
2019年6月18日より、飲食店向けの器のサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」がスタートしました。これは、伝統工芸品の器を飲食店がレンタルするというこれまでになかったサービスです。
魯山人が「器は料理の着物」という通り、器の選び方次第で料理の見え方は大きく変わります。ですが、現実にはなかなか器を探す時間もなければ、いい器を使いたくても金額的に簡単には手を出しにくい、と思っている料理人も多いはず。
その一方で日本の伝統工芸産業は、誇るべき技術を有しているにも関わらず、後継者不足など深刻な問題を抱え、衰退の一途をたどっています。
料理人と伝統工芸産業の両者を繋げることで、こうした負を解決する一助になれないだろうか?という発想から、伝統工芸の器を気軽に利用できる、この新サービスが誕生しました。
今回は、「CRAFTAL(クラフタル)」を立ち上げたきっかけ、実際のサービス内容、今後の展開など、詳しい話を伺ってきました。
伝統工芸の産地で感じていた長年の課題に向き合う
「CRAFTAL(クラフタル)」を立ち上げたのは、Culture Generation Japanの堀田卓哉さんとCatalの浦田修伍さん。それぞれが以前より、伝統工芸品に関わる事業を行なっていましたが、今回は2人の共同経営という形で始まりました。
「もともと長く企業の経営コンサルタントをしていましたが、縁あって浅草のお祭りに参加し、ものづくりに関わる職人さんたちと多く知り合いました。日本の文化を極め、より良い形で次の世代へ繋いで行く、職人の仕事はすごくかっこいい。これは伝えて行く価値があると思いました。自分も彼らの役に立つことができないだろうか、と今の会社を起業しました」(堀田さん)
堀田さんの会社では、伝統工芸品の販路拡大や商品プロデュース、海外展開などの事業をここ8年ほど行っています。そこで常にネックになっていたのが金額面。いかに商品を改良して、どんなにいいものができても、高額という理由だけで欲しい人の手に渡らないのはもったいない、他に適した流通経路がないだろうか、とずっと考えていたそうです。
「実際に器の窯元などにいくと、これめっちゃいい!というすごい工芸品が、埃をかぶって無造作にポンと置いてあったりするんですよ。ああ、もったいないなあと思ったのがそもそものきっかけです。様々な方向性を検討しましたが、まずは飲食店をターゲットにした販路拡大ビジネスでの検討を進めました」(堀田さん)
そうした思いから、8年間で培ってきた多くの職人さんとのネットワークをベースに、伝統工芸品をみんなでシェアするというアイデアが登場し、伝統工芸の職人と消費者(飲食店)をつなぐ新しいプラットフォームとして「CRAFTAL(クラフタル)」を立ち上げることになります。
堀田さんは、日本各地の誇るべき価値を高め、世界へ広めていくローカルプロデューサーを育成する「ジャパンブランドプロデューススクール」でもファシリテーターを務めています。その第1期受講生として参加していたのが浦田さんでした。
「以前ドイツに7年住んでいたことがあり、将来的には、日本と海外を繋ぐ事業をやりたいと思っています。その一方で自分は日本のことをあまりよく知らず、もやもやが残っていました。そこで、ここ5年ほど、地域に関わるさまざまな活動を行ってきましたが、そろそろ次のフェーズへと考えていたタイミングで、堀田さんから事業の話を聞き、自分も一緒にやりたいと手をあげました」(浦田さん)
2人が揃ったところで、いよいよ事業がスタートしますが、次の悩みは、どうやって器を選ぶのか。2人とも作り手のネットワークはたくさん持っていましたが、器の専門家ではありません。「CRAFTAL(クラフタル)」の価値を高めるためにも、器のセレクトに説得力を持たせ、使い手側から大きな信頼を得る必要がありました。
そこで本物の器を選ぶプロの目利きとして現れたのが、フリーのコーディネーターとして活躍する、木蓮舎の安田亜紀さんでした。
安田さんは長年テーブルウェア専門の会社で働き、独立。昔から器が大好きで、洋食器、和食器、ガラスなど、オールジャンルの器や工芸品に携わって20年以上になるそうです。日本各地に出向いて直接伝統工芸の職人と顔を合わせ、作り手に寄り添った活動を行う一方で、商品プロモーションやプランニングなど、消費者への橋渡しにも長けていました。
「器のセレクトは全面的に任せていただいています。器選びのポイントは、料理人さんが使いたくなる器であることはもちろん、レンタルすることに価値のあるもの。
