
国は飲食店の全面禁煙化(受動喫煙防止)を加速させています。東京都も2018年の6月27日、独自に制定した受動喫煙防止条例案を賛成多数で可決・成立させました。飲食業界での全面禁煙に向けた動きは今後ますます本格化していきそうです。
では、飲食店関係者は国や東京都のこうした全面禁煙化の動きをどのように受け止めているのでしょうか?売上への影響も気になりますよね?
今回、クックビズ総研は日本全国の飲食店を対象に「飲食店の全面禁煙化に関するアンケート」を実施。その結果をレポートします!
受動喫煙防止における国と東京都の見解の違いとは?
国の改正案(厚生労働省が2018年7月25日に公布した「健康増進法の一部を改正する法律」)では、客席面積が100平方メートル以下で個人などが営む既存の飲食店を喫煙可能としています。つまり、国の改正案は個人店など小規模な飲食店ではなく、主にチェーン店や大型店舗を対象にしています。
これに対し、東京都の条例は店の規模にかかわらず従業員を雇っている飲食店は原則全面禁煙としています。
<受動喫煙防止の都条例と国の改正案の比較>
国が対象とするのは、全国の飲食店の内およそ45%であるのに対し、東京都は都内の飲食店の84%を規制対象にしていることになります。
受動喫煙防止法案に賛成する飲食店関係者は約5割
今回クックビズ総研が日本全国の飲食店を対象に実施した「飲食店の全面禁煙化に関するアンケート」に回答した飲食関係者213名のうち、国や自治体が提示している受動喫煙防止法案に対しては「賛成」するのは全体の49.3%、「反対」は全体の25.4%、「どちらとも言えない」は25.4%でした。
Q.国や自治体が提示している受動喫煙防止法案に賛成ですか?(全体)
エリア別に比較してみると、賛成派の比率には地域差が見られました。
東京都、大阪府では、禁煙化の賛成がともに約半数であるのに対し、愛知県では賛成はわずか約30%にとどまっており、地域による喫煙文化の差が結果に影響を与えていると考えられます。
Q.国や自治体が提示している受動喫煙防止法案に賛成ですか?(エリア別)
また、禁煙化への考え方は飲食店によって大きく意見がわかれていました。
現在の飲食店の喫煙環境別に比較してみると、すでに全席禁煙としている飲食店関係者では62.5%が禁煙化に賛成しているのに対し、全面喫煙可の飲食店関係者ではわずか35.4%のみの賛成でした。分煙(エリア分け、時間分け)の飲食店関係者においても、賛成は半数に満たない結果となりました。
Q.国や自治体が提示している受動喫煙防止法案に賛成ですか?(現在の喫煙環境別)
全面禁煙化に賛成する飲食店関係者が、その理由として「従業員やタバコを吸わないお客様の健康への配慮」をもっとも多く挙げています。また、「食べ物をより美味しく召し上がって頂きたい」という意見もありました。
禁煙化について寄せられた、飲食店関係者からの具体的なコメントをご紹介しましょう。
<禁煙化に賛成派>
- 「受動喫煙や、副流煙による健康被害を少しでも防止できたらと思います。お客様だけでなく、スタッフにも影響があることを痛感しています。頻度は多くないものの、副流煙が原因で退職した従業員も過去にいました」(大阪府/カフェ)
- 「自分も飲食店内(特にランチタイム)での他人の喫煙や置きたばこによる受動喫煙で、食事が不味く感じられた経験があります」(東京都/寿司)
- 「日本のお酒を丁寧に紹介するという業態の飲食店を経営していた際に、喫煙者と非喫煙者の間で軋轢がありました。それを避けたくて店内禁煙(店外に灰皿を設置)にしたところ喫煙客が来なくなり、閉店に追い込まれました。そもそも最初から法的に禁煙であればお客様同士でモメる事も無い話ですし、飲食店は喫煙所ではないので、全面禁煙にすべきです」(新潟県/居酒屋)
一方、禁煙化に反対する意見としてもっとも多いのは「売上減少への懸念」でした。特にアルコールを提供する飲食店関係者からは、喫煙客の客離れを心配する声が多く上がりました。
<禁煙化に反対派>
- 「ファミリーレストランなどお子様も多く利用されるような店舗、時間帯では実施しても良いとは思うが、居酒屋や夜のお店等でも一律禁煙にしてしまうと喫煙者の足が遠のきそうだと思う」(群馬県/居酒屋)
- 「個人的には喫煙していないので(禁煙化には)賛成ですが、会社経営的に考えると、喫煙が出来ない、もしくは店舗周辺に喫煙区域が無いとお客様の来店が減少する可能性は否定できない」(東京都/給食)
- 「例外や、喫煙所の設置による補助金申請、従業員がいない場合は良いとか、法の抜け穴、グレーな部分が多い。これでは、禁煙化をまともに実施するお店が損をするのでは?店舗規模や従業員の数関係なく全面禁煙したほうが良い」(愛知県/創作ダイニング)
喫煙環境の変化が売上に与える影響とは?
