オンライン座談会の様子

クックビズでは、現在飲食業界で活躍されている方との定期的な座談会・インタビューを開催中。
今回は、若くしていまイタリアで料理人として活躍している川崎大輔さんにお話を聞かせていただきました。学生時代から海外にいきたいという夢を持ち、海を渡っていまイタリアで生活している彼に、イタリアと日本の違いや、コロナ禍での飲食業界の未来についてなど、日々感じていることをお聞かせいただきましたのでご紹介いたします。

プロフィール

■川崎 大輔さん

川崎 大輔さんの調理している様子

現在北イタリアのピエモンテ州在住。白トリュフで有名なアルバ近郊にある人口300人ほどの小さな村・セッラヴァッレ・ランゲにあるトラットリア「La Coccinella(ラ・コッチネッラ)」で現在、料理人として前菜とデザートを担当。2018年「ワールド・パスタ・マスターズ」(※)ファイナリスト。

(※)クックビズ総研「パスタ界のW杯日本代表が決定!「ワールド・パスタ・マスターズ 2018」日本予選」参照

クックビズ株式会社からは、座談会運営の世古、川田、中西が参加いたしました。

飲食業界をめざしたきっかけ

クックビズ世古:本日はインタビューご協力いただけるとのことありがとうございます。実際にイタリアでご活躍されている料理人の方にお話をうかがえるのは非常に貴重な機会だと思っています。今日はよろしくお願いいたします。

まずは飲食業界に入ったきっかけからをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

川崎さん:子供のころ、母がカフェでアルバイトしていて、一度食事に行ったときに「いいな」と思ったのがそもそもの始まりかもしれません。また、母や祖母も料理に対してすごく愛情を持っている人だったことも影響していると思います。

クックビズ世古:ではけっこう小さいころから料理人に対してかっこよさとか憧れは持ってたんですね。

川崎さん:そうですね。ずっと飲食店で働きたいという想いが強くて、高校の時に従兄弟がバイトしていたパスタ屋さんに「一週間無休でいいので勉強させてください!」とお願いしたほど。その頃に自分はイタリアンの料理人になりたいな、と思いはじめてましたね。

また、同時期にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で「レストラン カンテサンス」の岸田周三シェフが取り上げられていたのを見て、料理人ってかっこいいなと改めて思い、自分には料理人の道だ!と決意しました。

クックビズ世古:もう高校在学中に進むべき道を自分の中で「これだ!」と固められてたんですね。

川崎さん:はい。あとは、イタリアンの第一線で活躍するには本場イタリアに行くしかない!という考えも同時にあって、高校の時からイタリア語も少しずつ学びだしていました。

クックビズ世古:高校の時からイタリア語ですか!すべてにおいて決断が非常にスピーディだと感じたのですが、海外を目指す料理人の方はだいたいそのぐらいのスピード感なのでしょうか?

川崎さん:決断は早いかもしれませんね。イタリアで同じように修業している日本の方は飲食の道に入ってから、20歳前後で海外について考え出したという方が多いように思います。

クックビズ世古:海外で経験を積んだ後の夢や目標はあるんですか?

川崎さん:2019年の1月からイタリア生活をはじめましたが、少なくとも3年は修業したいと思っています。そして将来、いまのイタリア人の恋人と実家の京都に帰り、お店を持つことが夢で、最初のお客様として祖父母を招待したいと思っています。イタリア人のシェフと日本人のサービススタッフの組み合わせのお店はよくありますが、日本人シェフとイタリア人のサービススタッフという組み合わせってあまり見ないので、そういった点でもおもしろいだろうなと思っています。

クックビズ世古:すごいすてきな夢ですね。たしかに日本人シェフ×イタリア人のサービススタッフという組み合わせはあまり見ませんし、どんなお店になるか楽しみです!

イタリアと日本のはたらき方の違い

クックビズ世古:ここからは、イタリアと日本とのさまざまな違いについてお聞きしたいのですが、飲食業界で働く、という点で感じた違いはどういったものがありますか?

川崎さん:イタリアはもともと夕食の開始時間が遅いようで、お店のオープンも20時なんです。16時から仕事が始まって休憩時間が2時間ほど。ラストオーダーも21時30分と非常に早く、23時には閉店しているような状態です。

日本だと、営業開始も17時や18時から、深夜近くまで営業したり、掃除などをしていると家に帰るのが2時を回っているようなこともありましたから、そのあたりはイタリアはしっかり時間管理されていると感じています。

クックビズ世古:イタリアの国民性からなんとなくマイペースな印象がありましたが時間はしっかりと管理されているんですね。休日の過ごし方なども何か違いはありますか?

