
カフェで過ごす時間を豊かに演出してくれるラテアート。エスプレッソとミルクで描くラテアートの技を競う競技大会があるのを知っていますか。
2020年2月18日、幕張メッセで開催された「第48回国際ホテル・レストランショー」のイベントステージで、「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ(JLAC) 2020」の決勝競技が行われました。この大会は「SCAEワールド ラテアート チャンピオンシップ(WLAC)」の日本代表選考会を兼ねて開催され、決勝を制したバリスタは2020年6月に行われる世界大会への出場権を得ることになります。
一般の観客が見守るなかで行われたライブ感あふれる決勝の模様を、上位3人のステージプレゼンテーションを中心にレポートします。
目次
「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ 2020」決勝進出者
「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ 2020」決勝大会にエントリーしたのはこの6名。
「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ 2020」決勝大会出場バリスタ
※競技順。「」内は所属店舗名
真早流香織さん(株式会社 UP TO ME「LeBRESSO」)
岩恭平さん(株式会社丸山珈琲「リゾナーレ八ヶ岳店」)
松本大樹さん(株式会社トランジットジェネラルオフィス「DOWNSTAIRS COFFEE 大阪」)
伊藤大貴さん(猿田彦珈琲株式会社「アトレ恵比寿店」)
金藤智也さん(「coffee up! KOBE」)
白石知輝さん(株式会社大一電化社)
6名のバリスタたちは、東京と大阪それぞれ30名、計60名が参加した地方予選を勝ち抜いてこのファイナルステージに臨みました。
ラテアート競技の審査基準とは?
ところで、ラテアートの審査や評価はどのような基準で行われるのでしょうか。
決勝競技は「ワールド ラテアート チャンピオンシップ」のルールに準じて行われ、「アートバー」と「ステージプレゼンテーション」の2つのパートで競われます。
「アートバー」は制限時間内にオリジナルデザインのラテアートを作成し、それをカメラマンが撮影。審査員はその写真を見て出来栄えを評価します。
「ステージプレゼンテーション」は、5分間の準備時間の後、10分間の競技時間内に
- フリーポアラテ4杯(2柄を2杯ずつ)
- デザイナーラテ2杯(1柄を2杯)
合計6杯を提供。
“フリーポアラテ”とはミルクのピッチャーのみを使って描くラテアート。“デザイナーラテ”はピックなどのさまざまな道具を使い、シロップで色を着けるなど、フリーポアより自由度の高い表現ができるラテアートです。
「ステージプレゼンテーション」の具体的な評価ポイントについては司会者から解説がありました。
「この競技では、ジャッジはドリンクを味わうことはありません。味は審査に含まれず、テクニックとビジュアルだけが評価の対象となります」(司会者)
テクニックは、エスプレッソ抽出の際にコーヒー粉をきちんとタンピング(タンパーという器具を使ってフィルターに粉を詰める技術)できているか、ミルクのスチーミングは適切にできているか、ステーションはきれいか、などが評価対象に。
プロフェッショナルとしての「サービス」「衛生管理」を審査します。
ビジュアル面では、デザインの芸術性・独創性・絵柄の難易度や達成度はもちろん、ミルクとエスプレッソのコントラストの鮮明さも重視されます。
バリスタは事前に決勝当日に作成するラテアートの印刷写真を提出し、ジャッジはその見本写真と当日のラテアートを比較して再現性も見定めます。同じ柄の2杯のドリンクの仕上がりがそろっていることも高得点の要素となります。
世界大会に挑むバリスタは?上位3名のラテアート
では、「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ 2020」決勝大会上位3名のバリスタのラテアートを見ていきましょう。
■「ピーターとオオカミ」のストーリーを表現/第3位 真早流香織さん
