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西原金蔵氏 ユーザー座談会「Foodion Meetup」in 京都
アラン・シャペル本店のシェフパティシエ、資生堂パーラー「ロオジエ」の総製菓長などを歴任した西原金蔵氏(以下、西原シェフ)がオーナーシェフを務める、京都でも有数のパティスリー『オ・グルニエ・ドール』。
西原シェフへは、過去Foodion「食のプロフェッショナル論」においてもインタビューさせて頂いた経緯もあり、西原シェフご自身がオープンした日から決めていた65歳での閉店。2018年5月を前に、西原シェフとFoodionユーザーとのコミュニケーションの場をぜひ設けさせて頂きたいと、少人数での座談会イベントを開催しました。
当日のイベントには、料理人の方、レストランで修業中だという現役パティシエ、パティスリーを経営するオーナー、ホテルでシェフをされている方々など、西原シェフに少なからず影響を受けたという業界の方にご参加頂きました。
西原シェフがどのようにパティシエを捉えているのか
イベント冒頭では、『オ・グルニエ・ドール』の焼き菓子を召し上がって頂きながら、西原シェフがパティシエとしてどのような心持ちで取り組んできたかといったことを、これまでの経歴をなぞりながらお話頂きました。
Foodionインタビューにおいても、「ルセットを越えるもの。」というアラン・シャペル氏の料理哲学の話をして頂いたのですが、西原シェフはまずは、ルセットをきちんと覚えること、丁寧にできるようになることが大事であると仰られました。
パティシエという職業においてはベースとなる理論、技術をきちんと丁寧に学ぶことへの重要さをお話されました。西原シェフのダイナミックな経歴やエピソードに目が行ってしまいがちですが、基本、基礎がとても大切だということを改めてお話頂いたことがとても印象に残りました。
料理もお菓子も、行き着くところは「素材」
西原シェフは基本、基礎のその先にある、素材の選定に違いが出るとを仰られました。
西原シェフ:「ルセットがしっかりと捉えられたら、素材です。素材が違うから、個々のお店、パティシエに違いがでてくるようになるんです。レシピ、配合、作り方が同じでも、どの牛乳、卵を採用するかで変わってくるのです。『オ・グルニエ・ドール』で提供しているお菓子においても、特殊なレシピや配合をしてできているのではなく、もっとも基本的な配合でできています。しかし、使用する素材にこだわりをもって作っているからこそ、『オ・グルニエ・ドール』のお菓子になっているのです。」
西原シェフから独立することへのアドバイス
パシティシエとして歩まれてきた西原シェフ。オープン時に自分が65歳まで店を営業するということを目標としていたことや、またそれを区切りとして店を閉じると決めていたということをお話されました。西原シェフが17年間お店を経営され強く感じたことは、独立するとこれまでパティシエとして培ってきた能力、経験、経営、管理能力が突然求められることです。またそれを学ぶ必要性についてお話頂きました。
西原シェフ:「シャペルさんもこのことをおっしゃっていました。シャペルさんは、『私は常に料理のことを100%、マネジメントのことを+30%考えている。だから私の頭は常に130%回っている』と。材料の管理、人の管理、お金の管理。十分経営について把握せず独立するということになってしまうケースがほとんどだと思うんですね。例えば、原価管理ひとつにしても、シミュレーション(試算)だけではなく、実際に使った原材料(ロスも含め)を計算し、数字を追いかけるということがとても大切です。
どんぶりにしないということですね。ですから、経営を学ぶ必要があるんだという意識を持って物事を捉えてみると、日々の仕事から見えてくるもの、開けてくることがあると思います。」
少人数座談会ならではの、密なコミュニケーション
西原シェフから一通りお話をして頂いた後、質問タイムを設け、すべての参加者の方に西原シェフに質問して頂くことができました。
質問:スタッフさんへどういったことを指導されていますか。
西原シェフ:単にルセット、作り方だけを教えるのではなく、そのお菓子がどのような考えや想いの元に作られたものかを、自分の言葉としてそれがお客様へ話ができるようにと、話をしています。先程の素材にしてもそうです。日本中から厳選している素材を使っているわけですから、それを理解せずして、それを使ってできているお菓子のことを話すことはできません。
また、一緒に味わうということを大切にしています。自分が感じている「味」というのは、人によって感じているものが違います。ですから、同じものを一緒に味わいながらその味をどう感じているか、共有し合うというのが大切です。そしてその情報のやり取りをする食育を行っています。これは私もシャペルさんにこの食育をして頂きました。とにかく食べる、一緒に食べる。味見をすることです。
質問:シェフからデザートを軽く(砂糖を減らして)してくれというオーダーがあるがどう対応すればいいか悩んでいます。
西原シェフ:ルセットでシェフと噛み合わないという場合があったりします。この場合お砂糖を減らしてというシェフからの要望ですが、パティシエとしては、砂糖はお菓子の骨格として必要な要素であるので、安易に減らすと成り立たなくなります。そこで、この場合考えるのは砂糖の選択です。各メーカーにおいて「甘味度」というのはかなり違います。人間が感じる度合いですね。この甘味度の低いお砂糖を選択することで、砂糖の量自体は減らさずに、甘さを控えたものができます。
質問:どのように研鑽していけばいいでしょうか。
西原シェフ:実体験を積むということがとても大切です。情報をたくさん得られる時代になりましたが、深く探求することは、実体験を積むことでしか獲得することはできません。しかしながら仕事に追われる業務中では、なかなかそういった取り組みができないのも現実だと思います。ですから、本当に自分にとって必要だ、学びたい、成長していきたいということであれば、業務時間外で、そういったチャレンジを大いに取り組んでいくべきです。自主的に取り組んだものは、かならず自分のものになります。ぜひそれを重ねてほしいですね。
西原シェフが次に考えていること
西原シェフ:お菓子の世界は、パティスリー、コンフィズリー、グラスリーと大きく3つのカテゴリーがあるのですが、これまでパティスリーをしてきましたから、次はコンフィズリーをしてみたいなっというようなことを思ったりはしていますね。
いま砂糖が敬遠されがちなのですが、逆にそれをやってみようと。お菓子の世界にも流行りがあるのですが、流行りがあっても、お客様の全員がそれには乗らないということを肌感覚で感じているので、流行ではない脇道をですね、進んでみたいなと(笑)まだ決定ではないですがね。
終わりに
西原シェフにインタビュー取材させて頂いてから、個人的に西原シェフのファンとなってしまい、西原シェフから貰えるパワーと、プラスのエネルギーをぜひ皆さんにも体験してほしいと、このイベントを企画させて頂きました。
当日のイベントでは、惜しげもなくアドバイスを頂き、近い距離間だったからこその密な話が聞くことができ、また終了後皆様が積極的に他の参加者様方と交流されていた姿が非常に印象的でした。
西原シェフをはじめ、お忙しい中お越しくださった参加者の皆様、また素晴らしい場を提供して頂きました「Gallery Cafe & Bar CoLLabo」の皆様には、心より感謝を申し上げます。
※Foodionとは
「Foodion(フージョン)」は、プロの料理人・サービスマン、料理を志す学生、あるいは食好きやグルメの方向けの食のSNSです。 料理の内容を記録したり、食べ歩きで気づいたことなどを投稿・ シェアしたり、世界中のシェフの料理の投稿などを見ることができます。