田崎 唱子

万葉集にも歌われた奈良県・佐保川の堤に佇む「日本料理 夢窓庵」は、「ミシュランガイド2012」で2つ星を獲得した名店です。昼夜それぞれで1日2組限定のため、料理長の技が冴える美しい懐石料理を広々とした完全個室で贅沢に楽しむことができます。

女将自らがセレクトした器や、草花のあしらいにも定評がある、オーナー兼女将の田崎さんにお店づくりに対する思いや今後の夢をお聞きしました。

「女将」と「造園師」の仕事を掛け持ち。

まず飲食店をはじめられたきっかけを教えてください。

田崎氏:実は私、本職は造園師なんです。若い頃、修学旅行で京都の苔寺を見て感動して「こういう庭が作れるようになれたら!」と憧れました。当時、造園の世界も男性中心でしたから、女性には難しい道のりでしたが、建築会社に就職し、憧れの造園師の仕事に就くことができました。

ただ、庭師などの下請けの職人さんも皆さん男性で、最初、私が現場で指示しても全然言うことを聞いてもらえませんでした。
それでも大好きな仕事だから諦めたくない、と努力を重ねるうちに、徐々に職人さんに認めてもらえるようになり、次第に従ってくれるようになりました。

そんな経験から、頑固な職人さん達とどうやって渡り合い、良い仕事をしていくのかを学ぶ経験ができて、それが今に活きていると思っています。

語る田崎 唱子

そして30代の頃に「造園師として独立し一匹狼でやってみたい!」と考えるようになりました。ただ造園の仕事って数も少ないので、造園師だけでは食べていけないなと。そこで、そごう百貨店近くのビルに「味一膳」という小さな飲食店をオーナーとして始めることにしたのです。

それが「造園師」と「飲食店の女将」という、二足のわらじを履く最初のきっかけとなりました。

飲食店を営むのも女将業も、もちろん初めての経験ですよね?

田崎氏:そうです、まったくのゼロから、お金を借りてのスタートでした。女将修業をしたこともありませんので、女将として店を切り盛りしながら、お客様に色々と教えて頂き、接し方を学んでいきました。私の実家は高知で皿鉢料理の店をやっていましたが、手伝ったことも無かったですし…親からの援助もありません(笑)。とても大変でしたが、でも苦労したとは思ってないんです、お客様に喜んでもらえることが本当に好きで楽しかったので、無我夢中でしたね。

そして女将の傍ら、造園の仕事も続けていました。昼は造園師として土にまみれて真っ黒になり、夜はお客様をおもてなしする女将になって…と、両極端ですが、その変身がいいんです!(笑)。造園師と飲食店の女将では、現場で使う言葉もまるで違いますよ(笑)。

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