成田 陽平さん(中段中央):料亭「菊乃井 本店」(京都)、浅賀 直斗さん(中段右):イタリアン「サッカパウ」(東京)、酒井 研野さん(下段左):中華料理「京、静華」(京都)、細田 隆広さん(下段中央):「hyatt regency tokyo」内「中国料理 翡翠宮」(東京)、加藤 由希奈さん(下段右):バリスタ、ECサイト「coffee and spice.」運営ほか
新型コロナウィルスが治まる気配が見えない中、クックビズでは「飲食業界を盛り上げていきたい!」という想いを持った人といっしょに、さらに成長していきたいと考えています。
今回は、『プロの料理人が愛用する道具』をテーマに座談会。日本料理、イタリアン、中華、カフェなど各業態で輝かしい受賞歴をもつ料理人やバリスタの方が集まり、大いに盛り上がりました。
クックビズからは、座談会運営の世古、川田、中西、方城が参加しました。
目次
■料理人が愛用する道具たち~全9選
- 彫刻刀
- 中華鍋
- エスプレッソマシン
- 手打ちパスタ道具
- まきす
- TANITA デジタルクッキングスケール
- 無印良品 シリコーン調理スプーン(おたま)
- スコッチ・ブライト™ 抗菌ウレタンスポンジたわし
- マスキングテープ
鍋1つで14kg!ダイナミックかつ繊細さを要求される中華
クックビズ世古:今回のテーマは「料理人の道具」について。皆さまのこだわりの愛用品を聞いていきたいと思います。では早速ですが、細田さんはホテルの中華料理人として、いろんな道具を扱うかと思うのですがいかがですか。
細田さん:はい、まずこちらの彫刻刀(上記画像)。特別な宴席や大きなパーティーが入ったときに、野菜やフルーツの飾り切り(カービング)に使います。100円ショップで購入したものもあります。作業は、厨房のメンバーみんなで行いますが、実は全員独学なんですよ。
クックビズ世古:デジタルやA.Iといわれる今の時代でも手で彫るのが主流なんですね。彫刻刀の使い分けはどうやってされているんですか。
細田さん:ペティナイフは、小さくて薄いもの、細いものでしょうか。器用な人は本当に上手ですよ。
あとは中華鍋。一番大きなサイズなら重さは8kg。チャーハンを調理するときは、ここに米6kg投入します。
クックビズ世古:エッ!じゃあ合計14kgもの重い鍋を振るということですか?
細田さん:そうですね。鍛えられますよ。
クックビズ世古:中華ならではのスケール感がありましたね。ご覧になって、成田さん、和食・日本料理界はいかがでしょうか。
“どの道具”でも“どこにでもある道具”でも、どんな料理でも作る
成田さん:私は、その~道具に執着がないんですよ。実は、今回このテーマとお聞きし、どう話そうかなと思いながらの参加です(苦笑)。というのも『“どの道具”でも、“どこにでもある道具”でも、どんな料理でも作れる』ということを信条に、日々研鑽してきたような気がしていまして。
もちろん使いやすい道具、使いにくい道具はあるんですけど。自分の道具があればそれを使うぐらいです。
クックビズ世古:なるほど。腕で勝負ですね。最近は調理器具もどんどん進化していますが、なにか気になるものはありますか。
成田さん:確かに進化しています。私が勤務する料亭「菊乃井 本店」にも最新の調理器具はそろっているんですが、私は特にこだわりがない…かもしれません。
クックビズ世古:そうなんですね。技術で道具をカバーするよう努めるとのこと。ありがとうございます。
では器具がないと、そもそも淹れるのがむずかしいコーヒーの世界はいかがですか。バリスタである加藤さんのお気に入りは?
バリスタも舌を巻く!素人もとことん追求するコーヒー器具
加藤さん:コーヒーは、淹れる方法によって道具が変わります。昔ながらの喫茶店に行けばサイフォンがあったり、エスプレッソ系だとエスプレッソマシンがあります。
バリスタによって、もちろんお気に入りもあるんでしょうが、それより『こういう味に仕上げたいから、この器具を選ぶ』という感じですね。
クックビズ世古:そういうことなんですね。
加藤さん:私が専門に行っているハンドドリップなら、お湯を注ぐケトルなどもいろんな種類がありますよ。ドリッパーの器具によっても味が変わります。
クックビズ世古:なるほど。
加藤さん:最近は、一般の方も趣味のひとつとしてコーヒーにハマっている方もいらして、いろんな道具を試しては抽出具合を調べたり、こちらがびっくりするほど研究熱心な方もいます。
クックビズ世古:バリスタ専門家からみて、これは珍しいというものはありますか?
