
2021年ゴールデンウィーク明けとなる5月10日。東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で3度目の緊急事態宣言下にある中、愛知と福岡が追加となった、まさにそのタイミングに、クックビズではオンライン座談会を開催。
名古屋市の和食居酒屋でサービスリーダーとして活躍する荒川 その美さん、新潟県湯沢町の和食炉端で店長を務める関 智也さんに参加いただき、お客様の行動の変化、店の取り組みなど現況についてお伺いました。
クックビズからは、座談会運営の世古、方城が参加しました。
目次
緊急事態宣言下で関東から新潟まで“越境飲み”が続出
クックビズ世古:2021年5月10日現在、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で緊急事態宣言が発令されていますが、12日から福岡と愛知を加えた6都府県に拡大することが決まりましたね。
荒川さん:愛知も12日からなので、当店もあさって(5月12日)からお酒は提供できなくなります。
関さん:私が勤務する店は新潟県湯沢町ですので、緊急事態宣言対象にはなっていないですが、実はこのゴールデンウィーク中、関東方面から飲みに来る方が多かったんですよ。
一同:えっ!?
関さん:そうなんですよ。私もびっくりしています。
クックビズ世古:そういったお客様は泊まりでいらっしゃるんですか?
関さん:泊りの方が多いのですが、3割ぐらいは日帰りですね。最終電車で関東方面にお帰りになります。最初は「この方たちは、どちらからいらしたんだろう」と思っていたのですが、明らかに軽装ですのでご宿泊ではないなと。かといってご近所の方でないのも明らかで。
お話を伺うと関東からとのこと。越後湯沢は、東京方面から新幹線で1時間半ほど。乗り換えもなく1本で来ることができます。
クックビズ世古:どういった方のご利用が多いのですか?
関さん:二人連れの方が多くて、夫婦、カップルなどが1日3組ペースでご来店されました。ゴールデンウィーク期間中は、このご時世ですから客足は良くなかったんです。そのなかでの連日関東圏から1日3組だと来店率は高いかなと。

関さんが勤務する和食炉端「湯沢釜蔵」
荒川さん:びっくりしました。でも行きたくなる気持ちはわかります(苦笑)。お酒が飲めないのは「辛い」と感じる方は多いと思うので。
当社は、5店舗中4店舗が居酒屋、1店舗がカフェを運営しています。居酒屋は緊急事態宣言期間中は店を閉めることにしました。
休業するにあたり常連さんに「12日からお酒の提供がなくなりますがそれでも来店ご希望ですか」と確認したところ、1人だけ「別にぼくはお酒がなくても食べに来たいですね」とおっしゃってくれましたが。それではやはり経営的に難しいので。
足を延ばしても、ゆっくりお酒を飲める店があるなら行きたいなという願望は私にもあります(笑)。
クックビズ世古:そうですよね。今回の緊急事態宣言において一番大きいのは従来の時短営業などに加えて「飲食店への酒類の提供禁止」が追加されたことですから。
荒川さん、関さんのお店は地酒が評判の居酒屋ですし、とりわけ影響が大きいですよね。
荒川さん:業者さんからの情報によると、「お酒の提供がNG」と決まった段階で店を閉めるというところも多かったようです。

■荒川 その美さん/和食居酒屋「空本店」ほか(名古屋市)サービスリーダー
和食居酒屋およびカフェなど5店舗のサービスリーダーを務める。第13回「S-1サーバーグランプリ」東海地区代表/全国大会準優勝。株式会社満月所属。
時短営業期間は“昼飲み”や営業時間を早めて回転率UPで売上確保
クックビズ世古:新潟は今回、緊急事態宣言の対象エリアではありませんが、お酒の提供ができなくなった場合のことは想定されていますか?
関さん:そうですね。そうなったら経営上、本当に怖いです。今でもエリア外とはいえ、遠回しにダメだって言われてるようなもんですから。
当社は新潟市内にも店がありますが、同市はゴールデンウィーク最終日の5月9日まで独自の「特別警報」を発令、時短要請がありました。そこで17時までランチタイムをのばし、昼飲みができるようにして何とか乗り切りました。
夜は閉めましたが、昼の需要は増えたようですので、もし湯沢町も同じケースになれば、ランチタイムにシフトしようと考えています。
荒川さん:当社も早く店を開けています。といっても17時半開店を、平日17時~・土曜と祝日は16時~にした程度です。
コロナ感染が心配な方は16時早々にきて18時で退店される方も。そうなると18時から2回転できる日もありましたね。
クックビズ世古:お客様もコロナ禍で慣れてきてしまっている、というような現状があるんでしょうか?
関さん:そうですね。それと県外から来る方は、新潟の人より特にコロナによる自粛慣れしている方が多いと感じます。自然と19時半~20時でお会計という流れです。
荒川さん:短い時間だからこそ、ご来店時は少しでもリラックスして過ごしていただきたいとサービスには配慮しています。

