健康美食料理コンテストの参加者の集合写真

開催3回目を迎える「健康美食料理コンテスト2018」。
病院・介護・学校など食の現場で活躍する管理栄養士のほか、一般からもエントリーを募り、「健康の悩みを食で解決するアイデア豊かなメニュー」の中から最優秀作品が決まるこのコンテスト。
今年は「給食に改革を」をテーマに、対象者別の給食レシピが4部門で競われました。

<2018年の審査部門>

  • 「健康増進部門」(健康増進食)
  • 「アレルギー対応食部門」(特定原材料不使用食)
  • 「介護給食部門」(嚥下食、ソフト食給食)
  • 「病院給食部門」(疾病向け給食)

それぞれの部門で頂点を目指し、応募者が競い合いました。

“取り入れやすさ”と“伝える力”が問われる本選審査

さまざまな食の現場で健康食に携わる参加者が応募エントリーする本コンテスト。
特にアレルギー食や介護食の分野では、一般家庭でも取り入れられやすい栄養面や手軽さの工夫が期待されています。

本選における審査基準は4項目。

  • 栄養プレゼンテーション
  • 料理パフォーマンス
  • 見た目、美味しさ
  • 作りやすさ

そこに、さらに重要なポイントとして、

  • 現場の課題に対して工夫がなされているか
  • 栄養指導者として第三者が理解しやすい伝え方がなされているか
  • 健康食を必要とする本人や家族にとって関心の持てる内容か
  • 紹介されたメニューが実践できるレシピ媒体を作成しているかどうか
  • 健康食が必要とされる対象者に対して、栄養面での根拠をもって説明できているか

といった項目もあり、応募者のプレゼンテーション力が試されます。

審査では、審査員長に食プロデューサーとして多岐に渡って活躍する門上武司氏を迎え、ミチノ・ル・トゥールビヨン オーナーシェフの道野正氏、病院院長や栄養管理士、家事代行サービスなどさまざまなジャンルから選ばれた特別審査員と、当日観覧した一般審査員の総評が加味されます。

審査員、参加者等、席に座っている会場の様子

メニューの中から1品を選んでデモンストレーション

本選がいよいよスタート!
最初の審査は、各部門から選出されたメニューの中から1品をステージ上キッチンでデモンストレーション。持ち時間約10分の中で、現場における課題やどういった工夫を取り入れたのか、栄養的な観点やいかに手軽に作れるのかを紹介しながら、実際に調理しプレゼンテーションするというもの。

トップバッターは「健康増進部門」から、シアワセビジンになるごはん cookingschool主宰 開地菜帆さん。

キッチンに立っている開地さんの写真

開地さんは大阪・天満橋で20代~30代の女性を中心とした料理教室を運営。忙しい毎日の中でも必要な栄養素が摂取できる、手軽で楽しい料理メニューを生徒さんたちに教えています。開地さんが本選に持ち込んだ料理メニューは、女性が1日に必要な鉄分や食物繊維の半分以上がこの1食で補えるという「働く女性に簡単♪ヘルシー♪健康的♪3STEPですべてを叶えるメニュー」。
この中から1切る、2混ぜる、3炊く!で出来上がる「いわしの洋風炊き込みご飯」をデモンストレーション。

ざるを手に調理を進める開地さんの写真

(作り方)

  1. お米を洗って浸水し、しめじは石附をとって食べやすい大きさに切り、にんにくをみじん切りに。
  2. 炊飯器のごはん、イワシ缶、しめじ、トマト缶、にんにく、薄口醤油、塩、酒、水を入れる
  3. ごはんが炊けたら完成!

