赤い自転車とデリバリー用のかばんの写真集赤い自転車とデリバリー用のかばんの写真

コロナ禍で迎える2度目の春。コロナ感染拡大が止まらず「まん延防止等重点措置」がとられる中、大阪、神戸のフレンチ料理人をお招きし、オンライン座談会を開催しました。

テーマはズバリ「今、シェフが気になる話題とは」。今回、テイクアウトデリバリーゴーストレストランの現況と今後が気になるとのことで、この3つの業態について話し合いました。
巣ごもり消費が続くウィズコロナ時代、新しい食生活のスタイルとして今後、この3つがどう定着していくのか、今、何ができるのか。トークスタート!

クックビズからは、座談会運営の世古、方城、杉谷が参加しました。

座談会全体の様子

森下 裕介さん(下段左):フレンチレストラン「Recette(ルセット)」スーシェフ(神戸)
白竹 俊貴さん(下段右):フランス料理「PERTICA(ペルティカ)」シェフ(大阪)

コロナ禍で需要増。第一波の爆発的な売れ行き、急遽、製造業許可を取得

クックビズ世古:今回は「シェフが気になる話題」についてです。森下さんからはゴーストレストランが気になるというお話をいただいていますが。白竹さんは?

白竹さん:最近、気になっているのは、いわゆる「テイクアウトの需要は増えているのか、減っているのか」ということ。

クックビズ世古:ゴーストレストラン、テイクアウト・デリバリー。ウィズコロナ時代、新しい飲食業態のカタチとして今後どうなるのか気になるところですね。
皆さんの店舗では、テイクアウト・デリバリーなどは行っていらっしゃいますか?

森下さん:はい。テイクアウトは、コロナ第一波の頃が一番需要がありました。急いでそうざい製造業の許可も取得しましたよ。毎日5件10件、週末なら20件とか。
けっこう高額でも売れましたね。配送依頼もありましたし、これからデリバリーの需要は高まるなと、そのとき思いましたね。

白竹さん:そうですね。第一波の時が一番ドカンときました。ちょうど1年前の2020年春頃でしょうか。

顎に手を置き朗らかに話す白竹さんの写真

テイクアウト業務が忙しく、通常の店を営業するより、こっちでやっていったほうが良いのではと思ったぐらいなんですけど(笑)。
しかし案の定、日が経つにつれて注文がなくなっていきました。

第二波以降、オーダーは失速。テイクアウトで伸びる店ってなんだろう

森下さん:そうなんです。コロナ第二波までは、当店もテイクアウト需要、駆け込み需要があったんですけれども。現在、テイクアウトは月に2~3度の依頼になりました。

しかしその反面、Uber Eats(ウーバーイーツ)をはじめ、新しいデリバリーサービスの広告が入ってきてますし、ゴーストレストランのニュースもよく目にします。だから意外に他の店では需要が伸びているのかなと気になっていました。

白竹さん:そうですね。テイクアウト・デリバリーで戦えている人がいることは事実なんで、売上が伸びる何か良い方法があるのかなと思っているところです。

最近でいえば、カヌレやパテアンクルート(お肉のテリーヌを生地で包んだ料理)などが売れているので、当店もそういうもので攻めたほうがいいのかなと思うことも。ほかでは売っていない商品なので売れているのかもしれませんが。

「 PERTICA(ペルティカ)」の人気スイーツ「カヌレ」と「パテアンクルート」の写真

白竹さんが勤めるフランス料理「 PERTICA(ペルティカ)」の人気スイーツ「カヌレ」(上)、「パテアンクルート」(下)。

クックビズ世古:第一波の時は、会社や商業施設、飲食店も休業するところが多かったかと。今は時短営業ではありますが店は開いているので、レストランに行って食べようと思って注文が減ったのでしょうか。

白竹さん:それもあるでしょうね。第一波のテイクアウト需要は、常連さんの「お店つぶれないで」というコロナ禍の応援だったのかなとも思います。

クックビズ世古:森下さんのところはどうですか?

