ゲストは女性4名の座談会の全体の様子

今回のクックビズオンライン座談会テーマは、「自分のお店の習慣、ほかの店ではあまりないかも?」。
どこのお店にもある「習慣」や「常識」。自分のお店の当たり前が、他からみれば新鮮に映ることもあります。

今回のクックビズオンライン座談会では、「S-1サーバーグランプリ」受賞者はじめ、飲食業界の最前線で活躍する4名の方が集結!まかない、売り上げの共有、ユニークなコールの方法といった現場のリアルなルールを、第一線で活躍する方々に赤裸々にお話してもらいました。

バリスタならではの斬新なこだわり!「ぶどう果汁」でコーヒーづくり?

クックビズ世古:今回は自分のお店や会社では習慣化しているけれども、「実はこれって他の飲食店ではあまりないんじゃない?」という独特なコト・モノをご紹介いただきます。

加藤さん:私が働いているコーヒー専門店では、いろいろなお水を取り寄せていまして、飲み比べてみたり、成分や硬度を測って検証したり、カクテルみたいにほかの液体と混ぜてみたり、いろんな試みをしています。

笑顔で語る加藤さんの写真

あるスタッフが、コーヒーをお湯で抽出するという概念を取っ払って、果汁での抽出に挑戦しています。カクテルみたいに果汁と混ぜるのではないんです。コーヒーをお湯で抽出するのではなく、濃いぶどうジュースを温めて圧力をかけて、そこにコーヒーの粉を浸して抽出するんです。

クックビズ世古:え?

加藤さん:最初は私も「え?」と思いました(笑)。お水ではないものを使うことで豆のポテンシャルを引き出したいということなんですが、かなり斬新だと思います。

でも、よくよく考えてみたら、最近のコーヒーって、苦いだけじゃなくて、風味だったり、香りだったりにフォーカスしたコーヒーも多様にあります。あえて強い風味や香りのもので抽出することで、相乗効果で新しい味が生まれる可能性はあります。

お水以外で抽出するという発想が普通はないと思うので、この店独自のものかなと。

クックビズ世古:そのような試みは、あまりないかもしれないですね。

グレーのパーカーにイヤホンを付けた笑顔の加藤さんの写真

加藤さん:バリスタのコンペティションや大会で、バーテンダーや調理のスキルを取り入れることはあるとは思うのですが、お店に出す商品の開発として、そのような取り組みは私自身、聞いたことがないですね。

鈴木さん:私の店ではスパークリングワインに果汁を入れたり、サングリアを出したりする程度ですね。でも新しいことをするのは勉強になりますね。

荒川さん:うちもスタッフが商品開発に携わることがなくて、毎月の料理ミーティングはあって提案はするんですが、ドリンクに関してはあまりないです。バリスタの世界は職人の世界なんだなと感じますね。面白いです。

「まかない」って実は大事!食べたことがないという声も

クックビズ世古:みなさん、まかないはいかがでしょう?それぞれのお店の特徴があるのではと思うんですが。

荒川さん:私のいる和食居酒屋では、まかないにはかなりチカラを入れていますね。バイトスタッフはほんと、まかないを楽しみにしています(笑)。バイト卒業生も「つらい時もまかないがあるから頑張れました」とか言ってくれて。

笑顔の荒川さんの写真

まかないでは、実際にお客様にお出ししているものを食べてもらっています。お客様と同じものを食べることで、お客様と料理のお話ができます。なので、価格に関係なく、刺身などもまかないで出していますね。私もまかないで舌が肥えて、家の刺身を食べなくなったりしました(笑)。

あと20歳以上のスタッフはお酒も試飲しています。まかないや試飲は、仕事にも活かせますし、スタッフ同士のコミュニケーションになるので、うちではすごく大事にしていますね。

