持続可能な開発目標「SDGs」を知っていますか?
これは、最近ニュースなどでも語られるようになった「サステナブル」という考え方の具体的な行動目標となる指針です。国際連合で採択されたこの目標には「食」に関連する項目が多く含まれ、飲食業界に携わる私たちにとって他人事ではない動きです。
2019年3月に幕張メッセで開催されたアジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX JAPAN 2019」では、この「SDGs」に関するブースが設けられ、国内の飲食関連企業や個人の取り組みを紹介していました。
この特設ブースを中心に、「FOODEX JAPAN 2019」の出展者の中からサステナブルな社会の実現に貢献する事業を紹介し、「SDGs」への取り組みの現状をレポートします。
「SDGs」(エスディージーズ)とは?
「SDGs」(エスディージーズ)とは、Sustainable Development Goals の略語。“持続可能な開発目標”です。2015年9月の国連サミットで採択された国際目標で、国連開発計画駐日代表事務所によれば「いま正しい選択をすることで、将来の世代の暮らしを持続可能な形で改善することを目指す」指針です。2016年から2030年までの、国際社会共通の目標とされています。
■「SDGs」17のゴール
SDGsは、17のゴール(世界を変えるための17の目標)、169のターゲットから構成されます。
「SDGs」17のゴール(「SDGs」ロゴより)
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべてのひとに健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも 経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
飢餓、健康・福祉、水……これらの目標には、「食」の問題が深く関わっています。食材の調達、生産過程、ロス、食文化などを含めて考えると、17の目標すべてが「食」と関連しているともいえるでしょう。サステナブルな社会の実現には、食の分野での取り組みが欠かせません。
食の分野で「SDGs」に取り組む―「FOODEX JAPAN 2019」出展者から
「FOODEX JAPAN 2019」では「SDGs」ゾーンが設けられるなど、持続可能な開発目標への注目の高さがうかがえました。イベント出展者のなかから、食の分野で「SDGs」に貢献する国内の飲食関連企業や個人の取り組みをご紹介します。
■ゲテモノではない、本当においしい“昆虫食”を探求
関連する「SDGs」の目標
2050年には世界の人口は90億人を突破すると予測され、世界的に食料が不足すると考えられています。昆虫は高タンパクで、養殖が比較的容易な食材。昆虫食の広がりは飢餓の解消につながり、食用昆虫の生産事業によって経済効果も見込め、持続可能な食料生産の実現、地域・大学・企業などの連携も生み出します。
地球少年/篠原祐太さんは、幼少期から昆虫が大好き。採集や飼育に取り組むことにとどまらず、食材としても活用し、昆虫食歴は20年を数えます。ミシュランの星を持つフランス料理店で修業をしたシェフの関根賢人さん、東京農業大学で醸造学を学ぶ山口歩夢さんとともに「コオロギラーメン」の開発を手掛け、注目を集めています。
なぜ、コオロギなのか。
篠原さんは「季節を感じる風情ある虫として日本人に好かれていますし、食用に養殖してくれる業者がある。それに、スープの味がとてもよかったんです」と言います。
一杯の「コオロギラーメン」のスープに、約100匹のコオロギを使用。絶食させて糞抜きをするなど風味の向上を追求し、産地、品種、挽き具合を試行錯誤、最終的に2種類のコオロギをブレンドして、水出しのスープと煮出したスープを調合しました。
珍味のような、特殊な味かと思いきや、スープの味わいはまるでエビやカニのよう。試食した来場者からは「旨い!」と絶賛する声が多く聞かれました。
「昆虫食というと、いいイメージを持たれなかったり、ゲテモノ扱いをされたりします。でも、僕は“珍しさ”以上の魅力を追求したいんです」と篠原さん。おいしさにこだわり、昆虫という食材を美食の領域にまで昇華させようと奮闘しています。
ラーメンだけでなく、昆虫を原料とした醤油やドリンクの開発にも着手。イベントでの出店やワークショップ開催など活動は多岐にわたり、今後は昆虫を素材としたフルコース料理にも挑戦するそうです。
■大豆などを使った“代替肉”を身近に
関連する「SDGs」の目標
人口増大による食料不足に加えて、新興国の経済発展にともなって食肉や魚の需要が増すことで、たんぱく質の供給源が不足することも予測されています。「タンパク質クライシス」とも言われるこの状況を打開する食材のひとつとして、大豆などを使った“代替肉”があげられます。
動物由来ではなく植物性のたんぱく質に需要が移行することで、畜産や養殖のために大量に使われていた水資源・穀物資源の保全につながり、環境負荷が減ることで持続可能な食料生産が実現できます。“代替肉”の市場は健康志向も追い風になってすでに米国を中心に広がっており、生産者や企業の連携による高付加価値商品の開発や経済効果が期待できます。
