「食のメンター」第7回では、今回初めてオーナーシェフにご登場いただきます!記念すべきオーナーシェフ第一弾として、ロングインタビューをさせていただいたのは、大阪で予約の取れないイタリアンとして、多くのお客様から支持される「ジョヴァノット」のオーナーシェフ、上村和世氏です。「食のメンター」では、これまで多店舗展開をする経営者の方にご登場いただいておりましたが、オーナーシェフを目指す料理人のメンターとなるような人物に登場いただくべく、上村氏にご協力を依頼しました。

上村シェフの経歴を簡単にご紹介すると、大阪のホテルや、イタリアンの名店「ピアノ・ピアーノ」で修業。その後イタリアへ渡り、北部から南部までイタリア全土の2つ星・3つ星レストランで経験を積まれました。日本に戻ったあとは、大阪・本町「マーブル・トレ」のシェフとして、同店を名店へ押し上げた料理人としても知られています。「ピアノ・ピアーノ」「マーブル・トレ」といえば、料理の世界では非常に著名な名店。2006年、オーナーシェフとして、「ジョヴァノット」をオープンされました。

雑誌などメディアにも多数登場する上村シェフ。今回は、料理人、オーナーシェフとしての信念・人材への想いに、クックビズスタッフの生田が迫ります!

お客様にもっと近づきたい。一方通行では、面白くない。

クックビズ生田(以下:ク):
本日はインタビューにご登場いただきありがとうございます。これまで26年にわたって経験を積まれてきたシェフご自身が、お店作りにおいて大切にされていることは何でしょうか。

上村シェフ(以下:上):
何事も、お客様目線で考えるということですね。お客様がご来店されて、こちらが何も知らないままメニューを見て、出てきたものを食べて、「ありがとうございました」・・・そんな一方通行の飲食店では、僕は全然楽しくない。お客様と近づきたい、もっと知りたい。いつもそう思っています。

僕ら個人店は、大手と一緒のことをしては勝てないでしょう。マニュアルに頼ったり、無難になってしまったら、きっと冷たいお店になってしまう。自分の色をどこで出すのか、どうやって打ち勝っていくのか。毎日、自分に問いかけています。美味しさを決める要素は、料理が50パーセント、サービスや空間が50パーセント。料理だけでなく、サービスや空間も含め、お客様をどうおもてなしするかが大切だと考えています。

ク:「ジョヴァノット」様の店内は、オープンキッチンの対面に大きなカウンターがあります。「お客様とのコミュニケーションを大切にしたい」というシェフの考えが表れているのでしょうか。

上:お客様に喜んでいただくことが、純粋に嬉しいんですよね。「トマトおいしいね」とか、「トイレが綺麗やね」とか些細なことでも。お客様が感じること、ひとつひとつを聞き逃したくないし、知りたい。だからシェフとして、お店だけでなく全体的を見ることを大切にしています。

ク:ひとつのことだけを黙々とせず、料理、サービス、空間、全てを見る。それを継続していく、というのは非常に難しいことかと思います。

上:料理というのは、日々の努力の積み重ねが、作品となって出てきます。例えば、「今日はこれでいいか」と味見もせず出してしまったら、継続はそこで終わってしまう。一度作業として流してしまうと、区切りがつかなくなってくる。そこまで思うか思わないかは、自分のプライドがどこまで高くあるかどうか。私自身は日々最善を尽くして、いつも堂々としていたいのです。

ク:料理とサービス、どちらも大切だと考えるようになった出来事はあったのでしょうか?

上:きっかけはイタリアに行った時ですね。飲食業界に入ってすぐはサービスを1年やっていましたが、その頃はまだまだサービスの重要性を分かっていませんでした。その後数年料理人として修業し、イタリアへ渡ったことが大きかったと思います。イタリアのレストランで驚いたのは、自分が食べたいものを主張して注文するお客様と、それに最大限、いや期待以上の料理やサービスを提供しようとする料理人、サービス人との関係性です。チップがあるという要素も大きいかもしれませんが、こういったお客様と料理人の距離感、イタリアの食文化を知って、僕は知らない世界だとカルチャーショックを感じたのを覚えています。