しめじは水溶性なので水洗いせず、気になる汚れはペーパーなどで拭き取ると良い、あまったご飯はオムライスにしてお弁当にするのもオススメ、といった日常生活に役立つ情報も披露されました。

続いてのデモンストレーションは、「アレルギー対応食部門」から、認定こども保育園に勤務し、毎日の給食献立を考え園児たちに提供しているという橋本実可子さん。

フライパンで調理をする橋本さんの写真

橋本さんは「小麦・乳・卵不使用!みんなでニコニコお泊り保育給食」として、小麦粉不使用!子どもたちも大好き「キーマカレー」を披露。これは近年、増加傾向にある食物アレルギーの園児に対応したメニューで、5歳児のお泊り保育の際にみんなで一緒に食べられるメニューとして考案されたもの。

(作り方)

  1. ターメリックライスを作り、星型に抜いたパプリカは蒸して加熱
  2. 合いびきミンチを下茹でし、砂糖・醤油・料理酒で味付け
  3. 合いびきミンチに刻んだ玉ねぎ、しいたけ、ピーマンを入れ炒める
  4. 玉ねぎがしんなりとしてきたら、水とカレー粉、ケチャップを入れて煮込む
  5. 煮込んだソースに水で溶いた米粉でとろみをつければ完成!

デモンストレーションでは合いびきミンチを茹でて余分な脂質を取り除くことや、小麦粉の代わりに米粉でとろみを出すアイデアが紹介され、色鮮やかな見た目と星型に抜いたパプリカが楽しげなひと皿に。

3人目のデモンストレーションは「介護給食部門」から、フリーランスの管理栄養士として活躍する林 慧さん。

唯一の男性参加者の林さんの写真

林さんが紹介したメニューは、噛むことが難しくなった高齢者や障害のある方向けに考えた、誰でも作れるカラフルなソフト食「ほうれん草の白和え風あんかけ」。
かつては、「ミキサー食」とも呼ばれていた高齢者や障害のある方向けの食事は、単に一品すべてをミキサーで混ぜ合わせただけのものでした。しかし、林さんは食べることの楽しさ、楽しむことから生まれる健康について考え、ひとつひとつのメニューが通常のメニューと同じような見た目で、かつ美味しく食べられるソフト食を考案。
すべての食材はくたくたになるまで茹でるのが基本。ミキサーでしっかりと混ぜ合わせた後に、ゲル剤やトロミ剤を使って飲み込みやすい硬さに固め、メニューのテーマに応じた型にカット。林さんが考えるソフト食の真骨頂は、通常メニューとなるべく同じ見た目に盛り付けていくという食べる人にとっての「美味しそう感」にあり、審査員からもその技に注目が集まりました。

最後のデモンストレーションは「病院給食部門」から、食生活改善サポート代表の高山菜々子さん。

オレンジ色のエプロンをした高山さんの写真

現在、フリーランスの管理栄養士として、腎臓病の患者さんやその家族向けに食事相談や買い物・料理教室を行っている食生活改善サポート代表の高山さん。
腎臓の機能低下によるたんぱく質から出る老廃物や塩分を体の外に出しにくくなっている患者さんに対して、①エネルギーアップ ②たんぱく質制限 ③塩分制限 ④カリウム制限が考慮された、家でも作れる腎臓病食として「なすのツナマヨ焼き」が披露されました。

腎臓病で大切なのはエネルギーアップした食事を摂ることにあるという高山さん。「なすのツナマヨ焼き」では、エネルギーアップのためにマヨネーズをたっぷり使うことにあるという。マヨネーズは醤油に比べて塩分が低く、腎臓病食にはオススメなのだとか。

(作り方)

  1. 縦に四等分にしたなすと、みじん切りにした玉ねぎを水にさらす。
  2. 玉ねぎの水気をよくきりツナ缶の油で炒め、ツナ缶、マヨネーズを合わせる
  3. クッキングシートを敷いた天板をオーブンで余熱しておき、ペーパーで水分を拭き取り天板に並べたなすの上に乗せる
  4. 180℃のオーブンで10分焼き、彩りにパセリを散らして完成

とてもシンプルなレシピですが、ツナの量を減らすために玉ねぎでボリュームアップしたり、玉ねぎやなすは水にさらすことでカリウムを10%程度抜くなど、手軽なアイデアが満載でした。

