
クックビズが定期的に行っているオンライン座談会。
メンバーは、イタリア、京都で活躍している料理人の方や、東京、大分で飲食事業行う企業で人材育成、接客の教育を行っている方々にご参加いただきました。
今回のテーマは『過去の失敗体験』について。住まいも職種もばらばらな4名が集まり、ざっくばらんに座談会がスタート!
クックビズ株式会社からは、座談会運営の世古、川田、中西が参加いたしました。

酒井 研野さん(中段左):中華料理「京、静華」料理人
川崎 大輔さん(中段中央):「La Coccinella」(イタリア)料理人
高橋 夏穂さん(中段右):株式会社絶好調 人材育成統括
花苑 麗さん(下段中央):もつ鍋炉端の店「陽はまたのぼる 竹田はなれ店」ほか統括店長
目次
いろんな人の手間を経て1つの料理になると実感した新米時の失敗
クックビズ世古:みなさん、今日はイタリアからの参加者もいらっしゃいます。職種も料理人やサービス、人材育成の統括責任者とバラバラですが、どうぞよろしくお願いいたします。
では本日のテーマ『過去の失敗体験』について。誰からいきましょうか?酒井さんいかがですか?
酒井さん:はい、では私が京都の日本料理店で、新人として働いていたときの話をします。
日本料理には、「地漬け」という仕込みの工程があります。まず蕪(かぶ)をきれいにむいて、それからいったんゆがき、漬け汁の中で寝かせて味をふくませるんです。
クックビズ世古:日本料理は手間がかかっていますよね。
酒井さん:ある時、先輩から「冷蔵庫から仕込んでおいた蕪を60個とってきてほしい」と頼まれました。大型の冷蔵庫は調理場の外にあり取りにいったのですが、蕪をかかえて移動の最中に全部ひっくりかえしてしまったんです。
クックビズ世古:それは大変ですね…。
酒井さん:私がひっくり返したとあと、先輩たちはもう一度、蕪をむき直し、味をつけ、イチから作り直してくださいました。当時、私は新米で何ひとつ戦力にはなれません。
クックビズ世古:責任を感じますよね。
酒井さん:私はそれを見て、いろんな人の手を通して1つの料理になっていることに改めて気づきました。だからこそ食材も、1つ1つの工程も大事にしないといけないと感じましたね。
クックビズ世古:60個も急遽カバーできるものなんですか。
酒井さん:やるしかないというか、当時、調理場には30人ほどいたので、フォローしてもらえる環境ではありましたね。
クックビズ世古:店舗の体制にもよりますね。では同じ料理人として川崎さんは何か失敗経験は?
郷に入っては郷に従え。“海外あるある”トラブル
川崎さん:私が日本でイタリアンの料理人をしていたときの話です。オーナーシェフがイタリアに研修旅行に連れて行ってくださったんです。
大概はオーナーシェフと行動するのですが、私も少しイタリア語が話せたものですから少し別行動し、次の日にワイナリーで集合することになりました。
ワイナリーへはレンタカーで行こうと思っていたのに、現地でクレジットカードが使えないことが判明したんです。
歩けば5時間。自転車なら1時間半。バスは早朝しかなく30分かかります。けっきょく自転車を借りて行くことにしました。イタリアでは公共の交通機関はしばしば遅れるんです。
クックビズ世古:“海外あるある”ですね。
川崎さん:今もその感覚を学んでいる感じです。たとえば電車の発車ホームも日々変わります。発車の5分前にホームが変わって、大慌てでカバンをもって走る人の姿も日常茶飯事ですよ。「次、どこからやねん!?」みたいな(笑)。
クックビズ世古:海外との習慣の違いはあるでしょうね。
川崎さん:だから、これはこれで日々いい経験かなと思っています。
花苑さん:私が通っていた大学も、半分ほど留学生という環境でしたので、海外との文化の違いに驚いた経験はあります。国によって、勤勉さや時間の感覚が違うと感じてましたね。
クックビズ世古:生活様式も違いますし、国によって考え方が異なっても不思議はないですよね。ではこの流れで花苑さんの失敗体験をお聞かせください。
サービス業務なのに声がでない…羽目を外して飲みすぎた!