鈴木さん:私の店は鶏料理のお店なので、まかないはすべて鶏肉です(笑)。

笑顔の鈴木さんの後ろにたくさんのお酒のボトルが並んでいる写真

おすすめのコースは、スタッフに必ず締めまで食べてもらっていますね。自分が感じた感想が一番ほんものの「おすすめ」になると思います。

お料理の説明は、ある程度の決まったフレーズがあるものの、気持ちのこもった「おすすめ」の方が、お客様にも伝わりやすいですよね。ワインも、自分の舌で感じてもらえるように試飲してもらっています。

加藤さん:私がいるのはコーヒー専門店なので、まかないはないんです…。前に働いていたカレー屋さんでも、カレーが売り切れると、スタッフにはまわってこなくて(笑)。だからほとんどまかないを食べたことがないですね。まかない、いいですよね(笑)。

コロナ禍で大変な今だからこそ、売り上げ数値を共有したい

荒川さん:私の会社ではアルバイトスタッフを含め全従業員が、日報をやっています。日報は新人のアルバイトスタッフも見れるようになっていて、毎日の売り上げ、FL(食材費と人件費の合計)、昨年度実績なども、全5店舗の分をすべて公開しています。

首に手をかけた荒川さんの写真

社員には独立希望の人もいるので当然、勉強になります。それだけでなくて、アルバイトスタッフにとっても、数字を見ることで「お客様からお金をいただいている」という自覚が芽生えます。身が引き締まると同時に、お客様への感謝の思いが強まるし、その思いを育てていくという意図があります。

アルバイトスタッフも中堅くらいになってくると、「自分たちが頑張ったから、これくらいの売り上げが出た」というやりがいを感じられるようになるので、社会勉強のひとつになっていると思います。

クックビズ世古:新人にとっては数字を見るのは難しかったりませんか。

荒川さん:その数字を使って何かをしようというのはなくて、数字を見て、会社の状況を理解してもらえますよね。

今だとコロナ禍の自粛の影響から、アルバイトに入ってもらうシフト時間が通常より短いんですが、人件費の数字を公開することで、「FLが上がっているからなんだ」という風に理解をしてもらえます。シフトが減っても、まかないはいらないとは誰も言わないのですが(笑)。普段からの意識づけが大事なんだなと思います。

鈴木さん:私の店も数字は全員が見ていますね。人件費や在庫のコントロールは、売り上げが立っている時は比較的に容易なんです。コロナ禍の今だからこそ、把握しておいてもらっているという面はあります。

少し首を傾げた鈴木さんの写真

今は、多くのお店で、お店の営業自体をどうするかという判断を迫られるところまで来てしまっています。その中でどうやって売り上げを立てていこうかという話になりますが、今まで通りの売り上げは立てられない。

じゃあ、どれくらいの人数で、どれくらいの営業時間で、どう売り上げを立てていくかを考えなくてはいけない。みなさん同じような思いをされているとは思うのですが、頑張っていかなきゃいけないですよね。

会社が提示する目標値も、今の状況でどういう風に考えていくか。スタッフと一緒に、指導しながら考えていっています。

坂井さん:私の会社でも財務諸表(P/L)を開示しています。また、目標達成に基づいたインセンティブが支給される人事評価制度がありますね。

さらに、入店の挨拶時、一人ひとりと握手をする習慣もあります。これは今はコロナの関係で、肘タッチにしています。

笑顔の坂井さんのアップの写真

店員の元気なかけ声が魅力の飲食店で、「個人情報」どうすべき?

