原宿食サミットとロゴの入った画像

2019年6月10日、11日の2日間、東京・原宿のルアール本郷で「原宿食サミット」が開催されました。
各分野のスペシャリストが食に関するトピックスを語るこのイベント。“食品ロス”や、“美食同源”などの興味深いテーマを取り上げた第2回に続き、3回目の開催となる今回も、タイムリーな話題を取り上げて熱いトークセッションが繰り広げられました。

このイベントを主催するのは、日・仏に店舗を構えるフランス料理店「KEISUKE MATSUSHIMA」のシェフ、松嶋啓介さん。日本の食や習慣の“歪み”について情報をシェアし、共に考える場として「原宿食サミット」を開催。専門家へのアテンドやトークセッションのテーマの選定などを自ら担当しています。

原宿食サミットの会場の様子

第3回「原宿食サミット」会場

トークセッションで取り上げられたさまざまなテーマの中から、注目の集まる「食とオリンピック」の話題を取り上げ、セッションのサマリーをお伝えします。

食にまつわる旬の話題が目白押しの「原宿食サミット」プログラム

■第3回「原宿食サミット」2日間のプログラム

1日目(6月10日)

第1部「食と家族」
第2部「食と地域」
第3部「食と安全」
第4部「食と音楽」
第5部「食とスポーツ」
第6部「食と酒」

2日目(6月11日)

第1部「食とオリンピック」
第2部「食と教育」
第3部「食と農業」
第4部「食とテクノロジー」
第5部「食と健康」
第6部「食と介護」

テーマごとに専門家2名とファシリテーター1名が登壇し、50分のトークセッションが行われました。各セッションの登壇者については、Facebookの「原宿食サミット」イベントページをご参照ください(記事末尾にリンクあり)。

「食とオリンピック」、東京2020オリンピックの選手村や観客たちの食の動向は?

2020東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ近づいてきました。トップアスリートたちが世界の頂点を目指して戦う檜舞台であり、多くの観客が、東京や日本国内の競技場に集まる特別な期間。飲食店にとってはもちろん商機でもありますが、どう準備をしたらいいのか想像がつかないという方も多いでしょう。

第3回「原宿食サミット」の2日目、第1部で行われたトークセッションのテーマは「食とオリンピック」。オリンピック・パラリンピック期間中に飲食店に求められるもの、食を通して何を伝えられるのか等、飲食業界や都政にかかわる登壇者がトークを展開しました。

登壇者の白戸さん、松田さん、モデレーターの楠本さんが壇上で椅子に座っている写真

「食とオリンピック」トークセッション。左から、楠本修二郎さん、白戸太朗さん、松田公太さん

第3回「原宿食サミット」2日目第1部「食とオリンピック」モデレーターと登壇者は3人。

【モデレーター】

楠本修二郎さん(カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長)

【登壇者】

白戸太朗さん(東京都議会議員、スポーツナビゲーター、アスロニア代表)
松田公太さん(タリーズコーヒージャパン 創業者、前参議院議員)

早速、トークの一部をご紹介します。

■外食産業の期待と課題、ナイトタイムエコノミーの伸びがポイント

楠本さん:1964年の東京オリンピックでは、建築業が伸びて、インフラが整って、日本の経済が発展する起爆剤になったと思うんです。今回の2020では、日本は世界に何をアピールするんだろうかと考えると、ものを作るというより、文化とか先進性とか、日本に対する共感がどう広がっていくか、それが期待されているような気がします。
食というのは、そういう魅力を発信しやすいジャンルだと思うんです。

モデレーターを務めた楠本さんが話している写真

モデレーターを務めた楠本修二郎さん(カフェ・カンパニー株式会社代表取締役社長)

僕は今回、外食産業の仲間に「日本のオリンピックに何を期待しているか」、「課題はあるか」という内容のアンケートをとりました。回答は全体的に、ものすごくポジティブ。日本の食、文化、おもてなしをアピールしたい、という声が多いんです。

営業面の期待としては、例えばバーやスナック等、ナイトタイムエコノミーといわれる分野。日本は現状、夜のおもてなしがあまり充実していない国ですが、夜に特化して営業する業態の伸びがポイントになるんじゃないか。あるいはパーティー需要でケータリングを取り込む。そういったことで外国人をおもてなししようという回答もありました。

一方で課題も見えてきました。高級店は集客を見込むことができますが、高回転型の業種・業態は回転率が落ちると致命的なので、決してポジティブには考えられない。
ほかに、この機会にキャッシュレス対応、多言語化を促進するべきという意見もありました。

日本の外食産業はブラック産業だ、とよくたたかれます。日本の食文化を広める大事な役割を担っている産業で、いいものを出したいという気持ちはある、だけどコスパ重視で金額を抑えざるをえない。一言で言えば、日本の外食は安すぎる。それに、日本の食はヘルシーだと言われる反面、化学調味料を多く使っているということもある。

今まで成功してきた実績があるわけだけれど、業界全体として、オリンピックを通じて大きく変わらなきゃいけない、脱却しなきゃいけないこともあると思うんです。

■コスパだけではない、日本の食へのリスペクト

楠本さん:海外経験の長い公太さんは、どうお考えですか。

登壇者の松田さんが話している写真

松田公太さん(タリーズコーヒージャパン創業者、前参議院議員)

松田さん:アフリカのセネガルやアメリカで過ごした少年時代、現地の友達から、生の魚を刺身で食べる日本人の食習慣は気持ち悪いと言われたこともありました。
70年代の高度経済成長期、SONYのウォークマンはじめ日本の工業製品が世界的に人気でしたが、SONYはアメリカの会社だ、と勘違いする人も多くて、そのたびに僕は、日本の会社だと言ってきた。日本が受け入れられないのは、食文化のせいもあるのかなと思っていました。オリンピックを境に、もっと日本の食文化がリスペクトされたらいいですね。