森下さん:今もデリバリーとテイクアウトの両方をしていますが、PRはやめました。HPからもその項目は完全に消しましたし。
電話で「テイクアウトってまだできるんですか?」と言われたら、「用意はできます」という感じ。

白竹さん:あ~、ウチも一緒ですね。

冷めても、温めなおしても美味しいもの。宅配寿司、ピザはデリバリーに特化してよく考えられている

クックビズ世古:ところでみなさんご自身は、Uber Eatsや出前館などのデリバリーサービスを使ったことはありますか?

白竹さん:私はヘビーユーザーです。

クックビズ世古:料理人からみて、レストランのデリバリー、ゴーストレストランなどの新興勢力、もともとの宅配専門店…。利用した感想はいかがですか?

白竹さん:正直、コロナ禍を機にできたゴーストレストラン系のものより、昔からあるハンバーガー等のチェーン店は、テイクアウトやデリバリー特化だけあってうまくできています。

私自身、案外、そういうものしか買ってないんです。テイクアウトでいえばコンビニ弁当なんかもうまく企画されていますね。

森下さん:私もそう思います。宅配のピザやお寿司を頼むと期待通りのものが届きます。先日、ローストビーフ丼が美味しい近所の店で初めてデリバリーを頼んだんです。

笑顔で話す森下さんの写真

いざ届くとご飯はホカホカで温かかったんですけど、肉のドリップがすごくて。白いご飯が真っ赤に染まってて食欲が失せたといいますか…。

当店でつくる料理も、店内でのお召し上がりを前提に作っているので、それをそのままデリバリーにして美味しさで勝負できるかといわれると…。

通常メニューにあるものをデリバリーにしているので、詰めが甘い部分がありそうな気がします。

クックビズ世古:デリバリーですと、時間がたっても温めなおしても美味しいものですよね。ふだん店内で提供されている料理とは真逆といえますね。

森下さん:出来立てが美味しい料理と冷めても美味しい料理は、まったく別物という気がします。細かくいえば、ビュッフェ料理も少し時間をおいても美味しくいただけるよう配慮されていますし、1つの料理ジャンルとして確立されていますね。

白竹さん:やっぱりテイクアウトとかデリバリーで食べたいものって、自分達がお店で出しているような料理というよりも、ジャンク系の方が日常使いではニーズが高いと思いますよね。

クックビズ世古:確かにそうかもしれません。

白竹さん:ただ、料理学校を卒業して、本格的なフレンチやイタリアンなんかをやってきた人が、日常生活の中で消費者が癖になってしまうようなジャンクな味をすぐに考案するのは難しいかもしれないです。

テイクアウト・デリバリー業態を成功に導くポイントとは

クックビズ世古:テイクアウトやデリバリーで成功するポイントはなんでしょうか。

森下さん:デリバリーに特化して研究することではないでしょうか。メニューや運営フローなど。しかしそうなると街場のレストランは、それだけを追求しているゴーストレストランには敵わないと思います。

森下さんがスーシェフを勤めるフレンチ「Recette(ルセット)」のテイクアウトメニューの一例

森下さんがスーシェフを勤めるフレンチ「Recette(ルセット)」のテイクアウトメニューの一例。現在は問い合わせがあった場合のみ対応。

白竹さん:私は集客力かなと。エンドユーザーが見えない仕事なんで、いかに広告をうって、スタートダッシュである程度の注文を受けられるかが勝負かなと。

今、いいレストランでデリバリーで成功している商品といえば、「チーズケーキ」ですよね。クオリティを落とさずに作れて冷蔵でも冷凍でもOK。万人が喜ぶスイーツなのでストライクゾーンも広い。

森下さん:当店も実はチーズケーキはやっていました。ゴルゴンゾーラのチーズケーキです。

クックビズ世古:通常業務を行いながら、デリバリーに特化したメニュー開発をするのは大変ですよね。

テイクアウト・デリバリー需要は今後も続く。本当は大きなチャンス

クックビズ世古:京都では、星付フレンチが「餃子」メニューだけで、テイクアウト、お取り寄せで成功しましたよね。

白竹さん:フランス料理店「MOTOI(モトイ)」さんですよね。

クックビズ世古:当社が運営する飲食人のためのアプリ「ククロ」では、食に関するニュース配信をしています。最初はいろんなお店がテイクアウト・デリバリーをして話題になっていたのですが、この半年たらずで「デイリーな食事」としてのニュースが多くなってきたように感じています。

「餃子」のようなデイリーな1点や、貴店の一番人気メニュー1点で勝負というのは、具体的に考えたことはおありですか?

