座談会全体の様子

「バリスタグランプリ」(日本バリスタ協会主催)や「キンボバリスタ競技会」などで優勝経験を持つ若手バリスタ、加藤 由希奈さん。加藤さんは現在、清澄白河(東京都江東区)にある「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」でバリスタとして活躍されています。

カフェながら予約もできて、フルコースが楽しめるというこちらのカフェはこれまでなかった新スタイルのお店。加藤さんが、バリスタとしてどのようにお仕事をされているか、また「おうちカフェ」の楽しみ方を提案するご自身のWEBサイト「coffee and spice.」などについて、お伺いしました。

<プロフィール>
加藤 由希奈(かとう ゆきな)さん(写真下)
バリスタ。2016年モンテ物産主催「キンボバリスタ競技会2016」、2017年度「バリスタグランプリ」優勝。現在は自身でコーヒー豆のECサイト「coffee and spice.」を立ち上げ、運営。表参道のコーヒー豆店「KOFFEE MAMEYA」に勤務後、2021年より同店がオープンさせた予約もできるカフェ「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」に勤務。

コーヒーは、「テレワーク」「おうち時間」需要で、より身近になった

クックビズ世古:加藤さんは去年は、コーヒーの楽しみ方を提案する豆販売のECサイト「coffee and spice.(コーヒーアンドスパイス)」をご自身で手がけられ、今年1月からは新しいカフェで勤務されているとのことで、最近の状況に変化はありましたか?

加藤さん:「coffee and spice.」は去年7月にオープンさせたんですが、当初は本当にたくさんの方に買っていただいたり、注目していただきました。でも実は1月からほぼ止まっている状態なんです。

ありがたいことに、テレワークでコーヒー飲むからとリピーターさんが何名か、ずっと継続して買ってくださっていますが、今は広告を出したり、SNSでPRもしていなくて。

というのも、カフェの仕事の方が忙しくて…。

テーブルの上に置かれたcoffee and spice.のドリップコーヒーの写真

バリスタとして活躍する加藤 由希奈さんが手がけるECサイト「coffee and spice.」のドリップバッグ。(「coffee and spice.」HPより)

クックビズ世古:そうなんですね?新しいお店に入られて。

加藤さん:以前いた「KOFFEE MAMEYA」の本店は、コーヒー豆の小売りがメインの店なんです。何十種類もある豆をカウンセリングで買えるという、新しいスタイルのお店ではあったんですが、1月にオープンした「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」は、カフェなんですね。

この「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」がすごい人気で、しかも小売り店から飲食店に変わったことで、仕事内容もガラッと変わり、覚えることがたくさんあって。今はカフェの仕事に力を入れています。

クックビズ世古:コロナ禍で飲食店は打撃を受けていますが、あまり影響はなかったんですか?

加藤さん:本店は小売り販売なので、自粛のための「おうち時間」の需要もあって、むしろ売上は伸びています。

ただ本店は、もともとは海外からのお客様が7割くらいを占めていたんです。本店の特色でもある、“たくさんの種類のコーヒー豆を、バリスタがカウンセリングしてご提案する”というスタイルが、特に海外で支持されていて。

それが今は海外のお客様がいない分、国内のファンの方たちがこぞって来ているような感じになっていますね。

クックビズ世古:すごいですね。

コーヒーのフルコースとは一体…?!

加藤さん:私が今いる清澄白河の新しいお店「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」も、1月のオープン当初から、たくさんの方に来ていただいています。

すごく面白いお店で、来店の予約もできるカフェなんです。客席がバーカウンターになっていて、お寿司屋さんみたいなスタイルなんですね。1時間半の入れ替え制になります。

そこで、コーヒーのコースをお出ししているんです。

クックビズ世古:カフェの「予約制」も珍しいですが、コーヒーのコースっていうのは聞いたことがないです。予約制なのは、やはり“密”対策として?

加藤さん:「予約制」はコロナ対策ではないんですよ。オーナーがもともと『レストランで食事を楽しむように、スペシャリティコーヒーを楽しんでもらってもいいんじゃないか』という考えを持っていて、そのような楽しみ方の提案として実践しています。

そしてフルコースも楽しんでもらおうと。

少し右の方を向き、思い浮かべながら話す様子の加藤さんの写真

バリスタとして活躍する加藤さん。

クックビズ世古:なるほど。コーヒーのフルコースとはどのようなものを?

加藤さん:ひとつの種類のコーヒー豆を使って、いろんな抽出方法だったり、コーヒーを使ったノンアルコールのカクテルだったり、さまざまなメニューで構成するんです。

そして、スイーツとのペアリングですね。「このコーヒーと、このお菓子を合わせると、味がこう変化する」というような体験ができます。だから、コーヒーが好きじゃない人でも楽しめるくらいですよ。

クックビズ世古:エンターテインメントですね!

