![様々なフランスパンの写真](https://cookbiz.jp/soken/core/wp-content/uploads/2018/06/7c8f2dd53506031d1ebd548cfcfa8dc4-1280x851.jpg)
「ドンク(DONQ)」(株式会社ドンク、本社:兵庫県神戸市)は、1960年代の日本にフランスパンブームを引き起こし、その後もこだわり製法でフランスパンの美味しさを追求する老舗ベーカリーです。
2018年2月、パリで開催されたパン職人の世界一を競う国際コンテスト「マスターズ・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2018」には、「ドンク(DONQ)」の瀬川洋司さんが日本人として唯一選出されて出場。大会で日本のパン作りのレベルの高さを示しました。
ここでは、日本におけるフランスパン文化の立役者とも言える、「ドンク(DONQ)」についてご紹介します。
目次
「ドンク(DONQ)」といえば「本格フランスパン」のブーム火付け役
「ドンク(DONQ)」は1905年に神戸市に創業。1965年に、本格的なフランスパンの製造販売を開始しています。今でこそ、誰もが知っているフランスパンですが、当時の日本人には全く馴染みがなかったため、なかなか受け入れてもらえず、発売当初は「皮が固くて食べられない」「口の中が傷つく」とネガティブな反応もありました。
その後、東京に店舗がオープンし、焼き立てのフランスパンの美味しさが口コミで広がると、連日パンを求める長蛇の列ができるほどに。著名人もお忍びで通うなど、「ドンク(DONQ)」は「フランスパンブーム」の火付け役となります。
美味しさに定評のある「ドンク(DONQ)」のフランスパン作りのこだわりは、「スクラッチ製法」にあります。
パン作りには、一般的に「スクラッチ製法」と「ベークオフ製法」がありますが、「スクラッチ製法」とは、粉を量るところからはじめ、その日の温度・湿度などを考慮し、生地の仕込みから焼き上げまですべての工程を店舗で行う製法です。工場で生産した冷凍生地を店内厨房で焼き上げる「ベークオフ製法」に比べ、時間と手間がかかり、品質を保つ技術力が必要となります。
「ドンク(DONQ)」は、パン本来の香りや美味しさを追求するため、一貫して「スクラッチ製法」を採用し続けています。
世界を舞台に活躍!「マスターズ・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2018」出場
「ドンク(DONQ)」はベーカリーのワールドカップと呼ばれ、4年に一度開催される「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」に1994年から参加しています。
これは、与えられたブースと限られた材料で、8時間以内に規定品目を焼き上げ、技術・スピード・芸術性を競う国際大会ですが、日本チームが総合6位入賞した2016年大会には、「ドンク(DONQ)」から茶山寿人さん(ヴィエノワズリー部門)と瀬川洋司さん(パン部門)が出場しています。
「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」の予選、本選出場者の中から、特に優秀であると認められた人が選出され、競い合うのが「マスターズ・ドゥ・ラ・ブーランジュリー」です。世界中から選ばれたトップクラスの職人がニュートリショナル・ブレッド部門、グルメパン部門、飾りパン部門と3部門に分かれ、それぞれ6名ずつ、計18名が伝統的なバゲットやオリジナルレシピを披露します。
2010年から4年に一度開催されていますが、これまでに5名の日本人パン職人が出場しています。「ドンク(DONQ)」からは、2010年に西川正見さんが出場。2018年2月には唯一の日本人として瀬川洋司さん(ニュートリショナル・ブレッド部門)が出場しました。
大会作品テーマのひとつでもある「The“wow factor”bread(驚きのあるパン)」。創造力と技術力を結集してつくられたパンは、ミルフィーユ状の生地に練りこまれたくるみ、黒ビール、ゴマ、レーズンなど、それぞれの食感と味わいが楽しめる逸品だと好評でした。
「マスターズ・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2018」に出場した感想を、瀬川さんに伺いました。
