「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」のオーナー藤井さんが箱に入った魚介類を抱えている写真

■藤井 将一さん/「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」のオーナー、NPO法人「繁盛店の道」北海道地区本部長
2012年7月、株式会社ラフダイニングにアルバイトとして入社後、約3ヶ月で本店店長へ。後に5店舗での統括店長を経て、第13回「S-1サーバーグランプリ」最優秀賞を獲得。現在は、独立して札幌「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」を経営。NPO法人「繁盛店の道」北海道地区本部長を務め、講演活動も行う。

忙しく店を経営してきて、ふと気づけば出来上がったやり方がルーティンワークになっていることがあるものです。

そこでクックビズが定期的に開催しているオンライン座談会では、今回、店で当たり前になっている「慣習」に着目。他店の“当たり前”を知って、自分の店を振り返るきっかけにしてみませんか。

2回目の緊急事態宣言が11都府県に出されるなか、コロナ禍でも地元の人に愛され続ける北海道札幌市の創作居酒屋「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」のオーナーにインタビュー。オーナーの藤井 将一さんから、行動できるスタッフへと導く「ある慣習」についてお聞きしました。

クックビズからは、座談会運営の世古、方城、杉谷が参加しました。

座談会の参加者4名の写真

藤井 将一さん(下段右):「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」オーナー兼料理長(北海道)

慣習1:学生スタッフが多い店。歓迎会や誕生日会にはじまり、最後は追いコンで卒業!

クックビズ世古:今回、自分のお店で当たり前になっている慣習や文化、取り組みについてお聞きします。よその店にない藤井さんのお店の“あるある”は何でしょう。

藤井さん:当店でいえば、「儀式」(セレモニー)を大切にしています。といっても堅苦しいものではなく、バイトをはじめとするスタッフとの絆を深めるためのものです。

クックビズ世古:例えば?

藤井さん:アルバイトは大学生が多いんですが、歓迎会や誕生日会です。それも今はコロナ禍でできませんが、パイ投げをしたり、ビールかけをすることもあります(笑)。

一同:え~っ!

藤井さん:新人さんがきたら、洗礼を受けたスタッフが「歓迎会、いつやります?」って楽しそうです。いつのまにか文化になっていますね。

白いヘッドホンを付けて話をする藤井さんの写真

クックビズ世古:すぐに打ち解けられそうです。

藤井さん:独立する前の居酒屋で店長をしてた頃から行っていたことなんです。
学生アルバイトは、就職を機に店を卒業するんですが、その時は常連様をお呼びして店を貸し切って卒業記念の会です。本人はホールをまわってお客様と乾杯。経営上も、平日にお客様がおおぜい集まるので売り上げも上がります。

クックビズ世古:お客様からお祝いの言葉をもらえるって、うれしいですよね。

藤井さん:そうですね。お客様もよく通う店のスタッフって、子どもみたいな存在になってくるんですよ。時には、卒業のお祝いに贈り物がズラリと並ぶ年もあります。
会の締めくくりは照明を落として、私からメッセージを伝えます。
で、やっぱりパイ投げなど。もちろんこれも当時の話(笑)。お客様といっしょに盛り上がります。

クックビズ世古:いい思い出になりますね。

藤井さん:後輩たちも、みんなから惜しまれて旅立つ先輩を見て「自分もそうなりたいな」と思うもんです。励みになっているようですよ。

クックビズ世古:お客様をファンにしたいと思うようになりますよね。

慣習2:「基本」を突き詰めると「特別」になる。だから「基本」には厳しいです

藤井さん:当店にはもう1つ“あるある”があって、それは「基本」を大事にすることです。
「基本」を究極に突き詰めていくと、ただの基本ではなく「特別」に変わります。それは世間でいう“インスタ映え”以上に、お客様の心に残ると思っています。
だからスタッフには「基本」を徹底して繰り返し伝えます。

「和酒・旬菜・心 ひょうきん顔」では、レアな地酒とこだわりの美味しい料理が楽しめます。食材は生産者から直結仕入れたものを主に使用。襟裳岬沖の荒波で育った新鮮な魚介類を使った刺身盛りなど絶品料理が多数。日本酒専用の冷蔵ケースがあり、料理に合うものを選べます。