加藤さん:ありますね。家庭用のコーヒーミルもピンからキリまであるんですが、高価なものなら4~5万円ほど。そういうものをいくつも持っている方もいます。
クックビズ世古:最近、注目の器具などは?
加藤さん:私は自分で豆を販売しはじめたので、家でエスプレッソが淹れられたらと、思い切ってマシンを買ったんです。それが13万円ぐらい。安いほうではありますが、店舗でも使える器具です。
それがあるとラテアートができるんです。泡立ったコーヒーにミルクで絵柄を描いてインスタグラムにあげると、キャッチーにコーヒーの魅力を発信できるのがいいんです。
コーヒーがさほど好きでない方にも興味をもってもらえます。
クックビズ世古:それはいいですね。ラテアートは、見ているだけで楽しくなります。
加藤さん:はい、楽しいですよ♪でもそのせいで、カフェラテばかり作っては飲んでいたので、ちょっと太りました(泣)。
一同:(笑)
伝統的な手打ちパスタ道具で模様も自在
クックビズ世古:イタリアンはいかがですか。
浅賀さん:これが手打ちパスタを作る伝統的な道具(下記画像)。イタリア帰りの料理人がお土産にくれたものです。コース料理のメニュー考案の際、パスタは2品ぐらい考えるんですけど、ショートパスタを作るときに重宝します。
クックビズ世古:これはまな板ぐらいですか?大きくみえますね。
浅賀さん:いや、成人男性の手のひらぐらいです。
あともうひとつがこれ(下記画像)。ラビオリなど、詰め物パスタを作るときに使う道具です。
クックビズ世古:どうやって使うんですか。
浅賀さん:パスタ生地2枚をのばして1枚を乗せ、中央のくぼみに具材を入れて、もう1枚をかぶせて挟みます。
日本でも手打ちパスタ専門の木型を作る工房があるんですよ。私が知っている工房では、すべてフリーハンドで製作。一度作ったものは二度と作らないというこだわりを持ってらっしゃるんで1点ものになります。
だから他店との差別化もできていいんですよ。
クックビズ世古:最近の器具などはいかがですか。
浅賀さん:成田さんといっしょで最新のものには興味が湧かなくて。デジタル化された調理器具など進化してるんですけど、どちらかというと伝統的な道具や昔の製法を学んで、掘り下げてみたいと思っています。
“料理人あるある”は「MUJI(無印良品)」と「TANITA(タニタ)」
酒井さん:私は、日本料理からスタートし、中華料理までたずさわっていますが、出先のキッチンで作業したり、よそ様の厨房にお邪魔して料理を作ったりすることもあります。
その中で必ずもっていくのが「まきす」です。鯖寿司を作ったり、器ごと蒸しあげる場合、水滴が料理に入らないように、まきすを敷いて布巾をかぶせて使うこともあります。
一同:うんうん、なるほど。
酒井さん:あと大事な道具として「はかり」。「TANITA(タニタ)」の製品がいいですね。0.1gまで計れて、計測反応も早い。
一同:そうそう!
酒井さん:それとおたまなどのキッチンツールは、「無印良品」のシリコンシリーズが使いやすい。余分なデザイン性がないのがいいんです。私はカウンターに立つことも多いので、お客様から見て主張しないデザインが気に入ってます。
成田さん:これですよね!
