今回、お話を伺わせていただいたのは観光名所「渡月橋」のすぐそば、阪急電鉄嵐山線「嵐山駅」から徒歩3分の場所にある「musubi cafe」オーナーの平林博美さん。

こちらのお店は、2009年のオープン以来「ココロとカラダに優しいこと」をコンセプトに、ランチ、ディナー、カフェメニューすべてでオーガニック食材を活かしたベジタリアン・ヴィーガン対応メニューを提供しています。

ベジタリアン客は湯豆腐が食べられない!湯豆腐屋さんからのSOS

日本を訪れる外国人観光客が年々ますます増加する中、嵐山を訪れる外国人観光客には、ここ2~3年の間で変化あったといいます。そ

れまでは京都市の中心部、河原町や四条などを拠点にしていた観光客は、少し離れた嵐山には日帰りで訪れ、ランチやカフェ利用が中心でしたが、宿泊スタイルが多様化したこともあって嵐山に泊まる客が増え、飲食店のディナー利用の需要が高まってきたのだそうです。

「観光地なのでもともと外国人観光客の来店はありましたが、「musubi cafe」ではこの2~3年の間で近隣の湯豆腐屋さんからのご紹介で来店される外国人観光客の方が増えました。

ベジタリアンやヴィーガンの方たちは、ヘルシーな精進食材TOFU(豆腐)を食べに湯豆腐屋さんに行くのですが、実は湯豆腐には鰹出汁が使われていることを来店してから初めて知り、動物性食材が入っているものは食べられない!と困ってしまうケースが多発。その受け皿として、うちの店には外国人客を受け入れてもらえないかと連絡がくるようになりました。」(平林さん)

実際、湯豆腐に限らず和食でつまずくのが出汁の問題。和食は野菜たっぷりヘルシーでベジタリアンやヴィーガンでも問題なく食べられるものが多いイメージがありますが、鰹出汁が使われているため食べられないケースも。

最近では、ベジタリアンやヴィーガン対応のニーズの高まりを意識して、鰹出汁を使わない和食や、豆乳を使ったスープのラーメン屋さんなどが京都に限らず全国的に増えているのもうなずけます。

「musubi cafe」のべジタリアン・ヴィーガン対応メニュー

「musubi cafe」では、「楽穀菜食」「地産地消」として地元京都や周辺農家で育ったオーガニックを中心に畑で野菜を育てるシェフや管理栄養士が考案したメニューを通年提供しています。

ランチでは、ディナーでも提供している車麩のサクサクカツや高野豆腐の唐揚げなどのメインディッシュにサラダ、おばんざい2品が付いた「本日のおすすめランチ」と、高野豆腐のベジタコライスやひよこ豆のトマトカレーなどの人気の定番「単品ランチ」が用意されています。

「本日のおすすめランチ」と「単品ランチ」をあわせた5品中4品がベジタリアン・ヴィーガン対応メニューです。

ちなみに、取材に伺った日の「musubi cafe」ランチメニューは5種類。

■本日のおすすめランチ・・・すべて各1250円(税抜)

  • 車麩のカツレツ 甘酒入りラタトゥユ添え
  • 鶏とカボチャの三年熟成味噌炒め

■単品ランチ・・・すべて各 1250円(税抜)

  • ひよこ豆とトマトカレー
  • 野菜のトマトスパゲティ
  • 高野豆腐のベジタコライス

本日おすすめランチの「車麩のカツレツ 甘酒入りラタトゥユ添え」。彩り豊かなプレートにはたっぷりの野菜とサクサクの車麩カツレツで食べごたえ十分。

単品ランチの「高野豆腐のベジタコライス」。高野豆腐のタコライスは本当にお肉が入ってないの?と驚くほどの味と食感。単品ランチにはすべてにミニスムージーとサラダ、スープが付く。

そのほか、野菜たっぷりのお味噌汁と雑穀や玄米のおにぎりがセットになった「アサゴハン/600円(税抜)」も。ディナーでは、メイン1品に菜食小鉢3品、みそ汁・ごはん、ドリンク、ミニスイーツがセットになった「バンゴハン/1528円(税抜)」のほか、メインディッシュやサラダ、ご飯もの、麺類などのアラカルトなどジタリアンやヴィーガンも満足できる多様なメニューが用意されています。

また、カフェメニューでは、京豆腐と麩のベジチーズケーキや、おからと米粉のパウンドケーキなどビーガン・スイーツも豊富。
バターや卵等を使わず植物性食材のみで作ったスイーツでありながら、京都らしさと日本の豊かな食文化を感じさせるラインナップです。

■ビーガン・スイーツ

  • 京豆腐のケーキ(チョコレート・抹茶ときなこ)/510円(税抜)
  • 京豆腐と麹のベジチーズケーキ/510円(税抜)
  • くるみのタルト/510円(税抜)
  • しっとりおからと米粉のパウンドケーキ/417円(税抜)
  • musubiパフェ/695円(税抜)

外国人観光客にわかりやすく伝えるために、すべてのメニューには英語表記があります。

「車麩のサクサクカツ」は『Fried gluten cakes』、「高野豆の唐揚げ」は『Fried freeze-dried tofu』。日本固有の食材を説明するのも工夫が必要とか。

外国人観光客に人気なのは、やはり抹茶を使ったスイーツやドリンクなのだそう。

アジア圏にはさまざまなお茶をたしなむ文化がありますが、抹茶は日本だけの文化。
ヘルシーで美味しいだけではなく、外国人にとってほかの国にはない日本固有のテイストとして根強い人気があるようです。

(左)丹波黒豆入りの抹茶フィリングときなこのスポンジの間に自家製の生八つ橋がサンドされた京豆腐のケーキ。米粉のしっとりとした食感が印象的。510円(税抜)
(右)抹茶オーレ。602円(税抜)

外国人観光客の対応で一番大変なのは「言語」

さまざまな国から訪れる外国人観光客を受け入れるには、店側も外国人向けの体制や対応マニュアルの用意が必要になってきます。
でも観光地の小規模な店では、どこまできめ細やかに対応すべきなのでしょうか?

