シェフが従業員に問い詰めている様子のイメージ画像

今回のテーマは『やってしまった仕事の失敗』。
クックビズオンライン座談会に参加したのは、東西で人気を誇る名シェフのお二人。六本木の人気店で腕を振るう浅賀シェフと、大阪で活躍するフレンチの名手、白竹シェフという、東西の料理人のお二人。
「2018パスタワールドマスターズ」や「RED U-35」で受賞歴を持つお二人に、今回のクックビズオンライン座談会のテーマ『やってしまった失敗』を軸に、スタッフをマネジメントする立場として「失敗を店舗運営にどう活かすか」語っていただきました。

<シェフのプロフィール>

■浅賀 直斗さん
2013年より九段下の「トルッキオ」の林シェフの下で修業を開始。2016年には「SALONE2007」(横浜)や「バカリ ダ ポルタ ポルテーゼ」(渋谷)などを経て、2018年より「ビオディナミコ」(渋谷)でスーシェフに就任。現在は六本木の「サッカパウ」のシェフを務める。「2018パスタワールドマスターズ」ファイナリスト。

■白竹 俊貴さん
大阪市内のフランス料理店や、北新地の人気フレンチ「弘屋」に5年間勤務したのち、2016年大阪府豊中市にて「フランス料理 PERTICA(ペルティカ)」オープン時のシェフに就任。「RED U-35」2019年 bronze egg受賞。料理人でありソムリエとしても活躍。

座談会の参加メンバー5名の写真

発注ミス、仕込みミス…僕らもたくさん失敗してきた

クックビズ世古:お二人とも現在はそれぞれのお店でシェフをされていますので、若いころの経験で盛大な失敗はありますか。浅賀さんはいかがでしょう。

浅賀さん:料理をはじめたばかりの頃は、やらかしてましたね。発注ミスもしょっちゅうありましたよ。

顎に手を置く浅賀さんの写真

ポルチーニやピサンリといった日本ではあまり生産されていない外国の食材は、輸入食材を扱っているTATSUMIさんやノーザンエクスプレスさんなどで頼むのですが、その発注を忘れてしまったんですね。
確かコース1本のみでやっていた時で、シェフが冷蔵庫開けたら、「あれ?ないじゃん、コースどうするの?」ということがありました。
日本ではカンタンには手に入らないので、近所の八百屋さんではなかなか売っていないんです。

クックビズ世古:あるはずのものがなかったと。そのときの対応は?

浅賀さん:グループ展開している業者さんだと、電話して近くの店舗に取りに行けるんですが、それができない時は別のもので代用するしかないですね。

クックビズ世古:白竹さんは、どうですか?発注ミスありますか?

下からのアングルの白竹さんの写真

白竹さん:昔はよくありましたよ。料理人をはじめたころはほんと多かったですよ。

でも東京だったらそうやって取りに行けるじゃないですか。大阪は、ノーザンエクスプレスさんの店舗がないんです。東京まで取りに行くの無理やなあ(笑)。

クックビズ世古:浅賀さんはほかにいかがでしょう。

浅賀さん:駆け出しのころ、パスタの生地を、シェフから「練っておいてね」と言われたんです。パスタは生地を締めるために、練って真空パックにかけて冷蔵庫で寝かせてから成型するんですが、その最初の行程です。

それを忘れたんです。で、シェフが来て「仕込むよ」となった時に「あれ?練ってないじゃん、どうすんの?」となって。

クックビズ世古:浅賀さんは、ほかの仕事もしながらだったんですよね?

浅賀さん:そうです。自分の仕事があるなかで、急にスポットで入った仕事です。でも、やらなくちゃいけないことなので、紙に書いておいたんですけれども、結局忘れてしまった。

クックビズ世古:それでどうしたんですか?

浅賀さん:シェフに謝って、パスタの作業時間をずらしてもらいました。ただその後、シェフが不機嫌になるんです(笑)。質問したくても、もう何も聞けない雰囲気なのが辛かったですね。

“寝坊”はどうやって、リカバリするか

おのおの動きが出てきた座談会中ごろの様子の写真

クックビズ世古:今だったら、浅賀さんは店の若い子たちにはどう指導しているんですか?

浅賀さん:若い時に自分がやらかしたことは、下の子もやるだろうなという想定の中で仕事はしています。だから基本はカバーできますが、想定外のことをやらかしてくれることもありますね。

クックビズ世古:どんなことですか?

