クラフトチョコレートのパッケージの写真

2018年11月23、24日の二日間、「CRAFT CHOCOLATE FESTIVAL 01(クラフトチョコレートフェスティバル)」が開催されました。場所は毎週末ファーマーズマーケットが行われている、東京・青山の国際連合大学の中庭です。
参加チョコレートメーカーは北海道から沖縄まで、海外からはベトナム、台湾、コロンビアが加わり、全部で28店舗。さらに飲食店やお茶メーカーなども加わり、ユニークなコラボ商品の販売やワークショップ、トークショーも開催されました。

クラフトチョコレートとは?

クラフトチョコレート」という言葉は、まだ聞き慣れない人も多いかもしれません。チョコレートは収穫したカカオからカカオ豆を取り出して生産国で発酵・乾燥を行い、その豆を焙煎、粉砕、脱穀、磨砕、調合、調温、成型、というたくさんの工程を経て作られています。

一般に洋菓子店などで売られているチョコレート菓子は、成型までの工程が終わったチョコレートを原料として仕入れ、様々なお菓子に加工しますが、「Bean to Bar(ビーントゥーバー)」と呼ばれるチョコレートの場合は、カカオ豆の状態で作り手が好みのものを選別して仕入れ、焙煎から成型までの工程を一貫して自社で行います。そのため、各メーカー独自の製法や職人の技術があり、作り手の個性がより豊かに表現されることが特徴です。
そのようなチョコレートをクラフトチョコレートと定義し、今回のイベントでは、比較的小規模生産でBean to Barスタイルのチョコレートを作るメーカーを中心に集められていました。

CRAFT CHOCOLATE FESTIVALのロゴマーク

会場へはこのロゴマークが目印

作り手の個性が表れ、多彩な味わい。地域の特産を生かした商品も多い

イベントの開催は11月最終週の土日で、朝11時より夕方17時まで。オープンとほぼ同時に現地へ行ってみましたが、天気が良かったこともあり、既に多くの人で賑わっていました。男女比もそれほど偏りなく、家族連れ、友人同士、カップル、外国人観光客、学生から年配の方まで幅広い客層がみられました。

2月のバレンタイン時期のデパートや商業施設のチョコレート売り場は、狭い空間にたくさんの人が殺到し、どこも混雑で疲弊することも多いですが、野外の空の下での販売は開放感があり、多少の混雑でものびのびとした雰囲気がありました。といっても人気のチョコレート店には人だかりができ、事前に情報をチェックしているチョコレートマニアによって、希少な限定商品は早い時間帯から売り切れが出ていました。

にぎわう会場内の様子

日曜の午後の様子。学生から観光客まで、多くの人が集まり、賑わっている

クラフトチョコレートは、一般的に量産販売している大手メーカーのチョコレートより金額が高く、板チョコレート1枚で1000円以上するものも普通にあります。高品質なカカオ豆にこだわり、小ロットで手作りするため、どうしても金額に反映されてしまうことは理解してもらわねばなりません。

各店舗試食を出しているところが多く、来場者はさまざまなチョコレートを味見した上で納得してから購入するという流れが多かったようです。また各メーカーの作り手本人が売り場に立って販売を行い、自身のチョコレートに対する思いや実際の具体的な製法、商品ができるまでのエピソードなど、来場者とそれぞれコミュニケーションを取り合い、ものづくりの背景をできるだけ明確に伝える場となっていました。

クラフトチョコレートは、カカオ豆の産地別にシングルオリジンで作られていることも多く、産地の違いを楽しむことはもちろんなのですが、さらに作り手ごとに焙煎の温度や時間、コンチングの方法などもそれぞれ個性があり、同じ地域の豆を使っていても全く違う味わいを表現できるという面白さがあります。作り手によっては、実際に生産国でのカカオ栽培に関わっている人もおり、生産の現状を知ることができる機会もありました。

試食のチョコレートの写真

試食を配っているメーカーが多かった

3色のカカオの写真

カカオの現物が展示されていることも。これは台湾のカカオ

さらに面白かったのは、北海道、石川、長野、関東、中部、関西、広島、島根、高知、大分、沖縄、と全国各地のメーカーが集まっていたこと。それぞれご当地色を出して、地元の特産品などを材料に取り入れた商品を展開し、地域をアピールしているメーカーも多くありました。その土地へ興味を持つきっかけや、出身者が懐かしんで郷土愛を感じるなど、会話が弾むツールになっていました。

例えば静岡の「Conche」では、「桜えび醤油チョコレート」を発売。駿河湾で獲れる桜えびの素干しと、創業150余年の醤油蔵が造る再仕込み醤油を使い、ユニークなチョコレートを完成させました。えびの風味が甘じょっぱく、意外なことにチョコレートとよく合います。他には、静岡産のいちご、みかん、バナナ、キウイなども。静岡といえば農産物の種類の多さでは群を抜きますが、豊富な県産食材をアピールしていました。