特別審査員による緊張の試食タイム

各デモンストレーション後、完成した献立一式を特別審査員が試食。デモンストレーションで紹介されなかった料理もすべて、味はもちろん、盛り付けや香りなど細かくチェック。出場者に使っている材料や加工方法についての質問する場面も見られました。

審査員が真剣な面持ちで試食している様子の写真

大野記念病院で管理栄養士でもあり、千里金蘭大学の非常勤講師として未来の管理栄養士を育てているという田村審査員。「こんなに素晴らしい管理栄養士の方々が活躍していることを知って、とても嬉しいです」と喜びを語るシーンも。

審査員と調理中の参加者の写真

「キーマカレー」の彩りのよさと美味しさに驚き、「カレーだし、見た目もかわいいし、子どもたちも大喜びでしょう」と橋本さんに声をかけるたにぐちクリニック院長の谷口審査員。

審査員と笑顔で会話をする参加者の写真

ミチノ・ル・トゥールビヨン オーナーシェフの道野正氏は、通常食と見た目が変わらないほど丁寧な盛り付けされていくソフト食に興味津々。「まるで宇宙食だね。食べてみたけど本当に美味しいよ」とコメント。

審査員が盛り付けしている参加者をのぞき込んでいる様子の写真

門上氏からコンテスト総評と結果発表

特別審査員の採点と一般審査員からの投票でコンテスト優勝者がいよいよ決定。まずは、審査員長の門上武司氏からコンテストの総評。

特別審査員がマイクを持ち総評を話している写真

◆門上氏総評

今回、このコンテストにおいてそれぞれのジャンルでこれだけ料理というものを突き詰め、アイデアが凝らさせていることにとても感動しました。どんな料理にも言えることですが、完璧というものはありません。一番大切なのは、「こんな風に食べてもらいたい」「こんな風に喜んでもらいたい」という心。食べてもらう人にどう感じてもらいたいかから始まり、素材、盛り付け、彩り、皿、すべてが決まってきます。給食という分野においてもそれは同じです。皆さんが力を注いでこられている給食というものも、食べてもらう人の笑顔がどんな笑顔なのか思い浮かべながら、これからもいい料理を作っていってもらえたらと思います。

◆優勝は…

「病院給食部門」から食生活改善サポート代表の高山菜々子さん。
「なすのツナマヨ焼き」と付けあわせの「南瓜餅」。副菜はしその香りで塩分を減らし、野菜をゆでこぼしてカリウムを30%~40%おさえた「キャベツのしそポン和え」と、スープは香りの強いセロリを使って塩分少なめに仕上げた「コンソメスープ」。

「なすのツナマヨ焼き」と付けあわせの「南瓜餅」の写真

優勝した高山さんには、第1回コンテスト優勝者より襟元のラインストーンがきらめく「トロフィーエプロン」と、株式会社エイドより賞金が授与された。

トロフィーエプロンを授与されている高山さんの写真

腎臓病の患者さんに食事指導を行っている高山さん。日々の患者さんとのやりとりの中で、食材のちょっとした調理の工夫や取り合わせ方を伝えるだけで、「こんな簡単でいいの?」「これもこんな風にしたら食べられるんだね」と、食べることに前向きになってくれることが何より嬉しいといいます。
健康美食コンテストの優勝という栄誉を受け「これからも、管理栄養士として持てる知識を活かしながら、食べることにご苦労されている患者さんの笑顔を増やしていきたいです」と喜びを語りました。

笑顔でコメントをする高山さんの写真

まとめ

これまで、健康美食料理コンテストは現場で活躍する管理栄養士がそれぞれ学び実践してきたアイデアレシピや献立作成を披露し、情報交換や知識を深める場として開催されてきました。しかし、健康増進や在宅医療など新たな国の動きに連動して、管理栄養士が活躍するフィールドは各施設から一般家庭へと広がりをみせています。そういった背景を受け、今年はさまざまなジャンルの枠を越え、「給食」をテーマに開催された健康美食コンテスト。これからも進化し続ける健康美食料理について、来年はどんな強者たちが登場するのか期待が高まります。

画像提供/一般社団法人輝栄会

取材協力

主催 一般社団法人輝栄会