
定期的に開催しているクックビズオンライン座談会。今回は、イタリアで活躍する若手料理人・吉川 朴(よしかわ ほお)さんと川崎 大輔(かわさき だいすけ)さんのお二人にお話をうかがいました。
テーマは、飲食人のための情報収集アプリ「ククロ」で配信しているコンテンツの中で気になったという『食のコンテスト』について。
クックビズからは世古と方城が参加しました。
目次
「ククロ」で気になったニュースの共通点は『コンテスト』
クックビズ世古:事前にうかがったご意見で、吉川さんからは、「ククロ」で配信されたニュースの中で「アジアのベストレストラン50」が発表された記事が気になったトピックとして挙げていただきました。
※クックビズ総研:「2021年版「アジアのベストレストラン50」で日本のレストランが躍進!」
今回「アジアのベストレストラン50」が気になったその理由からお聞きしてもいいでしょうか?
吉川さん:ここにノミネートされた台湾にある「Logy(ロジー)」の田原さんが、一緒に働いていたこともあり、実は「ククロ」にニュースとして取り上げられる以前より注目していました。結果、24位に選ばれたということで、それを見てすぐに本人に「おめでとう」とメッセージを送りました。
クックビズ世古:では、川崎さんのなかで最近気になったトピックはなんでしょう?
川崎さん:僕は、別のコンテストですが「料理人版のM-1グランプリ」とも言われている「DRAGON CHEF 2021」ですかね。YouTubeや「ククロ」の中でも何度か取り上げられていたので少し気になって見ていました。
当初はお笑い芸人の方が進行していたりと、バラエティー色が強いのかと思っていたんですが、実際に見てみると、予選からでも言葉にならないぐらいのレベルの高さに驚きました。
こういった形で、一般層に向けて発信力を持ったタレントの方が、若い料理人さんを取り上げてくれるのはすごくいいと思います。
クックビズ世古:今回、お二人ともにコンテスト関連の情報が気になったとのことで、それにまつわるお話をうかがえれば思います。
吉川さんの最後の受賞は「学園祭の料理コンテスト」!?
クックビズ世古:吉川さんはこれまでコンテストなどへの参加や受賞などはどうだったのでしょう?
吉川さん:僕は実はこれまでほぼ無縁に近かったんですよね。日本にいた時は、料理人をめざしていたとはいえアルバイトでもあり、まだ本格的に料理に関わっていなかったこともあるので。
クックビズ世古:そうでした。吉川さん日本では飲食業界はアルバイト経験のみで、その後イタリアに渡ってから本格的に料理人としてお仕事するようになったんでしたね。
イタリアでは何かエントリーしたりされなかったんですか?
吉川さん:実は、イタリアで料理人向けのコンテストって結構少ないんです。「ワールド・パスタ・マスターズ」や、フランスで開催される世界的な「ボキューズ・ドール」等のコンテストはありますが、ヨーロッパ全土に渡るのでちょっと大規模すぎるなあと。
よく考えてみたら、最後にコンテストで賞を取ったのは専門学校にいた時に学園祭でとった賞ぐらいですかね(笑)。
一同:(笑)。
最終選考まで残った川崎さんの応募動機は、当時のシェフからの薦め
クックビズ世古:川崎さんは2018年の「ワールド・パスタ・マスターズ」の日本予選ファイナリストですが、参加されたきっかけはどういったものだったのでしょう?
川崎さん:もともと日本で働いていた京都のレストランにコンテストの告知が届いたのがきっかけですね。
ただ、その当時、30歳以下という年齢制限や、勤続年数、一定の外国語スキルなど、エントリー資格を持っていたのが当時のお店では自分しかいなかったんです。
そこで、シェフに「せっかくだし出てみるか?」と声をかけられ、「じゃあ出てみます」という形でエントリーすることにしました。
クックビズ世古:なるほど、ではどちらかというと最初はご自身で自発的に、というより薦められてやってみようかな?というような感覚だったんですね。
料理人として「コンテスト」に参加する意義とは?
クックビズ世古:日本では多くの飲食人向けのコンテストや大会が開催されています。お二人にとってこういったコンテストに参加する意義とは何だと思いますか?
