最近では、個人の方が脱サラをして未経験で飲食店の開業を目指すケースも増えているようです。ただ、いくら「飲食店を開きたい!」と思い立っても、資金がどれくらい必要なのかがわからないと、開業の決意をするのはなかなか難しいと思います。
特に、会社員を辞めて飲食店の開業を目指す方は、基礎的なことからまずは押さえていくとよいでしょう。ここでは、必要な資金や資格、失敗しないためのポイントなどについて、お伝えしていきます。
特に、事前に資金計画をしっかり練っておくことは大切です。開業資金の総額は、業態や規模によって大きく異なりますが、年商や坪数をベースとした算出の仕方を、資金調達方法などと合わせてご紹介しますので、ぜひ役立ててください。
目次
飲食店の開業に必要な資金と資格について
飲食店を開業するためには、非常に多くの準備が必要となります。資金調達や物件の契約、資格の取得やさまざまな手続きなど、漏れのないように進めていかなくてはなりません。開業資金や手続きについての流れを簡単にまとめると次のようになります。
<飲食店開業のための準備の流れ>
- 開業資金総額の把握
- 事業計画書作成
- 資金調達
- 物件契約
- 資格の取得や手続き
- オープン
飲食店の開業資金、一体いくら必要?
近年は、少ない資金でできるだけ早く開業したいと考える方が多いようです。実際、居抜き物件を利用すれば、300~400万円程度でも開業できるケースも増えており、「意外と安く開業できる」というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
しかし、そういったケースはまだまだ少数ですので、まずは全国での相場や目安を知っておく必要があるかと思います。
日本政策金融公庫による調査では、飲食店の開業資金の全国平均額は次のようになっています。
<開業資金の内訳(全国平均)>
- 内外装費438万円(44%)
- 運転資金213万円(21.4%)
- 機械、什器、備品185万円(18.6%)
- テナント賃借費用113万円(11.3%)
- 営業保証金、FC加盟金など47万円(4.7%)
- 合計994万円
つまり飲食店を開業するには、約1000万円の資金が必要ということになります。
もちろん、坪数や業態によって金額は異なりますが、ひとつの目安としては、見込み年商の50%ほど。例えば、年商2000万円であれば、1000万円程度の資金が必要だと言われています。
ちなみに、月商の目標は家賃の7~10倍程度が適正ですので、仮に家賃が20万円であれば、目標月商は140~200万。年商の目標は1700~2400万円ほど。開業資金は、その50%で850~1200万程度は必要という計算になります。
開業資金を調達するための5つの方法
開業資金を全て自己資金でまかなえればベストですが、現実的には難しいものがあるかと思います。自己資金比率は開業資金総額の5割程度が目安です。残りの資金をどのように調達するのか、代表的なものを紹介しましょう。
◆血縁・親族関係からの資金調達
まず一番最初に考えたいのは、家族や親戚からの調達です。事前に開業の意思をしっかりと伝えて、賛同してもらうことが何より重要となります。金額も大きくなる可能性がありますので、身内だからと甘えずに事前にきちんとした返済計画を提示しておきましょう。
◆友人からの資金調達
金額としては小さいですが、多くの友人から調達をすれば、合計ではかなりの額になる可能性も。その分、返済の管理も煩雑になりますので、無理せず確実な返済計画を立てておく必要があります。
◆日本政策金融公庫の融資制度を用いた資金調達
他の金融機関に比べて利息が低いことなどから、非常に多くの方が利用しています。無料で的確なアドバイスがもらえるので、物件契約前に必ず相談に行きましょう。さまざまな融資制度がありますが、税理士などの外部の専門家(認定経営革新等支援機関)に指導や助言をもらって融資を申請する「中小企業経営強力化資金」などがあります。
◆地方銀行・信用金庫の制度融資(東京都又は市区町村の保証協会付き)
東京都の場合は、都と東京信用保証協会と指定金融機関というように、三者協調で成り立っている融資制度になります。5、6回は市区町村などに足を運んで、中小企業診断士と話をする必要がありますが、金融機関に直接申し込むよりも融資が受けやすくなるメリットがあります。
◆助成金・補助金
正社員を雇用するともらえるキャリアアップ助成金、開業後1~2年間家賃の負担をしてもらえる補助金など、各自治体でさまざまな助成金・補助金制度があります。ただし、「採用後」または「開業後」一定期間が経過しないと申請できないので注意が必要です。
飲食店の開業で特に費用がかかるのは?
