
長年、世界ランキング1位の座に君臨してきたテニスプレイヤー、ノバク・ジョコビッチ選手。
世界中で爆発的な売り上げを記録した彼の著書、『ジョコビッチの生まれ変わる食事〜あなたの人生を激変させる14日間プログラム』で紹介され、一躍脚光を浴びることになったのが「グルテンフリー」という食事法です。
ジョコビッチ選手がパフォーマンスを驚異的に向上させたという「グルテンフリー」とはどんな食事法なのか、ここでは解説していきます。
目次
小麦に含まれるたんぱく質「グルテン」が不調を引き起こすことがある
「グルテン(gluten)」とは、小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質のこと。
もっとも知られているのは小麦グルテンです。小麦に含まれる100種類以上のたんぱく質の中でもっとも含有率が高いのがこのグルテン。
グルテンはグリアジンとグルテニンという異なる性質のたんぱく質が結びついたもので、小麦粉に水を加えてこねることで形成されます。
グルテンを多く含む食品の代表例は、パン、パスタ、ラーメン、ピザ、ケーキ、クッキー、うどん、といったもの。
弾力性と粘着性を生み出すグルテンは、これらの食品を作る上で欠かせない成分といえます。
しかし、このグルテン、アレルギーをもつ人や、分解・消化する酵素を持たない人が実は多く存在することがわかってきました。そんな小麦に関する病気には以下のような種類があります。
■小麦アレルギー
小麦に含まれるたんぱく質に過剰反応する免疫疾患です。
どのたんぱく質に反応するかは人それぞれで、なかにはグルテンは大丈夫という人もいます。
■グルテンアレルギー(グルテン過敏症)
グルテンに対して過剰な免疫反応を起こすもので、全身にアレルギー症状が現れます。
小麦がよく知られていますが、やっかいなことに、小麦グルテンに似た構造のたんぱく質を含むほかの穀物(ライ麦、大麦など)にも反応します。
■セリアック病
グルテンが体内に入ると 敵が侵入して来たと勘違いし、自らの小腸を傷つけてしまう自己免疫疾患です。小腸の絨毛が損傷するため栄養が吸収できなくなります。
症状は、慢性的な下痢・便秘、腹痛、嘔吐、倦怠感、貧血、皮膚のかゆみ、関節の痛みなどさまざま。
小麦だけでなく、グルテン全般に反応します。ジョコビッチ選手は、このセリアック病だったそうです。
■グルテン不耐症
グルテンを分解・消化する酵素が不足している、もしくは欠如していることで全身に慢性的な不調が現れます。
症状はセリアック病と似ていますが、免疫の病気ではなく、非セリアックグルテン感受性とも呼ばれます。
アレルギーの有無を調べる抗体検査では発見できません。
これらの疾患がある人は、不調の原因となる小麦やグルテンの摂取を制限・除去することが必要となります。それが「グルテンフリー(gluten free)」の食事法というわけです。
「グルテンフリー」でもたらされる効果と注意点
セリアック病だったジョコビッチ選手ですが、グルテンを含む一切の食べ物を摂らない「グルテンフリー」食事法に変えたところ、大きな変化が起きたといいます。
その変化は、慢性的な腹痛がなくなったこと、やる気が湧きプレーに集中できるようになったこと、自然に5kgほど減量でき、身体が軽く強くなったこと、脳内にかかっていた霧が晴れ、思考が明瞭になったことなど、心身全般に現れたといいます。さらに、長年悩まされていた鼻詰まりもなくなったのだとか。
そのおかげでパフォーマンスが劇的に向上。3つのグランドスラム大会を制し、世界ランキング1位を獲得、テニス界の絶対王者といわれるまでに強くなれたと、著書の中で語っています。
(出典:https://www.amazon.co.jp//dp/4883206335/ )
彼が実践したグルテンフリーの食事法では、グルテンを含むものはすべて食べられません。グルテンを含む原料は、小麦、大麦、ライ麦、デュラム小麦です。さらに、つなぎなどで小麦やグルテンを使用している製品も避けなければなりません。一見小麦が入っているように見えなくても、そうした食品は意外に多く、膨大な数にのぼります。
