
「オルタナフード」というワードを知っていますか?
オルタナフードは、料理に使ったり食べたりすることで社会問題、環境問題の解決に貢献できる食材。ダチョウやシカ、イノシシの肉などがその代表例です。また、こういった食材を積極的に選ぼうという姿勢はオルタナフード的な考え方と言えます。
このオルタナフードを五感で楽しみ、理解を深めようというイベントが、2018年7月29日に都内で開催されました。
このイベントは、株式会社アカツキライブエンターテインメント主催の、まだ体験したことのない食体験を届けるエンタメ食イベント「EAT FREAK(イートフリーク)」の第1弾企画。来場者全員が協力し合ってダチョウの卵を割ったり、ダチョウやシカ、イノシシの肉をメインにした料理を味わったり……場内が歓声にあふれるほどに盛り上がった、イベント当日の模様をレポートします。
目次
オルタナフードって何?ダチョウ、シカ、イノシシを食べることで貢献できる諸問題とは?
「オルタナフード」とは、「社会問題解決性食材」のこと。東日本大震災を機に食の問題に取り組み始めた、株式会社Noblesse Oblige(ノブレス オブリージュ)創業者の加藤駝鳥貴之さんが考案した概念です。ノブレス オブリージュは、オルタナフードの生産・卸業を通じて社会への貢献を目指しています。
このイベントはまず、同社の代表取締役・加藤瑛莉加さんによるオルタナフードについてのトークから始まりました。
食肉の生産には多くの飼料が必要になります。家畜のおもな飼料となる穀物を生産するためには水や土地が必要で、今後の世界人口増加に伴って食肉の需要が高まると、水不足や森林破壊に拍車をかけることになります。
こういった、食肉生産にかかわるさまざまな資源を節約できる可能性を秘めた食材が、ダチョウです。ダチョウは、牛や豚に比べて飼料に対しての成長率が高く、少ない飼料で大きく育てることができます。その上、草を中心にした飼料で成長するため、他の畜産動物を育てるよりも穀物の消費量を大幅に削減でき、ダチョウが食肉として広まれば、資源の枯渇や、将来的に懸念される食糧危機の解決につながると考えられます。
また、このところ国内各地でシカやイノシシが増え、田畑や山を荒らす被害が絶えません。害獣として駆除される個体を廃棄せず、食材として普及させることで、環境問題に貢献できます。
加藤さんは「オルタナフードとは、『おいしい、ヘルシー、安い』といった基準だけで食べ物を選ぶのではなく、社会や世界が良くなるという理由で選択する考え方や、その考え方を実現できる食材のことです。今日はオルタナフードをおいしく食べて、その理念を知っていただければと思います」とスピーチしました。
まずは、ダチョウの卵を実際に触って、割ってみよう
加藤さんのトークの後、ノブレス オブリージュ提供のオルタナフードを体験するプログラムが始まりました。
まず、会場にはダチョウの卵が運び込まれました。ダチョウの大きな卵をはじめて間近に見て、実際に触り、来場者からは「結構重い!」「殻が固いね」等、歓声があがりました。
いくつかのグループに分かれ、来場者同士が協力してダチョウの卵を割って中身を出してみることに。なかなかすんなりと割れず、グループの全員が代わる代わる金づちを手にして、慎重に少しづつ殻に割れ目を入れていきました。
オルタナフードはおいしい!ダチョウ、シカ、イノシシを使った料理を味わう
全グループのダチョウの卵が割れたところで卵は調理場へ運ばれ、入れ代りに、オルタナフードを使った料理がサーブされました。
この日の料理は、レストランのメニュー開発やケータリングなどを行っている「goody nomad restaurant(グッディ ノマド レストラン)」の森尻俊太郎シェフが担当。森尻シェフは牛や豚を1頭買いして提供するレストランでの修業経験があり、肉の扱いが得意。これまでにもオルタナフードを使った料理を多く調理してきました。
森尻シェフに、料理のひと皿ひと皿についてお聞きしました。
■ダチョウの肉は、牛肉に似た味わい?
