テーブルの上に豆腐が乗っており、端を持った男性が食べようとしているイメージ画像

どこの業界にもある「常識」。働き方や慣習など、業界の当たり前が、他の業界からみれば新鮮に映ることもしばしば。そこでクックビズでは、“業界の当たり前”をふりかえってみることにしました。

2021年初めのテーマは「まかない」。
飲食業界で働く方と定期的に開催しているオンライン座談会にて、京都で活躍する酒井 研野シェフをお招きし、古式ゆかしい食文化に基づくまかない事情についてお聞きしました。

クックビズからは、座談会運営の世古、方城が参加しました。

座談会の全体の様子

■酒井 研野さん(下段中央)/料理人
2009年に京都の老舗料亭「菊乃井 本店」で勤務。2017年には「菊乃井 無碍山房」の立ち上げに伴い、料理長に就任。その後、ニューヨークの「Shoji at 69 Leonard Street」、京都の「LURRA°」、中華料理「京、静華」の勤務を経て、2021年3月、京都岡崎にて「日本料理 研野」を独立開業予定。「RED U-35」2019のBRONZE EGG受賞者。

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月初めは小豆、月末はおから料理…商家の習わしが息づく京都のまかない

クックビズ世古:今回は業界にいると気づきにくい飲食業界の独特の慣習がテーマです。酒井さんは、京都の老舗料亭「菊乃井」でもご勤務していらっしゃいました。京都、日本料理界での、ほかにない“当たり前”はありますか?

酒井さん:京都のまかないについて、お話させていただきます。
京都で商いをする家では、昔から暦を大事にする習わしがあり、それをまかないに取りいれています。
例えば、月初め1日は、頭付きの魚と赤飯をまかないに出します。そして8日、15日はあらめ(海藻)を炊きます。そして月末は「おから」…、お金を空っぽにして、また新たにはいってくるように…という願いがこめられています。(※補足)

※補足

  • 小豆を使ったごはん:家中がまめで暮らせるようにとの意
  • あらめと油揚げの炊いたん:よい芽がでるように、病人がでないようにとの意
  • おから:調理に包丁がいらないことから別名「きらず」と呼ばれる。ご縁やお金が切れないようにとの意
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まかないを食べれば伝わる、作り手の料理への愛情

クックビズ世古:京都ならではですね。「菊乃井」は歴史もありますしね。まかないはいつ頃から任せられるんでしょうか。

酒井さん:入社して1ヶ月ぐらいでしょうか。

少し傾いてる酒井さんの写真

クックビズ世古:思ったより早いですね。一人で担当するんですか。

酒井さん:はい。店のオペレーションが把握できた頃に任せてみるという感じですね。「菊乃井」では、大女将さんからまかないの基本を教えていただきます。もともと京都の商家ご出身の方ですので、暦や生活の知恵に基づく京都の習わしを守っていらっしゃいます。

クックビズ世古:まかないの作法を学ぶんですか?

酒井さん:料理をする者の心構えや義理人情などすべて含めてですね。
まかないを任せられたら、昼晩の2回、主菜、副菜、汁物の献立を考えて、大女将さんに献立をチェックしてもらいます。

クックビズ世古:プレゼンテーションするようですね。

酒井さん:そうですね。大女将さんからは「肉が続いているから、バランスを考えて魚に」や「こんな行事があるから、この食材をおばんざいにしてみては?」というような教えを受けます。栄養面のバランス、暦で節目をつけることなどが基本で、あとは自由です。

クックビズ世古:新人や経験の浅い料理人は、まかないで腕をあげるというイメージがありますが、実際はいかがでしょうか。

酒井さん:私はまかないで料理人の資質…、ポテンシャルがわかると思っています。今活躍しているシェフは、総じて伝説になるほどまかないが美味しかったという話もあるぐらいです。

左の方を向いて話す酒井さんの写真

クックビズ世古:なるほど。

酒井さん:まかないは、自分のつくった料理を、お客様に食してもらう前に、人に食べてもらう機会です。その人がどれだけ料理が好きなのか。周囲の人を自分のつくった料理で喜んでもらいたいか。
いかに愛情をもってつくれるかは、食べればやっぱりわかるんです。

クックビズ世古:まかないは、若手が自分のアイデアを活かせるシーンというイメージもあります。

酒井さん:そうですね。食材をムダなく使っているか、端っこも捨てずに全部料理にしているか、それも含めて努力のあとがみえますね。

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まかないが醸すホッとする味。母の手料理で育ったこともわかる

クックビズ世古:酒井さんが初めてまかないを作ったときはいかがでしたか?エピソードを教えてください。

酒井さん:先輩から言われて印象的だったのは、
「お前の母さんは料理をちゃんとする人だったでしょう、わかるわ」と言われたことですね。

クックビズ世古:料理のどんなところでわかるんでしょうね。

酒井さん:何でしょうね。ホッとする味というんでしょうか。
でも私も人のまかないを食べて、きちんと料理を作ってきたご家庭だったのかはわかりますね。

クックビズ世古:ということは、食材の切り方や道具の使い方ではなく?

酒井さん:例えば、ネギを切るときに雑な切り方でなく、細やかに丁寧に切っているのかなどでわかったりしますね。その方が見え方も美しいし、食欲もそそります。それが料理にかける熱量につながるといいますか。

真剣に話を聞く座談会運営メンバー2人と酒井さんの写真

クックビズ世古・方城:あぁ~、耳が痛いです~(笑)。

クックビズ世古:今春から、独立されるとのことですが、まかないは京都の習わしをとりいれますか?

酒井さん:私たち、料理人は忙しくて、つい自分の食生活をおろそかにしがちです。でも自分自身が良質のものを食べていないと、お客様に良い料理は提供できないと思っています。
だからまかないは、忙しいからと雑に作るのではなく、人のぬくもりが感じられるものにしたいですね。独立してしばらくは人を雇う余裕はないのですが、もし雇用することになったら、福利厚生の一つとして従業員においしいまかないを作りたいです。

クックビズ世古:人のぬくもりが伝わるまかないっていいですね。
今日は新年早々、お忙しい折、ご参加いただきありがとうございました。2021年はコロナ禍で大変な幕開けとなりましたが、今年も座談会を通じて、より良い業界づくりのお手伝いをしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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まとめ

老舗料亭『菊乃井』で修業した経験をもつ酒井さん。「菊乃井」は京都・祇園で創業した老舗で、三代目店主・村田 吉弘氏は日本料理界を代表する料理人。2013年、和食のユネスコ無形文化遺産登録にも大きく貢献した方です。
京都の商家では、毎月、何の日に何を食べるのか決まっており、食生活に節目をつけ、栄養面を考えて引き継がれてきた生活の知恵だといいます。
まかないを食べれば、料理への愛情、そしてその人自身を形づくってきた「食」が感じられるという言葉が印象的でした。

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