今回のテーマは『やってしまった仕事の失敗』。クックビズオンライン座談会に参加したのは、いま飲食業界の第一線で活躍するシェフお二人です。
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<シェフのプロフィール>
■松島 佑季(まつしま ゆうき)さん
1988年、埼玉県生まれ。調理科高校を経て、武蔵野調理師専門学校に入学。卒業後、都内レストランで勤務後、フランスで修業を積み、現在は前衛的なフュージョン料理を提供する「81(エイティーワン)」の料理長として、手腕を振るう。「RED U-35」2019年 BRONZE EGG受賞、現在32歳。■荘田 洋介(しょうだ ようすけ)さん
1985年、岐阜県生まれ。辻調理師専門学校グループのフランス校へ留学。研修先であるアルザス地方ストラスブールのビュレイーゼル(当時三つ星)で大垣オーナーと出会う。帰国後、2010年より大垣氏の右腕として活躍。2016年より「ヴェール・パール・ナオミ・オオガキ」の店長兼料理長に就任。「RED U-35」2019 BRONZE EGG受賞、現在35歳。
料理人は「電気」に気を付けるべし!
クックビズ世古:お二人とも現在はそれぞれのお店で立派にシェフをされていますので、若いころの経験になるでしょうか。これまでに失敗した体験、ありますか。松島さんは何かエピソードをお持ちでしょうか。
松島さん:今はシェフという立場上、どちらかというと失敗した子に教える機会が多いです。だから失敗は最近あまりないですが、過去を振り返ったときに1つありますね。
とても若いころ、本当に新人の頃ですね。ワインバーで働いていた時です。
忙しい時間帯でした。キッチンで食材を混ぜるブレンダ―を使っていたんですが、ちょうど横にフライヤーがあって、コードがその中に入っていたことに気付かなかったんです。
クックビズ世古:それは大変です。
松島さん:本当に大変でした。漏電して、停電してしまったんです。お客様の席も真っ暗になってしまって。すぐに気付いてブレーカーを上げたので、店内が暗くなったのは、ほんの一瞬だったのですが。あとで店長に、それはもうこっぴどく怒られましたね。
クックビズ世古:それは怒られてしまいますね(苦笑)。
松島さん:本当に一歩手前という感じです。自分でやったものの、本当に信じられないくらいです。今だったらありえないですが、当時は店に入りたてで、そのうえお客様が立て込んでいる状況で。周りが見えてないんですよ。
クックビズ世古:忙しい時ほど注意が必要という教訓ですね。荘田さんは松島さんのエピソードを聞いて、いかがですか?
荘田さん:実は、私もブレーカーを落としたことがある身です。そうじ中に換気扇に水をぶっかけてしまったんです。当時は、営業前にダクトを大そうじする店の習慣があって、これは水をぶっかけた方が早いんじゃないかって安易な考えでやってしまって…。
クックビズ世古:それでどうしたんですか。
荘田さん:その時は、結局コードが漏水した状態でブレーカーがもどらなくて、その日のランチは営業できませんでした。
クックビズ世古:大変なことに。
荘田さん:その失敗の前に働いていた店ではそうじの時、ホースで水を撒いていたんですよ。だから大丈夫かなと思ったんですが、奇跡的に運よく大丈夫なだけだったんだなと。
クックビズ世古:最大の失敗が、お二人とも漏電というのはおどろきです。料理人の失敗は危険がともなう場合があるんですね。
松島さん・荘田さん:本当に危険です!気を付けないとだめですね。
失敗したときこそ、すぐ自分からアクションを起こす
荘田さん:私は失敗、多いですよ。ほかにも失敗というと、若いころにサービスをやっていた時です。
団体のご予約が入っていて忙しいかったんですね。お出しする用のスープを細いグラスに入れて、トレーに何個も載せて運んでいたんです。その時、後ろに座っていた方が急に立ちあがったものだから、ぶつかって、お客様のスーツにスープがかかってしまいました。
クックビズ世古:それでどうしたんですか?
荘田さん:まずはすぐに謝りました。お客様は、ほろ酔いでいい感じになっていたのと、会合の後に予定がなかったようで、「美味しいお酒ちょうだいよ」と朗らかにおっしゃられただけで済みました。
でもその失敗から、同じようなアクシデントが起きた場合を想定するようにはなりましたね。
クックビズ世古:通常はどういった対応をされるんですか。
荘田さん:今でも同じような失敗を、若いスタッフがやってしまうことがあります。その場合、まずきちんと拭いて謝罪します。そしてお客様から言われる前に、こちらから、最低限のクリーニング代を封筒に包んでお渡しするようにしています。
「許してもらう」ことをカタチとして成立させるんですが、「もういいよ」という方もいれば、素直に受け取る方もいますよ。
クックビズ世古:ほう~。松島さんはどうですか?サービスでの失敗ありますか?
松島さん:僕は、あまりなかったですね。でも自分にも、他のスタッフにも、同じような経験はありえるとは思っていました。お客様に迷惑をかけてしまった場合に、荘田さんのお話のように、こちらからすぐにアクションを起こすというのは大事ですね。
あらゆるケースに対応する引き出しが増えていく
クックビズ世古:荘田さんはその後、気を付けたことはありますか?
荘田さん:想像はしますね。実は思っていたのと違っていたり、そもそも間違っていたり、勘違いしていたということもあるので、あらゆる場合を想定して、そういう場合どうしようかとは考えます。
スタッフのなかにも「やらかしそうだな」という子はいますよね(笑)。あの子がそうなった場合、どうしようかなというのは考えておきますね。
クックビズ世古:前の座談会で荘田さんが、常連のお客様のお会計のときに、別のお客様が先にお会計をしてしまったというお話がありましたね。
荘田さん:あれもそうですね。そういった自分の経験を踏まえて、いろんなケースがありえるぞと。あらゆるケースを想定しておけば、いざそうなったときに、自分の持っている“引き出し”から出すことができるので。
クックビズ世古:松島さんもケーススタディというのは意識されていますか。
松島さん:今、僕は人に教える立場ですし、失敗はあまりないですが、過去の失敗を含めたさまざまな経験から、対応の選択肢が増えているとは思います。経験のなかに失敗や成功がある。先ほど荘田さんがおっしゃった“引き出し”が増えるということですよね。引き出しがある分、人にも教えることができるんだと思います。
クックビズ世古:失敗を含めた経験があったからこそ、さまざまなケースに対応できるようになった今のお二人があるということですね。
まとめ
料理人と接客人の失敗は、同じ「店のなかで起きた失敗」だとしても、非なるもの。特に料理人の職場は火や電気を扱うキッチンだからこそ、気を付けなければならないことも。今、人を育てる立場に立って、ご自身の失敗経験が若いスタッフたちを育てる指導の知恵や工夫になったこともよく分かりました。
「素早い対応」「あらゆるケースを想定する」どんな仕事にも必要かもしれません。
<協力>
店名 | 81(エイティーワン) |
店名 | ヴェール・パール・ナオミ・オオガキ |