「例えば、(事前に主催側に)オーダーしていた小麦粉と違うものが用意されたりすることもあります。小麦粉が違うなんて、日本の大会ではあり得ないですよね! 2016年の大会にも出場して、環境や設備、材料など想定外の事態が起きることはある程度予測していたのですが、やはり動揺しますね。国際大会は技術力ももちろん必要ですが、独特の雰囲気にも動じない精神力が必要です」
審査員に堂々と自信を持ってプレゼンする欧米人に対し、控えめにプレゼンしてしまうのが日本人だとも語ってくださいました。国際コンテストで評価されるには、技術力以外に柔軟に対応する力や、ポジティブ志向など、トータルの力が要求されるということを経験から学んだそうです。
一方で、海外での大会出場経験豊富な瀬川さんからは次のようなコメントも。
「アジアのパン職人たちの成長には、目を見張るものがあります。パンは欧州の文化というイメージが強いと思いますが、近年では台湾や韓国などのパン職人が世界コンクールで受賞しています。アジア人は手先が器用で繊細な作業が得意なこともあって、飾りパンの部門では活躍が目立っていると思いますね」
アジア勢が研鑽を積み、パンを主食としてきた人たちと対等な技術力を持ち合わせるようになっているとのこと。さらに語学のハンデも越えて欧米人と対等に自己アピールできるようになれば、世界的なパンの世界はますます盛り上がっていきそうですね。
国際的に技術力を評価された瀬川さんに、将来のビジョンについてお聞きしてみました。「ドンク(DONQ)」を離れ、独立を考えたことはあるのでしょうか?
「作り手として、“独立してやる”という気持ちがなくなったらダメだと思います。独立しようとする人は、技術を磨きます。独立心がないと、努力をしなくなると思うんです。そういう自分は、そんな気持ちを持ちながらも結局ドンクにいますけどね(笑)」
瀬川さんは、東京エリアのエリア支援室ディビジョンマネジャーとして、各店舗の品質チェックや後輩パン職人の指導などにあたりながら、「ドンク(DONQ)」で日々パンを焼き続けています。
![「pain fantastique 2018」としてドンクで販売されているパンの写真](https://cookbiz.jp/soken/core/wp-content/uploads/2018/06/bf9bd9d5b657ef9339abddaab75fcbf1-640x486.jpg)
2018年大会で創作したパンのうちのひとつが「pain fantastique 2018」として実際に「ドンク(DONQ)」で商品化され、店舗限定・期間限定で販売されました(画像提供:株式会社ドンク)
「ドンク(DONQ)」では、海外への職人派遣や海外講師の招聘など、職人が技術を研鑽できる仕組みを多数用意し、品質管理と職人教育に力を入れてきました。その成果が、瀬川さんの出場も含め過去6回職人を「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」へ輩出する高い技術力へとつながっているのです。
目指すのは、食べた人全員が美味しいと感じるパン
「ドンク(DONQ)」が目指すのは、「100人が食べたら、100人が美味しいと思う」パン作り。
パンはおやつではなく、お米と並ぶ主食として食卓の真ん中に置かれるようになりましたが、これから「ドンク(DONQ)」が目指すのはどのような世界なのでしょうか?
経営企画本部マーケティング室ゼネラルマネジャーの庵原リサさんに伺いました。
「パンの世界も他業界と同様に、人手不足や海外ブランドの進出で競争環境が厳しくなっています。どのような状況になっても、私どもがブレないと決めているのが『おいしさ』です。効率化を図ることもありますが、美味しさを犠牲にすることはありません。113年の歴史でもそうですが、これからも絶対に守っていくことです」
フランスパンはもちろんですが、季節ごとの限定商品も好評な「ドンク(DONQ)」。夏季限定商品としてお馴染みとなった「冷やしてメロン」は、メロンパンの中に冷たいクリームが入ったスイーツパン。新フレーバーの「レモンヨーグルト」を含め、全4種類が販売されています(216円。2018年8月31日まで全国の「ドンク(DONQ)」で販売)。
美味しさを求め続けながら、時代に合った進化をしている「ドンク(DONQ)」。店舗に並ぶパンの1/3は各店舗のオリジナル商品で構成されているのは、各地域のお客さまの嗜好やトレンドに寄り添ったパン作りが行われているからこそ。これからも世界レベルのパン職人たちが、食卓に美味しい笑顔を届けてくれそうです。