お盆を片手に接客する女性

すっかりおなじみになりつつある飲食業界で活躍する方とのオンライン座談会
今回のテーマは『記憶に残る仕事の失敗』について。参加したのは、いま飲食業界の第一線で活躍する方々。

サービススキル日本一を選ぶ大会「S-1サーバーグランプリ」受賞者や、ECサイトも運営する現役女性バリスタ、外食企業で日々スタッフ指導を行う教育・人事担当者など、飲食業界で長く活躍していらっしゃる女性陣に、記憶に残る仕事での失敗について語っていただきました。

クックビズ株式会社からは、座談会運営の世古、川田、中西、杉谷が参加いたしました。

座談会の様子

鈴木 志麻さん(中段中央):「東京レストランツファクトリー株式会社」チーフホスピタリティートレーナー
荒川 その美さん(中段右):和食居酒屋「空」ほかでサービスリーダー
坂井 香織さん(下段左):「株式会社OBU Company」人事・広報、サービスマネージャーなど兼任
加藤 由希奈さん(下段右):ECサイト「coffee and spice.」運営

開店直前に電話が。お待たせして大きなクレームに…

クックビズ世古:今回はこれまで経験した大きな失敗談をお伺いしたいと思います。我こそはという方がいらっしゃいましたら、ぜひ。いかでしょうか。

荒川さん:では…私から。思い返せばいくつもあるんですが、以前カフェで勤務していたときのことをお話しします。

そのカフェは、11時からランチが始まるお店で、オープン時間はランチに合わせて11時と決まっていました。ありがたいことに、この店はランチ待ちをしてくださるお客様もいるお店だったんです。

荒川さんが話しだした写真

準備も万端、朝礼は5分前には終わり、各自が持ち場につきました。
さぁ開店というときに電話が…。私がいつも扉を開ける役目なのですが、電話をとってしまったんです。

クックビズ世古:そういうタイミングのとき、ありますよね。

荒川さん:「店の場所がわからない」というお問合せで手間取り、2分遅れて「お待たせしました~」と扉を開けたら…、

その瞬間に、マックスでお怒りになっているお客様が目の前に。
「開店時間を2分も遅れてどういうことなんですか!」と。

クックビズ世古:ああ…。

荒川さん:ご自身がご予約をいれてママ友4人誘ってのご来店だったようです。

またご予約席が半個室のお部屋だったんですが、後からお子様連れの方が同じお部屋に着席され、お子様が騒いでしまったんです。

クックビズ世古:そういう時には、いろんなことが重なるものですね。

苦笑いの荒川さんの写真

荒川さん:キッチンまでいらっしゃって「ここはどうしてこんなに対応が悪いの、責任者の方と話したい!」と。夕方にやっと責任者から電話してもらったんですが、その時もお怒りは続いていたようでした。

クックビズ世古:う~ん。

荒川さん:お子様連れだとわかった時点で、先にお通ししていたお客様に「今からお子様連れの方がいらっしゃいます…」とお声掛けをすべきだったと思います。それが配慮ですよね。

その時の私は店長職でありながら、お怒りになっているお客様に、さらに言葉かけをすることを躊躇してしまったんですね。

クックビズ世古:怒っているお客様に、さらに言いにくいものですが、やっぱり必要な情報は伝えるべきなんですよね。

荒川さん:そうですね、萎縮して言えなかった私が悪かったんです。

それからは開店時間が5分前になりました。準備も朝礼もすべて5分早めました。11時開店でも10時55分には開店。

そのおかげで、今では直前にトラブルや電話などがあっても11時には店は開けられるようになりました。

クックビズ世古:なるほど。お客様をお待たせして…という失敗ですね。それを聞いて、加藤さんはいかがでしょうか。

クレームのお客様のお顔は忘れてはいけない

口元に手を当てている加藤さんの写真

加藤さん:このテーマをいただいて、私は、そんなに失敗したことはないと思ってたんですが、荒川さんの話を聞いて思い出しました。
カレー屋に勤務していた頃、開店直前に『ご飯が炊けてない』ことがありました(泣)。

