
コロナ感染拡大を受けて、2020年春に出された初の緊急事態宣言から早くも1年。ようやく一般市民を対象にワクチン接種が始まりました。
そこで4月12日、クックビズが定期的に開催しているオンライン座談会では「飲食店で働く人が今、一番気になる話題」をテーマに開催。今回、名古屋の和食居酒屋で、サービスリーダーとして活躍する荒川 その美さんに参加いただきました。
「復興をめざすような気持ち」と言い切る荒川さん。コロナ前後で変わったこと、トライしたことなどを語っていただきました。
クックビズからは、座談会運営の世古、方城が参加しました。

■荒川 その美さん(下段)/和食居酒屋「空本店」ほか(名古屋市)サービスリーダー
和食居酒屋およびカフェなど5店舗のサービスリーダーを務める。第13回「S-1サーバーグランプリ」東海地区代表/全国大会準優勝。株式会社満月所属。
目次
コロナ禍で煽りを受けた飲食業界は社会的地位が低いのか
クックビズ世古:今回は「飲食店で働く人が今、一番気になる話題」についてです。荒川さんが最近気になっていることはなんですか?
荒川さん:それはクックビズの飲食人のための情報収集アプリ「ククロ」で配信されていた「ワクチンを打ったら外食する?」というニュースについてです。
クックビズ世古:外食する消費者の意向調査ですね。3月の調べでは、ワクチン接種前の外食頻度について「今後」増えると回答した方は18.2%、「ワクチン接種完了後」増えると回答した方は31.2%という結果でした。
※上記:ランチの外食について
荒川さん:私個人としては、もう少しワクチン接種後は外食への興味や頻度が高まると思っていたので正直なところ意外でした。名古屋は22時まで営業できるようになり、20時の時と違って2回転することも。肌感覚ではかなり客足が戻ってきているように感じていたんです。しかし今後どうなるか。
クックビズ世古:各地でまん延防止重点措置がとられていますので、名古屋市も今後、発令されるのか気になりますね。(※座談会後、4月20日から名古屋市も適用に)
荒川さん:そうですね。やっとアルバイトも呼び戻すことができるようになったのに、また営業時間が20時までになれば、予約のお客様へのお詫びのご連絡やバイトのシフト調整もしなくては。
業務量が増える負担もありますが、それよりもせっかく成長してきたアルバイトの方が、働けないなら辞めざるを得ないということに。そういうやりきれない気持ちの負担があります。
クックビズ世古:ただただコロナに振り回されるというか。伝えるほうも辛いですよね。
荒川さん:飲食業って、今回のコロナ禍で煽りを受けやすい業界だと世間が改めて認知したのかなと思っています。
コロナに関係なく、スタッフの雇用についても、上場企業は別として大学卒業後に飲食業界に入社するとなると親御さんが反対することもあるという現実もあります。私自身は、社会的地位が低いとは思っていないんですけど。今後変わっていければと思っています。
クックビズ世古:そうですね。
荒川さん:だからこそ、今、飲食業界に興味をもってくれている人に対して真剣に考えていくべき時なんじゃないかと。復興をめざすような気持ちです。
休みを余儀なくされたアルバイトスタッフとは連絡を取り合ってモチベーションを維持
クックビズ世古:休みや時短勤務が続く1年でしたが、スタッフのモチベーション管理はどのように行っていましたか?
荒川さん:アルバイトスタッフには、私から店舗の様子などを知らせていました。
一斉配信というより、1人1人のスタッフの性格に添った内容です。もともとSNSを使った日報なども活用していたので、店に復帰した際に困らないように料理やお酒の商品情報を送ったり。
クックビズ世古:店舗が今どういう状況にあるのかなど、スタッフが理解できるよう意識されて情報発信していたんですね。
荒川さん:コミュニケーションが大事なんで。「テイクアウトもスタートしたのでよかったらきてね」とか何気ないやりとりも織り交ぜてました。
クックビズ世古:そういったコミュニケーションの成果は大きかったですか?
荒川さん:そうですね。アルバイトに入って日が浅い人もいましたし。しかし、今思い返すと私自身、気が滅入らないように送っていたのかもしれません。
こちらの発信に返事してくれたり「いいね」してくれたり、私の方がスタッフへの信頼やつながりを感じていたのかもしれません。
クックビズ世古:「コロナ禍で自分のことを気にしてくれる人がいる」ということはスタッフに伝わったんじゃないでしょうか。
荒川さん:今、考えたら自分の方が励まされていたかも(苦笑)。でも何の連絡もしないで放置するのは絶対にしてはいけないと思いました。そうなるともっと辞めていたかもしれません。
コロナ禍でトライしたことは、唎酒師の資格取得と英会話、そして「Clubhouse」
クックビズ世古:荒川さんご自身は、時短営業など余裕のできた時間で何か心がけたことはありますか?