<グルテンを含む食べ物例>
- パン、パスタ、ピザ、シリアル
- ラーメン、うどん、そば(十割そばは除く)
- お好み焼き、中華まん、たこ焼き
- 餃子、焼売、ワンタン、春巻
- 焼き菓子やケーキ、スナック菓子
- フライやてんぷらの衣
- ハンバーグ(つなぎに小麦粉使用)、シチューやカレーのルー
- ビール、発泡酒、麦焼酎、スコッチ、バーボン、ウォッカ
- 調味料(醤油、ドレッシング、ソース、スパイスなど小麦使用の場合がある)
- 植物油(小麦胚芽油)、穀物酢
- サプリメント(カプセルの結着剤に使用) など
これらを完全に排除するのはかなり大変なこと。グルテンフリーを実践するためには、商品ラベルで小麦やグルテンを含んでいないかを必ず確認する必要があります。最近は、グルテンを含まずに作られたグルテンフリーの商品もネットで買えるようになってきているので、極力利用するといいでしょう。
なお、グルテンフリーは糖質制限と混同されがちですが、似て非なるものです。
糖質制限の場合は、糖質が高いものをすべて避ける・制限するのに対し、グルテンフリーの場合はグルテンのみ避ければOK。糖質制限では摂取を控えるべきとされる糖質の高い米やイモ類、砂糖などは食べて大丈夫です。
ほか、グルテンフリーで気を付けなければならない点は、グルテンはたんぱく質の一種なので、摂取を避けることで体内のたんぱく質が減ってしまいがちなこと。
そうした理由から、グルテン摂取に問題のない人がグルテンフリーをやりすぎるのはリスクがあると警鐘を鳴らす医師もいます。
ダイエット目的でグルテンフリーを行う人も増えていますが、闇雲にやりすぎるのは考えもの。
肉や魚、卵、大豆製品などを積極的に摂って、たんぱく質を補うなど、正しく行うことが大切です。
世界では当たり前のグルテンフリー対応
日本ではまだあまり知られていないグルテンフリーですが、欧米ではすでに一般に浸透しており、グルテンフリーの食材も普通に流通しています。
グルテンフリーメニューを提供している飲食店も多く、ファストフードにもグルテンフリーメニューがあるほどです。
パスタやピザなど、小麦の消費量が多いイタリアでは、病院などの公共施設でグルテンフリーの食事を提供できるように法律で定められてもいます。
パスタやピザ粉にもグルテンフリーのもの(小麦粉の代わりに米粉やとうもろこし粉、大豆粉などを使用)が用意されており、ほぼすべてにおいて置き換えが可能となっています。
スポーツ界では、パフォーマンス向上のためにグルテンフリーを取り入れる選手も多いため、選手村での食事にグルテンフリーメニューを用意していることが多くあるようです。
日本のグルテンフリー対応はまだまだ発展途上
一方、日本では、全面的にグルテンフリーに取り組んでいる飲食店は少ないのが現状です。ご存知の通り、外食産業ではアレルゲン表示の義務はないので、対応は店側に委ねられています。
グルテンフリーを実践している消費者は、アレルゲン表示や低アレルゲンメニューのある店を選ぶ、もしくは、メニューの中からグルテンが含まれていないものを選ぶ場合が多いようですが、本当にグルテンが含まれているかどうかはわからないため、躊躇することが多いようです。
しかし、日本でもグルテンフリー食材を扱う店が増えてきているのは確か。パスタの代用品となる乾燥しらたきは、低カロリーでヘルシーな食品「ZENパスタ」として海外で人気です。米粉やとうもろこし粉、大豆粉を使ったグルテンフリーのパスタや粉なども徐々に種類が増えてきています。米どころ新潟県では、「米粉を活用したグルテンフリー新商品開発セミナー」を開催するなど、開発に取り組む自治体も出始めています。
今後ますます、新たな発想でグルテンフリーを可能にする食材も登場するに違いありません。これからグルテンフリーの食事を望む人が増えていくことを見据えて、飲食店側も今から情報を集め、対応策を検討しておく必要がありそうです。