実際「musubi cafe」では、英語メニュー以外に外国人向けにどんな対応をされているのでしょうか?

一番苦労しているのは言語ですね。英語が堪能なスタッフがいるわけではないので、電話で込み入った問い合わせがあった場合にはその場で回答するのが難しいので「Please send an email(メールでお問い合わせください)」とお伝えして、いったん電話を切っています。「車麩」「麹」「八つ橋」といった日本独自の食材を説明するのもなかなか苦戦しますが、メール返信はGoogle翻訳を使いながら対応しています。

人気の観光地なので、お店に飛び込んできたお客さんに行きたい場所までの道を尋ねられることも多いです。でも、実際に尋ねられることは繰り返し使えるような内容が多く、嵐山周辺の代表的な観光地へのアクセス方法は英語で書き起こした文章を丸のまま暗記して対応しています。初めはドキドキしていたスタッフも何度か対応していくうちに、度胸がついたのはいいことだと思います。

また、マナーや文化の問題に直面することも。特にアジア圏の方に多いのですが、お店のトイレで使用後のトイレットペーパーを流さずゴミ箱に捨ててしまうケースが頻発し、衛生的にも問題なのでいくつかの言語で張り紙をして周知するようにしました。おかげで改善が見られました。」(平林さん)

外国人観光客とのコミュニケーションやマナーの問題など、さまざまな対応が必要になるのはもちろんですが、「すべて外国人のお客様に不自由がないように」を徹底してしまうのも違うと平林さんは話されます。

「日本に観光に来た外国人にとって、英語で対応してもらうこと、滞りなくすべてが便利なことが一番だとも思えません。日本語や日本の食材、文化に触れることも楽しみや思い出のひとつ。現地の言葉でたどたどしくやり取りしたことがかえって素敵な思い出のひとつになるように、日本人が過剰に外国人に寄り添う必要もないかもしれません。ちょうどいい「おもてなし」はどこにあるのか、今後も引き続き模索していく必要があると思っています。」(平林さん)

ベジタリアン・ヴィーガン以外の外国人観光客のニーズ

来日外国人観光客数はさらに伸びることが予想されていますが、ベジタリアンやヴィーガン以外にも求められる食の対応ニーズはまだまだありそうです。

たとえば、イスラム教徒のハラール食など、宗教上食べられない食材があるお客様への対応などがありそうです。

「うちの店にも、ピンポイントな食材の問い合わせが増えてきているように思います。イスラム教のハラール食などはすでに日本でも広く認知されていますが、中華系の方で頻繁に問い合わせいただくのが五葷(ごくん)の対応。これは仏教のいくつかの宗派で「ねぎ」「にんにく」「にら」「たまねぎ」「らっきょう」といった匂いの強い野菜(五葷)を食べてはいけない文化だそうです。

「musubi cafe」では、鰹出汁を使わない代わりに、精進出汁に昆布や切り干し大根の出汁などを使っています。たまねぎなどは旨味と甘味を出すためにさまざまな料理で使っているので、五葷にはなかなか対応することができないのが現状です。2020年に向けて外国人観光客が増えていく中で、こういったニーズはますます多様化していくでしょうね。」(平林さん)

「musubi cafe」では、以前までは団体での外国人観光客来店が多かったそうですが、ベジタリアン・ビーガンの方をはじめリピート来店する外国人も増え、「トリップアドバイザー」など海外で広く支持されている旅行情報サイトにお店が口コミ紹介されたことで、最近では個人の外国人観光客がじわじわと増えているそうです。

観光地に立地する飲食店であれば、外国人観光客にとって利用しやすく満足感の高い店を目指すのはもちろんですが、そもそもこれまで大切にしてきた地元や日本人観光客のお客様にも愛される店であり続けるために、何をどこまで変えていくのか飲食店であればすべての店が直面する今後の課題と言えそうです。

取材協力

店舗名 musubi cafe(嵐山店)
住所 京都府京都市西京区嵐山西一川町1-8
営業時間 Breakfast Time (アサゴハン)  10:30-11:30
Lunch Time (ヒルゴハン)  11:30-15:00
Cafe&Tea Time (お茶時間)  15:00-17:00
Bar&Dinner Time (ヨルゴハン) 17:00-20:00
※土・日は10:00~、土曜は22:00までの営業
※ラストオーダーは閉店時間1時間前
電話番号 075-862-4195
URL http://musubi-cafe.jp/

『musubi cafe』では~ココロとカラダに優しいことを~をコンセプトに、食事やスイーツ以外にも京都嵐山の立地を利用したランニングイベントやヨガなどのスクールを開催。姉妹店にmusubi cafe(祇園鴨川店)、みんなの囲酒家 むすび食堂(大宮)も。