株式会社SEE THE SUN は、大豆と残留農薬ゼロの玄米を使った“代替肉”「ZEN MEAT」を販売しています。お肉のようなしっかりとした食感とたべごたえで、グルテンフリー、低脂質。「フィレ」「ミンチ」「ブロック」の3タイプを展開し、さまざまな料理に応用できます。「ZEN MEAT」を使ったカレーやボロネーゼなど、手軽なレトルト食品も好評です。
「FOODEX JAPAN 2019」では「日本での代替肉市場の広がりについて」と題したシンポジウムが開催され、株式会社SEE THE SUN代表取締役社長CEOの金丸美樹さんがパネリストのひとりとして登壇しました。会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、来場者からの質問も多く寄せられ、“代替肉”への関心の高さが感じられました。
このシンポジウムのなかで金丸さんは「弊社の商品をご購入されるお客様の半分くらいはビーガン、ベジタリアンですが、残りは一般の方なんです。今日は鶏肉、明日は豚肉、そういう普段のレパートリーのひとつとして、大豆ミート(大豆を素材とした代替肉)も毎日の食材選びの選択肢のひとつになるといいなと考えています」と語りました。
■農業しながら発電する“ソーラーシェアリング”
関連する「SDGs」の目標
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を減らすために、再生可能エネルギーの活用が望まれます。
農地を太陽光発電に活用する“ソーラーシェアリング”は、農業を続けながら発電事業も行える「営農型発電」。食料生産とエネルギー、気候変動の問題解決に貢献し、発電事業社や農家、農作物の販売会社などが協力して事業に取り組むことでパートナーシップが生まれ、新たな雇用の創出にもつながります。
サステナジー株式会社は再生可能エネルギーのベンチャー企業。もとは耕作放棄地での太陽光発電事業を進めていましたが、農業を続けながら発電もする“ソーラーシェアリング”に着目し、宮城県加美町と登米市の農場を運営しています。
“ソーラーシェアリング”は、営農のための太陽光を発電設備とシェアするのが通常のやり方ですが、この事業では太陽光発電設備のパネルの下にできた陰を利用して作物を栽培しています。
栽培しているのは、きくらげ。きくらげの栽培には日射が不要で、この事業にぴったりの作物。現在は輸入に頼っているため、国産のきくらげは希少価値が高くニーズがあると考えました。
地元の農業生産法人とも協力して栽培にあたり、雇用も創出。大ぶりで食感の良いきくらげは「伊達な肉厚ぷりぷり きくらげ」の商品名で、株式会社イマジン・ジャパンが販売を担当しています。
■“フードシェアリング”でフードロスを削減
関連する「SDGs」の目標
将来的に食料不足が予測される一方で、食べられるのに捨てられてしまう食材の問題も深刻です。
世界のフードロスの総量は年間で約13億トン。生産される食料の約3分の1が捨てられています。日本の「食品ロス」は年間で約646万トン。世界の食料支援量は年間で約320万トンとされ、日本の「食品ロス」は世界の食料支援量の総量を上回るレベルのボリュームです。
「tabeloop (たべるーぷ) 」 は、バリュードライバーズ株式会社が運営するフードシェアリングプラットフォーム。パッケージが汚れている食品、賞味期限が迫っている食品、味は問題ないが形が不揃い・傷があるなどの理由で市場に出せない食品などを売りたい人と、リーズナブルに買いたい人をつなぐサービスです。売り上げの一部は飢餓撲滅に役立てるためにFAO(国際連合食糧農業機関)などに寄付されます。
出品される食品は、おもに野菜、魚、果物、米などの一次生産品や各種加工品、飲料など。また、お菓子を詰め合わせた「スイーツポケットボックス」もエントリーされています。
これは賞味期限が迫っている商品や、季節外れになってしまったシーズン商品のお菓子を詰め合わせにしたセットで、人気のお菓子がお得に手に入ります。さまざまな種類のお菓子が入っているので、子どものお楽しみ会やパーティの景品として購入されるユーザーが多いそうです。
「tabeloop」は売り手、買い手ともに無料で会員登録ができ、BtoBのやり取りも多く、食材調達に活用する飲食店もあります。
「食」にかかわるすべての人が「SDGs」に貢献できる
「FOODEX JAPAN 2019」の展示から、「SDGs」の達成には「食」の果たす役割が大きいということを改めて感じ、飲食業界にかかわるすべての人が、「SDGs」に貢献できる立場にいることがわかります。
「SDGs」が新しいビジネスのアイデアにつながったり、新たな食材の発掘や食のトレンドを生むきっかけになっていることも興味深い事実です。今後、ますます「SDGs」の17の目標に注目が集まっていきそうです。
■取材協力
イベント名 | 「FOODEX JAPAN」 |
個人名 | 地球少年/篠原祐太 |
企業名 | 株式会社SEE THE SUN |
企業名 | サステナジー株式会社 |
企業名 | 株式会社イマジン・ジャパン |
企業名 | バリュードライバーズ株式会社 |