「面倒な事」をやらないと勝てない。事業として難易度の高いビジネスモデルでの成功が何よりの強み

藪ノ:ご自身が考える自社の強みとは何ですか?

秋元氏:特に強みと言えるのはブランド戦略です。複数の海外ブランドを日本に誘致しています。私どもが経営する「ロウリーズ」や「バルバッコア」などは、客単価は決して安くはないのですが、予約の取れないお店になっています。

「オービカ」というイタリアンも非常に好調です。ただし、この海外ブランドの誘致は、事業としては難易度が高いのです。なぜなら海外のオーナーを納得させる為には多額の投資をしないと始められないし、客単価も高く、すぐに黒字化する訳ではない。
だけどそれを成功させられるのがうちの強み。チェーン展開する業態とはまた違うビジネスモデルで売上・利益を出せる、これこそが他社にはないノウハウだと思うのです。
逆に今、日本からも業態を輸出しています。それはまだ強みとまでは言えませんが、ゆくゆくはここも当社の強みにしていきたいと考えています。

藪ノ:事業を「経営のプロ」として推し進めるのがミッション、という先ほどのお話とも一貫していますね。

秋元氏:先にもお話しした通り、投資は必要だし、客単価も高いし、面倒なことも多いのですけどね(笑)。ただ、面倒なことをやらないとダメなんです。差別化にならない。もしも自分が作った物だと、ここまで面倒な事はしないかもしれません。自分がつくった方が無責任に出来ますが、相手がいるとそれができない。あのフランス人オーナーの顔を、あのイタリア人オーナーの顔を、あのニューヨークのパートナーの顔を、組んでくれた皆の顔を潰したくない、と必ず思う。相手があるからこそ面倒な事が出来るのです。ブラジルからもってきたお店「バルバッコア」が18年目。「ロウリーズ」で11年目になりますが、どちらも面倒な事をいっぱい乗り越えて来ました。

今では私どもに海外から出店のお話がたくさん来ます。世界中のオーナーは日本に来たいのですから。それこそ「バルバッコア」や「ロウリーズ」のように、昔は僕らが取りにいったものです。今は、私たちが日本へ海外ブランドを誘致した実績があるから。こちらからお願いしてやらせてもらうのとは話が違い、対等な立場で話ができます。そう考えてもやはり、海外ブランドの誘致、そして今後は海外への進出、その2つが当社の強みですね。世界中、どんな人が来ても喜んでもらえる店にしたい。中期計画の目標は、<人とブランドを磨いて世界で戦える会社にする>ということ。スタッフにもそんな価値観で働けるようになって欲しいから。すると、勉強が苦手だった当社の社員が英会話を勉強しはじめたり、海外で一花さかせたい、という人もでてきたり。社員も前向きな姿勢が増えました。

藪ノ:よく飲食業界は離職率が高い、と言われますが、海外へ目を向ける=辞めるにはならないのですね。

秋元氏:うちは良くも悪くも、ホントにみんな辞めません。上場企業時代が長かったから、上場企業の社員意識がぬけないのかもしれません。ギャラも比較的高いしお休みも安定している。飲食には珍しい会社かもしれません。だから残っている社員もいる。ただそうでなく、ポジティブな社員ももちろんいる。
ここにいるともっと勉強させてもらえて、その上お給料も高いほうだし、なにより仕事が面白い、だから残りたい、と。私は「プロ」を目指す人が長く働く会社にしたい。
ただ単に、ダラダラと長く働く会社にはしたくないと思っています。

上場には「向いている業態」と「向かない業態」がある。私たちのビジネスモデルは向いていない、と判断しただけ。

藪ノ:TOB(株式公開買い付け)を行った狙いは何だったのですか?

秋元氏:経営の自由度が広がることもひとつでしたが、それだけがメインの目的ではなく、非上場化したのには2つの理由があるのです。ひとつは親会社グループ全体の事情、ひとつはワンダーテーブルの事情。両方がかみ合い実行となりました。
結論をいえばワンダーテーブルのビジネスモデルは、上場企業に向いてるとは思っていないと確信したこと。基本的に外食産業は、あまり上場にむいてないと思っていますが、特にうちの場合は向いていませんでした。

藪ノ:なぜでしょうか?