飲食店の開業にはさまざまな費用がかかりますが、その中でも特に金額がかさむものについて説明します。
◆物件取得費について
物件取得費とは、物件を契約する際の保証金、礼金、仲介手数料などのことを指します。保証金は物件にもよりますが、家賃の3~10ヶ月分ほど。好立地になればなるほど保証金は高くなる傾向があります。ただし、解約時には8割程度返却されるケースが多いようです。例えば家賃20万円の物件を契約する場合、物件取得費全体としては、家賃の10倍の200万程度を想定しておくとよいでしょう。
◆店舗投資(内外装工事、備品の購入など)について
物件契約後に必要となるのは、店舗をつくるための資金です。内装費、外装費、厨房機器、食器、備品など合計すると開業資金全体の6割以上にもなることがあります。もちろん、どんな内装にするか、どんなメニューを提供するかで変わりますが、1坪あたり50~80万円程度かかると考えておきましょう。20坪の店の場合だと、約1000~1600万円の計算になります。
◆運転資金
手元に現金がなければ仕入れの支払いなどができませんので、運転資金は非常に重要となります。特に開業初期は売上が予想より低くなることもありますので注意してください。運転資金の目安は、物件取得費と同じく家賃の10倍程度。家賃が20万の場合は200万程度の現金を残しておく必要があります。
飲食店を開店する際に必要な資格や手続き
誤解されやすいのですが、飲食店の開業に「調理師免許」は特に必要ありません。「調理師」は名称独占資格と言われる国家資格になります。必要な資格は「食品衛生責任者」と「防火管理者」の2つです。
◆食品衛生責任者とは…
各都道府県の食品衛生協会が開催している公衆衛生学、食品衛生学など計6時間の講習を受講すれば取得できる資格です。受講費は1万円ほど。開業する3ヶ月くらい前までには取得しておきましょう。
◆防火管理者とは…
日本防火・防災協会が全国各地にて講習を開催しています。収容人数が30名以上の飲食店を開業する場合に取得が必要。延べ面積300平方メートル以上の場合の甲種講習(2日で10時間)、300平方メートル未満の乙種講習(1日で5時間)があります。
他にも忘れてはならない届出があります。必要なものを挙げますので、もれなく準備しておきましょう。
<飲食店開業に必要な書類・届け出一覧>
・食品営業許可申請
開業の2週間ほど前に保健所に申請します。店舗の設備面において細かい決まりがあるので、店舗設計者と着工前に所轄の保健所に事前相談に行っておきましょう。食品衛生責任者手帳などが必要になります。
・防火管理者選任届
収容人員が30人以上の場合、防火管理者を選任するための届出です。管轄の消防局に、防火管理者の証明書などと一緒に提出します。
・防火対象設備使用開始届
防火対象物の使用を開始する際に必要となる届出です。こちらも管轄の消防局への届出となります。
・火を使用する設備等の設置届
厨房機器、給湯設備などを設置する場合に必要。設置する前に図面などとともに消防局に提出します。
・深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
深夜0時以降に酒類を中心に提供する場合に必要な届出です。他に主食となるものを提供している場合は対象外。届け出先は、保健所ではなく警察署になります。
・風俗営業許可申請
キャバレー、スナック、バーなど、客の接待をして飲食させる営業をする場合に必要な申請です。こちらも届出は警察署になります。
・個人事業の開廃業等届出書
個人事業で開業する場合に必要な届出となります。これは税務署への提出となります。青色申告にする場合には、「青色申告承認申請書」も同時に提出しましょう。
・雇用保険の加入手続き
従業員を雇用する場合には必ず手続きが必要です。管轄内の公共職業安定所(ハローワーク)の窓口での加入申請となります。
・労災保険の加入手続き
業務中に負傷した場合など、労働者を保護するため必要な保険給付を行うために必要です。管轄の労働基準監督署の窓口での手続きとなります。
・社会保険の加入手続き
国の社会保障制度の一環であるため、事業所と従業員は加入する義務があります。手続き先は日本年金機構となります。
飲食店の開業を失敗しないために大切なこと
これを読んでいる方のほとんどが「新規開業」「初出店」を目指されているのではないかと思います。飲食店の開業には多くの資金がかかるだけに、一度失敗したら「次」はありません。一店舗目を絶対に成功させなくてはならないのです。そのためにはしっかりとした事業計画が必要。
ここでは、事業計画をはじめとして、特に重要な6つのポイントをまとめます。
・お店のコンセプト
考え方のポイントは、「何をどのように売るか?」を明確に打ち出すこと。「寿司」を「回転寿司スタイル」で、「串カツ」を「セルフサービス」で、「パスタ」を「カフェスタイル」で…など。たくさんのアイデアを書き出して組み合わせてみてもいいでしょう。
・料理メニュー開発
味はもちろんのことですが、盛り付けがインスタ映えするかなど、料理は見た目も重要になります。ネーミングやメニューブックでお客様に楽しんでいただくことも忘れずに。いつでも安定した質で提供できるようにトレーニングしておきましょう。
・事業計画の立案
立地データや競合店の調査など、時間をかけてじっくり取り組みましょう。非現実的な計画を立てず、開業初期は利益が少なくても良いので無理のない売上目標を立てておくこと。オープン後は、売上目標と照らし合わせて改善策を練りましょう。
・人材教育
せっかく採用したスタッフもすぐに辞めてしまっては意味がありません。一番大切なのはお店のコンセプトや企業理念の共有です。また、お客様からの評価が反映される昇級システムなど、労働環境づくりも重要になります。
・仕入れ・販促ツール
仕入れ価格は季節によって変動することも多いです。定期的に食材や仕入先の見直しをしましょう。販促ツールについては、ショップカードとホームページは必須です。予算や集客目標に応じてグルメサイトへの掲載や広告を検討しましょう。
・POSレジ・売上管理ツール
旧来の会計計算だけのレジと違い、POSレジとはバーコードや伝票をスキャンなどで読み込むことで瞬時に料金計算等のデータ共有ができるタイプのレジのことです。近年ではリアルタイムで売り上げや顧客情報をデータ化できるほか、打ち間違いや集計ミスを防ぐことができる機能もあります。レジ締めの業務効率が格段に上がりますので、レジの導入にはPOSレジを検討しましょう。
まとめ
ここまでご紹介した通り、飲食店の開業には非常に多くの資金と準備の時間が必要となります。お客様として店を見た時の華やかさからは想像できない苦労もあるかもしれません。しかし、それは飲食店に限らず、どんな業種でも同じこと。大切なのは、「開業すること」ではなく、「開業してから」です。想いを形にして、長く続けていくためには入念な準備が大切です。