川崎さん:自分の技術や知識を試すいい機会だと思っています。もちろん、自分の腕試しでもありますが、その料理に込めた想い・こだわりを他の人にしっかり理解してもらうための「プレゼンテーション力」を養う場所だと考えます。
クックビズ世古:なるほど。自分をプレゼンテーションが必要な状況にあえておいて、そこでトレーニングする、という想いがあるんですね。吉川さんはどうでしょう?
吉川さん:知り合いが有名なコンテストや賞にノミネートされていたり、受賞していたりすると刺激になりますよね。
特に若手向けのコンテストだと、同じ世代同士で一緒に競い合って、切磋琢磨できるいい機会になると思うので、チャンスがあれば自分も出てみたいという想いはあります。
イタリアでは料理人向けの「コンテスト」は少ない?
クックビズ世古:先ほど吉川さんのお話で、イタリアでは料理人向けのコンテストが少ないというお話がありましたが、そんなに少ないんですか?
吉川さん:料理学校などでは学校ごとで行われていますが、レストランで働いている料理人向けのコンテストは日本ほど活発ではないかもしれません。
また、州や地域ごとで同じ食材をテーマにしたお祭りが行われているのですが、その催物の中で、ごくごく小規模なものは開催されることはあっても、いわゆる「全国大会」のような規模のコンテストはあまり聞かないですね。
クックビズ世古:そうなんですか。料理人や飲食人向けにさまざまなジャンルのコンテストがあるのは日本の文化のひとつなんでしょうか?
吉川さん:日本の文化というよりも、欧米の文化の色が強いのかな?とも思います。アメリカだと、そういったショーレースやオーディション番組が人気ですし。
川崎さん:僕の場合も、過去一度、フィレンツェのレストランにいるときに当時のオーナーから「パスタのコンテストがあるよ」と聞いたことが一度だけありますが、それぐらいですね。
イタリア人の料理人の友人からもあまりコンテストに関する情報は聞かないです。
クックビズ世古:そうなんですね。美食の国というイメージもあるので日本以上に活発なのかと思っていました。
川崎さん:一般の方を対象とした「MasterChef Italia(マスターシェフ・イタリア)」という食に関する番組はあります。主婦などの一般参加者が勝ち抜き形式で料理を作り、その料理を有名なレストランのシェフが判定するのですが、イタリアではかなり人気の長寿番組です。
吉川さん:ああ、「MasterChef Italia(マスターシェフ・イタリア)」有名ですね。知り合いにも出演したことがある人もいます。
もしかしたら、プロではなく「一般の方の中から、どんなスターが生まれるのか」という部分にエンターテイメント要素を感じて、国民的番組になっているのかも。アメリカでもありますよね。「America’s Got Talent(アメリカズ・ゴット・タレント)」っていう有名なオーディション番組が。
イタリアで注目されるのは「受賞歴」よりも「どこで働いていたか」
クックビズ世古:日本においてはさまざまな受賞歴は、その人自身のスキルの高さを表すステータスのひとつとして認知されていたりもします。イタリアにおいては個人の能力の高さの判断軸として受賞歴が用いられることは少ないのでしょうか?
川崎さん:あまり聞かないですね。どちらかというと、その料理人が過去どんなお店で働いてきたのかを見られることが多いです。
クックビズ世古:それはひとりの料理人に対する評価よりも、お店のブランドの方が影響力が強いということでしょうか?
川崎さん:そんな気がします。レストランのシェフやオーナーシェフとして取り上げられる方は多くいらっしゃいますが、シェフ以外の個人が注目されるケースは少ない。
一部のスーシェフの方、例えばそのレストランでものすごく長く活躍されている方や、それこそ「世界のベストレストラン50」など、メディアに取り上げられたりすることはありますが、稀なケースではないでしょうか。
国民性の違いが垣間見えた、SNSで料理人個人が発信する情報の違い
クックビズ世古:では例えば料理人「個人」が世の中で自分を認知してもらうためにどんなことを行っているんでしょう?