ダチョウを使ったひと皿は、「ダチョウのモモ肉のタリアータ」。
提供されたダチョウ肉は山梨県南アルプス市産のもの。きれいな水を飲み、ブドウカスを配合したこだわりの飼料で育てられ、クセのない上品な味に仕上がっています。ダチョウの肉は「前もって言われなければ、牛肉だと思って食べる方もいると思います」(森尻シェフ)というくらい、ビーフに似た味わい。シェフはイタリアンの修業経験もあるため、牛肉を使ったイタリア料理として一般的な、タリアータに仕上げました。ローズマリーとニンニク、塩、コショウで味付けし、「ダチョウをはじめて食べる方が多いと思うので、肉の味がよくわかるようにシンプルに仕上げました」と、森尻シェフ。
■ベテラン猟師の技が活きたシカ肉
シカ肉は「シカロースのグリル 赤ワインソース」に。
この日のシカは岡山県美作市産。人口よりもシカの頭数が多いという美作市では、70~80代のベテラン猟師さんが活躍しています。彼らはハンティングだけでなく、食材として扱う際に味を大きく左右する、血抜きなどの後処理が得意。シカ肉の本来のおいしさを活かす、熟練のスキルの持ち主です。質がいいため「塩コショウだけして、グリルした」(森尻シェフ)というシカのロース肉に、赤ワインとバルサミコ酢を使ったソースを合わせています。
■愛媛県産“みかん猪”は低温でじっくり火入れ
イノシシを使った料理は「イノシシロースの低温ロースト 桃のソース」。
イノシシ肉は愛媛県今治市産のもので、通称“みかん猪”。ミカンの産地として知られる今治市では、ミカン畑や自生するミカンを荒らすイノシシに苦慮しています。しかし、瀬戸内海の近くで育ったイノシシの肉は、色味がきれいで、脂に甘味がありクセも少ないのが特徴。また豚と違って食後ももたれにくいことから、食材として活用しようという動きが出てきています。ハイシーズンには、肉からほのかにミカンの香りがするとか。
「イノシシはしっかりと火を通す必要がありますが、固くならないように、低温でじっくりと火入れしています」(森尻さん)。肉に添えたソースには旬のモモを使い、大根おろしと合わせて爽やかな味わいにしました。
■ダチョウの卵を使ったカルボナーラとプリン
イベントの冒頭で来場者が割ったダチョウの卵は、「ダチョウのたまごの冷製カルボナーラ」として調理されました。
ダチョウの生の卵を食べられる機会は貴重。この日の卵は鹿児島県から入荷しました。
「卵本来の味を体験してもらうために、火を入れないでおいしく食べられるメニューを、と考えてカルボナーラにしました。ダチョウの卵は味が濃厚。クリーム類は一切入れなくても十分コクがあります」(森尻シェフ)
デザートはダチョウの卵を使ったプリン!
「余分なものを入れず、ダチョウの卵と牛乳、バニラシードで仕上げています」(森尻シェフ)
お料理の評判は上々。来場者に聞くと「どのお肉も、思っていたよりもクセがなくておいしかった」「シカやイノシシは焼くだけ、煮るだけ、のような料理を想像していましたが、ちゃんとしたひと皿になっていて食べやすかった」「カルボナーラはすごくまろやかでした」など、実際に食べてみて「オルタナフード」への印象が変わったという感想が聞かれました。
森尻さんは、「ダチョウは体の大部分がモモ肉なんです。無駄になる部位がほとんどなく、フードロスの観点でも優秀。味も受け入れられやすいですし、今後どんどん広がっていくんじゃないかと思っています。普通に、スーパーの店頭でダチョウ肉が買える日が来るかもしれませんね」と言います。
エンタメ食イベント「EAT FREAK」
イベントの最後は、じゃんけん大会。プレゼントはダチョウの卵です。
まだ体験したことのない食体験を届けるエンタメ食イベント「EAT FREAK」の第1弾企画として行われたこのイベント。来場者はまさに五感をフルに活用してオルタナフードを体験している様子でした。
イベントの主催者である株式会社アカツキライブエンターテインメントの渡邉翔太さんは、「それまで知らなかったこと、体験したことがなかったことに出会えるイベントにしたいです。衣食住のなかでも一番大事な『食』に焦点をあて、他のさまざまなカルチャーとリンクさせて、垣根を超えた相互理解の場になるといいなと思います」と語ります。
今後は、9月に第2弾のイベントを企画中で、「オーガニックとストリートカルチャーという、カラーの異なるジャンルを組み合わせた内容にしたい」とのこと。
「オルタナフード」で沸いた第1弾企画。このイベントをきっかけに、社会問題解決に貢献する食材について、理解が深まった来場者も多かったでしょう。食を軸にしたエンターテインメントイベント「EAT FREAK」の、今後の一層の盛り上がりにも期待大です!
■取材協力
企業名 | 株式会社アカツキライブエンターテインメント |
企業名 | 株式会社Noblesse Oblige |