荒川さんが勤務する和食居酒屋「空」
これまでのテイクアウトメニューは一巡した。次の一手はコレ
クックビズ世古:荒川さんの店は、あさってから緊急事態宣言下に入りますがテイクアウトはしないんですか?
荒川さん:1年前に「おばんざいの盛り合わせ」などのテイクアウトを始めたんですけど、今は需要が少なくて。代わりに来店する人が増えています。
関さん:確かに荒川さんがおっしゃるように、テイクアウトの需要は下火に。テイクアウトするより、店で飲んで早めに帰ろうという方が増えました。
ただ一方でスーパーマーケットのお惣菜コーナーは根強いニーズがありますよね。そこで当店では、スーパーでは手に入らないもの、ご家庭で作れないものを提供することに、テイクアウトの価値を見出せるんじゃないかとメニューを開発しました。
「生うにの牛肉巻き」です。実をいうと高級食材を掛け合わせる料理は一昔前に流行った居酒屋メニューです。私たちとしては今更感もあるんですけど、越後湯沢のローカルな土地で持ち帰りメニューなら斬新なのではないかと。
今後もそういった「ご家庭で作れないもの」「スーパーで買えないもの」に着目してテイクアウトのメニューを開発していきます。
配属が異なる社員が一緒に働いたら料理・サービスの違いが判明
荒川さん:当社は新たなメニューを作るというより、コロナ禍で今までのものを見直して、よりブラッシュアップしています。
というのも、コロナ禍で4店舗中3店舗閉めている期間、1店舗にオーナーと配属店の異なる複数の料理人が一緒に働くことになったんです。
そしたら同じレシピ、マニュアルでも、店ごとに微妙に調味料の配合や手順が異なっていまして。例えば出汁に塩をどれだけ入れるか…などです。
いつのまにかやり方がバラバラになっていたんです。それをもう一度見直して足並みを整えることができるようになりました。
クックビズ世古:同じ分量、作り方であっても火の通し方で味が変わったりしますし。料理人によって味が変わらないようにクオリティを統一したんですね。
荒川さん:はい、いくらレシピ・マニュアルがあっても、なかなか文字や画像で全ては伝わらないものです。一緒の店で働けたからこそかなと。
私はサービス担当ですが、同様のことがいえます。同じ言葉でお客様にご説明しても、表情やその人の雰囲気、話すスピードや抑揚、経験値で全然違って伝わります。コロナ禍で、料理、サービスともに今までやってきたことを確認しながら、より良いものを定着させる期間となりました。
クックビズ世古:関さんはそれを聞いていかがですか?
関さん:コロナ禍で、複数店舗を運営する会社は、どこも同じ壁にぶちあたったのではないかと思いますね。当社も同じで、昨年、いくつかの店を休業にしたので、ふだん一緒に働かない社員が同じ店で働く機会がありました。
そしたら少しづつ違いが見えてきて…。お客様への対応にズレがありました。実は、私は会社がぶっ壊れるんじゃないかと思ったことが1度あります。
一同:ええ~っ!
関さん:それほど、違う店にいた社員たちが1つの店でお客様に対応すると、少しのズレが大きな溝や問題になるんだってことがわかり、危機感を持ちました。
今は軌道修正され、各自が配属店に戻り、どの店に行っても同じクオリティのサービスを提供できています。コロナ禍で苦しい時ではあったけれど、1つの店舗で働けたことは、私たちにとっては良い機会だったと思います。
クックビズ世古:荒川さんも関さんも、期せずして今までやってきたことを見直すための棚卸ができたんですね。1ランク上を目指すためのすり合わせが出来て良かったですね。
今後、着手していきたいことは教育、仕入れの一括化
クックビズ世古:では最後に今後着手していきたいことを教えてください。
荒川さん:アルバイトのスタッフ教育です。質を上げていきたいとアルバイトミーティングを初めてプロデュースしました。
そもそもコロナ前は忙しいことを理由に、研修や勉強会の開催は億劫になりがちでした。でも今は、売上があったからこそ教育にお金と時間をかけられたんだと実感しています。
アルバイトミーティングでは、アルバイトさんから発言しやすいようにディスカッション形式にし、みんなの意識を合わせていくことに重きをおきました。
クックビズ世古:なるほど。
荒川さん:今思うように働けない中でも、当社にアルバイトととして残ってくれている、そんなやる気のあるスタッフたちです。料理のことお酒のことなどの商品知識、会社の経営理念や行動指針など、通常の勤務内では教えきれなかったことをこの機会に伝え直していきます。
今はコロナ禍で運営的に“しゃがむ時期”だと思います。でも忙しい日々が戻ってきたときに、社員・バイトの気持ちや行動がバラバラではなく、一丸となってパワーアップして臨めるように準備しておきたいです。
関さん:当社は、今後食材の一括仕入れなどに着手できればと考えています。これまでは店舗ごとに仕入れていたんです。
しかしコロナ禍で来店数も読みにくく、各店舗でそれほど仕入れが必要ない時や、1店舗では使いきれないほど食材が余ったりすることがありました。
各店舗とも車で30~40分圏内なので、一括仕入れから仕込みまでできると考えています。
あとはコロナ禍でも安心してご利用いただける飲食店のスタイルとはなんなのか。飲食店を利用していただく際の、店側・お客様の対策・行動指針のようなものを知りたい。
私自身は、店・お客様の両方がコロナ感染対策を万全にしたうえでご利用していただければ、営業しても良いと思っているんです。でもそれは少数派だと思います。大多数の方にとって、コロナ禍でも安心して利用できる飲食店とはなんなのか。難しいけれど、それを探っていければと思います。
クックビズ世古:後ろめたい思いをせずに、笑顔でお客様を受け入れられるスタイルが確立すればいいですよね。今日はご参加いただき、ありがとうございました。
まとめ
ワクチンの確保、接種が思うように進まず、長引くコロナの影響で厳しい経営状況が続く飲食業界。3度目の緊急事態宣言が発令される中、時間があるからこそ「今できること」に着手し、再び心おきなくお客様を迎え入れることができるように前向きに取り組んでいらっしゃいました。
今回の緊急事態宣言では「お酒の提供」するかどうかが休業・時短営業の別れ道となっており、早く事態が収束することを願うばかりです。
<協力>
店名 | 和食居酒屋「空」 |
店名 | 和食炉端「湯沢釜蔵」 |
<写真提供>
和食居酒屋「空本店」
和食炉端「湯沢釜蔵」
※座談会風景を除く