Hal fest Tokyoの看板の写真

ムスリムとはイスラム教徒のことですが(アラビア語でムスリム مسلم 、英語: Muslim)、世界の人口に占めるムスリムの割合は、2030年までに26.4%(約22億人)になると言われています。

日本では2019年のラクビーワールドカップ、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催が控えていますが、世界各国からゲストを迎える際には、ハラール対応が必須とされています。しかし、それにはまだ現場の知識も対応も十分に追いついていないのが現状です。

訪日ムスリム旅行者、そして世界で急成長するハラール市場に向けて、飲食業界ではどのような商機をつかみ、どのようなビジネスを展開すれば良いのでしょうか。
2018年11月27日〜29日の3日間、東京流通センターで開催されたハラール商品やサービスを紹介する日本最大級のトレードショー「Halfest Tokyo 2018」を取材しました。

そもそも「ハラールビジネス」とは?!

東京で初開催された「Halfest Tokyo 2018」には、加工食品、飲料、菓子、化粧品など、さまざまな業界から約130社145ブースの出展がありました。
ハラール商材の世界最大級トレードショー「Halfest ASEAN」を開催・運営しているShapers Malaysiaの日本支社であるSHAPERS Japan株式会社が企画運営。インバウンド・アウトバウンドにおけるビジネス事例が集められました。

様々なお菓子や食品の画像

お菓子や調味料など「ハラール認証」を得た日本製商品は多い(ライター撮影)

ここで、ハラールについておさらいします。ハラールとはアラビア語で「許可されたもの」の意味。イスラム教徒(ムスリム)が日常生活で口にできる飲食品を真っ先にイメージするかもしれませんが、イスラム法で許された商品や行動・言動・活動など全てがハラールになります。
ここでは、ハラールは単に嗜好の問題ではなく、イスラム教徒にとって、自分が罪を犯さず信仰の拠り所となる大切な規準であるということを理解することが大切です。

ハラールマークが入ったお菓子や洗剤の写真

小袋のわさびや哺乳瓶の洗浄剤にもハラール・マークが!(ライター撮影)

商品がハラールに値するかどうかは、ハラール監査員が検査をします。認証されると国や認証機関が発行するハラール・マークが使用できます。

マレーシアの事業開発大臣も列席した「Halfest Tokyo2018」

「Halfest Tokyo2018」のオープンセレモニーには、マレーシアの事業開発大臣 HE Datuk Seri Mohd Redzuan Yusof氏が来日。日本の商品やサービスのクオリティの高さに言及し、展示会を通じて日本がハラール産業を推進するプラットフォームになることに期待を寄せていました。

テープカットをする様子

来賓によるテープカット(ライター撮影)

会場には、出展者以外にもヒジャブを被ったムスリム女性がゲストとして多数つめかけ、まるで東南アジアにいるような熱気! 日本への輸出を狙うマレーシア企業も数多く出展していましたが、ブースには日本ではあまり馴染みがない商品も多数並んでいました。ムスリム社会についての情報がまだ日本には充実していないことがわかります。

マレーシアの大臣の写真

会場でハラール認証を取得している日本製品について熱心に説明を聞くマレーシアの大臣(ライター撮影)

ムスリムは訪日しても食べる物がない!?

日本はおもてなしを強調しますが、訪日したムスリムの方が食べる物がないと困ることも多く、実は本当の意味でのホスピタリティはまだまだ欠けています
そう語って下さったのは、2018年4月に「ハラール事業部」を新設し、日本国内でハラール食品販売を開始した株式会社キュアテックス会長の藤代政己さん。

マレーシアの5つ星ホテルで調理されたソースを輸入し、熊本県上天草市にあるハラール認証を受けた自社キッチンで調理加工。訪日ムスリム旅行者をターゲットに、本場のマレー料理をレトルトパックで国内販売しています。

キュアテックスの皆さんが並んでいる写真

ハラール食品の紹介をする笑顔が印象的なキュアテックスの皆さん(ライター撮影)

来日しても宿泊先のホテルのビュッフェで食べるものがなく、自国から持参したハラールのカップラーメン食べているようなムスリム旅行者は少なくないといます。こうした状況を改善するため、ハラール対応をした和食のレトルトパックも開発しました。

ハラールではアルコールがNGのため、和食でハラール認証をもらうためには、ハラール対応の醤油を使い、日本酒の基本調味料である日本酒やみりんを使わない調理が求められることになります。キュアテックスではベテラン和食料理人と研究を重ね、昆布で旨味を補うことで通常の調理法と遜色ない味わいにまで仕上げていました。
鮎の塩焼き、鮎の一夜干し、治部煮、牛丼など、1人前ごとの個別パックになった商品は、温めるだけですぐに提供できる手軽さもあり好評。ハラール対応をしたくても、特別な施設設備の導入ハードルに直面している国内大手ホテルなどからも問合せが増えているそうです。

さまざまな日本食の写真

和食を食べたいムスリム旅行者のルームサービスにもスムーズに対応できるハラール和食の需要は高まっている(ライター撮影)