一同:えっ!(爆笑)

クックビズ世古:それはすごい難局ですね。どうやって乗り切ったんですか。

加藤さん:ナンで乗り切りました。その時は開業したばかりの店だったので…って言い訳でしかないのですが。「マシントラブルがありまして…」「あと〇分で炊けます。ナンならすぐにご用意できます」など、謝罪しながら乗り切りました。

今となっては笑い話ですが、飲食店では、やはりお待たせてしまいクレームにつながるというのは多いと思います。

クックビズ世古:そうですね。

加藤さん:先輩から教えてもらった言葉に、「褒めてもらったお客様のことは忘れても、怒らせてしまったお客様のことは忘れてはいけない」というのがありまして。

クックビズ世古:ほう~。

加藤さん:クレームになった方が、次に来店してくださった時に「あの時は申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉をお伝えすることができたら、それは褒めてもらったお客様よりも長くいいお付き合いができるといわれたんですよ。

一同:うんうん。

加藤さん:それはバリスタになった今も心がけています。嫌な思いをさせてしまったお客様のお顔は忘れないように。ご来店になったらお詫びの言葉を伝える。こうした対応ができれば、ご来店の頻度が高まると感じます。

笑顔の加藤さんの写真

クックビズ世古:ふむふむ。

加藤さん:次に来店してくださったときは、向こうから話しかけてくださることも多いように思います。

クックビズ世古:いいお話ですね。今、マイナスからのリカバリーなどの話がでましたが、鈴木さんはいかでしょうか。

システムの不具合でWブッキング!さぁどうする?

鈴木さん:はい、私もいろいろ失敗はあります。転倒して、皆さんの視界から消えるぐらいの派手な転び方をしたことも…(笑)。
今日は、最近の話にはなるのですが、Wブッキングしたお話をさせていただきます。

クックビズ世古:Wブッキングですか。

鈴木さん:はい。その日、17時の開店時から2組の常連のお客様がご来店し、店の右端、左端にご案内しました。次第にカウンターも、ほかのテーブル席もいっぱいになっていったんです。

そこへ19時から8名様のご予約の方がこられましたが、席がなくて大慌て。
ちょうどネット回線の状態が悪い時がありましてWブッキングをおこしたようでした。

両手を広げて説明する鈴木さんの写真

クックビズ世古:そうなんですね。

鈴木さん:私はいつもは焼鳥の焼き場にいるんですが、手を止めてお客様にお料理のご提供が少し遅れることをお詫びし、予約をとった新人スタッフと経緯を洗いだすなど、慌ただしく動いていました。

そしたら最初の2組の常連の方が「僕たち、今日はもう美味しく食事できたし帰りますね」と。周りの席にいた方も「では私たちは、むこうの席に移りますよ」といって、8席をあけてくださったんです。

クックビズ世古:よかったですね。

鈴木さん:本当に感謝しました。
いつもは自分たちが、お客様をみていると思っていたけれど、お客様、特に常連のお客様はこちらの様子を気にしてくださっているんだと実感しました。今までやってきてよかったなと感じましたね。

クックビズ世古:お客様に助けられたんですね。それこそ好きなお店だからこそ、お客様も行動されたんでしょうね。

思い浮かべながら片手をあげて話す鈴木さんの写真

鈴木さん:それからスタッフ陣は、毎日こまめに、朝と閉店後など予約状況と席の管理を行うようになりました。
この大失敗、12月の繁忙期を前に最大限に活かしたいと思っています。

クックビズ世古:最も忙しい時期でなくてよかったですね。では坂井さんはいかがですか?