坂井さん:お客様がご来店されたときの「かけ声」が独特だなと感じることもあります。

「ご予約の〇〇様ご来店です!YES!いらっしゃいませー!」というかけ声があるんです。これは名前を呼ばれて注目されながら席に着くのが恥ずかしい方もいるかもしれないと思いますね。

クックビズ世古:確かに、そういう経験ありますね。

加藤さん:以前、「いらっしゃいませ!ぽんぽこぽん!」と声をかけるお店に行ったことがあります(笑)。お店の世界観というかコンセプトは理解できたんですが、新人のスタッフさんが恥ずかしそうで、声をかけられた私もいたたまれない気持ちになって(笑)。

坂井さん:面白いですね(笑)。お店によってさまざまなコンセプトがあるとは思うのですが、名前を呼ぶのはよくないと考えて、今は「ご予約の(人数)名さまご来店です」というふうに、オペレーションを変更しました。

顎に手を当てて話す坂井さんの写真

そもそも、大きな声でコールするのは、紙に書いていたオーダーを、一秒でも早く厨房に通して、スピーディにお客様にお出ししたり、応対するためです。

でも今は電子機器でのオーダーシステムに変わったのでタイムラグがなく、すぐにオーダーが通るようになっています。大きな声でインカムで「(オーダー)はいりまーす」と言っていますが、これは店内の活気づくりですね。

荒川さん:うちは「2名様でご予約の〇〇様です」と言っていますね。どうなんでしょう?お客様に嫌がられた感触はありませんが、ご予約帳は他のお客様には見せないようにはしていますね。

先ほどお話した日報でも、スタッフ間でお客様の情報を共有しているんですけれども、どこまで書くべきかは、慎重に線引きをしています。

領収書のお名前を覚えておくためにスタッフ間で共有する事はあるのですが、たとえばご夫婦かどうかが分からない時には敢えてお名前でお呼びしない場合もあります。

そのお客様に合った対応をできるように、心がけています。お客様から何か言われたことはないですが、こういうご時世なので、気を付けないとと思うようにはなってきていますね。

座談会中盤の全体の様子

鈴木さん:私の店では、スタッフには、お客様のお名前をコール時に呼ばないようにと指導しています。接待の場合も、それぞれの企業様に相手のお名前はお見せしないですし、予約表は見えないように胸にかかえているのが基本です。

ただし、お客様と会話している時は、お名前をお伺いしている以上、お名前で話しかけてはいます。でも、ほかのお客様に聞こえるようなコールは絶対にNGです。

高級業態の場合は、あからさまに不快な表情をされる方がいらっしゃって、その時から気を付けるようになりました。

クックビズ世古:元気な接客を売りにする飲食店のコンセプトと、個人情報の守秘と、ちょうどいいバランスを探っていく必要がありそうですね。

まとめ

お店にはそれぞれにある習慣や当たり前。店の料理を味わうことで、消費者やスタッフ同士でつながる「まかない」、また店内を見渡しても見えない、もう一つの店の姿を理解する「数値」のお話が印象的です。

「人」を中心に進化してきた飲食業界ならではの「習慣」ではありつつも、そこからたどり着くのは、業界の別に変わりなく組織の発展に必要な「思いの共有」なのかもしれません。

<参加者プロフィール>

■加藤 由希奈さん
ECサイト「coffee and spice.」運営。および東京・表参道にあるコーヒー豆店にてバリスタとして活躍。
「KIMBO バリスタ競技会2016」「バリスタグランプリ2017」で優勝。

■鈴木 志麻さん
店舗業務をしながら、チーフホスピタリティートレーナーとして新卒社員の教育を担当。
第14回「S-1サーバーグランプリ」審査員特別賞を受賞。
東京レストランツファクトリー株式会社所属

■荒川 その美さん
和食居酒屋「空」およびカフェなど 統括サービスリーダー。
第13回「S-1サーバーグランプリ」東海地区代表。全国大会準優勝。
株式会社満月所属

■坂井 香織さん
焼肉事業部「焼肉 龍王館」店舗責任者兼サービスマネージャー。人事、広報も兼務するなどマルチに活躍中。第15回「S-1サーバーグランプリ」九州地区代表。
株式会社OBU Company所属

※本文登場順

協力

店名 coffee and spice.
店名 東京レストランツファクトリー株式会社
店名 株式会社満月
店名 株式会社OBU Company