秋元氏:当社の場合は、年間に何十件も出店するビジネスモデルではないからです。例えば、マクドナルドや鳥貴族など、全国でチェーン展開する企業様は向いてると思う。
なぜなら、上場する=数千人、数万人の株主に中期計画をたて、成長戦略を作って提示し、実行しなければいけない。それが経営者の使命。

年間何十件もオープンするという戦略は、株価も上げますし、株主にとってもいい戦略です。ただ、私たちがやっているビジネスモデルは年間何十件もオープンさせるやり方ではない。一軒一軒しっかり店を作り、投資をしてオープンする戦略。1年、2年では立ち上がらない案件もある。実際に「ロウリーズ」や「バルバッコア」も、はじめの3年間は赤字でした。でもいまは予約が取れない店になり、「ロウリーズ」も1店舗で10億、「バルバッコア」も東京の2店舗で10億売上げます。利益も億単位となります。
上場には向いてないけれど、しっかりと安定したお店を創ると不景気に左右されない店になるのです。

藪ノ:さすがにそこまで大きなプロジェクトだと、店長だけではマネジメントできないですよね

秋元氏:うちでは店長を支配人と呼び、権限もあたえていますが、もちろんブランドマネージャーもいますので、店舗のデイリーな業務においては、彼等でブランドをコントロールしてます。ただ客単価が大きい店は特に、オーナーや僕の役割は大きいですね。
ブランドマネージャーも普段1、2万円のフレンチをしょっちゅう食べているわけではないので。お客様の目線や判断には、オーナーや自分が深くかかわりサポートします。

大阪の店でも1年くらいは私がスーパーバイザーをやっていました。支配人と一緒に月次で振り返ったり、イベントの計画をしたり。口コミ広げるために業界の著名な方にご紹介をいただいたり。マネージャーではできない事をサポートしたり、新規事業や赤字のところは自分がどんどん関わっていく、これが自分のやり方です。

いいコンテンツならば国内でも飲食はまだ伸びる。若者には海外へも目を向けつつ、未来を信じて頑張ってほしい

藪ノ:最後に業界全体のお話をしたいのですが、国内的に飲食は厳しいといわれている。御社自体はガッチリとスタイルが決まっていると思うが、業界全体くらいは5年、10年でどうかわると?

秋元氏:ある一定以上の成功をされている企業が狙っているのが海外、特にアジアです。
もちろん私たち自身も、タイや中国、台湾など先陣をきっているエリアでもあります。おもてなしのクオリティ、フードクオリティ、サービスクオリティなど、日本の外食は、ほかの製造業に負けないくらい、とても素晴らしいレベル。むしろ世界一といっても過言ではないレベルの位置にいると思っています。
そのノウハウをもって海外で勝負していく、というのがこの業界のテーマかな、と強く感じています。
外食産業の売上29兆円が23兆円になり、今後は20兆円にまで減りそうだという予測もあるほど。全体のパイが減ってるから企業としては成長を考えると致し方のないことです。
とはいえ、23兆円はある。ASEANを足しても20兆円いかない。中国は人口が10倍以上あっても29兆。これはスゴい伸び率なのだけれども、日本の外食産業の数字と日本の人口を比較してみても、国内の市場がどれだけ大きいか、ということがよく分かります。ということは、いいコンテンツを作ればまだまだ勝てる。我々も日本で身の丈にあった成長をしていきたいと考えています。ただ、全体で言うと個人経営はシビアになるし、安くて専門的な店が伸びていき、よくわからないお店は厳しい。そういう流れますます強くなるでしょうね。

藪ノ:20〜30代の若手飲食人に、メッセージを贈るとしたら?

秋元氏:飲食はとても魅力的なビジネスで、若い人にはいくらでもチャンスはある、と信じてほしいです。
だけど努力は必要。1000万円ためて、一国一城オーナーになる道もある。でも私のように飲食が好きで、人に対して、事業にたいして一生懸命努力して「経営のプロ」を職業とする人もいる。選択肢はいくらでもあるのです。若い人は今の段階から、海外をも見据えながら働いてほしい。将来は日本だけでなく、海外に向けたフィールドで頑張れるチャンスはいくらでもあるから。やっぱり40代以上の人に英語を覚えろと行っても難しい。海外に行けと行っても怖じ気づいていけない。若くて体力や未来のある20代なら、まだなんにでも可能性が広がる時代。でも海外に興味がなかったりする、それ自体がもったいない。貯金大好きで、車ものらない20代。でも勉強熱心な20代。彼らが視野を広げれば、次の10年、20年に繋がるはず。そこにチャンスがあること、フィールドがあることをぜひ分かってほしいと思います。

編集後記

取材を通して感じたのは、秋元社長の明確なビジョンと過去の実績に対する揺ぎ無い自信でした。私自身の目標も「プロの経営者」になることであり、同じ目標に対して着実に歩みを進めている秋元氏の言葉に、どんどん吸い込まれてしまいました。“個人のキャリアとしての社長業”という視点は日本ではユニークであり、こういう考え方がもっと広がれば、飲食業界だけでなく、日本や日本人の本質的なグローバル化が進むのではないかと感じた1時間でした。これからもご活躍するその背中を、しっかり追っていきたいです。

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