花苑さん:私の失敗はお酒にまつわる話です。以前、当社で「第14回居酒屋甲子園」にエントリーしたときの話です。「ぜったいに表彰台にあがろう!」と会社をあげて取り組んでいました。
その夏、居酒屋甲子園のほうから覆面調査が入るとのことで、私はチームづくり、サービスの見直しなど根をつめて仕事に精を出していたんです。
そんな折のひさしぶりの休日。開放感もあって羽目をはずしてしまい、記憶を失うほどお酒を飲んでしまいました。
一同:はははは(笑)。
花苑さん:そしたら次の日、声が…でない!酒やけで声がつぶれてしまいまして。お客様からも「声どうした?」「飲みすぎには注意しなさいよ」と言われ、お店の電話も苦慮する始末。
私は、地区大会でプレゼンすることになっていましたが、当日も声が戻らず、そのまま壇上に上がり、オーナーからは「その醜い声で出るのはどうなのか」とお叱りを受けました。
クックビズ世古:気の毒ですが、大事なことが控えているときは、特に気を付けないと…ですね。
花苑さん:私は、これまで「接客は声が大事」ということをポリシーにしていたのに自業自得です。お酒には気を付けます。
高橋さん:私もお酒を飲みすぎて…という経験があるので気をつけなくちゃ。
クックビズ世古:高橋さんもお酒を飲むのが好きなんですね。では最後に高橋さんの失敗経験を教えてください。
失敗続きの企画をスピーディーにトライ&チェンジで旗艦店に成長
高橋さん:私は自分が初めて店長に就いた時の話をします。当社では立候補制で店長になるんですが、私も21歳の時、自ら挙手して店長になりました(笑)。そういう会社なんです。
クックビズ世古:若くして店長になったんですね。
高橋さん:新店舗の立ちあげ店長ということで、張り切っていました。お店の戦略、販促。当社では店長に決裁権があり、企画なども店長主導で動きます。
いざオープンすると曜日によって集客にばらつきがあり、オフィス街なので日曜や平日17時台はお客様が少ないという課題がありました。
クックビズ世古:新店の立ち上げはパワーがいりますよね。
高橋さん:そこでワクワクする仕掛けを考えようと。顧問をしていた方からも「固定概念にとらわれないでやってみたら」とアドバイスを受け、お通しを変えてみることにしました。通常は鮮魚の五種盛りです。
もっとインパクトをつけたくて、まず試したのが「マグロの兜焼き」。人間の肩幅ぐらいあるような、でっかいマグロの頭をオーブンで焼いて出したんですよ。
クックビズ世古:ええっ?インパクトありすぎですね。
高橋さん:「量が多すぎて、ほかの料理が食べられない」という声があり、それは取り止めになりました。
次は17時~17時59分ご来店の方限定のお通しとして「のどぐろのしゃぶしゃぶ」を提供しました。
クックビズ世古:いいですね!
高橋さん:それは好評でした。量もちょうどよかった。でも原価が高く、料理長泣かせのお通しでした。
そのあとも、日曜日にはふるまい酒として、樽酒を用意して鏡開きをしたりと試行錯誤しては、いろんな失敗を重ねましたね。
クックビズ世古:そこからの学びは?
高橋さん:「トライ&エラー」という言葉はあると思うのですが、私が勤務している株式会社絶好調には「スピード+トライ&チェンジ」という言葉があります。スピードは情熱の表れ。とにかく「やる」と決めたことは初動が大事だという方針です。
違うと判断すれば、次は素早く変える勇気=すなわちチェンジです。何事もやってみなければわからない。「トライ&チェンジ」を大事にしています。
クックビズ世古:なるほど。でもそのおかげで高橋さんが率いた新店は、貴社の旗艦店(※)に成長したんですよね。「トライ&エラー」ではなく、スピード感をもって「トライ&チェンジ」。いい言葉ですね。なんだか最後に上手く締めていただき、ありがとうございます(笑)。
(※)旗艦店=複数ある店舗の中で、主力となる店舗、中心的な存在となる店舗のこと。
今日もいい話をたくさん聞かせていただきました。
引き続き来月もよろしくお願いします。
<座談会参加者紹介>
■酒井 研野さん
中華料理「京、静華」(京都)料理人
2009年に京都の老舗料亭「菊乃井 本店」で勤務。2017年には「菊乃井 無碍山房」の立ち上げに伴い、料理長に就任。その後、ニューヨークの「Shoji at 69 Leonard Street」、京都の「LURRA°」を経て現職。2021年2月、京都岡崎にて独立開業予定。「RED U-35」2019のbronze egg受賞者。
■川崎 大輔さん
トラットリア「La Coccinella(ラ・コッチネッラ)」(イタリア)料理人
京都のイタリアンで修業を積んだ後、2019年イタリアへ。現在、北イタリアのピエモンテ州在住。店舗では前菜とデザートを担当。2018年「ワールド・パスタ・マスターズ」ファイナリスト。
■花苑 麗さん
WOODHOUSE株式会社 もつ鍋炉端「陽はまたのぼる 竹田はなれ店」「フルーツパーラー 陽はまたのぼる」(大分県)統括店長
第14回「S-1サーバーグランプリ」九州地区代表となり、全国大会準優勝。2014年「居酒屋甲子園」最優秀店長受賞。
■高橋 夏穂さん
株式会社絶好調(東京)、人財育成統括、および新卒採用担当
2011年入社後、2年目で立候補により店長に就任。新店「燗アガリ」の立ち上げに携わり繁盛店へと導いた後、現職。第14回「S-1サーバーグランプリ」関東代表・最優秀賞受賞。
まとめ
今回、新人の頃の大失敗、海外での失敗、店の運営企画の失敗からお酒による失敗まで飛び出し、バラエティに満ちたトークとなりました。
新人の頃の失敗を先輩にカバーしてもらったという経験は、どこの業界にも通じそうですね。いろんな人の力が合わさって、1つの仕事に結びついていると感じるエピソードでした。来月もクックビズではオンライン座談会を予定しています。お楽しみに。
<協力>
店名 | 中国料理 京、静華 |
店名 | La Coccinella |
店名 | WOODHOUSE株式会社 |
店名 | 株式会社絶好調 |