例えば保管するには収納しづらい形のものや、季節感が強く、使う頻度が限られるもの、希少性が高く、一般流通に出回らないものなどが、それにあたります。特に和食器は、季節や行事によっても器を変えますし、世界でも群を抜いてバリエーションが豊富。産地の情報から使い方の提案、扱い方の注意まで、細やかに伝えるようにしています」(安田さん)

伝統工芸の器の盛り付け例。同じ料理でも器によって雰囲気が変わります。(協力:割烹 TAJIMA)
なお、写真中の器は取扱商品の一部です。器のラインナップには随時更新・変更があります(写真提供:CRAFTAL)
「CRAFTAL(クラフタル)」が取り扱う器は、すべて全国の伝統工芸品。有田焼、美濃焼、清水焼、益子焼などの有名窯元もあれば、知る人ぞ知る個人作家のものもあります。今後は骨董品や洋食器なども取り入れて行きたいそうです。
月々3万円から、さまざまな伝統工芸品を気負わずに使える
ではここで、具体的な「CRAFTAL(クラフタル)」のサービスの流れをご紹介しましょう。
「CRAFTAL(クラフタル)」は最短で3ヶ月からの月額利用。月々3万円(器は小鉢から大皿まで30点)からプランがあります。3ヶ月経ったら、新しい器への変更、レンタル契約の延長、気に入った器はそのまま買い取ることも可能です。
まず飲食店から器のレンタル注文の相談が来たら、(現時点では、「CRAFTAL(クラフタル)」の堀田さんたちが現地へ出向き)直接対話をしながらレンタル手配をする器を決めていきます。料理人の希望、すでに持っている器のラインナップなども考慮しながら提案やアドバイスをしているそうです。
器は全て保険に入っているため、破損などがあった場合にも飲食店側の負担はありません。その他何かトラブルがあった時のサポートデスクも設けています。現在はまだ首都圏を中心にしたサービス展開ですが、いずれはオンラインなどで全国、そして海外からの発注受付もできるようにシステム化を検討中です。
2019年6月に始まったばかりの新サービスですが、すでにあちこちから引き合いがあり、2019年中に20店鋪以上の飲食店との契約を目標としているそうです。例えば開業資金も時間も足りない若手の料理人や、期間限定でポップアップイベントをやりたい海外の料理人などにも今後は需要が広がりそうです。
現在「CRAFTAL(クラフタル)」のサービスを実際に利用している、代官山の「割烹 TAJIMA」の料理長、田島和彦さんは
「例えば百貨店などで器を買うと、窯元のストーリーまでは聞くことができません。自分が直接産地に足を運ぶには時間がないし、このサービスのおかげで、上質な器を容易に借りることができて、知識も得ることができるのはとてもありがたいです。うちは常連さんが多く、カウンターがメインなのですが、器の話ができると会話も盛り上がります」とのこと。
料理人と伝統工芸の産地をつなぐプラットフォームの価値
「CRAFTAL(クラフタル)」は料理人と工芸の産地との間を行き来することで、今までどこにもなかった、一歩踏み込んだ橋渡しが可能なプラットフォームとなり得るかもしれません。
「今の料理人は社会的問題意識の高い方も多く、食材の生産者をきちんと明示して語れるところも増えましたが、器の作り手まで、というとまだ少ないように思います。私たちが伝統工芸の背景をしっかり伝えることで、産地や職人への理解が深まり、お客様へ説明することで喜んでもらい、料理に一層奥行きが生まれるのではないかと思っています。また、料理人の意見を作り手へフィードバックすることで、産地が活性化し、新しい商品開発にも繋がるのではと期待しています」(堀田さん)
「CRAFTAL(クラフタル)」をただの器のレンタル屋さんだけでは終わらせたくない、という堀田さん。まだ構想段階とのことですが、今後は料理人と器の作り手がお互いに意見を交わしたり、それぞれの持ち場を生かした料理会を開いたり、さまざまな交流の機会を作っていきたいと考えているそうです。
また、学校給食など子供達への文化教育や海外進出、インテリア分野への展開など、やりたいことはまだまだたくさんあるのだとか。
「作り手と使い手が共に成長していくコミュニティを作ることが、『CRAFTAL(クラフタル)』の仕事の本質です。“食べる”という日常のシーンで、多くの人に伝統工芸品に触れてもらい、知ってもらって、作り手と使い手がお互いに刺激を与えあう。そこから日本の伝統文化が継承されていく。そういう意味でも絶対に成功させないといけないし、やる価値があると思っています」(堀田さん)
伝統工芸の器に興味を持った方、ご自身のお店で器を使ってみたいと思う料理人の方は、ぜひ気軽にお問い合わせ下さい。
■取材協力
企業名 | CRAFTAL(クラフタル) |
店舗名 | 割烹 TAJIMA |