
2021年6月、安全衛生規格「HACCP(ハサップ)」が、完全義務化されます。
「HACCP」は食品・製品の安全確保を目的とし、健康上の危害要因を排除するために仕入れから出荷までの衛生管理の手法を定める規格。食品関連事業はすべてその対象となり、現在多くの飲食店で「HACCP」導入の準備が進められています。
「HACCP」を導入したら何がどう変わるの?はじめ、コロナ禍でのリアルな飲食店の衛生管理や食材の管理について、ホテル料理人として勤務する細田さん、オーナーシェフとして飲食店を経営する荘田さん、松島さんに語っていただきました。
<プロフィール>
■細田 隆広(ほそだ たかひろ)さん
「hyatt regency tokyo」内「中国料理 翡翠宮」(東京)
日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」において、2019年度のBRONZ EGGを受賞。中国料理を専門に、「和魂漢菜」を自身の料理スタイルとし、ホテル料理人として腕を振るう。■荘田 洋介(しょうだ ようすけ)さん
1985年、岐阜県生まれ。辻調理師専門学校グループのフランス校へ留学。研修先であるアルザス地方ストラスブールのビュレイーゼル(当時三つ星)で大垣オーナーと出会う。帰国後、2010年より大垣氏の右腕として活躍。2016年より「ヴェール・パール・ナオミ・オオガキ」の店長兼料理長に就任。「RED U-35」2019 BRONZE EGG受賞、現在35歳。■松島 佑季(まつしま ゆうき)さん
1988年、埼玉県生まれ。調理科高校を経て、武蔵野調理師専門学校に入学。卒業後、都内レストランで勤務後、フランスで修業を積み、現在は前衛的なフュージョン料理を提供する「81(エイティーワン)」の料理長として、手腕を振るう。「RED U-35」2019年 BRONZE EGG受賞、現在32歳。※本文登場順
「HACCP」による「検体」は、温度管理を便利にする!
クックビズ世古:本日は細田さんからクックビズオンライン座談会のトピックとしていただいた「安全衛生」について掘り下げていきたいと思います。
ホテルのレストランで料理人として活躍されている細田さんですが、現在勤務されているホテルのレストランで導入されているという安全衛生の規格について教えてください。
細田さん:私のいるホテルでは、「HACCP」(※1)「ISO22000」については10年以上前から導入していて、「fssc22000(エフエスエスシー22000)」(※2)は2年ほど前に導入しました。
僕自身も勉強中なんですが、HACCPは食品安全衛生のマニュアル規格です。「HACCP」に製造以外の工場の安全管理に重点を置いた「ISO22000」を足して、さらに独自の規定を加えたものが、「fssc22000」にあたります。
「fssc22000」というのは、アレルギーや食品偽造問題に非常に厳しい規格で、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格です。なので、海外のお客様には取得していることがPRになります。
「HACCP」も国際規格なんですが、より厳しい国際規格としてあるのが「fssc22000」と考えられています。
※1:HACCP/ハサップ。食品の安全確保を目的とし、健康上の危害要因を排除するために仕入れから出荷までの衛生管理の手法を定める規格です。国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会が推奨している国際的に認められた規格。
厚生労働省>政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 食品 > HACCP(ハサップ)※2:fssc22000/エフエスエスシー22000。ISO22000をベースに、より確実な食品安全管理を実践するためのマネジメントシステム規格。国際食品安全イニシアチブ(GFSI)により食品安全の認証スキームの一つとして承認されます。認定は国際認定機関フォーラム(IAF)に所属する認定機関により行われます。
一般財団法人食品産業センター > 日本の法令と認証
クックビズ世古:会社が「HACCP」や「fssc22000」を取得されて、レストランの料理人の業務としては、新たに加わったことはありますか?
細田さん:「HACCP」では、調理した料理を検査機関に検体として提出します。そうして温度の適切な管理ができているか調べるんです。たとえば、「この低温調理の肉の温度は50度」といったことを検査します。そして検査をクリアすれば、そのメニューをお客様にコースとして提供できます。
検体は便利です。これまでは通常、火を通さない前菜の食材は、食べることで安全を確かめてきました。果たしてそれが本当に安全なのか、あいまいだったんですね。
検体に出すことによって安全性が科学的に立証されるので、自信を持ってお客様に料理をお出しできるようになります。
荘田さん:それはすごく便利ですね。すべてのメニューの料理を検体に出さないといけないんですか?