白竹さん:考えますね。当店はフレンチなのでパテを作りますが「今日の晩御飯」にはむかない。

餃子など、スーパーの冷凍食品コーナーに並んでいるようなおなじみ料理は、基本テイクアウト・デリバリーに強いんじゃないでしょうか。

チーズケーキと同じでストックできて、お客様が来店したら、そのままテイクアウトしてよし、焼いてよし、蒸してよし。テイクアウトとして万能ですね。

森下さん:当店のテイクアウトは基本オードブル系。ハレの日向けですね。だから前もって予約が入ります。しかし日常でテイクアウトしようと思う時って計画性というより思い付きですよね。

フレンチ「Recette(ルセット)」のテイクアウト商品の写真

フレンチ「Recette(ルセット)」のテイクアウト商品。

クックビズ世古:デイリーなテイクアウト・デリバリーとは、そもそもターゲットが違う感じですよね。

白竹さん:自宅でパーティーをしたり、ワインをあけて食事を愉しむ需要を探すより、一般家庭の食事のニーズを満たす方が圧倒的に需要が多いですしね。

クックビズ世古:そういう主婦(夫)層向けの毎日の飽きないおかずですね。

利用者からすると、日常のテイクアウト&デリバリーでも強い味方になってくれたら、お店の情報はしっかりインプットされそうですね。

「今日どこに食べにいこう」っていうときに迷うことも多いけれど、「いつもテイクアウトしているあのレストランは?」という新たな流れも生まれそうです。

「お気に入りのレストランで、テイクアウトする」という流れから、
「いつもの“アレ”がおいしいフレンチ店に、ごちそうを食べに行こう」という双方向的な流れといいますか…。

森下さん:東京では、街場のレストランがテイクアウトでヒットしていると聞きます。今後、成功例がたくさん出てきたら、見習うべき点・盗める点を見つけていきたいです。

白竹さん:そうなんですよ。本当はチャンスなんですよね。

クックビズ世古:違う集客を試みるいいきっかけという気もしてきますね。今後もテイクアウト&デリバリーについて動向をみていく必要がありそうです。今日はありがとうございました。

まとめ

今回のシェフの気になるトピック「テイクアウト・デリバリー、ゴーストレストラン」。

2021年4月5日付の日本経済新聞によると、フードデリバリーの市場規模は2021年に5,678億円、2023年に6,821億円が予想されるとのこと。

これまで出前配達市場は、個人経営店による「出前」が主流でしたが、今やピザや寿司の「宅配サービス」がすっかり定着し、さらにネット注文が若い世代だけでなく幅広い世代に広がっていきそうです。

また日本での出前配達業の利用者数トップは出前館、2位は僅差でUber Eatsとなっていますが(※ICT総研:2021年2月調べ)、今春からアメリカ最大手のDoorDash(ドアダッシュ)も日本に進出。市場はますますサービス合戦になることが予想されます。

クックビズでは、今後も「クックビズ総研」、飲食人のための情報収集アプリ「ククロ」を通じて、テイクアウト・デリバリー、ゴーストレストランについての動向、情報を発信していきます。

<座談会 参加者紹介>

■白竹 俊貴さん
大阪市内のフランス料理店や、北新地の人気フレンチ「弘屋」に5年間勤務したのち、2016年大阪府豊中市にて、フランス料理「PERTICA(ペルティカ)」オープン時にシェフに就任。「RED U-35」2019年 BRONZE EGG受賞。料理人でありソムリエとしても活躍。

■森下 裕介さん
神戸・三宮の中でも異国情緒あふれる北野のフレンチレストラン「Recette(ルセット)」勤務。20代後半よりスーシェフに就任。「RED U-35」2019において「2019 BRONZE EGG」受賞。

<協力>

店名 フレンチレストラン Recette(ルセット)
店名 フランス料理 PERTICA(ペルティカ)

<写真提供>

フランス料理「PERTICA(ペルティカ)」
フレンチレストラン「Recette(ルセット)」
※座談会風景を除く