静岡のConcheのブースの写真

静岡のConcheのブース。静岡の豊富な特産物を使い、バラエティ豊か

海外から参加の台湾の「Cemas Kakanen Taiwan Chocolate」は、自社農園のカカオを使ったパイナップルケーキや、阿里山のバナナ入りガナッシュなど、台湾らしさを出していました。パイナップルのフレッシュなみずみずしさや、バナナの複雑で濃厚な甘みなど、台湾といえばお馴染みの食品であっても、改めてハッと驚くような味わいがありました。

台湾の「Cemas Kakanen Taiwan Chocolate」のブース

台湾の「Cemas Kakanen Taiwan Chocolate」のブース。お茶のイメージの台湾だが、実はコーヒー人気が高まっているそうで、コーヒーで香りづけしたチョコレートもある

どのメーカーにも言えることですが、地域の特産物といっても、特に上質なものを作り手がそれぞれ吟味し、その良さを十分に引き出せるよう、こだわりを持って配合していることが多いように感じました。メーカーによってはかなりマニアックな製法をしているところもあり、その話を直接作り手に聞けるのは、なかなか貴重な機会でした。

ちょっとユニークな参加だったのは「オキナワカカオ」。月桃やシークワーサーなど沖縄食材を使ったクラフトチョコレートを作っている一方、日本国内ではなかなか難しいと言われるカカオ栽培を沖縄で行い、材料が全て沖縄産のチョコレートの製造を目指しているメーカーです。

オキナワカカオのブースの写真

オキナワカカオのブース。シークワーサーのチョコレートは、ジューシーで爽やかな酸味の豊かさに驚く

カカオは栽培して二年目のため、まだ実の収穫には至っていませんが、今年初めて花が咲いたとのこと。代表の川合径さんによると「ももクリ3年、カカオ8年」?!「例えば、子供が生まれたらお祝いにカカオの木を植え、子供の成長と共にカカオも育って、栽培の苦労や収穫の喜びを一緒に体感する。沖縄にそんなユニークな習慣が生まれてもいいなあと思っています。カカオ&チョコレートが沖縄の産業、文化の活性に役立つことができないか、なかなか挑戦的な試みですが、少しずつ模索しています

オキナワカカオの川合さんの写真

オキナワカカオの川合さん。農学部出身。「沖縄は冬でも20℃あり、ふた冬越えることができた。カカオも地域に順応するかもしれない。データがないから全てチャレンジです」

全国の各メーカーへ参加の呼びかけを行ったのは、共催する「Minimal – bean to bar chocolate –(ミニマル・ビーントゥバー・チョコレート)」。日本のクラフトチョコレートメーカーの草分け的存在です。代表の山下貴嗣さんは、当日も朝早くから会場を動き回り、裏方としてイベントを支えていました。

クリスマスやバレンタインのある冬の季節はチョコレートメーカーが一番忙しい時期。そのシーズン始まりのタイミングで開催して、クラフトチョコレート業界全体の気運を高められたらいいなと思っていました。青山には感度の高いお客様が多く、そういった方々に、こだわりを持った個性的なチョコレートとその作り手が全国各地にこれだけたくさんいるんだということを知ってもらい、その作り手と直接コミュニケーションを取りながら、地域性や人柄など、バラエティに富んだ味を楽しんでもらえたら嬉しいです
初回は段取りも難しく、準備に苦労した部分も多かったようですが、今後も定期的に開催していきたい意向だそうです。

ワークショップやトークショーでカカオの世界をより深く知る

マーケットとしてのチョコレート販売のほか、カカオにまつわるイベントも行われました。
東京・世田谷にあるBean to Bar工房「xocol(ショコル)」の君島香奈子さんのレクチャーによって行われたのは、カカオのバインミーを作るワークショップ。

xocolの君島さんのワークショップの様子

ショコルの君島さん。カカオの料理への利用法とその可能性などについて語った

君島さんは、石臼で磨砕したカカオを使ったユニークな商品を展開する傍ら、普段からカカオ料理の研究を行っています。カカオを調味料と捉え、トウガラシ等と混ぜてスパイスのような使い方をしたり、それをペーストにしてソースのように加えたり。一般的なチョコレートのように甘くはない、新しいカカオの味わい方を提案していました。

ワークショップ中の参加者の写真

参加者が実際に手を動かしてカカオ調味料を作る場面も

オリジナルのカカオ調味料をみんなで作り、バインミーに加えると、エキゾティックでスパイシーな風味がちょっとクセになるおいしさで、味覚の発見がありました。

出来上がったバインミーの写真

出来上がったバインミー。オリジナルのカカオフレークやソースをかけて食べる

トークショーでは「チョコレートのいまと未来」と題し、Minimal-Bean to Bar Chocolateの山下さんをMCに、コロンビアから「CACAO HUNTERS」の小方真弓さん、ベトナムから「MAROU」のサミュエル・マルタさん、台湾の「Cemas Kakanen Taiwan Chocolate」の菊池洋さん、「オキナワカカオ」の川合さんの5名が、それぞれの立場から、クラフトチョコレートの現状とこれからについて語りました。参加者は4メーカーのチョコレートを試食しながら聴講しました。