細田さん:毎月新しいメニューが増えたら、検体に出しています。月に4~5品は出していますね。そうすると提供しているメニューはほとんどフォローされていきます。今では何百とあるメニューが網羅されています。
荘田さん:検体は有料ですか?
細田さん:有料ですね。おそらくちょっとかかるかと。(※3)
※3:検体費用は対応機関によって異なります。
荘田さん:衛生面は気を付けていても、細かい部分でほかのお店がどうやっているかは分かりませんし、気になります。
松島さん:ホテルのレストランと街場のレストランとはいろいろ違うとは思います。僕たちも温度管理などは、しっかりしているつもりではありますが、今聞いたような厳密さを考えると、まだまだだなと思いますね。今の時代だからこそ、より必要になってきていると改めて思います。
リアルなコロナ対策!スタッフ一人ひとりの顔色も確認
クックビズ世古:みなさんのお店でのコロナ対策は?
松島さん:僕の店では、マスク着用、アルコール消毒、換気、さらに時短要請の期間に入ったので午後8時までの時短営業です。
荘田さん:うちも同じです。店内の殺菌は、アメリカでコロナ対策に使われている薬剤をアメリカから取り寄せて加湿器で室内に散布しています。
あとはスタッフ各々の顔色や様子を見て、体調や健康面を確認しています。うちのスタッフは我慢しがちなので、我慢させないようにしているというところですね。
営業時間としても、時短要請には応じて1月12日からは20時クローズでやっています。昼をやっていないので影響は大きいですが、今回は助成金が比較的しっかりしていたので、1月・2月の売り上げはおそらくそこまで影響は出ないだろうと感じています。
食材の開封日は必ず書いておく!
クックビズ世古:細田さんの勤務されているホテルでのコロナ対策は?
細田さん:コロナ対策は皆さんと同じですね。コロナ以前からですが1ヶ月に1回、会社の衛生管理担当が徹底的に厨房の清掃状態や食材の開封日などの日付をチェックする「衛生の日」があります。
既製品、調味料、たとえば醤油でも、いつ開けたのか、いつまで使えるのかを、ラベルに書いて貼っておくんですけれども、それが貼ってなかったり、不明瞭だったら、減点対象になります。会社が厳しく取り締まっているので、みんな必死にやっていますね。
クックビズ世古:松島さんは食材や調味料はどうしてますか?
松島さん:使うたびに逐一食べてはいますね。料理人としては、食材が使えるか、良くないかの状態を識別するチカラがとても大事になると思います。
アレルギーに関しては、お客様との予約の段階で好き嫌い含め情報を得て、共有しています。ミスがないように常に気を配ってはいますね。
荘田さん:細田さんのいるホテルほど厳密ではないですが、食材や調味料を開けた日、仕込んだ日は書くようにしています。
それと、新しいスタッフや経験が浅いスタッフには、あえて鮮度が落ちた食材などを味見してもらったり、においを嗅いでもらっています。「良いもの」「良くないもの」を、ちょっとした変化で気づける感覚を磨くためです。冷蔵庫の温度も目安があるので、毎回、自分の目と感覚で確認するように伝えています。
ただ今は、常時マスクをしているので、においを感じにくくなっていないかが気がかりです。だからいつも以上に気を付けるようにしていますね。
クックビズ世古:みなさん細心の注意を払っているんですね。
まとめ
いよいよ6月に「HACCP」が完全義務化されます。飲食店ではコロナ禍の衛生管理、時短要請の対応に追われつつ、さらに「HACCP」の対応も重なってきます。「HACCP」がどのような規格か、そして導入することで何がどう変わるのか、クックビズ総研では今後も追っていきたいと思います。
<協力>
店名 | 中国料理 翡翠宮 |
店名 | ヴェール・パール・ナオミ・オオガキ |
店名 | 81(エイティーワン) |