
樹脂、石膏、プラスチックなど、さまざまな材料で立体物を出力ができる「3Dプリンター」。
個人向けの低価格商品も普及して、ここ4,5年で認知度がぐんと上がり、3Dプリンター産業はますます発展をみせています。
市場も国内で2020年までに702億円に成長するというデータもあります。
(出典:IDC Japan 「国内3Dプリンティング市場予測」 2016年7月)
そして今、この「3Dプリンター」と「食」を結びつける新たなビジネスが台頭しつつあり、これは今の飲食業界にとって好機であり同時に危機でもあるようです。
前回、3Dプリンターのフード版「3Dフードプリンター」についてご紹介しましたが、今回はフードプリンターの技術や今後の可能性についてもう少し深くお話ししていきたいと思います。
目次
「食」を「プリント」するということ
「フードプリンター」という言葉を聞いたことがありますか?
「フードプリンター」は、文字通り3Dプリンターのフード版。
つまり「食べ物を立体出力するプリンター」のことです。
この技術を使えば、誰でも自宅で好きな食べ物を「調理」することなく、スイッチひとつで「出力」して食べることができる時代が来ると言われています。
献立を考え、買い物リストを用意して、スーパーで食材を買い、自ら料理するのが今の日常生活の「料理」。
それが、献立を選んでスイッチを押すだけで「料理」が完了するような日常に……。
果たして、そんな夢のようなことが本当に可能でしょうか?
実際はまだまだ発展途上の技術なため、出力可能な食べ物にはかなり大きな制限・制約があります。
しかし理論上は、どんな料理でもプリンターで作り出すことは可能で、夢では無くなる日もそう遠くはないはずです。
「フードプリンター」の発展
多くの人は、「食べ物をプリントする」のではなく「食べ物にプリントする」プリンターのことはすでに知っているのではないでしょうか?
例えば、友人や恋人の写真がとてもきれいにプリントされているケーキやクッキー、幾何学模様が綺麗にプリントされたチョコレートを見たことはありませんか?
あれは、食べることのできるインクで、クッキーの表面や専用シートに専用の「フードプリンター」を用いて出力されたもので、3Dプリンターが広く話題になる前から、主に業務用として使用されていました。
つまり、「食」と「プリンター」は、実はそこまで縁遠いものではないのです。
「食品に2Dプリントする」を食とプリンターの第一期だとすると、現在はさらにそこから進化した「食品を3Dプリントする」第二期にあると言えるのではないでしょうか。
ここで登場するのが「フードプリンター」です。
「フードプリンター」という言葉が頻繁に登場するのは数年前。
2012年以降(Google Trendより)になります。
「フードプリンター」は文字通り食べ物を立体(3D)で出力するプリンターのことで、3Dプリンターに栄養素や香料などが粉末状になった専用の粉やペーストを入れたカートリッジを装填すると、プリンタヘッドで油や水と混ざり、コンピュータであらかじめ設定しておいた形状や食感を再現し出力されていきます。
下の動画をご覧ください。するすると形が出来上がっていくのがわかります。層を積み重ねるようにして料理が「立体印刷物」として製造されていきます。
この動画は海外の事例ですが、実際日本でも、個人用とプロ用向けに3Dプリンターの開発販売を手がけるXYZプリンティングジャパンが、スコーンやチョコでできたカップ、和菓子やピザなどを立体出力できる「XYZ Food Printer」のデモを2015年開催の三井食品フードショーで行なっています。
日本で「3Dフードプリンター」を頻繁に目にする時代もそう遠くないのかもしれません。
世界も注目する「3Dフードプリンター」
3Dフードプリンターはもちろん、海外でも非常に注目されていて、実験的な動きも含めて市場は徐々に拡大してきているようです。
例えばNASAでは、宇宙でも宇宙飛行士が新鮮な食べ物を食べられるようにと3Dフードプリンターを製作する会社(米国・システムアンドマテリアルズリサーチ社)へ出資を行っています。
(参考:3D Printing:Food in Space (NASA))
出張レストランを手がけるFood Inkは、ポータブル3Dプリンターを駆使した出張3Dプリントフードレストランを手がけて話題を集めました。
イベントでは9種もの3Dプリンターが活用され、高級店顔負けの3Dプリント料理が参加者に振る舞われました。
各家庭に普及するほど市場で大々的に販売されてはいませんが、全世界で今後どう展開していくのか、その動向に注目が高まっているのが「フードプリンター」なのです。
「フードプリンター」の今後の可能性
これまでの「3Dプリンター」は、結果として立体には仕上げてはくれますが、実際には平面(2D)の積み重ねで成形されています。
ですが現在では、そうした層構造を必要としない3Dプリンターも登場しています。
層構造を必要としないことの良さには、
1)出来上がった立体の表面が非常に滑らになる。
2)層構造では心配が残ってしまう強度の面がクリアできる。
といったことが挙げられます。
食から話が少しそれましたが、現在の「フードプリンター」も基本的には層構造を必要としています。
もし近い将来に層構造を必要としなくなれば、よりしっかりとした食べ物、つまり、より「料理らしい」複雑なものも出力可能になる(可能性がある)でしょう。
また、もう一つの「フードプリンター」の可能性に「食を出力する」ではなく「食とのコラボレーション」があります。
人の手では再現するのが難しい複雑な幾何学模様も、いとも簡単に作り出せる「フードプリンター」は、料理そのものを出力するためのツールではなく、料理に新たな演出効果を加えることができる魅力的なツールとして、世界中のシェフたちに熱い視線を注がれています。
オリジナリティのある美しい造形を自分の料理に加えることができるツールとして、今後たくさんの魅力的な試みが行われるに違いありません。
「フードプリンター」の影響は飲食業界を超えて
「フードプリンター」はまだまだ発展途上。
ですが今後、飲食業界にとって非常に革新的なものになるはずです。
一方で、もし本当に各家庭でありとあらゆる料理が簡単にプリントアウトできてしまう時代になれば、消費者はわざわざ外食をする意義を失ってしまうかもしれません。
もちろん、外食をすることによって得られるのは、外食をしているという満足感や、お店の雰囲気、店員さんとの会話など、料理以外のところにもあります。
「フードプリンター」が直接的な脅威になるとは考えにくいです。
ただ、「フードプリンター」が電子レンジのように一家に一台あるようになると、消費者はスーパーで野菜や肉を買わずに野菜や肉のカートリッジを購入するようになるかもしれません。
そうなれば、農業などの一次産業から流通加工過程まで、あらゆる産業が対応を迫られることになるでしょう。
今日明日の話ではないにしても、今後の「フードプリンター」の動向には注意を向けておいた方がよさそうです。