鉄板神社バナー

2006年の設立より、大阪のミナミを拠点に、鉄板創作料理の「鉄板神社」を展開する株式会社寿幸。難波・宗右衛門町にある本店にて“月商1,700万円”をたったの24席で達成。2012年9月に御堂筋なんば駅から徒歩1分という一等地に、5店目となる難波店をオープンした後はその勢いには乗じず、2013年にスピンアウトで生まれた焼きそば専門店「寿座」(じゅざ)、2014年にシフォンケーキ専門店の立ち上げという新たな枠組み創出へとシフトしています。

そんな株式会社寿幸80名のスタッフを率いるのは、福井県出身、36歳の田中 寿幸氏。「お客様が来る限り何時でも店を開ける」「スタッフは少なくて10人体制」「店を流行らせるのは、命をかける“気持ち”だけ」などの有言実行で、飲食業界で話題を集める代表 田中氏の、真の姿は如何なるものか、クックビズの箱部が迫りました。

組織として大事なのは「誰も辞めさせない」リーダーを育てること。

箱部:はじめまして。本日はよろしくお願いします。実は、田中さんのことはネットでもよく取り上げられていたので、いろいろと事前に調べさせていただいておりまして。福井から大阪に出てこられて1年の修行を積んで独立され、鉄板神社は、大阪のミナミで2003年に4坪9席からスタートしたんですよね。飲食業界に入られたきっかけというのは何かありますか?

難波店2

2012年9⽉にOPENした鉄板神社 難波店。難波駅よりすぐの千⽇前通り内⼀等地にある。

田中氏:もともと地元で土建業をやっていて、大阪に出てきたのは、25歳やったから、かなり出遅れていました。だから、とにかく一番最短で、社長になりたかったんです。そのためには小さい規模でも一国一城の主になれる飲食業界を選びました。鉄板焼きを選んだのも同じ理由ですね。一番早く独立できるのは何かなと考えたときの戦略です。
箱部:御社では、正社員比率が8割以上と非常に高いです。そのあたりからも、しっかりと人材を育てて行きたいという思いが伝わってくるのですが、何か特別なスタッフ教育などはされていますか?

田中氏:そんな複雑なことはしていなくて、うちで教えているのは2つ。ひとつは、“顔”です。「常に笑顔でいろ」ということ。これは、商売人というより人間の基本として誰でもできるマニュアルですね。どんな人材でも、そこだけは守ってもらわんと、うちでは通用しない。

もうひとつは、“フリートークで自分を売る技術をつける”ことです。「お前がいるから店に来た」とお客さんに言ってもらえる技術が最高級です。絶妙なトークと信頼が揃わないといけないから、実は一番難しい。

同じお客さんが10回来たらその10回とも、お客さんの体調や状況を察知して接客を変える。いつもは沢山話していても、しゃべりたくない日もある。そんな時に、しゃべってどうすんねんと。

田中寿幸社長1

接客は人対人やから、どうしても個人の感性は大きいですよ。でも、そこは自分がいちいち口を出している時もあります。「それは早く行きすぎ」「待ちすぎ」だとか、「今、行かなあかんかったで」だとか、タイミングは細かく説明していますね。

箱部:それって正社員だからできる教育ですよね。

田中氏:アルバイトみたいに、たまにいる人間にはなかなか言えないでしょ。毎日いるからきっちりとした教育ができる。

箱部:店長さん達にはどのような教育を?

田中氏:まず自分の背中を見せています。優秀な人間は、それでさっき言った「顔」と「お客様をつける」2つのスキルを身につけるけど、これから先を考えると、人を育てる力が一番必要です。これができる人間が、なかなかいないですね。

というのも、うちは、我がが!我がが!という人間が集まっているからね。優秀な人間ほど、自分がどんどん前に出て、他の人間を引かせてしまう面がある。自分の仕事ができるということと、リーダーとして人を育てられることは別なんです。それで、どうしても下のスタッフは辞めていく。本当にすぐ辞めていくんです。

だからね、そこを辞めささずに育てていける力というのは、本当に難しいんですよ。でも人材を育てる技術や能力を持たないと、結局は、優秀な人材が増えていかないということになる。

寿座1

田中社長の取材前に来店した焼きそば専⾨「寿座」(じゅざ)にて。瀧店長のユニフォームにも「戦友」の二文字。

鉄板神社のユニフォームには腕の部分に「戦友」と書いているんです。飲食業界は、まさに戦国時代で、お客様と店の数が合っていないのが現状です。そんな中で、「共に戦場で戦う仲間が何をもめとんねん!」「そんなヒマはないはずやぞ」という思いを込めて。

箱部:辞めささずに人を育てていける技術って、具体的には何が必要なんでしょう。

田中氏:やっぱり、今の時代は、コトバの力やね。上から下に、という一方的な言い方していたら、全然伝わらない。同じことを言っていても、言い方次第で、その効果は全然違ってきます。

飲食店はどこでもそうですが、とにかく忙しい時間になると、みんな正直イライラしてくる。その時に、いかに相手の立場を想像できるか。そんなときに人を育てる人間から、相手を思いやったコトバを発していかないといけないんです。難しいんですけどね。

箱部:現場でのOJT以外で、研修のようなものを取り入れられたりはしていますか?

田中氏:月に1回は朝の5時半から全体ミーティングはしています。たぶん、どこよりも朝早いミーティングでしょうね(笑)。それも毎回、伝えていることはシンプルなことで、さっきも言った「笑顔」「人気をつける」「辞めささない教育」という話だけです。それが出来ていれば、他にはいらないのが飲食店で、僕はそれだけで十分結果を出せると考えています。

特別な教育があるわけではなく、現場で基本を指導していけば、結果が出ます。飲食業界で必要な技術や能力は、すごくシンプルなんですよ。ごちゃごちゃ言うことなんか、何もないんです。