川崎さん:休日は毎週火曜日です。ただイタリアでは年に2回1か月ほどの長期休暇を取ることができ、現地の人たちはずっと「その長期休暇を楽しむためにどう働くか」を考えているので、この休暇がひとつのモチベーションになっているようです。

クックビズ世古:長い長期休暇をモチベーションにしているあたり、日本とはかなりの違いがありますね。そういったところからも「日本人は勤勉で仕事熱心」という印象を持たれているのかもしれないですね。

イタリアと日本での飲食業界の違い

クックビズ世古:飲食業界全体でほかに何か違いを感じる部分はありますか?

川崎さん:日本だと国内に100店舗以上チェーン展開している飲食店がたくさんあり、その中で個人でやっているお店もありますが、イタリアではチェーン店というものがそもそもないんです。

イタリアの方は仲間やお店の方と「会話を楽しむ」ということが食事を楽しむ中の重要な要素になっています。おいしいお店探しも友人から紹介されたお店に行く、といったように「人と人」のつながりを非常に大事にしているので、新しいお店に自分から行くことも少ないため、多店舗展開することにメリットを感じていないのかもしれません。

クックビズ世古:安さだったり、どこのお店にいっても同じクオリティの料理が楽しめることより、お店にいる「人」に会いにいく目的が大きいんですね。

川崎さん:お店の料理やお酒ももちろん評価ポイントの1つですが、そのお店にいる料理人やサービスの方と過ごすことが楽しみなんです。料理を召し上がったお客様が奥の厨房までやってきて、シェフに直接感想を伝えたり、会話している光景もよく目にしますし、こういった形でお店やスタッフのファンになっていくんだろうなと思います。

クックビズ世古:それは日本だとなかなか目にしない光景ですね。(笑)
イタリアのレストランの距離感の近さやアットホームな雰囲気がすごく伝わります。

コロナ禍における変化

クックビズ世古:新型コロナウイルスの影響が日本でも大きく飲食業界にダメージを与えていますが、イタリアにおいてはどういった動きがあったんでしょうか?

川崎さん:イタリアではロックダウンが行われたため、3月11日~6月20日まで3か月以上、外出の制限が行われました。当然ながら自分が働いているお店もこの間はまったく営業ができない状態でかなりきびしい状況でした。

クックビズ世古:日本ではコロナ禍で一気にUber Eatsなどのデリバリーやテイクアウト系のサービスが広まっていきましたが、イタリアではどうだったんでしょうか。

川崎さん:Uber Eatsなどはコロナ以前より街中や都市部ではよく見かけましたが、今いるお店が田舎ということもあってニーズがあまりなく、頼む人もいなかったので自分の周りではあまり広まっている印象はないですね。

クックビズ世古:日本においては緊急事態宣言が解除されたあとも、各都市ごとで飲食店の営業時間短縮要請や、大人数での会食自粛要請などが行われていました。イタリアではロックダウン解除後もそういったものはありましたか?

川崎さん:ロックダウン解除後は、テーブルの感覚を少し広くとる、などの対応を自主的に行うお店もありますが、政府からのそういった制限や要請はないですね。逆に、地域のみなさんが地元でお金を使おう!という意識が強まったのか、ロックダウン解除後は平日や土日を問わず常に満席という状態です。

クックビズ世古:そうなんですね!そのあたりは大きく日本と異なっているところに驚きました。

ウィズコロナ、飲食業界はどうなっていく?

クックビズ世古:ここから先、ウィズコロナという言葉も世の中にありますが、どうなっていくと感じていますか?

川崎さん:コロナ禍になって、シェフがYoutubeで料理やレシピ動画を公開するのがすごく増えた印象を受けています。また、あわせて飲食店がその前よりもオープンになってきているな、と感じています。

クックビズ世古:オープンとはどういった部分がそう思われますか?

川崎さん:シェフのレシピや調理動画もそうですが、厨房を公開して1日の料理人の動きを見せたり、こういったことは昔はなかったことだなと。もしかしたら、これからはレストランよりももっとその中にいる「人」に注目が集まっていく気がしています。

特にイタリアだと、AIやロボットの導入や効率化よりも、人と人とのつながりをもっと重要視されていくのではないかと日々感じていますね。コロナのようなことがあったからこそ、もしかしたら、よりお客様は人と出会い、会話を楽しむという、昔ながらの飲食店の形になっていくのかもしれません。

クックビズ世古:なるほど。デジタル化やシステム化が進んでいくと思いきや、実際飲食業界の中にいるとむしろアナログ化が進んでいくのでは、ということですか。「食」と「人」は切り離せないつながりがあるんですね。本日はいろいろとお聞かせいただきましてありがとうございました!

まとめ

今回は、イタリアで活躍されている料理人の方に、イタリアと日本の違いを中心にお話を聞かせていただきましたが、国民性もふまえ、随所に違いがあることを実感しました。
ただ、一方で「人」と「人」のつながりも含めて「食」であることは、世界共通なんだということも改めて実感しました。

<協力>

店名 La Coccinella(ラ・コッチネッラ)