加藤さん:ほんとそうです。広告は一切打っていないですし、お店のInstagramも極力上げない(笑)という方針なんですが、店内は動画撮影もOKなので、YouTuberの方などがいらっしゃって、撮影されたりはしています。

「なんだこれ、面白い動画がある!」という感じで話題になっていますね。

お客様ひとりに、バリスタひとりがつく

クックビズ世古:加藤さんご自身は、お店ではどのようなお仕事になるのでしょう?

加藤さん:私はバリスタとして在籍しています。今は慣れましたが、最初は大変でした。

コーヒーは20種類くらいあるんですが、もちろん知識も必要だし、ペアリングだとか、かけ合わせだとか、すべてマスターしないといけないわけです。

しかも、「お客様一人にバリスタが一人つく」というような接客スタイルなんですね。自分がそのお客様を担当したら、最初から最後までしっかり付いて、そして最後には感動して帰っていただく、という。確かにパフォーマーの要素もありますね。

クックビズ世古:小売店の時とは全然違うんですね。

加藤さん:全然違いますね。特に、サービスの部分ですね。コーヒーの知識は勉強したら面白いですし、困ったことが起こった場合も、スタッフ同士がいつでも助け合える環境ではあるんですが、それ以外の接客の部分ですね。

もちろん私は、サービスの仕事が好きで、だからこそバリスタの大会に出場したりもしていたんですが、どちらかというとこれまでは、カジュアルなスタイルでやってきました。

でも今のお店では、いろんなお客様がいらっしゃるので、話し方ひとつとっても、その方に合わせて変える必要があります。中にはカチッとして、緊張感があるスタイルを求められる場合もありますね。

あと、フルコースということで、緊張して来店されるお客様も多いんですね。

スタッフはカジュアルに接するんですが、お客様はガチガチに緊張されていらっしゃるので、その緊張状態を、自分の一言で解きほぐしてリラックスさせていきたいんです。

今はだから、お客様との向き合い方を試行錯誤していますね。

クックビズ世古:どのようなお客様がいますか?

加藤さん:たとえば、「こういうのが好き」とか、逆に「コーヒーは好きじゃないんですが、飲めるものはありますか」だとか、何かをお話してくれる方の場合は、求めているものが分かりやすいので、お応えしやすいんです。

そういった、お客様とのコミュニケーションもお店の特徴である一方で、純粋にコーヒーを静かに楽しみたいというお客様の場合、いかにその時間を邪魔せず、何を求めていらっしゃるのかをどうやって引き出すかが非常に難しいですね。

私自身は、カジュアルなスタイルのサービスをずっとやってきたので、そうじゃない緊張感を求められるシーンも含め、そのどちらにも対応できるようにならないといけないと思っています。

はにかんだ加藤さんのアップの写真

クックビズ世古:おひとりで来店される方が多いんですか?

加藤さん:多いですね。土日はご家族やカップルの方が多いですが、お店の場所が、地図で探さないと辿りつけないような、住宅街の中にポツンとあるんです。だから興味がないと絶対行かないような、そういうお店なんですよ。

あと、フルコースを出すカフェということで、同業の方に視察に来ていただいたり、業界内でも注目していただいています。

たくさんの方に来ていただいていて、本当にありがたいですね。

ホスピタリティ高いホテル業界のサービスを見習いたい

クックビズ世古:サービスの勉強は、どのようにされているんですか?

加藤さん:本も読みますし、好きなお店のサービススタッフを参考にしたりしています。特にホテル業界の方のホスピタリティは素晴らしいので、そういった本はよく読みますね。

今後は、海外からのお客様も必ず増えていくと思いますので、英語を勉強したいと思っています。

クックビズ世古:お忙しいとは思いますが、「coffee and spice.」は再開したい気持ちはありますか?

加藤さん:「coffee and spice.」は、もともとはおうち時間、おうちでカフェを楽しむために、「こういうお菓子があるよ」という情報だったり、「自宅でもカフェのようにコーヒーを淹れることができる器具があるよ」というような、そんな情報を伝えたかったんです。

いつか自分に時間ができたら、やっていきたいなとは思っています。

クックビズ世古:応援しています。ありがとうございました。

まとめ

コロナ感染拡大の影響で紆余曲折を強いられている飲食業界ですが、「おうち時間」の需要は確実に伸長しています。“コーヒー”もその一つ。

在宅で仕事をするテレワークや、自宅でコーヒーを淹れて楽しみたいというニーズが高まって、加藤さんが務める「KOFFEE MAMEYA」も盛況しているそう。

また、これまで見たことのないような、“コーヒー”の概念を覆す、無限の可能性に挑戦するカフェ「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」は、同業者からもアツい注目を浴びています。

バリスタの大会で優勝経験を持ちながらも、「まだまだ勉強したい」と意欲的に取り組む加藤さんに、元気をもらえました。

<協力>

店名 KOFFEE MAMEYA
Instagram KOFFEE MAMEYA -Kakeru-
Twitter coffee and spice.(コースパ)

<写真提供>

加藤 由希奈さん
※座談会風景を除く