お客様との距離は近すぎてもNG

坂井さん:私が一番やっちゃったなという失敗は、お客様とのコミュニケーションの取り方、距離感でしょうか。

クックビズ世古:コミュニケーションですか。

坂井さん:20歳前後の頃のことです。焼肉店で働いていまして、そこの店ではお客様とのコミュニケーションを大切にするようにと日々いわれていました。

そこで、私なりにできることを思って、時々、お客様のテーブルに行って焼いてさしあげ、おすすめの食べ方をお教えするというサービスをしていたんです。

笑顔で話す坂井さんの写真

クックビズ世古:ほう~。

坂井さん:あるとき初来店のお客様がいらして、いつものようにテーブルでお肉を焼いていたのですが、話が弾み、お客様が「ここに座って座って」とテーブルの真ん中の席を空けてくださったんです。

「すごい仲良くなれた!」と私も言われるがまま着席し、ほぼつきっきりで焼いて差し上げました。

クックビズ世古:ハハハハ。

坂井さん:でもそのお席は個室ではなく、ほかのお客様もいらっしゃり、あとで店長に厳しく叱責されました。

クックビズ世古:そうなんですね(笑)。

坂井さん:当時、若くてあまり全体をみるという配慮ができていなかったと思います。今、思えば、あるお客様とだけ仲良くして盛り上がっていたら、他の方、特に新規のお客様は疎外感をもちますよね。気をつかわせて「オーダーもいいにくい」などの状況をつくりだしていたと思います。

クックビズ世古:しかしお客様の方から、どんどん好意的に話しかけられると、対応はむずかしいかもしれませんね。

口元に手を当て、考えながら話す坂井さんの写真

坂井さん:だからそれからは、こちらのテーブルに3分おもてなししたら、周囲のお客様にも各3分対応することに。またテーブルで焼くサービスなど目に見えるおもてなしだけでなく、さりげない気づかいを心がけるなど、自分のおもてなしの引き出しを増やしていこうと思いました。

クックビズ世古:なるほど。良かれと思ってしたことが失敗につながるなど、おもてなしはむずかしいですね。

今日はたくさんの失敗談をお聞かせくださり、ありがとうございました。「お客様をお待たせしてしまった」「Wブッキング」など、飲食業界なら“あるあるな失敗”ではないかと感じました。

しかしそれをどうリカバリーするかが大事なんですね。勉強になりました。
引き続き来月もよろしくお願いします。

<座談会参加者紹介>

■荒川 その美さん
和食居酒屋「空」およびカフェなど 統括サービスリーダー。
第13回「S-1サーバーグランプリ」東海地区代表。全国大会準優勝。
株式会社満月所属

■加藤 由希奈さん
ECサイト「coffee and spice.」運営。および東京・表参道にあるコーヒー豆店にてバリスタとして活躍。
「KIMBO バリスタ競技会2016」「バリスタグランプリ2017」で優勝。

■鈴木 志麻さん
店舗業務をしながら、チーフホスピタリティートレーナーとして新卒社員の教育を担当。
第14回「S-1サーバーグランプリ」審査員特別賞を受賞。
東京レストランツファクトリー株式会社所属

■坂井 香織さん
焼肉事業部「焼肉 龍王館」店舗責任者兼サービスマネージャー。人事、広報も兼務するなどマルチに活躍中。第15回「S1サーバーグランプリ」九州地区代表。
株式会社OBU Company所属

まとめ

今回、初の女性ばかりのオンライン座談会。しかも接客業務のスペシャリストにお集まりいただきました。さすが、みなさんお話もわかりやすく、座談会中の笑顔も印象的でした。

失敗を失敗で終わらせずに、どのように対応するかで、ミスやクレームからファンをつくることもできるとのこと。飲食業界で今、活躍している人も、実はたくさん失敗しリカバリー経験を積み重ねたからこそ、今があると感じた座談会でした。

<協力>

店名 株式会社満月
店名 coffee and spice.
店名 東京レストランツファクトリー株式会社
店名 株式会社OBU Company