真早流さんが勤める店舗「LeBRESSO」(鶴橋店)は食パン専門店。パンと一緒においしいコーヒーが楽しめるお店です。真早流さんは4回目の挑戦ではじめて決勝に残り、見事に3位入賞を果たしました。
真早流さんは「ピーターとオオカミ」の童話をラテアートで表現。ストーリーを語りながら登場人物を描きました。猫は目をクリクリに、オオカミは目の上にイナズマ模様を描くことで意地悪さを表現、ピーターは勝気な表情とかわいい帽子、スカーフがポイントです。
「かなり練習して臨みました。ミルクの温度が高すぎると線がにじんだり、泡がきめ細か過ぎてもにじむので、その調整が難しかったです」(真早流さん)
■アニメや童話、斬新なテーマと大胆な構図/第2位 金藤智也さん
「coffee up! KOBE」の金藤さんはさまざまなラテアートの競技会で高い評価を得ているバリスタで、「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ」2018年、19年大会のファイナリストです。昨年独立してJR神戸駅近くに店舗をオープンし、決勝進出者唯一のオーナーバリスタとして今大会に臨みました。
「少年時代に心を動かされたストーリーをラテアートで描くことで皆さんの心を動かしたい」と、金藤さんはシカ、キツネ、ドラゴンのモチーフにストーリーをのせました。ただのシカではなく「バンビ」、一般的なキツネではなく「ごんぎつね」、とわかるように工夫。大胆な構図で物語の印象的なシーンを切り取りました。
「3回目の挑戦で、前回よりも難易度を上げていくには手数を多くしなくてはいけないし、手数が増えると時間が伸びるし……いかに無駄をなくして時間を削るか、だいぶ考えました」(金藤さん)
圧倒的な高スコアで連覇を達成/第1位 伊藤大貴さん
今大会の優勝者は、猿田彦珈琲株式会社「アトレ恵比寿店」勤務の伊藤大貴さんに決定しました。
ジャッジの総合スコアは476ptと、2位以下に80pt以上の大差をつけての優勝でした。
伊藤さんは、日本には野生で生息はしていないものの日本人にとって馴染みがあり、世界中の人たちもよく知られている動物、ラクダ、ペンギン、ワニをモチーフに選びました。競技者はプレゼンテーション中のBGMも自分で選曲しますが、伊藤さんが選んだのはテンポのある三味線の演奏でした。
「多くの人にわかってもらえるモチーフを選びました。バリスタとして日本人のアイデンティティを大事にしながら競技したい気持ちがあるので、BGMは日本の楽器を使った、勢いのある音楽にしました」(伊藤さん)
「今年は、今まで描いてきたモチーフよりももっと難易度の高い絵柄を描けるように意識して、ミルクを注ぐ手数を多くし、注ぎ方の技術を勉強しました」(伊藤さん)
伊藤さんは昨年も今大会で優勝を果たして世界大会に臨み、世界第5位の優秀な成績を残しています。今回は日本大会連覇となり、世界大会に再挑戦するチャンスを得ました。
「昨年世界大会に出場して、世界のレベルの高さを身をもって感じました。世界大会のファイナルに残るということを自分のひとつの目標にして臨み、実際に決勝に残ることができたわけですが、(5位という成績に)満足感よりも悔しさを感じたんです。まだ自分にはやれる事がある、次のステップにいける、と思いました。
はじめての世界大会はまったく未知の世界で、どういうものが評価されるのかもわかない状態でしたが、二度目となる次の大会は戦うための準備ができるんじゃないかと思っています」(伊藤さん)
一般社団法人日本スペシャルティーコーヒー協会バリスタ委員会委員長富川義之さんは、今大会を振り返り、コメントしました。
「本当にレベルの高い戦いでした。日本のラテアート競技は、ここ数年他のアジア勢におされていましたが、昨年は伊藤さんが世界大会で入賞し、レベルを引き上げてくれました。彼のラテアートはコントラストが非常に綺麗で、モチーフが目に飛びこんできます。絵柄もとてもわかりやすく、見てすぐに、何が描かれているかが誰にでも理解できる。いいプレゼンテーションだったと思います」(富川さん)
2020年6月、ポーランド・ワルシャワで開かれる世界大会、「ワールド ラテアート チャンピオンシップ 2020」での、日本人バリスタ・伊藤さんの活躍に注目しましょう!
■取材協力
主催者名 | 一般社団法人日本スペシャルティーコーヒー協会(SCAJ) |