浅賀さん:数か月前のメニューで、野菜のフォン・ド・ヴォーを仕込んだことがあって。フォン・ド・ヴォーは本来、肉の骨とか筋を使うんですけれども、ヴィーガンやベジタリアンの方も食べられるように、野菜だけで作ったんです。

少し困った表情の浅賀さんの写真

その野菜のスライスをコンベクションオーブンで温度設定をして焼いていたんですよ。そしたら入ってきたばかりの子が、自分がオーブンを使おうと、確認せずに温度を上げてしまったんです。

70度で焼いていたのをいきなり180度に上げたので、炭(すみ)が出来上がってしまいました(笑)。

クックビズ世古:それはさすがにリカバリできないですね(笑)。

浅賀さん:その時はヴィーガンのお客様の来店予定はなかったものの、優しい味の仔牛のフォン・ド・ヴォーにして対処しました。でも自分も失敗をやらかしてきたから、怒るに怒れないんですよね。

クックビズ世古:白竹さんは想定外の失敗、ありますか?

白竹さん:料理人1年目ですね。ダシを取る仕事があって、朝の5時半起きだったんです。

くしゃっとした表情の白竹さんの写真

シェフが来るのはまだまだですが、他のスタッフはその時間からランチタイムぎりぎりまで作業しないと間に合わない状況です。僕が一番下っ端だったんでSECOM(セコム)のカギを持っていました。そういう状況なのに、盛大に寝坊したんです。

クックビズ世古:なんと。

白竹さん:他のスタッフを寒い中、外で2時間も待たせてしまって。しかも、その時はランチに間に合わなかったんです。ほんと1日中、店が暗い空気でした…。

浅賀さん:スタッフ全員、カギを持つのがいいですよね(笑)。今のお店は、全員持ってます。

白竹さん:それめっちゃ大事ですよね(笑)。

浅賀さん:それと誰かが寝坊したり、急に病気になってしまうって、どうしてもあることなので、その時に穴埋めをできるように、仕事内容をきちんと共有しておくことって大切だなと思います。

店のスタッフ数で「共有」方法は全く違う

全員すこし渋い表情をしている座談会の様子の写真

浅賀さん:その人しかできない仕事はリスキーですね。今の店は、大人数で働いてるんです。だからたとえばホール1人が抜けても普通に営業はできるんですね。

ただホールとキッチンとで完全に分かれて、各セクションで仕事が分かれています。だから自分の仕事をこなすのはもちろんなんですが、人の仕事が分かるようにしないといけない。他のセクションの仕事を理解できるよう、リーダー同士が共有することが必要なんです。

白竹さん:そういうことできるの、うらやましいです。うちは、超少人数なので、全部のことを全員ができて当たり前!ってところがあります。

しかも「明日は、この食材が入るよ」と急に無茶ぶりをしている上に、「なんで調べてないの?」って思ったりしちゃって…よくないなと(笑)。

クックビズ世古:新しいことって「え?」となりがちですよね。

白竹さん:うちはワインショップもレストランの隣でやっているんですね。だからレストランのお客様にワインの銘柄を指定されて「これが欲しい」と言われるときがあるんです。レストランのスタッフだろうと、とっさに答えないといけない。難しいですねえ(笑)。

クックビズ世古:人数によって、1人がどこまでやるかの違いってありますね。

白竹さん:いやもう、ほんとにもろいですよ。だから今はもう、失敗を失敗と思わない気概がありますね(笑)。

満面の笑みを浮かべる白竹さんの写真

いつも100%の準備で万全を迎えられるのがベストなんですけど、そうならないんですよねえ。だから準備は粗めに、その時その時にベストでこなしていく、という気概をもってやってます。

クックビズ世古:用意したとて、という。

白竹さん:「用意しているはず」という前提自体を疑うんです(笑)。

少し前傾姿勢で話す浅賀さんの写真

浅賀さん:用意しているはず、という前提を疑うのは大事ですよね。特に、大人数だと情報共有が大変です。

たとえば、好みのワインや料理、味付けなどお客様に関する情報は、パソコンに記録します。でも入力漏れが起こってしまうと、お客様が再び来店された時、困りますよね。

クックビズ世古:情報共有の部分、大事ですよね。

浅賀さん:多人数での伝達の難しさですね。「こうしておいてね」とスタッフの1人に話した場合、それを全員に伝達しておくべきなんですが、そこで止まっちゃうことがたまにあったり。スタッフ数が少ないと、そのリスクを最小限に抑えられます。

クックビズ世古:白竹さんのお店では、情報共有どうされていますか?

白竹さん:うちの店は、横に立って2人で話していたことが、すぐに全員に広まりますね(笑)。

浅賀さん:うらやましいです(笑)。

白竹さん:作業中に、ふわっと軽く話したこともすぐに伝わってしまうので、「下手に話せないなあ」とも感じます(笑)。でもうちの店もいつか、大所帯になれたらいいですねえ。

まとめ

今回はシェフのお二人に、失敗談だけでなく、それぞれのスタッフマネジメントの悩みや運営のノウハウなどまで、たくさんお話いただけました。店舗の規模やスタイルによって、スタッフ同士のかかわり方にまで大きな違いがあることを実感。飲食業界で働く方なら、共感できる部分もあったのではないでしょうか。さてあなたの店は、どんなスタイル?

<協力>

店名 サッカパウ
店名 フランス料理 PERTICA(ペルティカ)