実際に禁煙化を実施した飲食店では、売上はどう変化したのでしょうか?
これまでお店の喫煙環境が変わったこと(喫煙可から禁煙)を経験した飲食店関係者125名のうち、売上に「特に変化はなかった」と回答した人は全体の60%、「売上増」が12%、「売上減」が28%という結果になりました。
Q.お店の喫煙環境が変わったこと(喫煙可から禁煙)による売上への影響がありましたか?(有効回答数125)
<禁煙化で売上増!>
禁煙化によって「売上増」となった飲食店関係者は、メリットとして客席の回転が早くなったことや、店内の空席率が下がったことを売上アップの要因にあげていました。
- 喫煙者のお客様は減ったかもしれませんが、煙草が吸えないことにより長居する方は少なくなりました。(東京/アジア・エスニック)
- 元々喫煙者のお客様は少ない店なので、全面禁煙になったことでどの席でもご利用いただけるようになりました。(東京/ホテル・旅館)
禁煙化によって売上減となった飲食店関係者からは、客足の減少、客層の変化による客単価の減少が売上にインパクトを与えたとコメントしています。ただし、なかには売上の減少は一時的なもので、長期的に見ると特にネガティブな影響がなかったとの意見も寄せられました。
<禁煙化で売上減!>
- 非喫煙者はあまり飲酒しない傾向が強い。(飲酒しないことで)客単価が下がり、居酒屋業態にはなかなかツラい部分があると思います。(新潟県/居酒屋)
- 上司が喫煙者だと(全面禁煙店には)入りにくいという声があり、ビジネス客が減った。ランチの時間帯に家族層が多くなったが、客単価が下がった。(大阪府/焼き鳥)
- 短期的には売上減となったが、中長期的には他社が全席に踏み切らなかったことで使い分けがされて売上は回復した。客層は男性多めから女性多めへと変わった。(東京都/洋食全般)
売上の変化をそこまで感じていない飲食店関係者からは、禁煙化による変化として、
- 客層の変化(家族層・女性客の増加)
- 店内飲食環境の改善(喫食空間がきれいになった)
- クリーニングの時間と経費削減(灰殼などのごみ処理、灰皿や壁紙などの掃除が不要)
などもあがっていました。
禁煙化未実施の飲食店のうち55%は将来的に禁煙化を検討
現在「全面喫煙可」もしくは「分煙」で運営している飲食店関係者を対象に、今後禁煙化にする予定について聞いたところ、「禁煙化の予定がある」と回答したのは全体の55%でした。
Q. 現在の喫煙環境が全面喫煙可及び分煙のお店にお聞きします。今後、禁煙化にする予定はありますか。(有効回答数120)
禁煙化に否定的な飲食店は、禁煙化のハードルの高さについて
- 現在の客層の大半が喫煙客で占められている
- 分煙スペースの確保ができない小規模な店舗である
- 喫煙文化が根強いエリアである
などが理由にあがっていました。既存の業態や店舗スペース、所在エリアによって、禁煙化に対するスタンスの違いが出ていました。
まとめ
禁煙化に対する飲食店関係者の見解について、アンケート結果からは次のようなことがわかりました。
- 禁煙化に賛成する飲食店関係者は半数未満、特にエリア、現在の店舗環境による意見のばらつきが大きかった。
- 禁煙化賛成者は「客と従業員の健康維持」、「食事品質の向上」の面でメリットを感じ、反対者は「売上の減少」がもっとも懸念される。
- 実際に喫煙可から禁煙化に移行した店舗の売上推移では、「特に変化がなかった」店舗が全体の60%、「売上増」が12%、「売上減」が28%で、業態によっては多少の影響は出るものの長期的に見ては売上へのインパクトは限定的と考えられる。
- 売上以外、禁煙化に踏み込んだ店舗は客層の変化、飲食環境の改善による諸経費の削減(クリーニング費など)を実感している。
- 現在禁煙化していない飲食店のうち、今後禁煙化の予定があるのは55%。業態やエリア、店舗規模によってはまだまだ禁煙化のハードルが高い。
今回のアンケートでは、飲食店関係者の禁煙化への関心の高さをうかがうことができました。東京オリンピックが開催される2020年4月には、全国の飲食店に向け受動喫煙防止法の全面施行が予定されています。こうした禁煙化への動きは、どの飲食店にとっても自店の喫煙環境を見直す良いきっかけとなるに違いありません。
■調査概要
調査名 | 「飲食店の禁煙化に関する意識調査」 |
調査対象 | 日本全国の飲食店関係者 |
有効回答数 | 213 |
立地内訳 | 首都圏89、中京圏19、近畿圏41、地方圏64 |
展開店舗数内訳 | 1店舗:57、2−10店舗:79、11−100店舗:46、101店舗以上:31 |
調査期間 | 2018年7月27日~2018年8月6日 |
調査方法 | インターネット調査 |