イタリア・ベネチアの水路が見える街並み

川崎さん自身、若くしてイタリアに渡り、自分の夢をかなえるために頑張っておられますが、そんな高い意欲を持っている方が、刺激を受けた人とはどんな方なのでしょうか?
※今回インタビューさせていただいた川崎さんの過去の記事はこちら

イタリアの「今」を教えてくれた心強い存在、吉川 朴氏

クックビズ世古:川崎さん本日もどうぞよろしくお願いします。今回、「自分の周りにいる方でぜひ紹介したい人」というテーマを出させていただきましたが、どんな方についてお話を聞きかせていただけるのでしょう?

川崎さん:よろしくお願いします。僕が今回このお話を聞いてまず最初に思いついた方は、自分と同じイタリアで料理人として活躍している「吉川 朴(Ho Yoshikawa)さん」です。

厨房の中でコック服を着てポーズを取る吉川 朴(よしかわ ほお)さん

吉川 朴(よしかわ ほお)氏
1994年、東京都生まれ。東洋大学中退後、武蔵野調理師専門学校を卒業した2015年、イタリアに渡り、ピエモンテにある一つ星レストラン「La Ciau del Tornavento(ラ・チャウ・デル・トルナヴェント)」にてパスタ場を1年半担当を経て、冷菜場のチーフを1年半担当。その後、2018年にベネチアの一つ星レストラン「Gran Caffè ristorante quadri(グラン カフェ リストランテ クアドリ)」にて2年ほど勤務。2020年11月よりベネチア近郊のパドバの三つ星レストラン「Le Calandre(レ・カランドレ)」に移りメイン料理を担当、現在に至る。

クックビズ世古:川崎さんと同じようにイタリアで活躍している方なんですね。

川崎さん:はい、もともと僕が住むようになったピエモンテの一つ星レストラン「La Ciau del Tornavento(ラ・チャウ・デル・トルナヴェント)」にいらっしゃって、当時はパスタ担当として活躍されていました。

その後ベネチアの一つ星レストラン「Gran Caffè ristorante quadri(グラン カフェ リストランテ クアドリ)」に移られ、最近、2020年11月にベネチア近郊にあるパドバの三つ星レストラン「Le Calandre(レ・カランドレ)」で新たにお仕事されていると聞いています。

クックビズ世古:では、もうイタリアで料理人として働きだして、3店舗目なんですね。イタリアに住んでからの長さとしては川崎さんより長いのでしょうか?

川崎さん:僕は28歳からイタリアに移り、いまイタリア生活は2年ほどですが、吉川さんは26歳ながらすでにイタリア生活は5年ぐらいありますね。

クックビズ世古:なんと!その若さでイタリアに5年、ということは20歳過ぎたあたりからもうすでにイタリアで料理人として活躍されていたということですね。

川崎さん:そうなんですよ。自分でいうのもあれですが、僕も割と早い段階からイタリアに渡ったほうだと思ってますが、それより早くからイタリアで活躍されている方です。

クックビズ世古:ですよね。海外に渡って修業や経験を積まれたり、活躍されている日本の方もたくさんいらっしゃいますが、20歳前後で海外に行かれる方、なかなかいらっしゃらないと思っています。

オンライン座談会で吉川さんについて語る川崎さん

ネットでも調べられなかった「イタリアの今」を知れたのは心強かった

クックビズ世古:川崎さんは、そんな吉川さんとはどういった形でお知り合いになられたんですか?

川崎さん:もともと自分が日本にいるときに勤めていた京都のイタリアンレストランではイタリアへの研修があり、その際に当時吉川さんがいた、ピエモンテの「La Ciau del Tornavento(ラチャウ・デル・トルナヴェント)」を訪れたんです。

その時に、厨房を案内をしてくれたのが当時、そのレストランに在籍していた吉川さんでした。

クックビズ世古:なるほど、ではそこで初めて吉川さんとのやりとりが生まれたわけですね。

川崎さん:はい、その当時から自分もイタリアで料理人として経験を積みたいという想いはあったので、Facebookを通じて吉川さんとつながらせてもらって、いろいろと質問したり相談したりさせていただき、交流が始まりました。

クックビズ世古:たしかに、海外生活って分からないことだらけですもんね。

川崎さん:そうですね。日本の料理人の方がイタリアで修業するとなると、ミラノやフィレンツェなどを生活拠点にされる方が多いのですが、自分の場合はピエモンテという比較的田舎だったので、情報もあまり入手できなかったんです。

ネットで調べられる部分もある一方、実際のところはどうなんだろう?という部分はどうしてもわからなかったりします。特に、レストランでの働き方や生活様式の違いなどは、直接質問して教えていただけたのは大きな力になりました。

クックビズ世古:イタリアに行ってからも川崎さんから質問することの方が多いんですか?

