
今回は、消費意欲の旺盛な30代前後の女性を意識した、支持されるお店づくりのポイントについて紹介していきたい。
どんな飲食店でも、女性集客には力を入れていると思うが、まず大事なのは「値段」「味」「空間」の3つではないだろうか。
それぞれにおいて気をつけたい基本的なポイントについて、私自身のビストロ経営の経験もふまえながら紹介していこう。なお、想定しているのは洋食業態のレストランだ。
「多種類を少しずつ」欲張りゴコロを満たすサービスが好感度大
女性が店選びをする際、味が良いのは当たり前。重要視するのは、何と言ってもコストパフォーマンスの良さだ。
ただし、値段を抑えるだけでは「安っぽい」と受け取られることもある。大切にしたいのは「色々なものを少しずつ食べたい」という好奇心旺盛なニーズに対応するようなメニューだ。ここはぜひ「この値段なのに…料理内容が充実している」「この値段でも種類が多い!得した気分」と思ってもらえるような工夫をしたい。
例えばランチの外食時に、男性は「今日はステーキを食べに行く」「今日はラーメン」と単品のメニューに目的意識を持つことが多いのに対し、女性は「今日はゆったりできるあのお店に行きたい」「今日はみんなでランチだから、おしゃれな雰囲気のあの店で」といったように、店を目的に選ぶことが多いようだ。
女性は特に、メニュー選びでは「できるだけ多くの種類を楽しみたい」と考える傾向が強い。
例えば、ランチコースで前菜を「カルパッチョ」「シーザーサラダ」「前菜の盛り合わせ」の3種類から選べると仮定しよう。男性は「カルパッチョ」や「シーザーサラダ」などの単品メニューを選択することが多い一方で、女性のオーダーに最も選ばれるのは、圧倒的に「前菜の盛り合わせ」なのをご存じだろうか。野菜も、カルパッチョも、パテも少しずつ全部食べたい。盛り合わせは、そんな欲張りなニーズを満たしてくれるからなのだ。
同様に、ワインバーや居酒屋の「利き酒セット」「飲み比べセット」も、男性より女性の注文率が高いという。
「いろいろ味わってみたい」という女性心理を満たすには、一品の量にこだわるよりもバリエーションを重視するとよいだろう。選択肢が多く、多様な組み合わせの可能なメニュー設定や、複数種類を味わえるプレートメニューは、女性への強いアピールポイントとなるはずだ。
「野菜へのこだわり」「素材の良さ」を前面に出して
多くの女性はいつでも健康や美容にアンテナを張っていて、食材や料理方法、レストランの新店情報など流行にも敏感だ。そうした女性たちが評価するのは、なんといっても野菜の料理だろう。
「サラダクラブ」のデータによると、女性の9割弱が「野菜が好き」「野菜がどちらかといえば好き」、7割以上の女性が「食べるように心がけている野菜がある」と回答している。その理由には、「健康のため」「アンチエイジングのため」などが挙がり、健康志向と野菜が直結しているのがうかがえる。
近年では、めずらしい野菜も数多く登場している。ロマネスコ、スティックセニョール、コールラビ、ビーツ、食用ほおずき、アイスプラント、紅芯大根……など、形状も色もさまざまな外来野菜や日本古来の伝統野菜が脚光を浴びている。こうした野菜を積極的にメニューに採用すれば、野菜好きの女性には喜んでもらえるはずだ。
直接契約した農家から旬野菜を取り寄せているレストランも増えてきている。黒板に「◎◎農園の朝採れトマトを使用」と書いたり、農家の名前をあえてつけたメニューを出すこともめずらしくない。野菜へのこだわりをお客様に上手に伝えることも、差別化のためには大切だといえる。
また、野菜、肉魚料理のつけあわせとしてだけではなく、料理の主役としてメニューに登場させるのもおすすめだ。サラダはもちろんのこと、新玉ねぎのコンフィやキャベツのオモニエール、夏野菜のテリーヌなど野菜を中心にした一品メニューはインパクトが大きい。
にんじんなど身近な野菜を使った料理でも、素材の良さを活かした一品に仕上げることによって「食べなれた野菜もこれだけおいしいということは、このお店は何でも新鮮で良い素材を選んでいるに違いない」といったような良い印象を与えることが可能だ。
「居心地の良さ」と「清潔感」は厳しく見られている
最後に、女性が好む空間づくりについて。内装や家具調度など、インテリアはお店ごとのテイストが反映されるものだが、居心地の良い店には何度でも行きたくなるものである。
居心地の良さを実現するには、いくつかのポイントがある。
まずは席配置。他の客との距離感が近すぎると居心地が悪いので、他のお客様と目が合いにくいような配置になっているのがベスト。たとえば、単に横並びにテーブルを並べるのではなく、縦横または斜めのミックスにテーブルを配置していくだけで、客同士の視線の交差を防ぎ、くつろぎ感を演出することができる。
スペースの余裕があれば円卓なども採用し、リズムのあるレイアウトを構成したい。
他にもゆったりできる店の演出として、低めで座り心地の良い椅子を設置する、観葉植物を置く、間接照明を多用するなどの工夫が有効だ。
次に、「店の人の感じが良い」と思ってもらうためには、客の都合にあわせた接客が大前提。威圧感がないことも大切だ。
お一人様の女性客が来店した場合に、「カウンターのお席とテーブルのお席とご用意ができます。どちらがよろしいですか?」と決定権を客に委ねる気遣いだけで、機械的に対応するのとは段違いに好感度が高くなる。
細やかなサービスをするためにも、店側は各テーブルの様子を常に見渡しておきたいと思うもの。だが一方で、客の側からしてみると、ジロジロ見られる視線は決して心地よくない。
そこで、さりげなく常に客の様子を伺うには、「何か作業をしながら客席を見渡せるポジション」を作るのがおすすめだ。例えば、お客様の様子を見渡しやすい場所で、カトラリーやグラスを拭いたり、予約電話の対応をするなどが自然だろう。
また、ゆったりと過ごしてもらいたくても席に時間制限を設けなければならないような場合は、予約時や入店時に事前確認をしておきたい。その際に、予約のない次のお客様の来店可能性を強調するなどは避けなければならない。「儲け主義」と思われないような、納得度の高い説明を工夫しよう。
「清潔感」も大切だ。細やかな女性は、テーブルまわりはもちろんのこと、エントランスや化粧室の細かいところまでよく気がつくものだ。
特に化粧室に関しては、多くのアメニティを置くよりすっきり清潔に保つことを優先しよう。忙しい時間帯こそ念入りなチェックをし、鏡や蛇口の汚れや水滴がないようにしたい。きつくない程度のお香やセントスティック、またオーガニックな石鹸やハンドクリームなどが準備されている化粧室は概して好感度が高い。化粧室は特に女性目線の環境づくりを大切に、不快感を与えることがないようにしよう。
女性客は発信力が高いため、気にいった飲食店は口コミで拡散し、友人をお店に連れてきてくれる心強い存在になる。消費意欲の高い女性客の心をつかめるお店づくりには、細やかな工夫が欠かせない。
そして、女性ファンを増やすための努力は、男性ファンを増やすことにも直結することばかり。まずは「値段」「味」「空間」をポイントに、女性に好感度を抱いてもらえるようなサービスを考えてみてはどうだろうか?