クックビズ世古:例えばどんなことでしょうか。

藤井さん:例えば、

  • お客様がお年を召した方だったら、オーダーを取る際も横からそっと近づく、耳元にむかって、やさしく、でも大きくはっきりと伝える。
  • 二人連れのお客様がきて、片方は呑むペースが早い、片方は遅い…となると、空のグラスを下げてご注文をお伺いする際、1度目は両名様に「お飲み物をお伺いしましょうか」と聞いても、2回目以降は、呑むペースの遅い方には無理にお伺いしないようにする。

という感じでしょうか。

クックビズ世古:なるほど。

藤井さん:お客様をちゃんと見ているのかを大事にしています。1度目の失敗で注意をうながし、何度も繰り返したら私のカミナリが落ちます。
ほかにも左利きなのに、左から空いたお皿を下げにいったり、ビールの取っ手を右向きにしたりだとか。もう自分でも細かいなぁと思います、ほんとに。(苦笑)。

一同:(笑)。

クックビズ世古:何がお客様にとって良いのか、見極めて行動するということですよね。

藤井さん:あとアルバイトにプロ意識をもってもらうためです。

慣習3:月1回、全員でミーティング。ポイントはアルバイトの自主運営にすること

クックビズ世古:そのためにどんな工夫をしていますか?

藤井さん:当店では毎月1回全員でミーティングをします。その時に実際にあった好事例やアクシデントの対応例をみんなに共有。スタッフ全員のひきだしがグンと増えるようにしています。

「和酒・ 旬菜・ 心 ひょうきん顔」の店内の写真

クックビズ世古:ケーススタディですね。

藤井さん:飲食店はそれ大事ですよね。1,000人のお客様がいれば1,000通りあります。
ミーティングは持ち回りで担当を決めて行います。担当者は日程を調整し、議題を考えます。議題といっても
「グラスってどう洗ったら、ベストなのか」
「日本酒の正しい注ぎ方は?」
「お会計の伝票をお渡しすべきお客様を、どうやって見極めるのか」
など、日々の業務の疑問や気づきです。

クックビズ世古:ミーティングの成果って現れますか?

藤井さん:現れますね。自分たちで運営して、自分たちで決めたことは、忘れないものです。

クックビズ世古:ミーティングが受け身だと、ただのトップダウンになりがちで参加も億劫です。

藤井さん:そのうち欠席者が増えて、ミーティングをしなくなるという店はあると思います。ポイントは、ミーティングを楽しいと思えるものにすること。

そのためにも、自分たちで
「店の課題を出す → 解決策を導き出す → 実践 → お客様に喜んでもらう」
を一巡をしないとね。楽しくなってこない(笑)。

口元に手を当てて話す藤井さんの写真

クックビズ世古:アルバイトも、やりがいをもって働けそうです。

藤井さん:店の課題、スタッフそれぞれが思っていること。点と点をつなげて流れをつくるのが私の仕事かな。一回つながれば、スタッフ自身が動きはじめる。こういうのが私の店の“あるある”慣習かな。

巣立った学生の多くが就活に成功!家族を連れて来店するなど、縁はどんどん広がる

藤井さん:プロ意識を持った学生は、就活でも力を発揮しますよ。多くが希望の就職先に内定します。

クックビズ世古:しっかりと社会経験を積むことができたからですね。

藤井さん:元アルバイト生とはね、今も縁がつながっています。結婚式によばれることもあります。
婚約者と「お礼を言いに来ました」といって店に食事に来て、帰り際に「お釣りはいらないです」って…帰るやつも。「こいつ、お金がなくてさんざん俺のたばこを吸ってたのに~」って涙がでますよ(笑泣)。

一同:(大笑い)。

クックビズ世古:話を聞いて、ここで頑張れた学生が希望の就職先に内定するということがわかるような気がしました。

藤井さん:結局、「人」だと思うんですよ。

クックビズ世古:本当にそうですね。アルバイトが自主的に動けるとお店も活気づきます。今日はお忙しい中、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

まとめ

業態に関わらず人を育成するのは本当にむずかしいという話をよく聞きます。
アルバイトスタッフが、自主的に仕事に取り組み、手ごたえを感じる体験が大きな成長につながっているんですね。そんな社会経験が就職戦線にも打ち克つ力となっていることも興味深かったです。
お客様、店、そしてスタッフのWin-Win-Winの関係があるからこそ、いつも寛げる居心地のいい店になっていると感じた取材でした。

<協力>

店名 和酒・旬菜・心 ひょうきん顔