スタッフ80名。鉄板神社の人気と規模拡大が、自分を変えた。
箱部:現在はスタッフ数80名ということで、やっぱり1店舗のときと、教育も変わってきますよね。

にぎやかな祭りをコンセプトにしている「鉄板神社」。難波店1階のカウンターには神輿が
ある。2階3階はテーブル席。
田中氏:スタートしたときは、それこそ命がけでやっていたときは、10人のスタッフに自分の背中を見せることができました。
でも、80人のスタッフがいる今は、僕が新人に口を出しても「現場を知らんのに、何を言うん?」って思われるわけで、以前のままじゃダメだと思いましたね。じゃあどうするか?ひとつは我が道を貫く、もうひとつは、大きくなるためには、自分を殺して変わる。それしかなかった。それで後者を採ったんです。
箱部:ご自身を変えるための具体的な手段はありましたか?
田中氏:一言でいうと、「我慢」ですね。腹が立っても、脳からカラダに伝わる前に、一旦止めます(笑)。以前は、「こんなんも、分からんのか!」と怒鳴るのが自分の口癖で、ほんま、あいつらは・・・と人のせいにしてきていたんです。でも、スタッフに言うからには、まず自分が変わらないといかんでしょ。大きくなりたいのに、我を通そうとするから、失敗するわけで。
根本は“我流”ですし、芯はまったく変えていない。ただ、やり方を変えたんです。今の時代で通じる方針、人数に見合ったやり方、それぞれの生活・経済レベル・趣味に応じた言い方。今まで通してきた芯の部分や僕自身の中身はまったく変わっていないんだけれども、やり方はどんどん変えていった。
そうしないと、実際にこれだけスタッフ数が増えて、しかも、基本的にうちは、雇ってから人を育てていくという「ど素人集団」なわけです。変わらざるを得なかったというのが現実です。
ただね、うちはみんな、「俺が、俺が」で、もめごとばっかりですなんですが(笑)、お客様からは、ほめられることが本当に多い。根は、めちゃくちゃいい奴らばっかりなんですよ。

箱部:田中さんはメディアで「プロ意識を持て」と、よくおっしゃっていますよね。
田中氏:仕事をなめてる人が多いから。プロ野球の選手は小学校のときから野球を続けていて、その中のほんの一部が大人になってプロになる。スケート選手やジャンプの選手でも、いろんな大会で何度も優勝していても、オリンピックで入賞しないと、ものすごくがっかりされる。一流の選手ですら、そうですよね。
僕はそんな世界と、飲食業界はまったく同じだと思っています。僕自身が、サッカーの試合の観戦によく行きます。見てたら、「同じプロやな」と励みになる。
だから若いスタッフには、まず「好きなもんは何?」と聞きます。たとえば「サッカーが好き」じゃなくても「あのミュージシャンが好き」だとか出てくると、それを例にして、「プロ意識を持て」という話をします。今の若い子も、そういう風に自分の身近なものに置き換えると、結構伝わりますよ。
これは飲食業界全体の課題だと思うんですが、「飲食業界なんて誰でもできるわ!」じゃなく、スポーツ選手と同じプロやと思って欲しいんです。
業界の常識をやぶり、3月の売上が12月を超える。
箱部:田中さんは、すべて我流でここまでのし上がってこられた方ということで知られていますが、一応、このコーナーは、「あなたのメンター(師匠)を教えてください」と毎回お願いしておりまして、師匠のような方は、やはりいらっしゃらないんでしょうか。
田中氏:そう。全部、我流です。師匠もいないし、相談する相手も作っていませんね。強いて言うなら・・・母親ですね。うちは貧乏やったし、母親も商売をしていたわけじゃないけど、母親の教えがあって自分があるのは事実です。「人として」とか、「世の中はこんなんや」とか、人生についてのことですけどね。でも、それが今の自分の商売につながっているとは思います。
一番よく言われたのは「あんた今だけやで」。「調子に乗るな」ってことですね。だから常に危機感を持っています。わーっと成功して、すぐに失敗する人は、そこがないでしょう。
箱部:お母様のコトバとは意外です!
田中氏:でも、商売の世界では、実際に師匠はいないですね。逆に、スタッフには、「飲食業界の常識に従うな」と、いつも言っています。たとえば“1年で12月が一番忙しい”という業界の定説が、僕はすごく嫌いなんです。12月に来たお客さんが、なんで1月には来ないのか?来ないのは、おかしい!と、常に言っています。
その結果、本店では、3月の売上が12月を抜きましたからね。ほかにも「雨の日、台風の日は人が来ない」とか、「この立地はよくない」とか、そんなのは一切関係なく、自分達は結果を出してきているんです。しかも、自分がいた時は、月商1,000万円だったのが、僕が現場を離れてから月商1,600万円をずっと続けていて、前期は1,700万円を達成して、正直びっくりしました。

飲食業界の常識を信じると、そういう「絶対無理」と思っていたことができない。でも、そんなのは言い訳です。それで実際に、絶対無理だと思っていた数字を自分たちは、やり遂げてきたんです。