トークショーの様子

トークショーの様子。多くの来場者が集まり、熱心に聞き入る人も多かった

産地の現状と今後の取り組みについて、登壇者の印象的だった各コメントを以下に掲載します。

「MAROU」サミュエルさん
ベトナムはカカオの歴史がまだ浅く、価格は低い。自分たちはクオリティの良いカカオを市場の2倍価格で仕入れている。それは、ただ良いカカオが欲しいというのではなく、生産者がカカオ栽培を継続し、健全な生活を送り、子供達にも継がせたいと思えるよう、持続可能なサイクルの形成に役立てられたらと思っている。ワインには値段もピンキリの様々な価値観があるように、チョコレートも同様の認識を持ってもらえるような世の中になることを目指している

MAROUのブースの様子

MAROUのブースの様子。美しいデザインの包装紙も現地で印刷しており、クラフト調の質感に味わいがある

「CACAO HUNTERS」小方さん
コロンビアはカカオの生産量が伸びており、現在で63,500トン、2020年には政府は20万トンを目指している。チョコレート生産によって、例えばアルアコ族は収入が58%上がったが、カカオは農作物なので気候が収入に大きくダイレクトに左右される。カカオ農家の地位はまだ低く、積極的になりたいという人を見たことがない。自分の目標はカカオ生産者のプロを育成し、チョコレートメーカーと対等な立場でやり取りできるような環境を作ること。Bean to Barはひとときのブームではなく、今これからがスタートで、地域によって様々な背景があることを知ってもらいたいし、今後も現地の状況を広く伝えていきたい

カラフルな「CACAO HUNTERS」のブース

「CACAO HUNTERS」のブース。International Chocolate Awards(世界的なチョコレートの品評会)で数々の賞も受賞している

「Cemas Kakanen Taiwan Chocolate」菊池さん
28年も行き来しているのに、台湾にカカオがあることを知ったのは一昨年で、戦前に森永製菓が植林したことが始まりだった。日本人としてカカオを引き継ぐ運命を感じたが、台湾は人件費が高く、商売は難しいという現実もある。農家はプライドを持って良質なカカオを育てており、台湾でのBean to Barブームもあって、現在は地産地消が多い。台湾チョコレートはまだあまり知られていないが、台湾の食材を生かしたアジアのチョコレートとして、クオリティが高いと世の中に認知されるよう努めていきたい

「オキナワカカオ」川合さん
カカオ栽培に関わって今年で3年目。来年には新規就農認定をもらえる。沖縄北部の大宜味村で栽培しているが、不便な地域ほど衰退していく。カカオで地域を盛り上げ、リアルな現状を伝えていきたい。地元ではすごく応援してもらっており、地域とのつながりを大切に、やり遂げるまでは続けたい

以上、登壇者のコメントでした。

登壇者5名の集合写真

登壇者全員で記念撮影。左から山下さん、菊池さん、川合さん、小方さん、サミュエルさん

その他、興味深い試みとして、お酒やお茶、チーズとカカオのコラボレーション企画がありました。
お酒は、東京・恵比寿の人気日本酒バー「GEM by MOTO」の店主、千葉麻里絵さんによる提供。秋田の日本酒・新政の「GEM by MOTO」限定版に、「Minimal-Bean to Bar Chocolate」のカカオを漬け込んだという完全オリジナル酒です。ほんのり甘く、ふわりとチョコレート感もあるカクテルのような日本酒で、女性を中心に広く人気を博していました。
嬉野の日本茶をプロデュースしている「GEN GEN AN」によるお茶&カカオドリンク、渋谷「Cheese Stand」による、カカオと一緒に食べるリコッタや熟成チーズなども販売されていました。代々木八幡にあるビストロ「PATH」のパティシエ・後藤 裕一氏は、クラフトチョコレートを使用したアーモンドチョコを開発し、瞬く間に売り切れに。また「Minimal – bean to bar chocolate – 」はカカオを使ったどら焼きをプロデュース!常時長蛇の列ができていました。
カカオという素材に目を向けることで、チョコレートとは一味違う味わい方、楽しみの可能性を感じさせる試みでした。

GEM by MOTOによるカカオ酒の写真

GEM by MOTOによるカカオ酒。実際に漬けたカカオも展示。味見もさせてもらえたが、これをつまみに飲めるくらいだった

まとめ

大手メーカーによって大量生産されるチョコレートとはまた違った楽しみ方がある、クラフトチョコレート。
カカオという素材そのものの持つ味わい、地域や製造方法による味の違いを楽しめ、作り手の背景や哲学を直接本人に聞きながら、チョコレートを選び、購入できることはこのイベントの醍醐味だったと思います。
チョコレートを通して、その土地の特産物や食文化を知り、旅をした気分になれる、また生産地の社会情勢に考えさせられることも多く、大変興味深い機会でもありました。最近テレビの某番組では、高カカオチョコレートはポリフェノールが圧倒的に多く、肝機能改善に役立つ、というような特集が組まれていたこともあり、今後は健康面でもクラフトチョコレートがもっと注目されていくのではないでしょうか。

取材協力

店舗名 Minimal-Bean to Bar Chocolate
店舗名 Conche
店舗名 Cemas Kakanen Taiwan Chocolate
店舗名 オキナワカカオ
店舗名 ショコル