クックビズ世古:成田さんも「無印良品」を使ってるんですね(笑)。意外に、専門店というより、身近なブランドで調達されるんですね。
成田さん:うんうん(大きくうなづく)。「菊乃井」にも「無印良品」のツールがありますよ。
「TANITA(タニタ)」のはかりも共感します
当店では、はかりは1人1つは持っています。頻度が多いので故障しやすいものなんですが、精度の低いものはすぐに壊れます。その点、「TANITA(タニタ)」は、反応が早く、寿命も長い。
酒井さんの意見に同感。
あっ、でも私は道具にはこだわらないので、なければないで、反応遅くても大丈夫です(笑)。
一同:(笑)
加藤さん:コーヒーの世界は、0.1gまで計測することも大事ですが、タイムが測れるものができて、iPhoneと連動して、コーヒーを計測しながら何分にお湯を注ぐとか、細かく指示してくれるんですよ。もうバリスタもいらないぐらい~!(苦笑)
クックビズ世古:それはバリスタの職域が脅かされそうですね。
加藤さん:そうなんですよ~。
浅賀さん:私もずっと「TANITA(タニタ)」です。
クックビズ世古:料理界で「TANITA(タニタ)」は、スタンダードなんですね。
浅賀さん:あとイタリアンでは、トリュフのスライスなど極めて軽い食材を扱うことも多く、0.1gではなく0.01gの世界が大事で、ミクロスケール、マイクロスケールという高精度目盛のツールを使うこともあります。特にレシピでパーセンテージを出す必要があるときに使います。
出てくる出てくる意外な料理人の愛用品
酒井さん:そして極めつけはこれ。「スコッチ・ブライト™」のスポンジたわし。
魚の細かい部分を掃除したり、もちろんキッチンを清掃するにもいい。
成田さん:うんうん(大きくうなづく)。
クックビズ世古:またも成田さんがうなづいておられますね(笑)。
成田さん:はい、「菊乃井」にもいたるところに、「スコッチ・ブライト™」がありますね(笑)。
酒井さん:それとマスキングテープも。食材を整理する際に便利なんです。マスキングテープに食材名を書いて容器や袋に貼り付けて保存。水に強くてはがれにくく、そしてはがすのもラク。
世界中の名だたる星付きレストランでも、マスキングテープは愛用されているようですよ。食材管理の必需品です。
浅賀さん:うんうん(大きくうなづく)。
クックビズ世古:今度は浅賀さんがうなづいておられますね(笑)。
浅賀さん:意外に身近なものが重宝するんです。私が使っているゴムべらは100円ショップで買ったものですし、東急ハンズなどもチェックします。そのあたりで節約を心がけています。
クックビズ世古:なるほど。今回、『プロの料理人が愛用する道具』ということで、巨匠が作る包丁などが紹介されると思っていましたが予想外でした。台所スポンジやマスキングテープとは意表を突かれた感じです。
今日はお忙しい中、楽しく貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。今後も引き続きよろしくお願いいたします。
<プロフィール>
■細田 隆広さん
「hyatt regency tokyo」内「中国料理 翡翠宮」(東京)
日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」において、2019年度のbronze eggを受賞。中国料理を専門に、「和魂漢菜」を自身の料理スタイルとし、ホテル料理人として腕を振るう。
■成田 陽平さん
老舗料亭「菊乃井 本店」(京都)
東京・西麻布の「ル・ブルギニオン」を経て、25歳で渡仏。「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」(パリ)などを経て、2013年帰国し現職。「RED U-35」2016にて準グランプリ受賞、「RED U-35」2019において、準グランプリ&gold egg受賞。
■加藤 由希奈さん
ECサイト「coffee and spice.」運営。および表参道にあるコーヒー豆店に勤務(東京)
2016年モンテ物産主催の「KIMBO バリスタ競技会2016」、2017年度「バリスタグランプリ」で優勝。
■浅賀 直斗さん
「サッカパウ」(東京・六本木)
2013年、「トルッキオ」林シェフの下で修業後、「SALONE2007」(横浜)や「バカリ ダ ポルタ ポルテーゼ」(渋谷)に勤務。2018年より「ビオディナミコ」(渋谷)にてスーシェフに就任後、現職。「2018パスタワールドマスターズ ファイナリスト」に出場。
■酒井 研野さん
中華料理「京、静華」(京都)
2009年に京都の老舗料亭「菊乃井 本店」で勤務。2017年には「菊乃井 無碍山房」の立ち上げに伴い、料理長に就任。その後、ニューヨークの「Shoji at 69 Leonard Street」、京都の「LURRA°」を経て現職。2021年2月、京都岡崎にて独立開業予定。「RED U-35」2019のbronze egg受賞者。
まとめ
いかがでしたか。鍋やはかりから、彫刻刀にマスキングテープまで、いろんなツールが使われているんですね。プロの料理人なら誰もがうなづく“業界あるある”も知ることができ、座談会は大いに盛り上がりました。これからもいろんなテーマで展開していきます。
<協力>
店名 | Hyatt regency tokyo 中国料理 翡翠宮 |
店名 | 菊乃井 本店 |
店名 | coffee and spice. |
店名 | サッカパウ |
店名 | 中国料理 京、静華 |