやすいチーズで、イチジクとも相性が良いです。この料理には「純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込」をペアリング。淡麗な中に繊細でふくよかな味わいのある大吟醸は、白ワインとチーズのようなイメージで、交互にじっくり味わいたい組み合わせでした。

その他、以下のような料理とお酒が登場しました。

ブルグル ムジャッダラ

ブルグル ムジャッダラの写真

読んだだけでは全く想像のつかない料理ですが、日本名「挽き割り小麦の炊き込みご飯」!レンズ豆のたっぷり入った、豆麦ご飯のような料理でした。

タヒニオイルとザータルの魚介のタルタル(「純米吟醸 八海山」をペアリング)

タヒニオイルとザータルの魚介のタルタル(「純米吟醸 八海山」をペアリング)の写真

タヒニとは、生の胡麻ペースト。フムスなどに使われ、中東ではポピュラーな調味料です。ザータルとは、シリアンオレガノを中心としたスパイスミックスで、民間療法として腹痛や吐き気などのお薬代わりに使用されるそうです。今日の研究では抗菌性、老化防止などの特性があるともいわれています。

八海山の麹を使ったチキンソフリートとカブ(「純米吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」をペアリング)

八海山の麹を使ったチキンソフリートとカブ(「純米吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」をペアリング)の写真

チキンを長時間煮込んだような料理で、ソースにはタマリンドが入っているとか。カブの甘みが優しい味わい。

ハーブライス

ハーブライスの写真

スライスアーモンドとフライドオニオン、ハーブたっぷり。食べやすい味です。

ピタパンにタヒニと“ラリ”サルサを入れたエルサレムミックス

ピタパンにタヒニと“ラリ”サルサを入れたエルサレムミックスの写真

シェフ自らサーブしていただきました。左は、このプロジェクトを企画したイスラエル大使館のアリエ・ロゼン文化・科学担当官。

ハツとレバーのスパイス炒めをピタパンに挟んだ写真

ハツとレバーのスパイス炒めをピタパンに挟んだもの。いわゆるユダヤのカジュアルなサンドイッチ、ファラフェルのようなイメージ。これは正直、日本酒よりビールも抜群に合いそうかも!?

八海山あまさけのマラビー(「瓶内二次発酵酒 あわ 八海山」をペアリング)

八海山あまさけのマラビーの写真

シナモンやアーモンドが入った、自然な甘みのライスプディング風デザート。八海山の「あわ」は優しい風味の和製シャンパンで、食前酒として最初に飲めば食欲が増し、最後に飲んでもスッキリします。このデザートペアリングは相性ぴったりで、良い締めくくりでした。

まとめ

ハーブ、スパイス使いが香りよく爽やかで、全体的にヘルシーな優しい味わいに感じたイスラエル料理。日本ではまだまだ認知度が低いですが、思ったよりクセがなくて食べやすく、日本酒に合わせられるほどの懐の深さもあります。
東京にはイスラエル料理のレストランが何軒かあるので(2018年11月にオープンした二重橋スクエアにも、イスラエル家庭料理レストランが入っていました)、機会があればぜひチャレンジしてみてください。また、コーシャ認証は高品質な食品を保証するマークとして今後も注目です。

■取材協力

企業名 イスラエル大使館
企業名 八海醸造株式会社