川崎さん:当初は自分の方からいろいろ聞かせていただくことが多かったですが、最近は僕自身もイタリアでの知り合いなども増えてきたので、吉川さんから「知り合いにバルサミコを作っている職人さんいますか?」といった相談を受けたりすることもありますよ。

クックビズ世古:そうなんですね。では、今はけっこうイタリアで頑張っている料理人同士で、お互いで困ったことがあったら相談したり、情報を交換する関係になったんですね。

川崎さんが今回、吉川さんをぜひ紹介してみたいといった点、どういった部分がありますか?

川崎さん:はい、自分が吉川さんに対してすごいと思うのは、

  • 料理や食への向き合い方
  • センスや感性
  • 人への接し方

この3つです。

オンライン座談会で吉川さんについて考えながら話す川崎さん

紹介ポイント①:一流を求めて、星付きレストランから星付きレストランへ

クックビズ世古:なるほど。「料理や食への向き合い方」に関してからまずお聞かせいただけますか?

川崎さん:自分が知っている中では、日本の料理人の方だとだいたい3年ぐらいで帰国される方が多いのですが、冒頭でもお話ししたように彼は26歳という若さですでにイタリアでの生活がもう5年になります。

海外に渡った当時が20歳過ぎぐらいなので、その年齢で実際に海外に身を移して、本場の知識や技術を学ぼうとし、実際に行動に移すことはすごいと感じました。

クックビズ世古:たしかに。20歳過ぎで海外一人暮らし、かなり勇気と決断力が必要ですよね。

川崎さん:また、吉川さんは、日本で学生時代から複数の有名店でアルバイトで働いた後、イタリアに渡って、いくつもの星付きレストランで経験を積んでいってます。

「星付きレストランだけ」が、ということでは決してないのですが、世界的な評価を受けているだけあってミシュランの星を獲得している各レストランで働く人達は、みんなすごいモチベーションと上昇志向があると聞いています。

それだけ自分をなるべく「一流」だったり「本物」に触れられる環境において、自分のものにしようとする意識の高さはすごいなと思っています。

クックビズ世古:なるほど「ミシュランの星付きレストラン」については我々一般層にも広く認知されていますが、同じ飲食業界の中から見てもそのプロ意識の一層の高さは感じられているんですね。

川崎さん:そうですね。また、ミシュランで星を獲得されるようなレストランは、全世界中からお客様が来店されます。サービスやソムリエの方をはじめ、そのレストランで働いている方達は1日にすごい数のオーダーをさばきながらも、料理1つ1つの繊細さやクオリティをキープし続けます。プロ意識、というか自分がお店を背負っているという「誇り」をより強く持っているように感じます。

イタリアのレストラン内で3名のイタリア人料理人と集合写真に写る吉川さん

若くしてイタリアに渡り、料理人としての技術を磨く吉川さん(写真:一番右)。同じレストランではたらく同僚と。(2018年)

紹介ポイント②:同世代の日本人料理人離れしたセンス

クックビズ世古:続いてあげていただいた「センス・感性」に関してはどのように感じておられますか?

川崎さん:はい、吉川さん自身もFacebookやInstagramで自身の料理の写真を投稿をされており、最初につながらせてもらった際に、それまで投稿されたいてた写真などを拝見したんです。

吉川さんもその時はおそらくイタリアのレストランでパスタ担当をまかされるかどうか、ぐらいのキャリアだったと思いますが、その時に感じたのは、料理の盛り付けひとつをとっても、日本のレストランで比較的主流の盛り付け方法ではなく、イタリアで主流とされている盛り付けの形であったり、食材の組合せにおいても、思いつかないような斬新な発想を持っていたり。

当時の自分自身や、自分と歳が近い料理人に比べて、なんというか「日本人離れした感性を持っている人だなあ」と驚いたのを覚えています。写真に添えられたコメントや文章なども、同世代の中では、かなり先を行っているような感覚でした。

クックビズ世古:なるほど。料理人としてはまだこれから、ともいえる時期であるのにもかかわらず、SNSへの投稿を見ただけでも、その感性やセンスについて川崎さんは衝撃を受けられたわけですね。

川崎さん:言っても料理人になってまだ数年というレベルには違いはないんですが、アタマひとつ抜けている感じがしました。

京都って、「イタリア料理協会」というものがあって、そこでは年に数回、料理人たちが50名ぐらい集まって料理をするような催しがあったりするのですが、その時も、同世代の中でもなにかこう…オーラみたいなのを感じました(笑)。

クックビズ世古:オーラ!(笑)感性やセンスは、いろんな文化や料理に触れることで鍛えることはできると思いますが、なかなか難しいですもんね。生まれつき料理人としてのセンスや感性を持っているのかもしれませんね。

吉川さんがFacebookに載せた自身の料理作品

吉川さんはFacebookやInstagramに自身で作った料理の写真も数多く掲載されている。

紹介ポイント③:見ず知らずの自分に対しての真摯な対応

クックビズ世古:では最後、「人との接し方」についてはいかがですか?