川崎さん:イタリアにいると、料理人はそもそも自分のことや自分のお店のことに関して発信することが少なく感じます。
日本であれば、お店やその方自身のTwitterやFacebook、Instagramなどで「本日のおすすめ料理です!」とか「こんな食材を入荷しました」など、発信する方も多いですが、イタリアだと一人の料理人として個人的に発信することは少ないですね。
発信するとしても「自分の休日の過ごし方」などプライベートなことを投稿している方が多いように感じます。
吉川さん:彼らは「オンオフはっきり」というスタンスが根本にあります。当然、食や料理に対する情熱は持っていますが、一方でオンオフの切り替えを大切にする。メリハリがなくなることで、馴れ合い、仕事への向き合い方も雑になってしまうという考えを持っています。
クックビズ世古:たしかに、以前川崎さんとお話した際も「イタリア人は長期休暇のために仕事を頑張る」という話もありました。
吉川さん:僕が以前、一緒に働いている料理人仲間にオフの日に仕事の話をしたことがあるんですけど、めっちゃキレられましたもん。「せっかくのオフの日まで仕事の話をするなよ!」って(笑)。
川崎さん:もしコンテストに出るとしたら、当然お店の営業時間とは別で、休日にエントリーしたり、与えられた課題を考えることになるので、メリハリを大切にする国民性を考えると、コンテスト自体もそこまで活発化していないのかもしれないです。
クックビズ世古:料理人としての情熱は持っているし、自分もいつか認められる料理人になりたい!という想いはあると思うのですがいかがでしょう?
吉川さん:自分から明言はしなくても、有名になりたい気持ちは料理人なら誰もが持っていると思います。
ただ、「自分の腕が一人前になるのはきっと30年後ぐらいだろう」といったスタンスでもあるので、自分が今アピールすることよりも、腕を磨くことが最優先であると考えるのかもしれないです。
クックビズ世古:なるほど。そういった元々の考え方の違いもあり、イタリアでコンテストがそこまで活発に開催されていない理由のひとつなのかもしれないですね。
いつか「完全体」となった形で自分の腕を試してみたい
クックビズ世古:そういった文化の中で生活されていますが、今後もふまえ、お二人自身はコンテストでチャレンジしてみたいという想いはお持ちなんでしょうか?

「自分が納得いくまでイタリアで修業したい」と語る吉川さんも休日、自身で作った料理をSNSで発信している。
写真は「〜カジキマグロと春の香り〜 カジキマグロのソテー、カラメル風味の洋梨、春野の野菜のソテー、金柑のシロップ漬け」。
吉川さん:今回知り合いが「アジアのベストレストラン50」の中にラインナップしたのを見て、改めて火が点きましたよね。自分もこの中にいつか選ばれたいなと。
自分がこれまで積み重ねてきた努力が認められるということで、大きな自信にもつながります。
なので今は、自分が納得いくまでイタリアで勉強して、日本に帰ってきたらぜひという想いはあります。その時までに幼体から「完全体」へと成長しておきたいと思います(笑)。
川崎さん:僕も過去に挑戦した「ワールド・パスタ・マスターズ」にもう一度挑戦してみたいですね。あの時は日本代表の最終選考までいったものの、最後に負けてしまって悔しかったのでぜひリベンジしたいですし、当時イタリア語プレゼンテーションする際に、翻訳をサポートしてくれたイタリア人の友人のためにもぜひ次こそは、という想いがあります。
まとめ
今回、ククロを利用する中で気になった「アジアベストレストラン50」や「Dragon chef」のニュースから「コンテスト」に関する考えやイタリアと日本との違いなどについてお聞きしてみました。
今はなかなかチャレンジする機会に恵まれていないものの、やはり自分自身の技術・知識のレベルを測る上でも、コンテストや大会でチャレンジすることの意義を改めておうかがいできました。
いつか今日、お話を聞かせていただいたお二人が「完全体」として帰国し、数々の賞で受賞されたニュースが届くことを楽しみにしたいと思います。
<参加者プロフィール>
■吉川 朴さん
2015年よりイタリアに渡り、ミシュラン一つ星レストラン「ラ・チャウ・デル・トルナヴェント」や「グラン カフェ リストランテ クアドリ」を経て、2020年11月よりベネチア近郊の三つ星レストラン「Le Calandre(レ・カランドレ)」で、メイン料理を担当。現在に至る。
■川崎 大輔さん
現在北イタリアのピエモンテ州在住。白トリュフで有名なアルバ近郊にある人口300人ほどの小さな村・セッラヴァッレ・ランゲにあるトラットリア「La Coccinella(ラ・コッチネッラ)」で現在、料理人として前菜とデザートを担当。2018年「ワールド・パスタ・マスターズ」ファイナリスト。
<協力>
店名 | Le Calandre(レ・カランドレ) |
店名 | La Coccinella(ラ・コッチネッラ) |
<料理写真提供>
- 吉川 朴さん
- 川崎 大輔さん