「カレーハウスCoCo壱番屋」は昨年2017年9月に秋葉原、今年2018年8月には歌舞伎町にハラール専門店をオープンして話題になりました。
ハラール対応に力を入れたきっかけは、やはり「ムスリム旅行者が日本で食事をする場所がない現状に、少しでも貢献したかった」という理由でした。

CoCo壱番屋のカレーの写真

ハラールカレーは通常メニューと変わらぬ美味しさ!(ライター撮影)

都内のモスクへのPRやSNS発信で徐々に認知されるようになり、現在はお客様の8割が外国人となっているそうです。既存店との違いとして重要なのは「スタッフが、ムスリムの文化や生活習慣を理解しておく必要がある」ということ。
販売する商品がハラール対応していても十分ではなく、日本人には馴染みが薄いムスリム社会をきちんと知ることがサービスを提供する上で不可欠なのです。

ハラール認証の保証する安心・安全

イスラム教では、豚やアルコールを食用にすることが禁じられています。お酒から作られる調味料である「みりん」や「料理酒」はもちろんですが、醸造過程で自然にアルコールが発生する食品については、同じムスリムでも宗派や地域によって気にする程度が異なります。

味噌についても、発行や熟成を止め保存性を高める目的で人工的に添加されることがある「酒精(エチルアルコール)」が禁止材料であると捉えられます。近年人気が高まっている「ダシ入り味噌」のように、添加物の中身について詳細が確認できないものも、ハラール認証を取得できません。
日本古来のやり方で作られる、添加物なしの発酵食品は基本的にはハラール食品といえますが、今ではひとつひとつの製造工程を精査しなければハラール認証をもらうことはできません。と同時に、ハラール・マークがついている商品は、原材料や製造工程が明確になっている「安心の証」でもあります。

みりんと味噌の写真

「無添加味噌」には酒精や添加物が含まれない(ライター撮影)

豚だけではなく、豚由来の成分が含まれたゼラチンやマーガリンなども禁忌とされますが、同様の理由で白砂糖にもハラール認証が認められないケースがあります。というのも、砂糖には、精製過程で豚由来の消泡剤が使用される場合があるからです。

和菓子等を製造販売している「株式会社とかち製菓」は工場の生産ラインをすべてハラール認定の和菓子製造に統一化。ムスリムが多いマレーシアなどの海外諸国に商品を輸出しているが、海外展開するイオン各店舗で現地消費者から人気を集めています。

ハラール認定の和菓子の写真

ハラール認定の和菓子は東南アジアで人気(ライター撮影)

豚由来の肥料や薬品が栽培時に使われていない野菜、解体処理や輸送保管方法が認証を受けた和牛など、日本でハラール認証を受ける食品は続々と増えています。
食のハラール認証は、ムスリム向けのインバウンド・アウトバウンド対応として必須なだけではなく、原材料や製造方法に厳格な規準があるため、グリテンフリーやベジタリアンといった食に意識が高い消費者の間で、近年一層の注目を集めるようになっています。

対象ジャンルが幅広いハラールビジネス

「Halfest Tokyo2018」は、在日ムスリムにとってハラールに関する最新の情報や商品を得ることができる注目イベントになっていたようです。開催初日の会場では、オープン目指して来場した多数のムスリム女性たちが、まるでショッピンセンターで買い物をするようにブース巡りを楽しむ姿がありました。

在日ムスリムの方々がお買い物を楽しむ様子の写真

入手困難なハラール商品を購入できるチャンスでもある「Halfest Tokyo2018」は在日ムスリムの高い関心を集めた(ライター撮影)

ハラール認証は、食品だけに限らず、医薬品、化粧品、洗剤など、多岐に渡る商品を対象としますが、なかでも日本製のハラール化粧品のブースでは、ムスリム女性たちが嬉しそうに商品をチェックしていました。彼女たちは、普段はマレーシア製、インドネシア製の化粧品を使用しているのだとか。日本で暮らすムスリムの方々は、生活用品の選択の幅が限られるため、想像以上に不便な日々を送っているのです。

ハラール化粧品のブースの様子

日本では珍しいハラール化粧品のブースで記念撮影をするムスリム女性たち(ライター撮影)

今回大きなブース出展をしていたハラール化粧品メーカー「ロイヤル化粧品株式会社」は、「純金化粧品」という名前で金箔を使ったノンアルコール商品をPR。今後は中東の富裕層向けに販路拡大したいと意気込んでいました。

今後も広がりをみせるハラールビジネス

今回の取材でわかったのは、日本はまだハラールへの理解や対応が十分にできていませんが、商品の安心安全や信頼性を保証するものとして世界中から注目されているハラール認証は、日本の高品質な製品やサービスと親和性が高いということです。日本で開催されるワールドカップやオリンピックをきっかけに、ハラールビジネスが拡大していきそうです。

取材クレジット

イベント名称 Halfest Tokyo 2018
主催 日本ハラール産業輸出促進協議会
企画運営 Shapers Japan株式会社
後援 ジャカルタ商工会議所、とくしま農林水産物等 輸出促進ネットワーク
会期 2018年11月27日(火)〜29日(木)
会場 東京流通センター展示A-Dホール
公式サイト https://halfest.tokyo