川崎さん:そうですね。はじめてお会いしたときに感じた部分ですが、とにかく物腰が柔らかく、人にたいして丁寧に接してくださるんです。

Facebookでイタリアの生活等についていろいろ質問させてもらっている時も、誰よりもすごく丁寧に答えてくれて。「見ず知らずの自分なんかによくこんなに丁寧に返信してくれるなぁ」と思ってすごくうれしかったです。

クックビズ世古:そうなんですね。オンライン・オフライン問わず人柄の良さに惹かれたと。

川崎さん:はい。それもあってか人とのつながりも、すごく幅広いんです。国内外の料理人さんはもちろんですが、イタリアでベネチアングラスを作っている方…もうこの道何十年の職人・名人といったクラスの方とつながっていたり、日本で大人気のロックバンドのボーカルの方とかと交流があったり。

クックビズ世古:すごい人脈ですね(笑)。

川崎さん:人当たりの良さ。料理だけでなく、人に対しても真摯に向き合ってくれる方なんだと感じています。

実際にお仕事されている様子を見たことはないのですが、Facebookの投稿を見ていると、包丁など自分の調理道具に関してもすごく丁寧に手入れされている様子がわかり、愛着を持って大切にされているんだなと感じます。

吉川さん愛用がFacebookに投稿した愛用の大小さまざまな包丁5種類。きれいに手入れされている

川崎さんが「丁寧に手入れされていることがSNS上でも伝わった」と語る、吉川さんが愛用する調理道具たち。

クックビズ世古:なるほど。料理、だけでなくその料理を提供する「人」だったり「道具」に対しても真摯に向き合われており、それがしっかりと周りにも伝わっている方なんですね。

最後に、川崎さんがこれから吉川さんとやってみたいこと、などはあったりするのでしょうか?

川崎さん:そうですね。現在、イタリアでも新型コロナウイルスの影響がまだ出て、ロックダウン中でもありますが、吉川さんのお店に食事にいきたいですね。

前回もたしか2015年ぐらいとけっこう前なので、その間でどのぐらい腕や感性が磨かれているのかすごく興味あります!

クックビズ世古:なかなか今は難しい時期ですが、1日にも早く自由にお互いのお店を行き来できる日が待ち遠しいですね。今日はありがとうございました!

オンライン座談会で笑顔で話す川崎さん

まとめ

今までもクックビズの座談会で、イタリアで活躍する日本の料理人という立場から文化の違いや、ご自身の想いなどをお聞かせいただいた川崎さん。

彼も20代半ばという若さでイタリアに渡っているように、そのフットワークの軽さに驚いていましたが、今回川崎さんからご紹介いただいた吉川さんは、川崎さんよりも若くしてイタリアでの料理人経験が長いということで、どんな方なんだろう?と興味深く聞かせていただきました。

そんな中で、「食」に対する非常に高いモチベーションや上昇志向など「プロ意識の高さ」、そして、その「人となり」も相まって川崎さんのように刺激を受けている料理人さんが周りにもっとたくさんいるんだろうな、と感じました。

今回は川崎さんから見た「ぜひ紹介したい人」という観点でお聞かせいただきましたが、ぜひ次は吉川さん自身に、イタリアに渡られた経緯やこれからの夢、そして吉川さんが紹介したい方、などお聞かせいただきたいと思います。
今後もぜひお楽しみに。

<協力>

店名 La Coccinella(ラ・コッチネッラ)
店名 Le Calandre(レ・カランドレ)

<インタビュー協力>

川崎 大輔さん

川崎 大輔さんの調理している様子

北イタリアのピエモンテ州在住。白トリュフで有名なアルバ近郊にある人口300人ほどの小さな村・セッラヴァッレ・ランゲにあるトラットリア「La Coccinella(ラ・コッチネッラ)」で現在、料理人として前菜とデザートを担当。2018年「ワールド・パスタ・マスターズ」(※)ファイナリスト。
(※)クックビズ総研「パスタ界のW杯日本代表が決定!「ワールド・パスタ・マスターズ 2018」日本予選」参照

▼続いてのリレーインタビュー記事はこちら

イタリアのミシュラン三つ星で活躍中の26歳、日本人。五感で“色”を出せる料理人をめざして【リレーインタビューVol.1】