楠本さん:日本の活け造りは野蛮だという外国人の声もあったようですが、今は少し変わってきましたね。1964年以降の高度経済成長のように、今回のオリンピックが日本へのリスペクト、日本人はこういうところがいいよね、ということを理解してもらえる機会になるといいですよね。

松田さん:そういう機会にしなくちゃいけないなと思います。
先ほど、日本の外食は安い、という指摘がありました。今、外国人観光客がこれだけ日本に来ている理由は安いからなんです。20年くらい前、他のアジアの国に行ったらこんなに安くおいしいものが食べられるよと日本人が言っていた、それと同じ感覚なんです。コスパじゃなくて、もっと、日本食って素晴らしいということをしっかり伝えていきたいです。

■オリンピック期間中やその後の人材難、AIの活用が鍵

楠本さん:オリンピックのボランティアは、10万人ですか?

登壇者の白戸さんが話している写真

白戸太朗さん(東京都議会議員、スポーツナビゲーター、アスロニア代表)

白戸さん:フィールドキャストという大会スタッフが8万人、シティキャストという都市ボランティアが3万人、合わせて11万人です。

楠本さん:ということは……外食に限らず、オリンピック期間中は通常より11万人ぐらい人手が足りなくなる。人手不足の問題はオリンピック期間だけの問題ではなく、その後も続きますよね。どうしたらいいですかね。

松田さん:外食産業にとって少子高齢化による人手不足というのは痛手ですね。他の業種に比べても、外食産業は有効求人倍率が高い。それだけ厳しいんです。そこで、AIをどれだけ駆使していくかが、オリンピック後の我々のテーマになるのかなと思います。
私も開発にたずさわっていまして、キャッシュレス化、サラダのアッセンブル(素材を選んで合わせる、組み立てる)のAI化ができないか、という試みをしています。

楠本さん:アッセンブルのAI化?ロボットがやるということですか。

松田さん:そうです。でも、最後は人間がやるべきだと私は思っています。外食産業はやはり、お客様が来店して、ちゃんと人が作っているんだということがわかってはじめてほっとする、おいしく感じられるものだと思っていますので。

■選手村の食事は?フードロスへの対応は?

松田さん:僕、都議会の現場にいる白戸さんひとつ聞きたいことがあって。選手村の食事って、どうなっているんですか。どういう風にやろうとしているんですか。僕が気にしているのは、選手がその食事を食べて、良いパフォーマンスができるのか、モチベーションをあげられるのかどうかというところです。

白戸さん:選手村の食事は、1日に4万5000食を用意しなくちゃいけない。1万4000人が生活する選手村で、3食、毎日安定して24時間、食事を提供できなければいけない。しかも選手たちの宗教はさまざまです。普通の企業ではなかなか対応が難しい。選手村の食堂の運営はエームサービスという企業が落札しましたが、なぜこの会社に決まったかといえば、ここはそのノウハウをもっていたということです。

楠本さん、白戸さん、松田さんが笑顔でセッションしている様子

「食とオリンピック」トークセッション

選手村の食事は3つの施設を考えていて、ひとつはメインダイニング。ここはとにかくいろんな国の選手に対応した料理を出す。それからカジュアルダイニング。ここは完全に日本の食材、東京GAP(都から「農業生産工程管理」の認証を受けている食材)の野菜なども使って、日本食メインに提供します。もうひとつはコンビニのような、to goできるような施設。

なぜメインとカジュアルを分けたかというと、選手は競技の前に、食べ慣れないものを食べられない。なので、メインダイニングでいつも食べている各国のものを食べて、競技が終わったらカジュアルダイニングに来て日本食を食べてもらう。そういう風に分けました。

この機会に、本物の日本食を知ってもらいたいじゃないですか。日本食ってこんなにおいしいんだと思ってもらえるように、カジュアルダイニングでは食材にもこだわって提供します。

松田さん:かなりのフードロスが出ますよね。どう処理するか、どうやってリサイクルにもっていくか。それもすごく重要なことです。そこから、まさに日本の食を世界に示していけるんじゃないでしょうか。

白戸さん:僕は、余った料理が賞味期限を迎える前に、一般の人に食べてもらったらどうかと提案したのですが、それは却下になりました。

楠本さん:日本はフードロスを多く出している国ですから、この問題は日本全体で取り組まなければいけないですね。

大事なのは、また来たいと思ってもらえるかどうか

このセッションの後、2020東京オリンピックでの飲食店の可能性や準備について、松嶋啓介さんの思いをお聞きしました。

主催者の松嶋さんがマイクを片手に話している写真

「原宿食サミット」を主催する松嶋啓介さん

飲食店はまず、スタッフが外国語に対応できるようにしたり、メニューを多言語に翻訳する準備をした方がいいでしょう。僕はロシアでサッカーのワールドカップを観戦したんですが、ロシアでの外国人のもてなしは徹底していて、またここに来たいなと思わせてくれました。大事なのは、また東京に来たい、といういい印象をもって帰ってもらうこと。次の来日につなげることがとても重要だと思います」(松嶋さん)

日本の食の問題やトピックスについて、専門家のトークを聞くことができる「原宿食サミット」。第4回はどんなテーマが話し合われるのか、期待が高まります!

■取材協力

イベント名 原宿食サミット
企業名 「KEISUKE MATSUSHIMA」