荒川さん:私は完全に休業が続いた時に、唎酒師(ききさけし)の資格を取得しました。
あとはセミナーの受講ですね。オンラインで、接客の講義や日本酒の酒蔵見学などもあるんですよ。
あとは飲食店の経営者が、音声SNS「Clubhouse」でお話されているのを聴いたりと、有名企業の方がお話されていて刺激を受けました。
クックビズ世古:知識量が増えたようですね。
荒川さん:増えましたね。経営者による“Clubhouse談義”も、コロナ禍で時間があったから活発に行われていたんじゃないかと。
企業のトップ陣がどういう思いで経営しているのかなど、セミナーよりもっと本音のトークが聴けますし、たくさんのエネルギーをもらいました。
クックビズ世古:コロナ禍は、普段考えないことを考えるいい機会になったという人も多いようですよ。
荒川さん:実は英会話の勉強も始めています。オリンピックを控えて名古屋もインバウンドが増えると考えて、店で使う英語ぐらいは勉強したいなと思いきりました(笑)。「今やらなかったらいつやるんだ」って、そう思うようになりましたね。
最初の緊急事態宣言から1年。今、営業して変わったのは客層
クックビズ世古:コロナ発生前と比べて、店の様子はどう変わりましたか?
荒川さん:常連様というより、ご来店いただいたことのない新しいお客様が増えたと思います。ありがたいことに、これまで予約で満席になることも多く「今なら空いているのでは…」と思って来店してくださっているようです。
当店はもともとは年齢層がやや高めのお店だったのですが、シニア世代の常連様は、本当にご来店がなくなりました。
あとは会社の役職者の方。「自分が新型コロナウィルスに感染するわけにいかないから」「会社に示しがつかない」などの理由かと。
クックビズ世古:ニュース「ワクチンを打ったら外食する?」でも、「周囲で感染者がいないのに、自分が最初に感染したくない」という意見もありました。周りの目が怖いというのはあるかもしれませんね。
荒川さん:今後はリモート勤務もますます定着すると思うので、会社の接待としてのご来店や“仕事帰りの一杯”の需要が減ると思います。
「ワクチンを打ったら外食する?」という調査で、外食するという数字が低いのも家庭での食事が根付きつつあるのかなとも。
その中でも「飲みに行こう」となったときに、選ばれるお店をめざせばいいと考えていますが、厳しい競争になりそうです。
クックビズ世古:店舗の運営のほうで変化はありましたか?
荒川さん:そうですね。社員だけの営業になったり、これまで同じ店舗で働いたことがない方と一緒に勤務する機会が持てました。
新たな人間関係の中で、尊敬できる部分を見つけたり、気のおけない友人になった人もいます。
クックビズ世古:コロナ禍になる前は気づかなかったことがあるんですね。
荒川さん:コロナの煽りを受けた1年。トータルでは決して良い状況ではありませんでした。しかしこうなったら、自分自身が力をつけて生き残っていかねば。向上心をもって前向きでいようと思えるようになりました。
クックビズさんに声をかけてもらい、こんなふうに座談会に加わったことも良いターニングポイントになったと思っています。お店のスタッフに対してはケアしてたけど、自分自身が行きづまっていたところだったので。
クックビズ世古:こちらこそ、そう言っていただければ幸いです。
荒川さん:クックビズの座談会でZoomを使ってオンラインでコミュニケーションとる機会ができたことで、抵抗なく「Clubhouse」も始められましたし。
SNSも放置しがちでしたが、コロナからまた復興し、飲食業界を盛り上げるためにもしっかり活用していきますね。
クックビズ世古:これからもどうぞよろしくお願いいたします。
まとめ
この1年、コロナ感染拡大の影響を受けた飲食業界。
荒川さんのように、時間に余裕ができたことを機に、資格を取ったり、オンラインセミナーを受けたり、スキルアップを行ってきた方も多いと思います。
「復興をめざすような気持ちでいる」と言い切る荒川さん。コロナで価値観が変わったこともありましたが、「お客様をおもてなしする心や飲食業界にかける想いは変わらない。コロナ後もやるべきことは同じだ」とポジティブなお気持ちを聞かせていただきました。
クックビズも微力ながら、飲食業界を盛り上げる努力をしていきたいと思います。
<協力>
店名 | 和食居酒屋「空本店」 |
<写真提供>
和食居酒屋「空本店」
※座談会風景を除く